薫さんは生産職   作:紅 卍

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花山、異世界で不動産を内見する

 敗北を、ことも無げに語った花山に。

 

 しん……

 

 と、酒場は静まり返った。

 

(((((また、盛り上がって騒ぐのも!)))))

(((((静かなままなのも!)))))

(((((絶対、間違いな気がする!!)))))

 

 酒場にいる誰もが、どうしたら良いものかと目を泳がせた。

 と、その時だ。

 

 高く澄んだ、声がした。

 

「亀竜の討伐と、この町のさらなる発展を祝って――乾杯!」

 

 あまりに空気が読めてないとも言える、その声に。

 しかし、誰もが救われた気がしていた。

 

 花山の口の端が、僅かに持ち上がったのを見た――気がしたからだった。

 

 そして、杯を掲げた。

 

「「「「「「「乾杯!!!!!!」」」」」」」

 

 こうして、酒場はいつもの賑やかさを取り戻し。

 花山も、

 

「どうぞ旦那。近くの村で作ってるワインです。なんでも『大森林』で採ったブドウを使ってるんだとかで」

「ん……」

 

 新たに注がれた酒に口をつけた。

 

 と――すっ、と。

 

 その横に、顔を近付ける人がいた。

 先程、乾杯の音頭をとった人物だ。

 彼は言った。

 

「カオルさん。お疲れ様です」

 

 サリオだった。

 

「ん……」

「後ほど、お部屋に伺います。例の件(・・・)で――」

 

 それから10分も経たず、二人は酒場を出た。

 

●●●●

 

 向かった先は、宿だ。

 

 花山は、この町に来てからずっと、同じ宿の同じ部屋に泊まっている。

 現代世界(我々の世界)でも、映画評論家の淀川長治氏やタレントのデイブ・スペクター氏など、高級ホテルの部屋を年単位で借りて住まいとする有名人の話はあるが、いまの花山もそれと同じだった。仮に花山が数カ月間留守にしても、その間部屋は維持され続け、花山の持ち物は置かれたままとなっているはずだ。

 

「カオルさん――候補の物件の、図面を集めました。どれも町の中央から程よく離れてます」

 

 しかし、いつまでもという訳にもいかない。

 

 酒場でくつろぐ花山を見る度、サリオは思うのだった。

 

 この男のあり方は、孤高ではあるが孤独ではないと。

 人に囲まれてる姿が、一番似合っている。

 

 人とは、すなわち町だ。

 

 花山(この男)には、町が似合っている。

 だから仮住まいの宿でなく、自分の家を持つべきなのだと。

 この町を、花山(じぶん)の町にするべきなのだと。

 

 そんなサリオの提案に花山は、

「ん……」

 いつもの様に頷き、そして今日、サリオは候補の物件の案内に来たというわけなのだった。

 

「見て下さい。どの図面にも矢印が書いてありますが、これは陽の動く方向です。『朝は明るく、昼は明るすぎず』っていうのが理想ですが、その観点ですと、この物件が良いですね。間取りの面でも、カオルさんの仕事(・・)に適しているでしょう――私的には、第一候補です」

 

「ん……」

 

 サリオの説明に、頷く花山だったが――

 

「………ん?」

「何かありましたか?」

「それなら……こっちも良かねえか?」

 

 花山が指した図面を見て、サリオが「ほお」という顔になる。

 花山の言う通り、その図面に描かれた建物は間取りも日当たりも、サリオの第一候補に劣っていない。

 しかし、図面が置かれているのはテーブルの端。

 どう見ても、候補としては最下位の扱いだ。

 

 サリオが言った。

 

「ああ、ここは……では明日、この物件も見に行くことにしましょう。見てもらえば、分かります」

 

 

●●●●

 

 

 翌日。

 

 花山とサリオは、まず第1候補と第2候補の物件を内見した。

 どちらの物件も、どうやら花山は気に入ったらしい。

 

 建物に施された職人の工夫に気付いて、

「ほお……?」

 と何度か声を漏らしてたのにサリオは気付いていた。

 

 その後、第3候補に向かう途中で、件の最下位候補に立ち寄ったわけだが。

 

 その建物――正確には、その建物の隣の建物を見て、花山が呟いた。

 

「なるほどな……」

 

 その声に、表情に。

 サリオは、顔を引きつらせていた。

 

(ですよね~~~。そうなりますよね~~~~)

 

 そして、確信していた。

 花山は、この物件を選ぶに違いないと。

 

 この物件のいわく(・・・)については、既に花山には話してある。

 

 元凶(もと)となったのは、王都でのある衝突(・・)だ。

 

 教会への寄進――より多くの寄進を、ある商会が断った。

 正確には、教会内部の特定の誰か(・・・・・)の懐に収まるだろう分の増額をだ。

 

『特定の誰か』は怒った。

 それに対し、商会も引くことは無かった。

 

 そしてこの衝突の影響が、この町にも影響を及ぼすこととなった。

 

 この町に、商会の支店が置かれる際。

 その隣に、教会もとある施設を置くことにした。

 誰の命によるものかは、言うまでも無いだろう。

 

 教会の置いた施設とは、孤児院だった。

 

 通常なら、貧民街に作られる施設だ。

 間違っても、商会の支店が置かれるような場所には作られない。

 逆に、孤児院の隣に商会の支店が置かれることも無い。

 

 だから、この二つが隣り合うことは、まず有り得ない。

 なんらかの、意図によるものでない限り。

 

 嫌がらせという、意図が働かない限り。

 

 結果として、商談に訪れる者も少なく。

 商会は、半年と経たずこの町の別の場所へと支店を移すこととなった。

 最初に要求された賄賂より、ずっと沢山の金を無駄にして。

 

 そしていま花山達の目の前に、二つの建物がある。

 

 いまでも商会により手入れされている、瀟洒な建物と。

 その横に経つ、僅か数年でボロボロの、屋根も剥がれかけてる様な安普請。

 

 安普請の窓から、花山達に向けられる視線があった。

 稚いものも、大人びたものもある。

 しかしそのどれもが不安気で、遡れば主はみな痩せていた。

 

 花山が言った。

 

「ここで、いいんじゃねえか?」

「了解です。では、なる早で手続きを進めますね」

 

 それに応えながら、サリオは。

 

(ですよね~~~~)

 

 内心で大苦笑する。

 しかし、同時にこうも思っていたのだった。

 

(しかし、カオルさんがこの物件を選んで――)

(それで、どんな問題があるというのか――)

(いや、むしろ――何故、この物件を候補に入れた?)

(つまり――)

 

 そして、気付いたのだった。

 

(自分は、カオルさんがこの物件を選ぶことを――心のどこかで望んでいた?)

 

 ということに。

 

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