甲羅に無数の棘を生やした巨大な亀――神竜のなり損ね。
その頭部――
甲羅から出た、それだけでもトラックくらいはありそうな頭部に、花山は思い出すことがあった。
そんなに遠くない過去の、こんな
花山にとっての
音頭を取ったのは、三代目極紋一家総長中村寅将。
装甲車だ。
メーカーである
(なんて名の
(
というわけで、花山の中では――
『
――
ところで、
接近する花山に気付いていた。
そして彼も、思い出していた。
こちらは、果てしなく遠い過去の出来事だ。
●●●●
花山が異世界転移者であるように。
しかも、花山と同じ世界からの。
生物ですら無い。
装甲車だ。
メーカー工場内の、彼専用に仕切られた特別な区画で製造され。
その後、過酷な試験に合格し
日本という、遠い国へと。
納車前日、彼を造った者たちの長である
『バズーカでも地雷でもお前を止めることは出来ない。何人も敵わぬ、お前は
彼の鋼鉄の車体を撫でながら、何度も何度も……
そして納車日。
耐久テストだ。
メーカーで行われたテストに比べると、それはあまりに容易く思えた。
ある男が、
それに耐えられれば、良し。
それだけだ。
容易いことだった。
米国の
しかも――やはり、容易い。
しかも
既にテストの合格を確信し、
これから自分の主となる
歩み寄る男を見ながら、そんなことを考えていた。
しかし――容易いことだったのだ。
その男にとって、
一発殴ればそれで終わる、その程度の、容易いことに過ぎなかったのだ。
ぎゅっと身体を捻じ曲げた男が、その戻る反動を――拳を
その瞬間――
車軸が折れ、タイヤが転がり。
フロントガラスのフレームが歪んで外れ、ガラスは粉微塵となった。
サイドミラーが、歪んだ車体から弾丸のように弾かれ。
ドアは付け根から捩じ切られたように脱落し。
『本当に……これか……?』
訊いたのは、その拳で
『ェ? ああ……一応…』
答える声がした――その数秒後。
ボンネットを跳ね上げエンジンが爆発し。
そして――
転生して地竜となり。
長い時間が経ち。
神竜になり損ね。
また長い時間が経ったいま。
(あいつだ……)
目の前に、男がいた。
(あの時の……あいつだ)
あの時の男だ。
あの時の男が、あの時のように歩み寄ってくる。
(どうして……)
過去の記憶と同時に蘇ったのは、恐怖であり。
屈辱の思いだった。
あの時――
『本当に……これか……?』
――そう訊いた男の声は、明らかに戸惑っていた。
弱さに。
強者として生まれた
しかし屈辱を振り払おうとすれば恐怖が視界を覆う。
屈辱と恐怖。
その2つを抱えて、
●●●●
そしていま。
(殺される!)
(あの拳で殴られたら殺される!)
怯えからではない。
成り損ねたとはいえ、成り損ねるところまでは上り詰めた存在なのだ。
(また殺される!!!!!)
だから決して怯懦でなく、神に近いところまでは行った、そういう存在が持つ力――
では――どうしたらいい?
ぎちぎちと、音がしそうなほどに。
花山は、身体を捻じ曲げている。
背中を、完全にこちらに向けて。
あの背中が、正常な向きに戻った時。
花山の身体の捻じれは解け。
その勢いで、拳を叩きつけるのだ。
そして、
再び、この世界においても。
では――どうしたらいい?
(これしかない)
あの背中が、まだこちらを向いている間に。
花山の拳が、
(やるしかない)
そして、
自ら、鼻面を突っ込ませたのだった。
花山でなく。
花山の立つ、地面に。
そして、放り上げたのだった。
花山を、彼の立つ地面ごと、空へと。
そうすれば、数秒後には。
落ちてきた花山を、待ってるはずだった。