エステル、僕の村にお嫁さんに来てくれないか? ~ハーメル村次期村長物語~ 作:朝陽晴空
<ボース市街 遊撃士ギルド>
シェラザード達を見送ったエステルとヨシュアとアガットの三人は、遊撃士ギルドに戻って来た。
「おい、爺さん。手配魔獣のリストは回って居ないか?」
「ふぉっ、ふぉっ、お前さんが倒してくれたおかけで、手配魔獣の情報は届いておらんぞ」
アガットに質問されたルグラン老人は笑いながらそう答えた。
「それにしてもお前さんは魔獣退治の依頼が好きじゃな。もうちょっと別の依頼も引き受けてくれると助かるのじゃが」
「そんなもん、グラッツやアネラスでもこなせるだろうが」
ルグラン老人の言葉にアガットは腕組みをしてそう答えた。
「仕事に好き嫌いなんて言っていいの?」
「適材適所って言うだろ」
エステルが納得いかない顔で呟くと、アガットは鼻を鳴らしてそう言い放った。
「アガットさんの指導を受けるとなると、魔獣退治ばかりになりそうですね」
「なんだヨシュア、お前それは皮肉か?」
アガットにすごまれたヨシュアは少し怯えた表情になって謝る。
「すいません、アガットさん」
「アガットさんって不良顔負けの怖い顔するのね」
エステルは感心したようにそう呟いた。
「そりゃそうじゃ、アガットは元不良じゃしな」
そう言うとルグラン老人はカッカッカ、と笑い声を立てた。
「ふーん、そうなの?」
「うるせえ、手配魔獣が居ないなら、こちらから探しに行くぞ!」
これ以上ルグラン老人からアレコレ話されたらたまらないと思ったアガットは、外に出て行こうとする。
「まったく、じっとしておれんのか、鉄砲玉が」
ルグランはそう言ってため息をついた。
<ボース郊外 琥珀の塔>
アガットの巡回コースの一つとして、琥珀の塔を登らされることになったエステルとヨシュア。
「朝からハードね~」
エステルはウンザリとした顔でそうつぶやいた。
「体力が着くし、地理の勉強にもなって一石二鳥だろう」
「確かに、知らない土地だから自分の目で確認するのは大事だってシェラザードさんも言ってましたけど……」
ヨシュアは額の汗を拭いながら、ブツブツと言った。
「ひえ~~~っ!」
そんな時、塔の中に男性の悲鳴が響き渡った!
「上からだ! お前ら、全力でついて来い!」
アガットを先頭に階段を駆け上って行く三人。
屋上に着くと、眼鏡をかけた青年が魔獣に取り囲まれていた。
「アルバ教授じゃない!」
エステルに気が付いたアルバ教授は情けない声で助けを求める。
「た、助けて下さい……」
「オクトボーンか、こいつはやっかいだぜ」
アガットは魔獣の姿を見ると舌打ちした。
「てやぁ!」
アガットは手前に居た二匹の魔獣を切り裂いて叩き伏せた。
アルバ教授とアガット達の間に道が開けたかのように見えたが、側にいた魔獣が分裂してまた行く手を塞いでしまった。
「こいつ、倒した側から分裂しやがる……!」
アガットは悔しそうにそう漏らした。
「エステル、この魔獣って、シェラさんとボースの街に来る途中で遭った魔獣と似ていない?」
「そういえば、そうよね」
ヨシュアとエステルは顔を見合わせると、頷いてからアガットとアルバ教授に呼びかけた。
「アガットさん、アルバ教授、なるべく魔獣から離れて下さい!」
そういって、ヨシュアとエステルは呪文の詠唱を始めた。
「ヘル・ゲート!」
「エアリアル!」
範囲魔法がさく裂し、数匹の魔獣がそれに巻き込まれて力尽きた。
そのタイミングを逃さず、アルバ教授がエステル達の元にたどり着いた。
「助かりました~」
残る敵もエステルとヨシュアの範囲魔法で片付いてしまった。
「ふふん、どう? あたし達の実力は」
「アガットさんもアーツを使った方が良いですよ」
シェラザードから学んだ『分裂する敵には範囲魔法』の成果を披露して、得意げに笑みを浮かべるエステルとヨシュア。
「範囲魔法を使ったところはほめてやるが、調子に乗るなよ。俺だってドラゴンダイブを使えば、やつらを一掃することだって……」
「それって、地面に凄い衝撃が走る技じゃない?」
アガットの言葉を聞いたエステルはそうつぶやいた。
「それは止めて下さい、重要文化財であるこの塔が壊れてしまいます」
「わかってる、だから俺は止めたんだって」
アガットは心配そうな顔になったアルバ教授にそう言った。
「で、アルバ教授はまたブレイサーを雇わずに一人でこんな所に来たんですか」
ヨシュアが刺すような冷たい視線でそう言うと、アルバ教授はバツが悪そうに頭をかく。
「すいませんね、何せ金欠なもので」
「教授ってそんなにお給料が少ないの?」
「そんなわけは無いのですが」
エステルの質問にアルバ教授は気まずそうにそう答えた。
アガットは何かに気がついたかのようにアルバ教授の服のにおいをかぐ。
「ピッカードレース場のにおいが染み付いているぜ?」
「あはは、バレてしまいましたか」
ヨシュアはさらに冷たい視線をアルバ教授にぶつけてつぶやいた。
「研究費や旅費をギャンブルに使ってしまっていたんですね……」
「まったく、あきれたわ……」
エステルはため息をついてアルバ教授を見つめた。
「まあいい、文無しから依頼料はとれねえ、街まで送り届けてやるからついて来い」
「ええっ、もう帰るんですか? まだ調査は終わっていませんよ」
アルバ教授は後ろ髪引かれる思いで塔の中にある遺物を見つめていた。
「無料なんだから文句言うんじゃねえ!」
「ひええ!」
アルバ教授はアガットに引きずられるような感じで、ボースの街に連れ戻された。
<ボース市街>
ボースの街にエステル達が戻ると、街はハーヴェイ一座の興行があると言う事でいつもより盛り上がっていた。
「やあ、アルバ教授じゃないか」
「あれ、フルブラン君ではないですか」
エステル達と一緒に居たアルバ教授に気がついたハーヴェイ一座の一員であるフルブランが声を掛けた。
「アルバ教授って、フルブランさんと知り合いだったですか?」
「王都の博物館で会った時、芸術を追求する者同士、親しくなってしまってね」
ヨシュアの質問にフルブランがそう答えた。
「あはは、そんなこと言って、ギャンブル友達じゃないの?」
「うっ」
エステルに図星を指摘されたのか、二人ともピシッと石像のように固まってしまった。
「とりあえず、私はブルブラン君のところでお世話になります、送っていただいてありがとうございました」
アルバ教授はそう言ってアガットに頭を下げた。
「もうカジノはほどほどにしておきなさいよ」
「はは、次回は許してもらえそうにないですね……」
アルバ教授はエステルにそう言って、フルブランと一緒に行ってしまった。
「そんじゃ、ギルドに報告しに行くぞ」
エステル達がギルドに行くと、商人風の男性が受付のルグランと話していた。
「おお、良い所に戻って来た。こちらのハルトさんがラヴェンヌ村までの依頼をお願いしたいそうだ」
「ラヴェンヌ村かよ」
アガットは嫌そうな顔でつぶやいた。
「妹さんに会えて嬉しいクセに無理しちゃって」
「うるせえ、余計なお世話だ」
エステルに冷やかされたアガットはフンと不機嫌そうに鼻を鳴らしてギルドの入口に向かった。
「仕事だから仕方がねえ、行くぞ」
エステル達は商人のハルトを護衛しながら西ボース街道を進み、ラヴェンヌ山道を登って行く。
狭い山道に差し掛かると、ヒツジンの群れが前後から迫ってくるのが見えた。
「後方を守らないと!」
エステルが後ろに向かって走り出すと、ヨシュアは慌てて引き止めた。
「ダメだよエステル、戦力を分散させちゃ!」
「ちいっ、突破するタイミングを失ったか!」
エステル達はすっかりとヒツジン達に取り囲まれてしまった。
しかし、突然砲撃の音が辺りに鳴り響き、驚いたヒツジン達は逃げて行ってしまった。
「いったい、何が起こったの?」
「上だよエステル」
ヨシュアが指差す方を見ると、エステル達の頭上をリベール王国の警備飛行艇が飛んで行った。
「ありがとーっ!」
エステルは警備飛行艇に向かって手を振った。
「警備飛行艇が通りかかってくれて助かったぜ」
「ごめんなさい、あたしの判断ミスのせいでピンチを招いちゃって」
そう言ってエステルはしょげた顔になる。
「ああいう時は戦力を集中して正面突破を図るべきだよ」
「ヨシュアの言うとおりだ。まあ反省する点が分かっているようだな」
アガットはエステルの元気の無い顔を見て、それ以上厳しくは言わなかった。
そして不思議そうな顔で警備飛行艇が消えて行った空を見つめる。
「だがどうして警備飛行艇がこの辺りを飛んでいるんだ?」
「村で何かあったのかもしれませんよ」
ヨシュアの言葉を聞いたアガットは顔の表情を曇らせた。
「嫌な予感がするな、急ぐぞ」
「了解!」
エステル達は護衛対象のハルトに気を遣いながらも、ラヴェンヌ山道を急いで進んで行った。
村を見たエステル達はその光景に唖然とした。
果樹園の木々がなぎ倒され、果物が食い荒らされていた。
半数以上の樹が被害を受けていて、村人達は嘆いている。
「何て事だ……私はラヴェンヌ村の果物を仕入れに来たと言うのに……」
ハルトが失望しきった声でそう言った。
アガット達はすぐに言葉は出て来なかった。
戸惑い、怒り、悲しみ、様々な感情が胸の中で渦巻いていた。
「あ、お兄ちゃん!」
「ミーシャ、一体何があったんだ」
入口に立ちつくすアガット達にアガットの妹のミーシャが気付いて声を掛けた。
「羊みたいな魔獣がたくさんやって来て……果樹園の果物を荒らして行ったの……。止めようとした村の人達は突き飛ばされちゃって……」
「そうか……またあいつらの仕業か」
アガットはそう言うと、苦々しい顔になった。
「あっ、アガットも事件の事を聞いて来てくれたの?」
そこに以前食事をご馳走して貰った酒場の女主人リモーネが通りかかった。
「偶然、別の依頼で来ただけだ。そうだ、このおっさんがずいぶんショックを受けちまったみたいだからお前の店で休ませてもらえないか?」
ハルトは自分一人では立っていられないほどショックを受けていた。
リモーネの酒場は旅人の為の宿屋も兼ねている。
アガットはハルトに肩を貸して宿屋の個室まで連れて行った。
エステルとヨシュアはその間リモーネの酒場で待つことにした。
「また、あいつらってアガットさんが言っていたけど、前にもこんな事があったの?」
「うん、7年前にも魔獣が村の果樹園を荒らした事があって、果物を売ることが出来なくなった私達の家族はルーアンの街へ引っ越す事になったんだ……」
エステルの質問に、ミーシャは悲しそうな顔で答えた。
アガットはルーアンの港倉庫で不良グループとつるんで居たと聞いていたが、そんな過去があったのかとエステルとヨシュアは驚いた。
そこにハルトを部屋に送り届けたアガットが戻って来た。
「おいお前ら、休憩はそれまでだ。これから大規模なヒツジン狩りをするぞ」
「わかりました」
「らじゃ~」
ヨシュアとエステルはアガットに返事をして宿屋を出た。
大量発生したヒツジン達の掃討作戦は、エステル達がモルガン将軍のボース治安部隊と協力して素早く逃げ回るヒツジンを廃坑の奥の露天掘りをしていた広場に集めて一網打尽にするという事だった。
「ヒツジンって、どこの地方にもいるものなのね」
「それだけ繁殖力が強いってことだろう。こんな被害が起きる前に駆除しておくべきだったんだよ」
エステルが感心したようにつぶやくと、アガットは苦い顔でそう吐き捨てた。
エステル達はヒツジンの群れを見つけると、軍の兵士達と連携して予定ポイントを外れないに慎重に囲い込んで行く。
そして、ラヴェンヌ村の北、ラヴェンヌ廃坑と追いつめて行き、ついに露天掘りをしていた広場に閉じ込めて封鎖することに成功した。
周りは高い崖になって居て、ヒツジン達がいくら高くジャンプしても逃げられなかった。
エステル達は爆弾で広場と廃坑の出入り口を完全に塞ぎ、廃坑から脱出する。
広場に押し込められたヒツジンの群れは逃げ出そうと必死に暴れて飛び回る。
そこに警備飛行艇からの砲撃が集中した!
廃坑から遠く離れたエステル達には絶命する魔獣の断末魔は聞こえなかったが、気分の良いものではなかった。
「人間側の都合でさ、魔獣達を全滅させちゃうのって何かおかしくない?」
「確かに、自然に逆らっているような感じもするけど……」
エステルが疑問の声を上げると、ヨシュアもそうつぶやいた。
しかし、アガットは腕組みをして二人の意見を否定するように吐き捨てた。
「俺達が生きて行くためには仕方ねえっつーの」
エステル達がラヴェンヌ村に帰ると、商人のハルトはすっかり気落ちして宿屋で飲んだくれていた。
「ああ……私達はこれからどこから果物を仕入れればいいんだ……」
「この近くのハーメル村でも果樹園が出来たって話ですけど、どうですか?」
ヨシュアがそう言うと、ハルトはパッと目を輝かせた。
「おお、それは本当ですか?」
「ハーメル村は僕の住んでいた村なんです、ご案内しましょうか?」
ヨシュアの提案にハルトは了承し、今度はハルトをハーメル村まで護衛する依頼になった。
カリンから果樹園が出来たのは良いが、商人がほとんど来なくて困っていると言う相談の手紙を受け取っていたので、ヨシュアにとっても渡りに船の話だった。
「近いとは言っても外国だからな。ハーケン門を回っていかなきゃならねえ」
「もう、まったくもって不便ね」
アガットの言葉にエステルはふくれっ面でそうつぶやいた。
今は王国と帝国は友好関係を保っているため、ハーケン門の審査もそれほど時間は掛からない。
とりあえずラヴェンヌ村で一泊し、翌日にハーメル村に向かう事になった。
「明日は久しぶりにカリンさん達に会えるのね。ヨシュアも嬉しい?」
「もちろん、嬉しいよ」
エステルに聞かれたヨシュアは笑顔で答えた。
「去年も会えたのに、そんなに喜んじゃって、このシスコンが~」
そう言ってエステルはヨシュアの頭をグリグリとする。
「エステルだって、マザコンでファザコンじゃないか」
ヨシュアも負けじとエステルの頬を引っ張る。
「お前ら明日は早えんだ、じゃれ合ってないで寝やがれ!」
アガットの怒鳴り声が飛び、エステルとヨシュアは眠りに就いた。
エステルはハーメル村を訪れるのは初めてだったため、ヨシュアの故郷が見れると期待に胸をときめかせていた。
<エレボニア帝国領 ハーメル村>
「ヨシュア! ……エステルも!」
ハーメル村に姿を現したエステル達にカリンとレオンハルトやハーメル村の人々が集まって来た。
ハルトは村長と果物の買い付け契約を結び、村は歓迎ムード一色に包まれた。
さらにハルトはハーメル村産の果物が広まるように他の商人達にも宣伝してくれると言う。
「よかったね、姉さん。村の人達の努力が実って」
「ええ、これで他の街へ出稼ぎに行っていた父さんと母さんも戻って来れると思うわ」
そんな嬉しそうに微笑むヨシュアとカリンを見て、エステルは少し不安そうに声を掛ける。
「その……やっぱりヨシュアも、一緒に暮らせるならカリンさん達と暮らしたいわよね?」
エステルが尋ねると、ヨシュアは首を振って否定した。
「だってまだ……遊撃士になるための修行が終わって居ないじゃないか。途中で投げ出すわけにはいかないよ」
その返事を聞いたエステルの顔がパッと明るくなる。
「そうだよね、あー良かった、ヨシュアとまだ一緒に居られて」
その喜びの言葉は家族としてなのか、遊撃士のパートナーとしてなのか、果たして恋人としての事なのか、ヨシュアにはわからなかったし、聞くこともできなかった。
「それで、アガットさんと兄さんは?」
「それが、街の外れの森の中で剣術の腕比べをするそうよ。男の人ってそう言うのが好きなのかしら」
ヨシュアの質問にカリンはため息をついてそう答えた。
「あはは、カリンさん。そんなの強くなろうって思う人なら、男でも女でも関係無いよ、ねえ、ヨシュア?」
「それはそうだと思うけど。でも、エステルに女の子の意見を聞くだけ無駄かも」
さらっと涼しい顔でそう言ったヨシュアをエステルは怒った顔で追い掛け回す。
「あんですって~!」
「だってスニーカーにスパッツをはいているじゃないか」
逃げながらヨシュアはエステルにそう言葉を投げ掛けた。
「大事なのは服装じゃ無くて中身なのよ!」
「虫採りの趣味は女の子とは言えないと思うけど」
ヨシュアはエステルと追いかけっこをしながら言い争いをしている。
そんなヨシュアの姿をカリンは嬉しそうに見つめていた。