生産職?
サリオの提案は、こうだった。
「さっき言った通り、冒険者はランクによって請けられる仕事に制限があります。そして仕事で立ち入る森やダンジョンにも、ランクによって制限がかけられています。たとえ簡単な素材採取であっても、初心者が危険な魔物のいる森に入るのは許可されない。しかし生産職であれば、そんな制限はありません。それに商人みたいな他の職業と違って、森やダンジョンに入っても悪目立ちしない――素材採取は、業務の一環なワケですから」
花山は、考え込むわけでもなく黙った。
「………」
サリオの言ってることを、自分がどれだけ理解できているかは疑問だ。
しかし――
(嘘が
――サリオの言葉からは、こちらを陥れようと謀る匂いが感じられなかった。
加えて――
「ああ、こりゃ確かに……上手い考えだ。冒険者ギルドも生産職ギルドも悩みが1つ減るし、商人ギルドに話を通せば――」
――ギルド長が唸っている。
(こっちも……嘘が
となれば……というよりだ。
花山自身、いま気付いたことなのだが。
元より、花山に
いつの間にか、サリオの提案に乗るのが彼の中で
それが、どんなものであったとしてもだ。
あとは、ただ1つ確認するだけだった。
薄く笑みを浮かべると、花山は訊いた。
「そいつは――いいのかい?」
答えたのは、ギルド長だった。
「こいつは……いいんじゃないかな」
サリオも言った。
「どんな目に遭っても、このザマよりはマシでしょう」
頷き合う3人の視線の先では、
「ぶう……ぶべべ……ぶぎぎぎ………」
アルチュが、汚いいびきをかいていた。
●●●●
そして、1ヶ月が経った。
●●●●
アルチュが叫んだ。
「いや~~~っ!! いやいやいや!! 絶対死ぬ! 死ぬこれ絶対! 無理無理無理無理無理無理無理無理!!」
彼女はいま、ほぼ全身入っている。
袋にだ。
首から上だけ出して、全身、袋に入っていた。
袋には紐と頑丈な帯が縫い付けられていて、それでリュックサックみたいに背負われている。
花山にだ。
アルチュの入った袋を背負って、花山が走っている。
森を。
高ランクの冒険者も恐れる、森の奥深くを。
サリオの提案通り生産職に就いたのが――生産職ギルドに登録したのが――町に着いた翌日。
その日から、ほぼ毎日、花山は森で素材採取をしていた。
つまり毎日、アルチュと2人で森に入っている。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ~~~~っっっ!!!!!」
素材採取というのが、どんな作業かといえば。
あくまで、これは花山の場合ではあるのだが。
「やめ~~~!! やめて~~~。言ってるでしょ~~~。そっちは危険なのおおおおお!!! 危険なんだよおおっっっ!!!! 少しは言うこと聞けよ~~~~っ!!! 聞いてよおお!!! 聞いてくださ~~~いっっっっ!!!!!」
危険察知に優れた、アルチュ。
その彼女が察知した『危険のある方向』へ。
つまり、アルチュの絶叫がより大きくなる方向へと。
花山は走る。
枝を折り。
蔦を千切り。
倒木を蹴り折って。
走る。
ひたすら走る。
その先にあるのは――危険。
危険。
危険。
「いやぁ~~~~~~~~っ!! げふんげふんげふん!!!」
アルチュの喉が枯れ、咳き込むほどの。
危険。
それは。
ゴブリンの群れであったり。
トレントの群生地であったり。
森の深くへ行くほど、規模と凶悪さを増していく『危険』。
いま花山が向かう先に待ち受ける、今日の『危険』が何かは分からない。
ただ確かなのは。
昨日の『危険』より、生温いものでは無いということだ。
昨日までの『危険』が、生温く思えるようなものだということだ。
これまで、毎日そうだった。
そして今日も――
「待ってな」
花山が、足を止めた。
袋を下ろすと、這い出てきたアルチュに
「うへへへ……毎度、どおもお」
途端に『危険』はどうでも良くなったらしい。
アルチュが意地汚い手付きで瓶を開けると、ラッパ飲みし始めた。
それに背を向けて、花山は歩き出す。
木々の重なる向こうに、姿が見えていた。
『危険』の姿が。
大きさは、30センチ✕60センチ。
口には、それくらいの大きさの歯が並んでいる。
トラック1台分。
頭部だけで、それほどの
体全体の大きさを言うなら、生き物や乗り物でなく、建物で喩える必要があるだろう。
それは、巨大な亀だった。
だから、固く丸まった背中は、甲羅と呼ぶのが正しい。
甲羅からは、無数の棘が生えていた。
そして、やはり無数の――
猪人。
狼人。
虎人。
豹人。
鬼人。
――棘に突き刺されぶら下がった、死体。
その中には、花山と戦った
一歩、また一歩と。
近づくに連れ、血臭が濃くなっていく。
そして、それ以上の腐臭も。
ぐちゃ。
ぐちゃ。
ぐちゃ。
ゆっさ。
ゆっさ。
ゆっさ。
ぼとり。
ぼとり。
ぼとり。
ぐちゃ。
ぐちゃ。
ぐちゃ。
『
それを、『
ここに、ベテランの冒険者がいたならこう呼んだだろう。
『地竜』と。
そして、上級の魔術師がいたなら視てたに違いない。
『地竜』の甲羅から伸びる、巨大な魔力の羽を。
それから『地竜』の尾部に目を遣り、こう言ったに違いない。
『ああ、これは駄目だ。見てごらん、尻尾が3本あるだろう?
もちろん、そんな架空の声が花山に届くわけも無い。
花山は、ただ一歩。
また一歩と近付くだけだ。
その先にいるのは『
単純に見たままの、巨大な棘付きの亀だ。
その亀に、花山は心のなかでこんな呼び名を付けていた。
『
それには、過去のあるエピソードが理由にあった。
次回、怪獣バトルです。