薫さんは生産職   作:紅 卍

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花山、異世界でスキルを判明させる

 というわけで、花山は家を買うことになった。

 

 元は商会の店舗だった建物を1ヶ月ほどかけて改築し、それから転居するという段取りだ。

 家――というよりは屋敷で働く人間も、その間に探す。

 

 采配を取るのはサリオで、自然とそういうことになったのだが、花山を含めて誰も異議を唱えることは無かった。

 

 改築のコンセプトは――

 花山のスキルを活かせる屋敷。

――だ。

 

 さてでは、花山のスキルとは?

 

 サリオは、あの時からずっと考えていた。

 突如戦場に現れ鬼人将軍(オーガジェネラル)を一蹴した、その後。

 コートのポケットから、花山が何本もの酒瓶を取り出した、あの時からだ。

 

 まずは、収納魔法ではないかという推測。

 

 否だ。

 

 収納魔法は、実際は隠蔽魔法と呼ぶのが正しい。

 収納することによって、我々の世界で喩えるならメールを暗号化するように、術者以外には取り出すことが出来ないようにするのを目的とした魔法だ。

 収納できる容量はそれほど増えるわけではなく、使用する容れ物の1.5倍程度が理論上の上限で実際は1.2倍程度といったところ。

 

 だから、花山がコートのポケットから何本もの酒瓶を取り出したのは、体積の面からしてまず有り得ない。

 同じ理由で、ポケットの中に酒瓶を転送魔法で引き寄せた(アポーツした)という可能性も消える。

 

 では――収納魔法も転送魔法でもないのなら?

 ポケットに、酒瓶が入っていたのではないのなら?

 

 答えは一つ――作ったのだ。

 

 おそらくは、ポケットから手を出す瞬間に。

 

 花山のスキルは、物質の生産。

 

――と、実はその考えまでは、すぐに辿り着くことが出来たのだが。

 問題は、そこから先だった。

 

 何を、どのようにして、どれだけ作ることの出来るスキルなのか?

 

 これまで花山がリュックやコート、スーツのポケットから取り出したのは、酒瓶(ターキー)に煙草にスーツに革靴、その他諸々の雑貨類。

 

 この事実に、何らかの法則は無いかとサリオは考えた。

 それが分かれば、もっと色々な場所から、色々なものを取り出すことが可能になるのではないか?

 

 リュックとスーツのポケットに共通する何か。

 そこから取り出された酒瓶と煙草とその他諸々に共通する何か。

 

 それが分からない。

 

 しかし、花山が現れて一週間も経った頃。

 糸口は、他愛ない事故(アクシデント)から見つかったのだった。

 

●●●●

 

 その日、サリオが宿の花山の部屋を訪ねると。

 

「失礼しまーす。カオルさん、冒険者ギルドからの……あれ?」

「!!」

 

 ガタガタと椅子を鳴らして、花山が振り返った。

 直前まで、机に向かっていたようだ。

 

「??」

 

 疑問に思うまま、サリオが机の上に目をやると。

 明らかに何かを隠すように、花山の太い腕が机に置かれていた。

 しかし、慌てていたのだろう――その何かは、全く隠しきれていなかった。

 

「花ですか……紙、ですよねこれ」

 

 花山が隠そうとしていたのは、紙で作られた花だった。

 状況からすると、作ったのは花山だろう。

 しかしその点はあえて指摘せず、更に数段階のやりとりを省いて、サリオは訊ねた。

 

「カオルさん、この花、一日にどれくらい作れますか?」

 

 自分が紙で花を作っていたことを、花山は恥ずかしがって隠そうとしているのだろう。

 

 それを察して、サリオは自分の都合の良いように会話の前提をずらして問いかけるテクニック――女性を食事に誘うとき「食事に行きませんか」とは言わず「XXと〇〇、どちらを食べに行きますか?」と訊ねるような――を使ったのだった。

 

 その効果は絶大で、サリオは超握力で固く潰された紙の花をぶつけられたりせずに済んだのだった。

 花山は答えた。

 

「……根を詰めれば、200か300は」

「それは、商売として成り立ちますね――しかし、きれいな色の紙ですねえ」

「……机から、出てきた」

 

 言いながら花山が、机の引き出しに手を突っ込んで、色紙の束を取り出す。

 

「んん? (そこ)からも、取り出せたんですか?」

「ああ……」

 

 応えて、机から更に酒瓶(ターキー)を取り出す花山を見ながら。

 サリオは考えていた。

 

 リュックとスーツのポケット――それに加えて、机の引き出し。

 だったら……

 

「だったら、あのクローゼットからは?」

 

 その問いかけに、花山は。

 

「ああいうのは……家には無かったからな」

 

 ぼそりと応えた。 

 サリオが、更に訊ねた。

 

「では、机は――あったんですか? 花山さんの家に?」

「ああ……こういう引き出しの付いた机がな」

「ということは……あれも?」

「一度……ああいうのを背負って山に行った」

「その時、中に入ってたのは……酒に、煙草に、そのスーツ(お召し物)?」

「……そんなところだ」

 

 サリオと花山――二人の視線の先にあるのは。

 この世界に来てから花山が愛用している、リュックサック。

 

 この時点で、サリオは感触を得ていた。

 花山のスキルがどういうものか、完全に把握したという感触であり確信だ。

 

 花山のスキル、それは――

 

●●●●

 

 改装された屋敷に、家具が運び込まれていく。

 様々なサイズの、クローゼットだ。

 

 例えば厨房の隅に置かれたクローゼットは、背が高くてドアがいくつも付いている。

 それに花山が手を突っ込むと、冷たい野菜や果物、肉や魚が取り出される。

 

 例えば土間に置かれたクローゼットは、人が入れそうなくらいに巨大で。

 それに花山が手を突っ込むと、大工道具や金属製の梯子らしきものが取り出される。

 

 例えば屋敷で一番風通しの良い場所に設けられた衣装部屋(兼花山の昼寝部屋)にあるクローゼットは、上半分が左右開きで下半分が引き出しになっている。

 それに花山が手を突っ込むと、何種類もの、スーツとはまた違った衣装が取り出される。

 

 クローゼットは、どれもサリオの導き出した答えに従い、作られたものだった。

 

 リュックとスーツのポケットに共通する何か――それは『花山が使ったことのある容れ物』であること。

 酒瓶と煙草とその他諸々に共通する何か――それは『その容れ物に花山が入れたことのある物、もしくは入っているのを花山が見たことがある物』であること。

 

 つまり、花山の能力とは。

 

「分かりやすく言うとですね。『カオルさんが何かを入れたことのある容れ物』に似た容れ物の中で、『その容れ物にカオルさんが入れたり、入ってるのを見たことがある物』を生成して取り出すというのが、カオルさんのスキルなんですよ!」

 

 そう説明するサリオを。

 

「………」

 

 無言で見る花山は、

 

(全然、分かりやすくねえ……)

 

 そう言いたげな顔だった。

 

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