薫さんは生産職   作:紅 卍

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今回のエピソードは前後編に分かれます


花山、異世界で餅をまく(1)

 異世界で、花山が得たスキル。

 

 それを花山自身は、こう捉えている。

 

『(そういやあ、こんな感じのアレにアレを()れてたな)――って考えながら手を突っ込むと、そのアレが出てくる』

 

 と、花山(かれ)があえて言葉で表現したなら、そうなるだろう。

 より深い部分では、

 

(こんなもんだろ。異世界だし)

 

 と、直感で楽観視している。

 

(慌てる必要(こと)もねえ……)

 

 と。

 そして同じ直感が、

 

「『カオルさんが何かを入れたことのある容れ物』に似た容れ物の中で、『その容れ物にカオルさんが入れたり、入ってるのを見たことがある物』を生成して取り出すというのが、カオルさんのスキルなんですよ!」

 

 というサリオの説明を、よくわからないが花山自身(じぶん)の理解と大きく変わるものではないのだろうと捉えさせていた。

 

 サリオによる花山邸のリフォームは、この認識の一致を前提として行われた。

『花山のスキルを活かせる屋敷』をコンセプトに、工事が始まって一ヶ月。

 ほぼ改築の終わった屋敷を歩く、3つの人影があった。

 

 サリオと、花山と、もうひとつ。

 

「基本的に、元の間取りを活かしています。大きく変えたのは、厨房を拡張したくらいですね」

「ん……」

 

 改築の概要は、図面で花山も確認済みだ。

 今日は、引き渡し前の確認として邸内をひと廻りしている。

 

 どの部屋にもサリオが花山から聞き取って作った『容れ物』が置かれており、間取りや内装よりも、それが目論見通り機能するか確認するのが主な目的だった。

 設計にあたって、最初サリオに浮かんだのは『花山が母国で住んでいた邸宅を再現する』という案だった――そして、瞬時に破棄された。それよりも屋敷に元からあった部屋を『容れ物』が置かれていたという『自室』や『事務所』や『教室』に寄せて改装した方が得策と考え直したのだ。

 

 前案を悪手と判断させたのは、サリオのセンスでありバランス感覚だった。

 

「元から商会の従業員の寮も兼ねた建物でしたから、居室の数は十分でした。住み込みのメイドを増やしても大丈夫ですよ、アミバさん」

 

 アミバさん――もうひとつの人影を振り向き、サリオが言った。

 人影が応えた。

 

「はひぃいいいいいい! お気遣いいただぁあきぃひいい! 有難うございますふぅううううう!!!!」

 

 大声である。

 アミバ=ド=ルオッタ。

 20代半ばの女性であり、メイド頭として花山邸で雇われることになっている。

 

 大声は常からで、これには理由があった。

 

*******

 

 貴族の令嬢だったアミバが両親を亡くしたのは、6歳のときのことだった。

 父の友人の男爵家に引き取られ、ここで彼女の運命は微妙に奇妙な方向へと変わる。

 

 引き取られた男爵家は武勇で名高く、3人の息子がいた。

 アミバの兄となる彼らもまた智勇に優れた才を示す逸材として将来を嘱望されていたのだが……

 

 問題は、彼らの才が、アミバほどでは無かったということだ。

 いや。

 アミバの才が、それほどに優れていたのだった。

 

 騎士学校を主席卒業したばかりの次男と手合わせして泣くまで叩きのめしたのが13歳の誕生日のことで、近衛兵の筆頭になるのも近いと噂される長男を木剣の一撃で昏倒させたのがその翌日。そしてアミバが手慰みに書いた内政案を、三男の手によるものと勘違いした父親が絶賛し、突然の三男(かれ)の急成長を褒め称えたのはその3日前のことだった。

 

 もっとも、こんなことは兄達(かれら)には既に慣れたことで、アミバが養女となったその日からずっと続く日常の出来事なのだった。

 

 そして更に問題だったのは兄達の性格、というより心の有り様だ。

 麒麟児と持て囃される彼らをして足元にも及ばぬアミバの才。

 

 圧倒的な彼女の才能に、兄達(かれら)は――

 

 嫉妬

 

――しなかったのである。

 

 最初に訴えたのは、三男だった。

 馬鹿なことを言うなと叱り飛ばすと、今度は次男が来て同じことを言った。

 これも叱り飛ばすと、今度は長男も加わって三人で来た。

 そして、やはり同じことを訴えたのだった。

 

「『アミバは実は男だった』ということにしませんか?」

 と。そして、

 「アミバを次代の当主にしては如何でしょう?」

 と。

 

 父――アミバにとっての義父は、ここに至ってようやく気付いた。

 異常な事態が起こっていると。

 

 父は、戦慄した。

 

(息子たちが、狂った!?) 

 

 そして同時に、その考えに違和感を抱いた。

 息子たちは、明らかに異常な状態にある。

 しかし、狂ったというのも違う気がする。

 息子たちは、捻じ曲げられたのだ。

 少しずつ、少しずつ。

 そして正気を保ったまま、異常なことを口走るまでに至ったのだ。

 

(そ・う・き・た・か~~~~~)

 

 内心で、父は少ない頭髪を掻きむしった。

 

 圧倒的なアミバ(いもうと)の才を前に。

 

 息子たちは嫉妬するのではなく。

 

 嫉妬せずに済むような心の迂回路とでも呼ぶべきものを、自らの裡に作りあげていたのだった。

 

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