花山が町に帰ったのは、夕方も過ぎた宵の口。
しかし季節のせいで、まだまだ外は明るい。
アルチュは当然として、素材の査定に来た生産者ギルドの職員と護衛の冒険者まで伴っての帰還だった。
しかし、それすらも花山の突進の
森は、町よりも早く暗くなる。
そんな道を彼らだけで帰るなど、考えるだけで恐ろしい。朝になるのを待ち明るくなってから帰るという案もあるかもしれないが、
というわけで花山を待たせ、職員が大急ぎで査定を終え、みんなで帰ることになった――花山にすれば
途中にあった川で身体を洗い、花山はリュックから出した新しいスーツに身を包んで町に帰った。冒険者達とは
冒険者ギルドのそれに比べて、十倍近く大きな建物だ。
しかし、建物に入っての印象は、せいぜい1.5倍といった程度。理由は、受付のカウンターと簡易な事務を行う机の置かれたスペース以外、すべてが壁で区切られ見えなくなっているからだった。壁の向こうにあるのは倉庫と素材の査定室で、防犯上の理由により、来訪者の視線から遮られた場所に置かれているのだった。
応接室や事務所は2階にあり、働いている人数も冒険者ギルドよりずっと多い。
だから当然、冒険者ギルドみたいにギルド長自ら受付のカウンターに立ったりすることも無い。
「お疲れ様でございます、カオル様」
受付で花山を迎えたのは、その笑み自体が商品になりそうな美女だった。
年齢は、30歳を少し過ぎたくらいか。
「また手間をかけちまうことになるが……よろしく頼む」
花山が言ったのは、竜亀の死体から取れる素材のことだ。ビルほどもある巨体の殆どが生産者ギルドに納品されるわけだが、それに伴って発生する事務作業も膨大だ。これを粛々と処理することになる生産者ギルドに、花山は挨拶を入れに来たのだった。
「いつもご丁寧に有難うございます」
受付の女性が、会釈で応じる。その言葉は、花山が異国の貴族らしいという噂と彼女自身が花山に接しての推察から発せられたものだった。
これから起こることに対して事前に連絡を行い礼を通す――商人であれば身につけていて当然の習慣だ。正確には、一端まで育った商人なら当然というべきか。生産職でこれが出来る者は滅多におらず、出来る者は例外なく工房の
では、このカオルという男はどうか?
商人や生産職の修行をしていたようには見えない。その風貌風格は明らかに武人のそれであり、噂に付随する猛々しい挿話からしても歴戦の強者であることは確実。しかし肌の色艶は、まだ年若い青年――いや少年のそれだった。
結果として、彼女はこう判断した。
彼は異国の貴族か、そうではないとしても、幼年から高度な教育を受けられる環境にあったに違いないと。
通常、そういった身分の者は仕事などしない。
少なくとも、市井の者が仕事と言われて考えるような仕事には、就かない。
受付の女性の言葉には、そんな
しかし――それはそれとして。
言葉と同時に、彼女は誘導していた。
会釈する動作に含まれる、顔の角度や首から肩のラインの微妙な傾きといったパラメータを駆使することにより。
誘導した。
花山の、視線を。
受付カウンターへと。
カウンターの、端へと。
そこには――瓶が並んでいた。
ワイルターキーの空き瓶だ。
花山がくれてやった
冒険者ギルドが生産職ギルドに売り。
「大変、好評ですのよ?」
受付の女性が言う通り、かなりの高値にも関らず飛ぶように売れていた。アルチュが自分で飲んだ分は蓋まで含まれているが、アルチュは花山が飲んだ分の首が折られた瓶も持ち帰り、金に変えている。どちらも高い値がつけられている。査定では首の有無よりも、まずはガラスの透明度やラベルの印刷に高い評価が下されていた。
「ん………」
「ちょっとお高いのですけど、それでも、ね。うふふふ………」
嫣然とした笑みで、花山を見つめる。
彼女は、遠回しにこういうことを訴えているのだった。
『アルチュと冒険者ギルドという
と。
これに花山は――
「そっちのことは……
そうとだけ応えた。
アルチュを連れ、花山は生産職ギルドを出た。
「すまねえが、そういうことで頼む……ギルド長」
生産職ギルドでは、冒険者ギルドみたいにギルド長自ら受付のカウンターに立ったりすることは無い。
しかし、それも相手によるのだった。