薫さんは生産職   作:紅 卍

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出来がいまいちだったので書き直しました。



花山、異世界で酒をふるまう

「勝利! 勝利! 勝利! へへ……討伐成功おめでとうございます、男爵様。勝利! 勝利! 勝利! オセワの小隊におります、サリオと申します。へへへへ……」

 

 へらへらへこへことした様子で、男爵に近付くサリオ。

 それを見て、周囲の者が前に出ようとするのを、

 

「…………!」

 

 ミテッタ男爵が、無言で制した。

 

 咎められるべきことだった。

 一兵卒が指揮官に――それ以前に平民が貴族に直接話しかけるなど、許されるべきことではなかった。

 

「………」

 

 しかし、男爵は咎めず。

 鼻を鳴らすと、サリオが言った。

 

「ここにおります御仁なんですが、名を『カオル』というそうで、お察しかと思いますが異国の人間でございます。聞けば仲間の商人と旅をしていたところ、盗賊に襲われ、これを退けたは良いが、今度は森に迷い込んで魔物の群れに襲われた。爪やら牙やら毒液やらを浴びせられ、それでもなんとかこいつも追っ払って、宿場町も近い街道へと仲間を逃した――とこまでは良かったんですが、このカオルさん本人は崖から落ちて川を流され、滝から落ちたと思ったらまた川を流され、裸同然のこんな服装(なり)になりながら、襲ってきた鮭海竜(もどりシーサーペント)で腹を膨らし、なんとか陸地に上がって道なき道を彷徨った後! 偶然! 今日のこの鬼人討伐の現場に出くわしたって次第――でしたよね? カオルさん」

 

 こちらを振り向きもせず同意を求めるサリオの、表情は花山から見えない。

 それでも約束通り、花山は頷く。

 

「ん……」

 

 サリオが続けた。

 

「恐ろしい鬼人の群れに異国の軍――あっしには関わりねえことでござんすと素通りか、それとも闘いが終わるまで隠れて様子を見るか。どちらか選ぶのが利口というものでしょうが、どちらも選ばないのがこのカオルという男です。魔物と人間が闘ってる。しかし、異国の軍隊だ。助太刀してやる義理はない。しかしそれでは義に悖る。というわけで、一番近い鬼人(オーガ)に飛びかかり、それから後の大活躍は、ヘヘへへ……男爵様もご存知かと。へへへへへへへ」

 

 と、軽薄に笑うサリオに。

 どこか苦いものを飲み込んだ様な表情で、

 

「……うむ」

 

 と、ミテッタ男爵が頷いた。

 それを見て、サリオが仕上げに入った――そういう、声の調子で言った。

 

「ところでこれは、是非是非、男爵様にと――」

「これは……酒か?」

 

 差し出されたワイルドターキーの瓶を、ミテッタ男爵がそう理解できたのは奇跡に近かった。

 この世界に透明なグラスなど無く、普段飲んでいる酒がどんな色をしているか、正確に知る者すら少ない。

 ぺきり。

 新たに取り出した瓶の首を折って、花山が言った。

 

「そいつで……傷を洗うといい」

「酒で? 傷を?」

「ん……」

 

 アルコールの殺菌作用についても、やはりこの世界の人間には知識が無かった。

 

「そこそこ強い酒だ……バイ菌も死ぬだろう」

「バイ菌? 死ぬ? ぬぬぬぬぬ……?」

 

 困惑する男爵に囁いたのは、彼を治療する魔導師だった。

 青白い顔を、男爵の耳元に近付けて。

 

「最近、東方のイガーイ国で、酒の酒精を強くする技術が発見されたと聞きます。強い酒精には病を遠ざける効果があるのだそうで……」

「確かに酒――ワインは水より傷みにくいが? それと同じか」

「酒精を強くすることによって、その効果も高まったのでしょう」

「そして病を遠ざけるに至ったと。なるほど……なるほどな」

 

 うなずき合う男爵と魔導師。

 そこへ――

 

「じゃあ、やっちゃいますか? 傷口、洗っちゃいますか?」

 

――サリオが言いながら、瓶を傾ける手付きをしてみせた。

 

「お、おお――そうで……そうだな」

「はい。『そうだな』いただきました~。ではカオルさん、お願いします!」

「ん……」

 

 花山が、男爵の患部にワイルドターキーをかけながら言った。

 気遣うような、心配するような声で。

 

「……染みるぜ?」

 

 男爵が応えた。

 

「構わん!」

 

 酒で傷口の汚れを洗い流し、それをサリオがどこからか取り出した清潔そうな布で拭い、また酒で洗って布で拭う。

 

「まだかけるかい(やるかい)?」

「もっとだ!」

「まだかけるかい(やるかい)?」

「もっともっとだ!」

「まだかけるかい(やるかい)?」

「もっともっともっとだ!」

 

 それを繰り返すうち……

 

「酔って……る? 酒……飲んでないのに……わし……酔って…………りゅ?」

 

……傷口からのアルコール摂取で、男爵が酔いつぶれた。

 

 サリオは傷口の様子を確認すると、やはりどこからか取り出した真新しい布を男爵の頭に巻き。

 

「これ、内緒だから」

 

 そう言って、片目をつぶって見せた。

 言われた側――男爵のお付きや魔導師たちは、それに黙って頷くだけだった。

 そして、そこからどういう風に話が進んだのかは分からないのだが。

 

 花山はミテッタ男爵の領地に行き、そこで当面の生活を援助されることとなったのだった。

 

 男爵の領地までは、歩いて3日。

 人口数百人の町に到着した時、花山は――

 

 ワニ革の靴。

 紫色のシャツ。

 白いネクタイ。

 白いスーツ。

 

――いつもの、あの格好になっていた。

 

 それらの衣服を、花山がどうやって手に入れたかというと……

 

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