薫さんは生産職   作:紅 卍

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花山、異世界でスーツを着る

 花山が転移した戦場から、ミテッタ男爵の領地までは歩いて3日。

 人口数百人の町に到着した時、花山はいつものあの格好(・・・・)になっていた。

 

 ワニ革の靴、紫色のシャツ、白いネクタイ、白いスーツ。

 髪も、櫛で整えられている。

 

 それらの品を、花山がどうやって手に入れたかというと……

 話は、戦場から出発する直前へと戻る。

 

●●●●

 

 ミテッタ男爵への挨拶が終わった後。

 

 サリオが話をつけてくれて、花山はミテッタ男爵の領地に行くことになった。

 出発は、これからすぐだという。

 

 サリオが言った。

 

「ちょっと待っててください、カオルさん。何か着るものを持ってきます。男爵の領地まで3,4日はかかりますからね。その間、そのなり(裸にコート、おまけに裸足)で過ごさせるのは申し訳ない――せめて靴だけでも見繕ってきますから。ああ、そうそう。先にこれをお渡ししときますね。目についたものがあったら、入れておくといいです」

 

 と言って渡されたのは、大きな布袋だった。

 紐が4本付いていて、それを肩と腰に巻いて担ぐ、そういうデザインだ。

 原始的な、リュックサックともいえた。

 

 リュックサック――

 

 離れてくサリオを見ながら、花山は思い出していた。

 それほど遠くはない過去の出来事だ。

 20歳になった時、花山が参加したイベント。

 

 花山組恒例――成人の儀。

 

 成人した男子が、一週間山籠もりする。

 ライターすら持たない、超最低限の装備でだ。

 もちろん、食料は現地調達。

 花山の場合は、頭部だけでも80キロ近い大イノシシを狩って食べた。

 

 その儀式の際に花山が荷物を入れてたのが、この布袋くらいの大きさのリュックサックだった。

 若頭の木崎がナイフを始めとしたサバイバル用品を入れてくれていたのだが、しかしそれを花山は出発前夜に全て取り出し――

 

(あの時は……背広姿一式(スーツ)煙草(パーラメント)(ターキー)と……ひげ剃りに………後は………何を入れたんだったか)

 

 思い出しながら、とりあえず(ターキー)の空き瓶を袋に入れる。

 自然な環境において、花山はポイ捨てをしない。

 件の儀式でも、空き瓶はリュックに回収して帰った。

 

 と――袋に入れた手に。

 

(……?)

 

 異様な感触があった。

 それは、よく知った感触でもあった。

 だからこそ、異様だったのだ。

 

 この袋は、サリオから渡されたものだ。

 異世界の袋だ。

 その中に……

 

(どうしてこれ(・・)が――?)

 

 花山は、その感触を掴んで取り出した。

 やはり、そうだった。

 

 シャツだ。

 花山が着慣れた、紫色のワイシャツだった。

 

 また手を突っ込んで、取り出した。

 

 靴だった。

 もちろん履き慣れた、ワニ革の。

 

 また手を突っ込んで――そして。

 

「カオルさーん。アナボリっていう男も女も馬鹿でかい地方から来た奴らがいましてね。カオルさんでも着れそうな大きな服が都合できましたよ。へへへへ。もちろん、死体から剥いだりしたもんじゃないですからご安心を――って、え?」

 

 いつの間にやら花山を囲むように出来てた人垣をかき分け、サリオが戻ってくると。

 

「あの……カオルさん。その服は……どこから?」

 

 どこから出したのか、見慣れない、しかし明らかに高級そうな衣服に身を包んで煙草を吸う、花山の姿があった。

 おもむろに煙を吐き出すと、花山は言った。

 

「……(これ)に、入ってた」

「……そうですか」

 

 目を細めるだけで応じるサリオを見ながら、花山は木崎の顔を思い出していた。

 木崎ならきっと、

『そんなわけないでしょおおおお~~~~』

 と、両手をわなわなさせながら詰めてきたに違いない。

 それくらい、ありえないことのはずなのだが。

 

 ことも無げな顔で、サリオが呟く。

 

「なるほど。それでか……」

 

 元々注目を集めていたところへ、これだ。

 シャツ、上着、ズボン、靴、それからおそらくは簡略化したタイ。

 どれも、貴族――いや王族でないと手に入れられないような高級品だった。

 そしてそれらを取り出して身に着ける花山にみな目を奪われ、結果、この人垣が出来たということか。

 

 小声で、サリオが訊いた。

 

「カオルさん……実は名字、あったりします?」

 

 お前は貴族か? という問いだった。

 

 この、カオルと名乗る男。

 どこからか現れ、鬼人はおろか鬼人将軍まで斃してのけた戦闘力。

 そこに、この見慣れぬ高級そうな衣装が加わった。

 すると結論は早い。

 貴族――しかもかなりの武勲を誇る、上級貴族に違いない。

 

 いまやここにいる誰もが、そういう目で花山を見ていた。

 

 花山が答えた。

 

「……貴族じゃねえ」

「では引き続き『カオルさん』と呼ばせてもらいますが……」

「花山だ」

「ハナヤマさん……カオルさん……」

「薫でいい」

「……了解です。カオルさん」

 

 頷くと、サリオが人垣に向けていった。

 

「はい。この人は貴族じゃありません。ミテッタ男爵様に保護された、異国の職人です。いま着てるのも、自分で作った商品です。ということで解散解散!」

 

 そう言いながらサリオが手を叩いて回ると、それで人垣は解散した。

 ほとんどは、ミテッタ男爵の兵だ。

 間もなく彼らはミテッタ男爵の領地に出発するわけだが、本当ならあと数時間は後になるはずだった。

 鬼人の死体から素材を剥ぎ取るなどしつつ、休憩をとる予定だったのだ。

 

 それが早められたのは――花山が理由だった。

 

 花山を異国の貴族と考えているのは、兵士たちだけではない。

 ムーノ伯爵の側近から、ミテッタ男爵に、こういう申し入れがあったのだった。

 

『ムーノ伯爵は無能であり(アレなため)、異国の貴族かも知れない花山(あのおとこ)を遇するには能力不足(いささか多忙すぎる)何かやらかされたら大変なので(だから)、ムーノ伯爵は花山に気付かなかったということにして欲しい。そのためにも、ミテッタ男爵には出来るだけ早くこの戦場を離れて欲しい――花山を連れて』

 

 こう言われて、ミテッタ男爵に断るという選択はない。

 ムーノ伯爵の方が、貴族としてずっと高位――それは当然として。

 ムーノ伯爵の無能さが『アレ』で通じてしまうくらい、それほどに周知なことだったからだった。

 

 

●●●●

 

 

 それから3日後。

 一行は、ミテッタ男爵の領地に到着した。

 ミテッタ男爵と側近、30名ほどの兵士、サリオ、花山という顔ぶれだ。

 

 花山は、しばらく滞在することになる宿に案内された。

 費用は、花山が斃した鬼人の素材から、ミテッタ男爵が払うのだという。

 

 そして――

 

 宿に着いて十数分後。

 花山は、宿の近くの酒場に飛び込んで訊いた。

 

「冒険者ギルドは、ここかい?」

 




そろそろ花山を闘わせたい……
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