エステル、僕の村にお嫁さんに来てくれないか? ~ハーメル村次期村長物語~   作:朝陽晴空

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ボース地方編
第十一話 熱血・暴走・ツンデレ・遊撃士アガット登場!


<ボース地方 ボース街道>

 

ロレント支部の推薦状を受け取り、ボース地方の遊撃士協会に向かう事になったヨシュアとエステル。

そして、道案内役として付き添う事になったシェラザード。

ヨシュアとエステルは新天地に何が待ち受けているのか、シェラザードは西の方角でどんな異性との出会いがあるのか、期待に胸を高鳴らせながら道を歩いている。

 

「やっと霧が晴れてきたね」

 

視界が開けると、ヨシュアは安心して息をついた。

 

「あっ、遠くにボースの街が見える!」

 

エステルは街道の遥か先に小さく見えるボース市の街を指差して歓声を上げた。

 

「さあ、昼まで着けるように早く行くわよ!」

「了解!」

 

シェラザードに元気良く返事をしたエステルは、弾かれたように勢い良く走り出した。

 

「エステル!?」

「ちょっと待ちなさい!」

 

ヨシュアとシェラザードは慌ててエステルを追いかけて走り出すのだった……。

そして数セルジュほど走ったところで、三人は小休止する。

 

「はあはあ……」

「この程度でへばっちゃうなんて、情けないわよ」

 

道に座り込んでしまったヨシュアに、エステルは背中をポンポンと叩いて声を掛けた。

 

「全く、野生児みたいに体力はあるんだから……」

 

肩で息をしながらシェラザードもそうつぶやいた。

 

「えーっと、霜降り峡谷?」

 

街道にあった分かれ道を示した立札を読んで、エステルはつぶやいた。

 

「それはそれは、随分と美味しそうな地名ね」

「霧降り峡谷だよ」

 

シェラザードとヨシュアはあきれた顔でツッコミを入れた。

 

「あはは、そうだよね」

 

エステルは舌をペロリと出した後、大きな声で笑った。

熱に浮かされているようなエステルに、ヨシュアが注意を促す。

 

「ちょっとはしゃぎ過ぎだよ」

「分かってるけど、見た事の無い場所ばかりだとワクワクしちゃうのよ!」

 

エステルは笑顔で答えて、また街道をスキップで進んで行った。

 

「私達でフォローするしかないわね」

「仕方ないですね」

 

シェラザードとヨシュアは苦笑しながら顔を見合わせてうなずき、後を追いかけた。

 

「あ、見た事が無い魔獣よ!」

 

先を行くエステルは、野原を這っていたスライムゼリー状の魔獣を発見すると歓声を上げた。

情報のクォーツからデータを引き出しながら、ヨシュアはエステルに呼び掛ける。

 

「僕達が行くまで待つんだ!」

「相手は一匹なんだから平気よ!」

 

エステルは棒を振り下ろして魔獣を叩き潰した。

そして振り返り二人に向かって得意気な顔をするエステルに、ヨシュアは鋭い声で注意を促す。

 

「エステル、まだ終わってない!」

 

エステルの足元で潰れた魔獣は二体に分裂し、さらに三体、四体と増えた。

 

「こんなのインチキっ!」

「エステル、そこを離れなさい!」

 

シェラザードの言葉にエステルが思いっきり後ろに飛びのくと、エアリアルのアーツにより魔獣達を巻き込む旋風が巻き起こった!

舞い上がり、地面に叩きつけられた魔獣達は動きを止める。

 

「ヨシュア!」

「はい!」

 

合図をシェラザードから受けたヨシュアがファイアボルトのアーツで焼き払うと、魔獣達は完全に生命活動を停止、死んだのだ。

 

「マッドローパーは分裂をする魔獣だけど分裂後の体力は低下しているから、範囲攻撃で止めを刺せば問題無いのよ。覚えておきなさい」

「了解」

「わかりました」

 

エステルとヨシュアは遊撃士手帳を取り出して、シェラザードに言われた通りにメモをした。

 

「やあシェラザード、先輩振りがしっかり板に付いたじゃないか」

 

すると、ボース市の方向から歩いて来た遊撃士の紋章を胸に着けた青年が立ち止って三人に声を掛けた。

その青年の後には運転手が乗った貨物車が数台続いている。

 

「あらグラッツ、ロレントへの護衛の仕事?」

「ああ、定期便が運休しているからな」

 

シェラザードの問い掛けに、グラッツはうなずいた。

そしてロレント支部の遊撃士と準遊撃士二人がやって来ている事に疑問を感じたグラッツがシェラザードに尋ねる。

 

「君が若いのをわざわざ連れて来るなんて、何か事件でもあったのか?」

「別に事件は起こってないんだけど、この子達の道案内をするために同行したのよ」

 

ボーイハントに来たと言えず、シェラザードはごまかし笑いを浮かべてお茶を濁すように答える。

 

「そう言えば、ルグラン爺さんがロレント支部から準遊撃士が二人配属されるって聞いてたけど、それが君達か」

「よろしくお願いします!」

 

エステルは笑顔で手を差し出して、ヨシュアは深々と頭を下げてグラッツに答えた。

 

「おっと、そろそろ行かなくちゃ」

 

二人と握手を交わしたグラッツは、待っている運搬車の運転手達の方を振り返ると休憩終了の合図を送ってロレントへ向けて歩き始めた。

そして三人もグラッツに手を振ってボース市へと向かうのだった……。

 

 

 

<ボース市 ボース市街地>

 

三人がボースの街へと到着すると、エステルは門を見上げて歓声を上げる。

ボースの街はロレントの街に比べて石造りの大きな建物が多かった。

 

「うわあ、ロレントよりずっと大きい!」

「エステルはボースに来たのは初めてだったよね」

「どうせあたしはロレントから出た事は無いわよ」

「別にバカにしたわけじゃないってば」

 

腕組みをして膨れ顔をしたエステルを、ヨシュアがなだめた。

しかしエステルが不機嫌になったのは一瞬の事。

ボース市の賑やかな街の様子を見て、エステルのテンションは上向きになる。

 

「街の真ん中にある大きな建物って何? 人がたくさん集まっているみたいだけど」

「あそこはボースマーケット。屋根付きの市場よ」

 

エステルの質問にシェラザードが答えると、エステルは目を輝かせた。

 

「ダメだよ、僕達はまず薬を届けに礼拝堂へ行かないと」

 

そんなエステルの気持ちを察したヨシュアがエステルに釘を刺した。

 

「もうヨシュアってばケチなんだから、ちょっと見るぐらい良いじゃない」

「ほらほら、寄り道しないで行くわよ」

 

シェラザードは渋るエステルの首根っこをつかみ引きずりながら礼拝堂へと向かうのだった……。

 

「これはこれは、ありがとうございます」

 

薬を受け取ったホルス教区長はそう言って三人に頭を下げた。

 

「いえ、遊撃士として当然の務めです」

 

シェラザードの返事を聞いたホルス教区長は穏やかな笑顔でシェラザードに尋ねる。

 

「貴方達はロレントの街の遊撃士なのですか?」

「私はそうですが、二人は本日よりボース支部所属になります」

「よろしくお願いします」

 

エステルとヨシュアは揃ってホルス教区長に頭を下げた。

 

「そうですか、それはそれは……」

 

ホルス教区長は嬉しそうに目を細めながら二人を見つめた後、少し遠慮がちに三人の顔を見回した。

 

「何かお困りの事がありましたら、力にならせてください」

 

そのホルス教区長の様子に気が付いたヨシュアが声を掛けると、ホルス教区長は恥ずかしそうに笑い、渡りに船とばかりに用件を切り出す。

頼んでいた薬は流行病の特効薬で、ラヴェンヌ村に症状のひどい患者が居るからボース支部の遊撃士に薬を届ける依頼を出そうと考えていた事を話した。

 

「分かりました、そういう事でしたら喜んでお手伝いさせて頂きます」

 

話を聞いたシェラザードがそう告げると、ホルス教区長はゆっくりと息を吐き出す。

 

「ありがとうございます、長旅でお疲れの所済みません」

「体力は有り余っているから任せてください!」

 

エステルは腕まくりをしてホルス教区長に答えたのだった……。

 

 

 

<ボース市 遊撃士協会>

 

「まったく、エステルってば調子がいいんだから」

 

礼拝堂から出たヨシュアは、大口を叩いたエステルに愚痴をこぼした。

 

「でもエステルの言う事はもっともよ、同時に複数の依頼を連続してこなさなければならない事もあるわ」

「それは、そうですけど」

 

シェラザードの言葉にヨシュアは最終的には同意した。

 

「ほらヨシュア、仕事が終わったらボースマーケットで買い物ができるんだから、元気出しなさいよ」

「本当にエステルはパワフルでポジティブだよね」

 

ヨシュアは少しあきれながらも、まぶしそうにエステルを見つめて微笑んだ。

シェラザードもあごに指を当てて笑みを浮かべる。

 

「私もマーケットで帝国から輸入された新作の服でもチェックしようかしら」

「美味しい物がたくさんありそうだしね!」

 

エステルは目を輝かせて屋台を見回している。

 

「色気より食い気なんだね」

「スカートの一枚にでも興味を持って欲しいわ……」

 

エステルの言葉にヨシュアとシェラザードはため息を吐き出したのだった……。

三人がボース市の遊撃士協会に入ると、正面のカウンターには青いニット帽を被った白髭の老人の姿があった。

そして燃えるような赤い髪を持ち、自分の背丈ほどもある長剣を背負った長身の青年が入口に背を向けてその老人と話している。

 

「久しぶりねルグラン爺さん、アガット」

「おお」

「ん?」

 

シェラザードが親しげに声を掛けると、ニット帽を被った老人は顔を上げ、赤毛の青年は振り返った。

 

「元気そうで何よりじゃ。それでお前さんが連れているのがロレント支部を卒業した二人じゃな?」

「ええ、準遊撃士のエステルとヨシュアよ」

 

ルグラン老人に尋ねられたシェラザードはうなずいた。

 

「よろしくお願いします」

 

紹介された二人は揃って頭を下げた。

 

「シェラザード、お前さんがわざわざ来るとは何かあったのか?」

「いいえ、私はこの子達の道案内役よ」

 

怪しんだ顔をしたアガットに尋ねられたシェラザードはとぼけてそう答えた。

するとアガットは怒った表情になり、エステルとヨシュアの方を向いて言い放つ。

 

「おいお前ら、俺はシェラザードのように甘くは無いぞ」

「はい!」

 

内心シェラザードに毒づきながら二人は姿勢を正して返事をした。

 

「これこれアガット、若いのを脅かすのもいい加減にするんじゃ」

 

ルグラン老人はそう言ってアガットをなだめた。

 

「さあ手続きをしなさい、貴方達は準遊撃士だからボース地方で活動するためにはボース支部に所属を変更する必要があるのよ」

 

シェラザードに促されたエステルとヨシュアはルグランに差し出された書類に必要事項を記入して提出した。

 

「エステル・ブライト、ヨシュア・アストレイ。本日をもってボース支部所属とする」

「何っ、ブライトだと?」

 

ルグランが辞令を読み上げるのを聞いて、アガットは目の色を変えて二人をにらみつけた。

 

「そう、エステルはカシウス先生の実の娘よ。そしてヨシュアは先生の家に引き取られているの」

 

シェラザードは自慢するように二人の素性を告げた。

するとアガットの目が鋭く光り不気味な笑みを浮かべたのを見て、二人は嫌な予感がした。

 

「俺はアガット・クロスナーだ。ボース支部では俺がお前達二人を指導してやる、覚悟しておけよ!」

「ひえー、どうしていきなりそんなに厳しいのよ」

 

アガットが宣言すると、エステルは頭を抱えて悲鳴を上げた。

 

「アガットが家出をして悪い仲間とつるんで居た時に先生に退治されてね。半ば強制的に遊撃士にさせられて厳しく鍛えられたのよ」

「うるせえ、お前だって未成年なのに酒場で飲んだくれていたんじゃねえか!」

 

シェラザードが笑いながら話すと、アガットは怒鳴って言い返した。

 

「あ、あたしは悪い男に果実ジュースだって騙されただけよ」

「ふん、一人で酒場に入った時点で言い訳出来ないだろうよ」

 

言い争いを始めてしまったシェラザードとアガットに、エステルとヨシュアは顔を見合わせてため息をつく。

 

「父さんに逆恨みしてあたし達に八つ当たりしてるのも混じってるわね」

「大人げないと言うか……」

 

落ち着いたシェラザードはルグラン老人に話し掛けた。

 

「それでルグラン爺さん、あたし達ラヴェンヌ村に薬を届ける依頼を教区長さんから受けたんだけど」

「ああ、ラヴェンヌ村では流行り病が起きているな」

「薬だと? それでミーシャの病気が治るのか?」

 

突然、興奮した様子で話に割り込んで来たアガットにエステルとヨシュアは驚いた。

 

「アガット、あなたの妹の事なんだから大変なのはわかるけど、少し落ち着きなさいよ」

「いいや、落ち着いてなんかいられねえ、こうしている間にもミーシャは家のベッドで苦しんでいるんだ」

 

そう言うと、アガットはエステルとヨシュアを急かすようにギルドの外に押し出そうとする。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

戸惑ったエステルはアガットに逆らおうとするが、アガットの力には敵わない。

 

「てめえら、これからラヴェンヌ村まで全力疾走だ!」

「僕達、ロレントから半日かけて街道を歩いて来たんですけど……」

 

ヨシュアがため息混じりに抗議をするが、目が眩んだようにアガットは聞き入れない。

 

「ごちゃごちゃ抜かすんじゃねえ!」

「二人とも、頑張っていてらっしゃい。依頼の穴はあたしが埋めておくわ」

 

シェラザードは手を振って慌ただしくギルドを出て行くエステルとヨシュアとアガットの三人を見送った。

 

 

<ボース地方 ラヴェンヌ村 アガットの家>

 

「ミーシャの熱が下がりましたよ! 他の村人たちも快方に向かっています」

「よかった!」

 

村長ライゼンの喜ぶ様子を見て、エステルとヨシュアも笑顔になる。

ベッドでは苦しそうな様子だったミーシャが、今ではすっかり落ち着いて気持ち良さそうに寝ている。

 

「これで一安心だ」

 

アガットとエステルとヨシュアと村長ライゼンの四人は、ミーシャを静かにゆっくりと寝かせるために、村長の家へと移動する事になった。

 

「村の流行り病も治まりそうで、喜ばしい事なんじゃが……もう一つ困った事があるんじゃ」

「何だ?」

 

ライゼン村長の言葉に、腕組みをしたアガットが聞き返した。

 

「数日前から、奥の山道で危険な魔獣が出没していると目撃情報があってな、遊撃士協会に依頼しようと思っていたところじゃった」

「どんな魔獣ですか?」

 

ヨシュアの質問を聞いてライゼン村長は話を続ける。

 

「それが、はっきり姿を見たものは居なくてな、どうやら獲物を待ち伏せする魔獣らしいのじゃ。鉱山が栄えていた頃、その手の魔獣に悩まされていたのでな」

 

ライゼン村長の話を聞いたアガットは鼻を鳴らした。

 

「待ち伏せとは厄介だが……面白れえ、お前達を鍛えるのに最適な相手じゃないか」

「ええっ!? また戦うの?」

 

さすがの野生児エステルも、疲れを隠さずにウンザリとした顔で音を上げた。

 

「アガットさん、僕達歩き詰めで疲れているんですが……」

 

ヨシュアも死にそうな顔でアガットにそう懇願した。

 

「バーロー、体力の限界に挑戦してこそ意味があるんだ」

 

アガットはそんな二人に面白く無さそうな顔で発破をかけた。

そんな二人の様子を見かねた村長夫人のビルネ婆さんがアガットをたしなめる。

 

「アガットや、この子達は本当に疲れているみたいだから、少し休ませてあげたらどうだい」

「ちっ、仕方ねえな、無理して怪我でもされたら面倒だし……食事と休憩をしたら出発するからな」

 

舌打ちしたアガットは渋々ビルネ婆さんの助言を聞き入れた。

こうしてエステルとヨシュアはラヴェンヌ村の宿屋『月の小道亭』で食事と休憩を取る事になった。

食事は酒場スペースを切り盛りする村娘のリモーネがラヴェンヌ村の郷土料理を提供した。

 

「アガットってね、昔から気が短いから付き合わされる方はたまったものじゃないわよね」

「リモーネ、てめえの方がのんびりしすぎなんだよ」

 

リモーネはアガットとは正反対の、のほほんとした印象があった。

 

「アガットは考える前に行動しちゃうタイプだからね」

 

そのリモーネの言葉を聞いたヨシュアは薄笑いを浮かべる。

 

「それじゃあエステルと気が合うかもしれないですね」

 

ヨシュアの言葉を聞いたエステルはふくれっ面だ。

 

「何よ、失礼しちゃうわね、あたしがそんなに単細胞に見える?」

「そうだ、単純なのはそのガキの方だけだ」

 

そんな感じの会話を交わした食事を終えた三人はラヴェンヌ山道の魔獣を退治しに行く事になった。

エステル達が山道を歩いていると、土煙が前方の地面から湧きあがり、地面の中から鋭い角を持った魔獣が姿を現した!

角を持った魔獣相手に接近戦は不利だと判断したヨシュアはアーツを詠唱しようとするが、そのヨシュアに魔獣が飛びかかった!

 

「うわっ!」

 

魔獣に体当たりされたヨシュアはアーツの詠唱を妨害されてしまった!

 

「どうやら、こいつはアーツの詠唱に反応して攻撃してくるらしい、固くても武器で叩くしかねえな」

「回復も道具を使った方が良いみたいですね」

「わかったわ!」

 

エステルとヨシュアは殴った腕の方がしびれるような感覚にとらわれながらも、根気よく魔獣を殴り続けた。

止めはアガットが空高く跳躍して魔獣に攻撃する技だった。

 

「食らえ、ドラゴンダーイブ!」

 

重力を利用して落下するその大技に、エステルとヨシュアは見とれてしまった。

 

「ひゅー、かっこいい♪」

「さすが『重剣のアガット』って呼ばれるだけの事はありますね」

 

エステルとヨシュアは口笛を吹いて拍手でアガットを称賛した。

 

「……お前ら、俺をおだてて手加減してもらおうと思ったってそうはいかないからな!」

「そんなこと無いって、本当にすごいと思ったんだから」

「そうですよ」

 

エステルとヨシュアが重ねてそう言うと、アガットは顔を二人から背けて、小さくつぶやく。

 

「そ、そうか……」

 

アガットは少し照れながら消え入るような小さな声でそう答えた。

村に戻ったエステル達は村長に魔獣を退治した事を報告すると、日が沈まないうちにボースの街へと帰る事になった。

 

「あたし達、腰も足もヘトヘトなんですけど……」

 

エステルは持っている棒を杖の様にして歩いていた。

 

「もうひと頑張りだ、しっかりしろ」

 

口調はいくらか柔らかくなったが、やはりアガットは厳しかった。

 

「残念だったなぁ、目を覚ました妹さんからアガットの弱点をいろいろ聞こうと思ったのに」

 

そう言って口を滑らせたエステルに、アガットの目が鈍い光を放つ。

 

「……エステル、お前にはさらに特訓が必要なようだな。行きと同じように全力疾走で帰るぞ!」

 

アガットはそう言って村の外に向かって走って行ってしまう。

 

「そ、そんなあ」

 

エステルはへなへなとその場に崩れ落ちてしまう。

 

「エステル、余計な事を言うから……」

 

ヨシュアはそう言って天を仰いだ。

 

ボースの街に戻り、ギルドで報告を終えたエステルとヨシュアはホテルの部屋に入り、着替えてベッドに入ると泥のように眠り込んでしまった。

その頃、アガットとシェラザードはボースの街の酒場で酒を酌み交わしていた。

 

「あの二人、中々筋がいいじゃねえか。なかなか体力も根性もあるし」

「気に入った? それなら直接ほめてあげればいいのに、アガットったらツンデレね」

「うるせえ、俺はツンデレじゃねえ!」

「はいはい、わかったわかった」

 

声を荒げるアガットを、シェラザードは手で制した。

 

「そんで……お前がわざわざボース地方まで来て、ここに居る理由はなんだ? ロレント支部を空けるほどの事件か?」

 

シェラザードはまさか男性との出会いを探しにやって来たと本当の事を言うわけにもいかず、とりあえず酒を飲み交わす事にした。

 

「ま、まあちょっと厄介な事件があってね……」

 

酒を飲ませて酔い潰れさせてしまえば、アガットの追及を逃れる事が出来るだろうと、シェラザードはアガットに飲み比べを提案するのだった……。

 

次の日のアガットによるエステルとヨシュアの指導は、アガットが二日酔いでダウンしてしまったため、シェラザードが代行して行う事になった。

 

「きょ、今日はボースマーケットに二人を連れて行くから、余計な事をアガットに言わないのよ、いいわね?」

 

落ち着かない様子のシェラザードはエステルとヨシュアにそう言い含んだ。

 

「余計な事ってクルツさんの事?」

「ルシオラさんの占いの事もそうだよ」

 

エステルとヨシュアはぼそぼそと話を交わした。

 

「二人とも、欲しいものがあったら少しだけおごってあげるわよ」

 

完全に目が泳いでいるシェラザード。

そんな話をしながらエステルとヨシュアとシェラザードの三人はボースマーケットの建物の中に入って行った……。

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