エステル、僕の村にお嫁さんに来てくれないか? ~ハーメル村次期村長物語~   作:朝陽晴空

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第九話 市長邸強盗事件(解決編)

<ロレント市 市長邸>

 

シェラザードから事件についての推理をしろと挑戦状を叩きつけられたエステルとヨシュア。

二人は固唾を飲んでシェラザードの最初の質問を待つ。

 

「まず、賊が市長邸に侵入した目的を答えてもらおうかしら」

「金庫にあったセプチウムの結晶を狙った犯行だと思います、小物入れはたまたま目についたからついでに中身を盗んだのだと」

 

ヨシュアの答えにシェラザードは満足げにうなづく。

 

「それじゃあエステル、犯人が何故本棚や引き出しを荒らしただけで中身を持って行かなかったのかわかる?」

「……えっと、興味が無かったんじゃないかな、多分」

 

エステルの答えを聞いて、シェラザードは天を仰ぐような仕草をしてため息をつく。

 

「それはその通りだけど、もうちょっと遊撃士らしい言い方をしなさい」

「犯人達は本棚にあった希少本の価値を知らず、行政に関する知識も乏しいと思います」

「よろしい、その通りね」

 

模範的回答をしてシェラザードに褒められたヨシュアを、エステルはふくれた顔でにらみつけた。

 

「次に小物入れをこじ開けた形跡から、犯人の武器が分かるわね」

 

ヨシュアが手を挙げて答える。

 

「多分導力銃を使ったんだと思います」

「正解よ」

「さすがヨシュア、やるじゃない」

 

エステルは誇らしげに腕組みをしてつぶやいた。

そんなエステルにシェラザードがあきれ顔でツッコミを入れる。

 

「どうしてあなたが偉そうなのよ」

「弟弟子(おとうとでし)の功績は、姉弟子の手柄にもなるの」

「まったく、都合の良い解釈なんだから」

 

ヨシュアも頭に手を当ててため息をついた。

雰囲気を引き締めるためにシェラザードは咳払いをして話を再開する。

 

「例えば傷害事件が起きた時、凶器を特定すれば重要な手掛かりになったりするのよ」

「刺殺痕も片刃と両刃で違いますからね」

「ヨシュアの趣味の武器オタクも、暗いだけじゃなくて役に立って良かったじゃない」

 

エステルは嬉しそうにヨシュアの肩に手を置いて声を掛けた。

 

「僕が武器屋でアルバイトして、自然に身に着いた知識だよ」

 

ヨシュアは不機嫌そうに口をとがらせてつぶやいた。

シェラザードはパンパンと手を叩いて二人に注意を向けさせる。

 

「はいはい、先に進むわよ。……犯人の侵入経路は?」

「玄関は鍵が掛かっていたみたいだから入れないし……」

「鉤爪によって付けられたと思われる手すりの傷、泥で汚れた足跡があった二階のベランダから書斎の窓を割って侵入したのだと断定できます」

 

質問に答えた二人はシェラザードの評価を待つ。

 

「ふむ、推理は上手く続いているようね」

 

そうつぶやいたシェラザードの言葉に二人はホッと胸をなで下ろした。

 

「さて、犯人候補が上がっていたけど、この中で特に有力な容疑者は誰かしら?」

 

訪問者達のリストには、アルバ教授、ナイアルとドロシー、カプア宅配便の三つが書かれている。

 

「消去法になりますが、まずカプア宅配便を疑うのが妥当だと思います」

「どうして?」

 

いきなり断言したヨシュアにエステルが疑問の声を上げた。

 

「アルバ教授とナイアルさん達だけど、昨日は僕達と一緒だったよね?」

「あっ、そうか」

 

ヨシュアに指摘されたエステルは気が付いたようにポンと手を叩いた。

 

「犯行をする日に遊撃士と関わるような真似をするでしょうか?」

「そうだな。犯行時間も削られるし、アリバイ作りとしても微妙な線だ」

 

ヨシュアの理論には矛盾は無いとアストンを含めたこの場に居合わせているメンバーも感心した様子だった。

シェラザードも反論せずにヨシュアの説を肯定し話を進める。

 

「では最後の質問よ。犯人達のアジトはどこにあると推測されるかしら?」

「食料が大量に盗まれた事から、街から離れた場所だと思います」

 

そう答えたヨシュアに続いて、エステルは勢い良く手に持った数枚の葉を頭上に掲げる。

 

「決め手は屋根裏部屋に落ちていたこのセルべの葉っぱよ!」

「ロレント近郊でセルべの樹があるのはミストヴァルトの森だけです」

 

ヨシュアが出した結論を聞いたシェラザードは無言で重々しくうなずいた後、ゆっくりと口を開く。

 

「それなら私達が採るべき行動は一つ。ミストヴァルトの森に潜んだ犯人を追跡するわよ」

「了解」

「はい!」

 

エステルとヨシュアは気合たっぷりにシェラザードに答えた。

 

「我々も増援を率いてミストヴァルトの森へと駆けつける、それまで無理をするな」

「気を付けるんだぞ」

 

アストン隊長とクラウス市長にうなずき返した三人は、ミストヴァルトの森へと向かうのだった……。

 

 

 

<ロレント市郊外 ミストヴァルトの森>

 

三人は遊撃士協会に立ち寄りアイナに報告した後、ロレントの街を飛び出し、ブライト家の前を通り過ぎ、ミストヴァルトの森の入口へと到着する。

 

「どうやら、私達の推理は合っていたようね」

 

丹念に地面を調べたシェラザードは二人に向かってそう告げた。

しかし不思議そうな顔をしたエステルが尋ねる。

 

「どうしてわかるの?」

「ほら、地面の土に複数の人間が通った足跡があるでしょ」

「でも、木を伐りに来た人達の跡かもしれないじゃない」

「それなら引きずった丸太や運搬車のタイヤの跡があるはずだよ」

 

反論したエステルに、ヨシュアが代わりに言い返した。

真剣な表情をしたシェラザードは根拠を話し続ける。

 

「さらにこの足跡は、昨日の夜の犯行時に付けられた可能性が高い」

「ほら、眠っちゃったドロシーさんをホテルに送り届けた時に雨が降ってただろう?」

「あっ、だからベランダが泥だらけだったのね」

 

ヨシュアの言葉に感心した様子でエステルはポンと手を叩いた。

 

「だからずっと前にあった足跡は雨で洗い流されてるわけよ」

「凄い、足跡から色んな事が分っちゃうなんて」

「逃亡者の追跡術も遊撃士の仕事に役立つ物だからね」

 

二人が感傷に浸っているかのように立ち尽くしていると、シェラザードが声を掛けて急かす。

 

「早く森の中を調べるわよ、あまり大きな物音を立てないようね」

「了解」

「はい」

 

エステルとヨシュアは控えめな声で答えてシェラザードの後について森の中へと入るのだった……。

 

「エステル、勝手に進むんじゃないの」

 

森の中に入ってしばらくしてシェラザードはズンズンと歩き出したエステルを呼び止めた。

 

「だって、セルべの樹の所に行くんでしょ? あそこへ行くなら近道を知ってるから」

「この森にはよく昆虫採集に来てるんですよ」

「ふう……ここはエステルの庭みたいなものか」

 

シェラザードは感心すると同時に、まだ虫取りを続けていたエステルにあきれてため息をついた。

エステルを先頭に、三人は迷う事無く森の奥へと進んで行く。

セルべの樹が生えている場所に近づくと、森が開けた所で、ゴーグルを頭に乗せた男達三人がたき火を中心に丸くなって食事をしていた。

その三人に見覚えがあったエステルは、隣に居たヨシュアにそっと耳打ちする。

 

「あいつら、七耀石を狙ってあたし達を襲って来たやつらじゃない?」

「うん、間違いない」

「それじゃあ行きましょう、それー!」

「ちょ、ちょっと、エステル!?」

 

声を上げて身を隠していた茂みから飛び出し、突撃を開始したエステルにヨシュアは慌ててついて行った。

 

「うわああっ!」

 

突然現れたエステル達に、三人の男達は持っていたリゾットの入っていた茶碗を落として悲鳴を上げた。

武器を装備して身構える事も出来ずに、三人はあっさりと負けてしまった。

 

「さあ、七耀石の結晶を出しなさい!」

 

シェラザードが眼を光らせ鞭を構えると、三人は肩を寄せ合って震え上がる。

 

「俺達は持ってないんだ、勘弁してくれ!」

「本当でしょうね!?」

「ひいいっ!」

 

シェラザードに凄まれて怯える三人を、エステルとヨシュアは冷汗を浮かべながら眺めていた。

 

「ライル、レグ、ディノ!」

 

そんな時、森の方から男達の名前を呼びながらゴーグルを頭に乗せた一人のショートカットの少女が姿を現した。

 

「あんたもこいつらの仲間?」

「お、お前達がライル達をやったのか」

 

シェラザードに睨まれた少女は少し怯みながらも尋ね返した。

 

「そうよ盗んだ七耀石のありかを吐かないと、あなたも痛い目にあうわよ」

「覚悟しなさい!」

 

人数差で勝り強気になっていたシェラザードとエステルが少女に詰め寄ると、男達は苦しそうな表情で少女に呼び掛ける。

 

「逃げてください、ジョゼットお嬢!」

「おっと、逃がさないわよ」

「もし逃げたら残ったこの人達、シェラ姉の拷問でもっと酷い目に遭っちゃうかも」

 

ノリノリで脅しをかけるシェラザードとエステルに、ヨシュアは内心苦笑しながらその流れに乗る。

 

「素直に降参した方が身のためですよ?」

 

すると追い詰められたジョゼットは、鞄から七耀石の結晶を取り出し、導力銃の銃口を押し当てる!

 

「ボ、ボク達を捕まえようとしたら、この七耀石の結晶に風穴を開けるからね!」

「人質……じゃなかった物質を取るなんて、卑怯者!」

「待ちなさいエステル、相手を刺激するのはよしなさい」

 

激昂したジョゼットならやりかねないと判断したシェラザードは、エステルを押し止めた。

七耀石の結晶を人質に取られた形になったエステル達とジョゼットのにらみ合いはしばらく続いた。

シェラザードは声を潜めてエステルに言い聞かせる。

 

「人質をとった籠城事件の場合、すぐに強行手段に出るのは下策よ」

「じゃあ黙って見てるしかないって言うの?」

 

エステルは悔しそうにシェラザードに訴えかけた。

 

「相手が条件を提示して来れば、交渉の余地があるんだけど……」

「あれは頭に血が上って、聞く耳持たないわね」

 

ヨシュアとシェラザードは渋い顔でため息を吐き出した。

 

「何をヒソヒソ話してるんだ、七耀石が粉々になっていいのか!」

「お嬢、無茶しないでください」

 

カッカとしているジョゼットを、男達がなだめた。

 

「何言ってるんだい、お前達が助かるなら、こんな宝石の一つや二つ!」

「お、お嬢ーっ!」

「ありがてぇ……、ありがてぇ……!」

 

ジョゼットと男達は互いに目に涙を浮かべて言葉を交わした。

 

「な、なんか妙な雰囲気になって来たわね」

「これじゃあ、あたし達が悪役じゃない。調子狂うわ……」

 

エステルは引きつった笑いを浮かべ、シェラザードは額に手を当てて息を漏らした。

しかしその時小さな影が現れたのを感じ取ったヨシュアは顔を上げて空を見る。

 

「小型の飛行艇?」

 

そしてその飛行艇の機銃が自分達に向けられている事に気が付くとヨシュアは慌てて隣に居たエステルの腕を思いっきり引っ張る。

 

「森の中に逃げ込むんだ!」

 

ヨシュアの言葉に反応してシェラザードも素早い身のこなしで森の中へと退避した。

飛行艇の機銃はエステル達が立っていた場所の地面をピンポイントに狙い撃って来た。

掃射に比べて大きく手加減したのは、同じ広場に居るジョゼットや空賊の男達に被弾しないように気遣っての事だろう。

しかしエステル達を威嚇するには十分だった。

小型飛行船は広場の一角に着地し、中からゴーグルを頭に乗せたジョゼットと同じ髪と瞳の色の青年が姿を現すと、ジョゼットは笑顔で呼びかける。

 

「助かったよ、キール兄!」

「済まねえ、陽動に時間が掛かっちまってな」

 

青年は明るい表情でジョゼットにそう答えた。

そして空賊の男達も飛行艇に乗り込もうとしているのを見たエステルは、隠れていた森の茂みから飛び出して武器を構える。

 

「こら、逃がさないわよ!」

「ふん、もう遅いぜ。しかしこんなに早くここを突き止めるなんて、とんだ名探偵がいたものだ」

 

キールがそうつぶやくと、飛行艇のエンジンが始動を再開し風が巻き起こった。

どうやら飛行艇が離陸体勢に入ったようだ。

 

「勝負はボク達の勝ちのようだね、七耀石の結晶はもらって行くよ! あははは!」

 

飛行船の脚に飛び乗ったジョゼットは、七耀石の結晶を握りしめながら勝利宣言をした。

そして、高度を上げた飛行船は西の空へと飛び去って行ったのだった……。

 

 

 

<ロレント市 遊撃士協会>

 

ジョゼット達を逃がしてしまったエステル達はしばらく呆然としていたが、仕方が無いので遊撃士協会へと帰る事にした。

 

「みんな、お疲れ様」

 

穏やかな笑顔でアイナはそう言って報告に戻った三人を労った。

 

「賊には逃げられたけど気を落とす事は無いわ、市長邸の調査と推理は中々のものだったし」

「ありがとうございます」

 

シェラザードに慰められたヨシュアはお礼を言った。

 

「森ではけもの道まで熟知していたし、エステルの奇襲のタイミングは最高だったわ」

 

そう言ってシェラザードはエステルの頭を撫でた。

 

「油断している食事の最中の敵に攻撃を仕掛けるなんて、エステルは昔のカルバード共和国の名将ノブナガみたいだね」

「そう?」

 

アイナにまで褒められたエステルは照れ臭そうに頭をかいた。

 

「でもエステルの勇気とヨシュアの慎重が揃ってやっと一人前だからね、まだロレントから出すわけにはいかないのよ」

「ちぇっ、あたし達の手で追いかけて七耀石の結晶を取り返したかったのにな」

 

シェラザードの言葉にエステルは残念そうな顔をした。

 

「あなた達がロレント支部で十分な功績を立てたと認められれば、私は喜んでボース支部への推薦状を書くわ」

「日々の積み重ねが大切って事よ、精進しなさい」

 

アイナとシェラザードに励まされ、エステルとヨシュアはまた明日から気持ちを入れ替えて仕事を頑張ろうと誓い合うのだった。

 

「さあ仕事はこれで終わり、事件解決を祝って今日は飲みましょう!」

「シェラ姉、犯人は逃げちゃったんだし、お祝いする必要はないと思うんだけど……」

「そうですよ、犯人逮捕の報告が入った時にすれば良いと思いますよ」

 

嫌な予感を感じたエステルとヨシュアは、シェラザードに思い止まるように説得しようとした。

仕事終わりで疲れているのに酔ったシェラザードに絡まれてはたまらない。

 

「それなら、いつ飲みに行けば良いって言うのよ?」

「今でしょう」

 

シェラザードの言葉にアイナがニッコリと答えると、エステルとヨシュアはガックリと肩を落とすのだった……。

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