エステル、僕の村にお嫁さんに来てくれないか? ~ハーメル村次期村長物語~   作:朝陽晴空

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本当はレオンハルトと書くべきところですが、作中ではレーヴェと書かせて頂きます。


第十五話 可愛いは正義じゃよ!

<エレボニア帝国領 ハーメル村>

 

村の郊外の森の中に響き渡る剣戟の音。

それは《重剣》のアガットと、後に《剣帝》と呼ばれるレーヴェが互いに斬り結ぶ戦いの音だった。

 

「てやああああ!」

「くうううう!」

 

アガットが打ちおろした剣をレーヴェが受け止め、つばぜり合いが起きる。

 

「やはり、力だけはあるな」

「何だと!」

 

レーヴェは余裕の表情でそう言うと、アガットは鋭い目つきでにらみつける。

 

「しかし、スピードは俺の方が上のようだな」

 

レーヴェはそう言うと、アガットから離れて間合いを取る。

目標を正面に捕らえたアガットは、剣から炎を噴き出す技、『ドラグナー・エッジ』を放つがあっさりとレーヴェに横に飛び退かれて交わされてしまう。

 

「遅い」

「なめんな、これでも食らえええ!」

 

大きく叫んだアガットはレーヴェの側まで駆け寄り、無茶苦茶に剣を振り回す。

攻撃がレーヴェの剣をかすめたのは最初の一発だけで、後の攻撃は全て空振りに終わってしまった。

 

「ぜえぜえ、俺のダイナストゲイルが交わされるとは……」

 

アガットは肩で大きく息をしている。

 

「お前の動きは直線的すぎる。俺に攻撃を当てたければ、もう少し考えて動くべきだな」

「くっ」

 

レーヴェは左右に揺さぶりを掛けながらアガットに向かって斬りかかった!

アガットは何とかその攻撃を受け止めるので精一杯だった。

 

「うおおお!」

 

レーヴェの剣技に翻弄されてアガットは尻餅をついたが、ゆっくりと起き上がった。

 

「……体力はあるようだな」

「へっ、まだまだ俺はやれるぜ!」

 

アガットはそう言ってレーヴェに向かって挑発するような仕草をした。

 

「いいだろう、この一太刀で勝負をつけてやる」

 

レーヴェはそう言ってアガットに向かって突っ込んでくる。

 

「よし、今だ!」

 

アガットはレーヴェの剣を思いっきり跳ね飛ばそうとした。

しかし、レーヴェはアガットに接近する直前で進路を変えて後ろへと回りこんだ。

 

「懐に飛び込ませる策などお見通しだ」

 

アガットの後頭部に剣が突き付けられる。

勝負が決まったのだった。

 

「俺の剣がまるで通じないとは、なんてやつだ……」

 

アガットはそう言って膝をついて落ち込んでいた。

二人の対決を見守っていたヨシュアが声を掛ける。

 

「レーヴェ兄さん、しばらく会わないうちに剣の構えとか変わったんだね」

「ああ、数年前にクライン山地で師となる人物に会ってな。いろいろ指導してもらったんだ」

 

レーヴェはそう答えると、エステルの方を見つめて微笑んだ。

 

「そしてその人物は、カシウスさんに剣技を教えた人物でもあるらしい」

「ええっ、父さんの剣の師匠なの!?」

「あのおっさんのか!?」

 

レーヴェの話を聞いたエステルとアガットは驚くの声を上げた。

 

「なあ、頼む……俺をその剣術の師匠のところに案内してくれ……!」

「会っても、お前が剣術を指南させてもらうとは到底思えんな」

「何だと、俺が未熟者だと言いたいのか!?」

 

アガットが怒った顔でレーヴェにそう言うと、レーヴェは少し困ったような表情になった。

 

「そう言うわけではないんだが……ちょっと変わった人だからな」

 

アガットに対してレーヴェは言葉を濁してそう答えた。

 

 

<エレボニア帝国領 ハーメル村郊外 クライン山地>

 

ハルトはまだしばらくハーメル村に滞在するという事で、レーヴェ、アガット、ヨシュア、エステルの四人はハルトの好意に甘えてその剣の達人の家を訪ねる事になった。

緊張しているのか、アガットだけはずっと無口のまま歩いている。

 

「そんないかつい顔をしていたらますます嫌われるだけだ。もう少し肩の力を抜いた方がいい」

「そ、そうか……」

 

アガットはレーヴェにやっとの事でそう答えた。

狭い山道から開けた場所に出ると、そこには竹林に囲まれた庭が広がっていた。

 

「ここら辺では見かけない植物だね」

 

ヨシュアは竹を見て不思議そうな顔でつぶやいた。

 

「なんでも、カルバード共和国の方から取り寄せて気候の似たこの場所に根付かせたらしい」

「へぇ~」

 

レーヴェの話を聞いたエステルは感心したようにつぶやいた。

庭の中に差し掛かったエステル達の耳に、少女が気合を入れて剣を振っている声が聞こえてくる。

 

「剣技・八葉滅殺!」

 

少女はそう叫んで飛び上がると、目の前にあったわらで作られた標的を切り刻んで着地した。

 

「どう、おじいちゃん?」

「今のはかなりよかったぞ」

 

少女の剣技を見ていた白髪の着物を着た老人は、かわいい黄色いリボンを身に付けた少女の頭を優しく撫でる。

アガット達はそんな二人の姿を見て、あんぐりと口を開けていた。

 

「もしかして、あれがそうか?」

「ああ、剣の理を極めたエルフィード翁だ」

「あの、孫を抱きしめて鼻の下を伸ばしている爺さんがか!?」

 

アガットがそう叫ぶと、少女と老人の二人はアガット達に気がついたようだった。

 

「む、そこに居るのは誰だ?」

「あ、アガット先輩~! レーヴェさんも!」

 

少女はアガットとレーヴェの姿を見ると、嬉しそうな笑顔で手を振った。

 

「お前、アネラスじゃないか。遊撃士協会を休んでいると思ったらこんな所で何していやがる」

「おじいちゃんに剣術の稽古をつけてもらっていたんだ」

 

アネラスは嬉しそうに笑顔を浮かべて答えると、アガットの後ろに居るエステルとヨシュアに気が付いて声を掛ける。

 

「あっ、もしかしてキミ達が新しくボース支部に来たって言う準遊撃士さん?」

「ヨシュア・アストレイです」

「エステル・ブライトです」

「私は、アネラス・エルフィードだよっ」

 

そう言うとアネラスはいきなりヨシュアを抱きしめた。

 

「うわっ、何をするんですか!」

「ごめんごめん、あまりにヨシュア君が可愛かったから」

「可愛いって、お前なあ……」

 

アガットはあきれた顔でため息をついた。

 

「可愛いは大事だもん、ねえお祖父ちゃん?」

「うむ、可愛い事は正義じゃよ!」

 

孫娘のアネラスの言葉にエルフィード翁はしっかりとうなずいた。

アガットがエルフィード翁に来訪の目的を告げると、エルフィード翁は首を横に振った。

 

「どうして教えてくれねえんだよ!」

「街に住んでいると、剣術を教えてくれと言う者が後を絶たなくてな。息子夫婦の家を出てここで暮らし始めたのじゃ」

 

アガットはそう言ったエルフィード翁を不機嫌そうににらみつける。

 

「へっ、そんな事を言って実は剣の腕はたいしたことないんじゃないか?」

「抜けば玉散る氷の刃」

 

エルフィード翁はそう言うと、素早い動きで刀を取り出した。

そしてアガットと普通に歩いているかのように横を通り過ぎる。

 

「うおっ、ベルトが!?」

 

アガットは自分の腰に巻いていた二本のベルトのうち一本が斬られている事に驚いていた。

 

「凄い、ただ歩いているようにしか見えなかった!」

「太刀筋が全く見えねえ……」

 

その後、アガットはエルフィード翁に熱く頼み込み、少しだけ剣術を教えてもらう事になった。

手始めにアガットの実力を見るためにアネラスとの組み手を行う。

 

「アネラスとは、ずいぶん手合わせしていねえな」

「きょ、今日は負けませんからね!」

 

アガットと向き合ったアネラスは誰が見ても分かるようにガチガチに緊張していた。

 

「うおおおお!」

「ひ、ひえええっ!」

 

アガットが雄叫びをあげて突進し、アネラスは防戦一方と言う展開になった。

アネラスがアガットの攻撃を避け、反撃に移るチャンスもあるものの、自信が無いのか手を出さない。

 

「てやああああ!」

「きゃ、きゃああああ!」

 

そして、逃げ回るアネラスの体力が消耗した頃にアガットの剣がアネラスの首筋に突き付けられる。

 

「参りましたぁ……」

「まったく、情けねえな」

 

アガットは物足りなさそうに呟いた。

 

「赤毛のお前は、攻撃も回避も大振りすぎる。だから紙一重で交わさねばならない攻撃が避けられないんじゃ」

「要するに無駄に力が入りすぎていると言う事だな」

 

エルフィード翁とレーヴェにそう言われて、アガットは何かに気がついたようだ。

自分なりにフォームのチェックをしている。

 

「あの、アネラスさんのお爺さん。あたし達にも剣術を教えて欲しいんですけど……」

 

エステルはおずおずとエルフィード翁に声を掛けた。

 

「お前さん達はもうちょっと基本を大事にして実力をつけてから……ふむ」

「ど、どうかしましたか」

 

ヨシュアはエルフィード翁が自分を見つめる目つきに悪寒のようなものを感じていた。

 

「ワシの部屋にある黒髪のカツラを持ってくるのじゃ!」

「うん、わかったよ、お祖父ちゃん!」

 

そう言ってアネラスはエルフィード翁の暮らす家へと入って行く。

そしてしばらくすると、アネラスはカツラとヘアバンドを持って姿を現した。

 

「ヘアバンドがあった方が、可愛いと思うよ!」

「おおっ、さすが我が孫娘、よく分かっているようじゃな」

「面白そうね」

 

ヨシュアはエルフィード翁に長い黒髪のカツラとヘアバンドをつける事を強要されてしまった。

エステルも乗り気の様だった。

 

「僕は……そんなカツラなんてつけたくないよ」

「これも修行のためだよ、ヨシュア君!」

「ヨシュア……覚悟を決めなさい!」

「うわああああ!」

 

エステルとアネラスに抑えつけられ、ヨシュアは黒髪の美少女に変身した。

 

「うわあ、かわいい! ドレスを着せたらもっと可愛くなるよ」

「それは勘弁してください……」

 

ヨシュアはウンザリした顔でそう言った。

 

「で、ヨシュアにカツラを被せた事に何の意味があるの?」

 

エステルは不思議そうな顔をしてエルフィード翁に尋ねた。

 

「うむ、髪が長ければ空気の細かい動きを感じ取れるようになる。それで空気の流れを乱さないような動きをすれば無駄な動きも減ると言うわけじゃ」

 

エルフィード翁に言われて、エステルもツインテールを外して髪を下ろした。

そしてヨシュアとエステルは言われるまま組み手を行った。

言われた通り、髪があまり舞い上がらないように動きを小さくしてみる。

すると、2人ともいつもより素早く攻撃や防御に移れるような感覚を持った。

 

「ありがとうございました」

 

ヨシュアにお礼を言われてエルフィード翁はまんざらでもない様子だった。

そして、エステルとヨシュアを呼び寄せるとエルフィード翁はこっそりと耳打ちする。

 

「ワシの孫娘の事をよろしく頼む。あの赤毛の小僧との戦いを見て分かるように、かなりのあがり症での、本番でなかなか実力を出せないでいるんじゃ」

「わかりました」

 

エルフィード翁に頼まれたヨシュアはそう答えるのだった。

 

 

<ボース市街 遊撃士ギルド>

 

一泊二日のハーメル村までの護衛の旅を終えたエステル達は、ボース支部の遊撃士ギルドまで戻ってきた。

レーヴェとはハーメル村で別れて、エステル、ヨシュア、アネラス、アガットの四人で戻ってきたのだった。

 

「すまねえな、帰りに寄り道しちまって」

「エルフィード翁の家に行ってきたのか、まあお前さんなら会ってみたいと言う気持ちは分かる」

 

ルグラン老人は軽く笑いながらそう言った。

アネラスは突然、エステルとヨシュアの方を向いて話し始める。

 

「そうだ、エステルちゃんとヨシュア君は同じ支部の仲間だけど、それ以上の関係になりたいなと思ってる」

「それって、友達になりたいって事? 別にあたし達は構わないけど、ねえヨシュア?」

 

笑顔でエステルがヨシュアに問いかけると、ヨシュアも穏やかに微笑んで頷いた。

 

「よかった、私とは2歳ほど年が違うけど、いつか友達以上の関係になれるといいね!」

「……どういう関係だよ、オイ」

 

アネラスの発言にアガットがツッコミを入れると、エステルとヨシュアはキョトンとした顔で答える。

 

「ライバル関係ってことだよね?」

「そうだと思うよ」

「つっこんだ俺が負けなのか!?」

 

そして、アネラスとエステルとヨシュアとアガットの四人は、夕食も兼ねてボースの街の居酒屋で話をすることになった。

アネラスはボース支部の準遊撃士だが、心身を鍛え直すためにしばらく祖父の元で剣術の修行をしていたと言う。

ボース支部の正遊撃士グラッツの指導を受けていて、準遊撃士になった期間はエステル達と同じぐらいらしい。

 

「私もボース支部の推薦状をもらえるように頑張るからね!」

「あたし達も負けないわよ!」

 

こうして、アネラスとエステルとヨシュアは良きライバル関係となった。

 

「エステルちゃん、今度のお休みに一緒にぬいぐるみや可愛いアクセサリーでも見に行かない?」

「うーん、綺麗なアクセサリーはいいけど、戦っているうちに壊れちゃうし。それよりもボース地方の珍しい昆虫とか探しに行きたいな」

 

しかし、アネラスとエステルの休暇の過ごし方は合わないようだ。

 

「それって、女の子のすることじゃないよ、ねえヨシュア君」

「僕もそう思うよ……」

 

ヨシュアはそう言って深いため息を付くのだった。

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