息子たちが、自らアミバの才への敗北を認めた。
そうであれば、良かった。
単純にそれだけのことであったら、慰め、叱咤し、アミバにどれだけの才があろうと、彼らのこの家の長男、次男、三男としての位置、そして未来が揺らぐものではないと――そういう父としての想いを伝え、彼らに信じさせれば良かったのだ。
しかし
「『アミバは実は男だった』ということにしませんか?」
「アミバを次代の当主にしては如何でしょう?」
――などと言ってきた。
唯一無二の、冴えた、疑いなく実現可能な案であるかのように。
もちろん、無理だ。
そんなこと、出来るわけがない。
実現など絶対不可能な――異常な案なのだ。
それを、息子たちが揃って提案してくる。
つまり、これがどういうことかというと……
(それほどまでに……受け入れ難い、ということなのだろう)
父は、そう結論付けた。
『アミバを、男と偽って当主にする』
この案の異常さは、そのまま『アミバが兄である自分より、優れている。どれだけ努力したところで追いつけないほど遥かに』という事実が、
そんな、異常な回路を心に抱えてしまった息子たちを前に。
父である自分は。
では、どうするか――
(頼るしかない。相談するしかない。優秀な者に――誰よりも、息子たちよりも、自分よりも優秀な
――というわけで。
「アミバ。夜分にすまないが、ちょっと時間を頂いてよろしかりん?」
父は、アミバの部屋を訪ねたのだった。
話し方が変なのは、緊張しているからだ。
実は息子たちより先に、
(
と、誰よりも早くアミバの才への敗北を悟ったのは、この父なのだった。
「おお、アミバ。ちょっと話があるのだもん?」
「お父様……やはり、そういうことなのですね」
ドア越しにそんな父の
そしてその夜から半年が経ち――アミバが14歳になる、数ヶ月前。
『大森林』に接する領地を持つ貴族家に、アミバは40歳を過ぎた当主の後妻として迎えられた。
彼女が自ら探してきた嫁ぎ先だ。
嫁ぎ先には、アミバと同年代の息子たちがいたが、彼らは、実家の兄たちとは違った。
アミバの才を前に、どれだけ差を見せつけられても卑屈になることが無かった。
『大森林』は、魔物の巣窟だ。
そこに接した土地に暮らす者にとって、魔物との戦闘は非日常ではなく、日常の外縁にある出来事だ。
そんな彼らにとって、アミバの才はこの上なく頼りになる、ただただ有り難いだけのものだった。
アミバもまた、夫である当主やその息子たちより前に出ることはなく、常に彼らの面子を立てるように振る舞っていた。しかし、戦闘と内政のどちらでも飛び抜けた彼女の活躍は、彼女が陰に回ろうとするほど逆に際立ち、彼女の存在感を、領内に濃くしていくのだった。
ただ、子供が出来なかった。
子作りの営み自体は行っていたのだが、アミバが懐妊することはなかった。
アミバが18歳の秋から子作りを始めて10年近く。
家を継ぐ息子は既にいるのだから、アミバが子を生む必要は特段に無い。
しかし、アミバに子供を与えてやりたい。
そういう思いが、当主にも、そして彼の息子たちにもあった。
――息子たちの誰かの妻として、改めてアミバを迎えてはどうか。
そんな話が、男たちの間で持ち上がり始めた頃だった。
『大森林』から魔物が氾濫し、アミバは夫を失うことになった。
このエピソード、次回か次次回あたりで終わる予定です。