薫さんは生産職   作:紅 卍

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花山、異世界で魔法に触れる

 ぼとん、と。

 地面を凹ませ転がった、白くて円柱(まる)く、決して小さくは無い、それ(・・)

 それ――花山の(パンチ)によって弾き出された、鬼人将軍(オーガジェネラル)の背骨の一節。

 鬼人将軍には、絶叫を声にする余裕すら無かった。

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!」

 

 背骨を破壊されて、正常でいられる生物はいない。

 身体の中心を支える柱であると同時に、脳から発した指令を全身に伝える器官でもあるのだ。

 そこに損害が生じれば、身体は制御を失い、時には生命の維持すら危うくなる。

 

「っっっっっ!!!!!っっっっっ!!!!!っっっっっ!!!!!っっっっっ!!!!!」

 

 鬼人将軍も、そうだった。

 制御を失った手足をばたばた痙攣させ、その勢いは、人間が巻き込まれれば即死に違いないほどだった。

 口から噴き出す泡も一種の毒物で、空気に触れるそばから炎を上げている。

 

 しかし、5秒……10秒………15秒。

 最期に、びくりと全身を捻じ曲げるように跳ねて。

 

 それも止んだ。

 

 力を失った鬼人将軍の亡骸が、そっと横たわらせるように降ろされ。

 その下から。

 血まみれで、しかし傷ひとつ無い(・・・・・・)花山の姿が立ち上がった。

 

 叫びが上がった。

 

「djさlfさjlkfdsjfldsjfkdsljfldsっk!!!!!!」

 

 戦場にいる全ての兵士が、絶叫しながら駆け出した。

 花山に向かって。

 そして、花山を囲むように何重もの円を作ると、また叫んだ。

 

「lkjflsfjdslkfj!!dslkfjdsfjd!!sklfl!!kdsjflds!!」

 

 円を作る兵士たちは、みな、花山に背を向けている。

 だから当然、彼らの構える剣は、鬼人将軍敗北のショックで立ち尽くす鬼人たちに向けられている。

 

「sklfl!!sklfl!!sklfl!!sklfl!!」

 

 こうすることで、兵士たちは示したのだ。

 

 兵士たち(われわれ)は、花山(あなた)の味方であると――花山に対して。

 兵士たち(われわれ)の背後には、花山(こいつ)がいるぞと――鬼人たちに対して。

 

 そこから後は、あっけないものだった。

 

 まだ襲ってくる鬼人も、逃げようとする鬼人も、どうしたら良いか分からずウロウロするだけの鬼人も、みな討ち取られた。

 締めくくりのこの掃討戦に限っていえば、兵士側の存在はほぼ無かったに等しい。

 勝どきがあがり戦闘が終わったのは、花山が異世界に転移して、ちょうど2時間後のことだった。

 

「さて……どうしたもんか」

 

 呟く花山だったが、今後のことについては何も考えつかなかった。

 とりあえず煙草を吸うことにした。

 若い兵士――サリオに預けたコートからパーラメントを取り出し、咥える。

 火をつけようとしたところで――「?」

 

「へへ……お粗末ですが」

 

 煙草の先端にサリオが指を近づけ。

 すると次の瞬間、煙草に火が点いていた。

 

「魔法か……」

「へい。この程度でも、なかなか重宝します」

「ボソッ 異世界か………」

 

 微かな声で発せられた花山の呟きに、サリオが目を細めた。

 相槌をうつことも、聞き返すことも無く。

 しかしそんなことには気付かず、コートを羽織り、花山は紫煙をくゆらす。

 

 滅多に無い快勝から、辺りは陽性の興奮で満たされていた。

 戦闘後で昂ぶる兵士たちの、表情も概ね明るい。

 冗談ですら無いような戯言を言い合いながら、布やそこら辺に生えている草で傷を手当しあっている。

 

 そんな兵士たちを見ながら、花山が思い出してたのは、宮本武蔵戦のことだった。

 正確には、その最中に刃牙と交わした会話だ。

 

 宮本武蔵に斬られた腹に花山はサラシを重ね巻き、そこへ刃牙が酒を吹きかけた。

 

 その時――

『ぶっかけるより飲みたかった』

 そう言った花山に、刃牙が、

『それは後』と。

――そんな会話をしたのだった。

 

 そんな会話を思い出しながら、

「酒か……」

花山がコートのポケットに手を入れると、

「……酒?」

酒の瓶が、入っていた。

 

 取り出して確かめると、やはりそうだった。

 

 ワイルドターキーの12年。

 

 花山がポケットに手を入れたのは、煙草を取り出すためだ。

 酒を取り出すつもりはなかったし、ポケットにそんなものを入れた憶えもなかった。

 しかし入れた憶えがないといえば、煙草だってそうだ。

 しかし……まあ、いいか。

 というわけで、花山はワイルドターキーの瓶の首を折り、呑み始めた。

 

●●●●

 

 ところで花山が兵士たちを見ていたように、兵士たちも花山を見てた。

 勝利の立役者なのだから、当然だ。

 本当なら、みんなで囲んで彼の武勇を讃えたいところなのだが……

 しかし、声をかけるのは気が引ける、というか恐ろしい。

 デカイし、裸だし、共通の話題とか無さそうだし。

 

 おまけに……

 

 というわけで、兵士たちとしては、偉いさんの誰かが花山に声をかけて皆に紹介してくれるのを待ってる状態なのだった。

 

●●●●

 

 サリオが訊いた。 

「旦那……それって酒ですよね?」

「ん……」

「まだ何本か、持ってたりしますか?」

「どうだかな……」

 やはり何も考えず、花山がポケットに手を入れると……

「ありましたねえ」

「ん……」

 ポケットから、またもワイルドターキーの瓶が出てきた。

 コートのポケットに、酒瓶が2本も入るような大きさはない。

 そもそも、1本入るかどうかすら怪しい。

 

 サリオが言った。

 

「旦那……もし旦那にお困りのことがあるんなら、その酒で、とりあえずの解決ってやつが出来るかと思うんですが……どうでしょう?」

 

 

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