エステル、僕の村にお嫁さんに来てくれないか? ~ハーメル村次期村長物語~ 作:朝陽晴空
<ロレント市 市街>
エステルとヨシュアがカシウスの乗った飛行船を見送って空港を出ると、街はまだ爽やかな朝の空気を残していた。
「俺は、カシウス・ブライトだぞ! 覚悟しろ、この悪人め!」
そう言って街の少年、ルックがパットを追いかける声が二人の耳に届く。
「まったく、何で父さんはあんなに人気があるんだか」
エステルのつぶやきに、ヨシュアは苦笑し、二人は遊撃士協会への道を歩いて行った。
「おはようエステル、ヨシュア」
二人が遊撃士協会の建物に入ると、いつものように穏やかな感じでアイナがカウンターで出迎えた。
「おはようアイナさん、シェラ姉は?」
「もう仕事に向かったわ」
一足先に遊撃士協会へと向かったはずのシェラザードの姿が見当たらない事を不思議に思ったエステルが訪ねると、アイナはそう答えた。
「さすが手際が良いですね」
「長い間一緒に仕事をしていれば、たいていの事は分かるものなのよ」
感心した様子のヨシュアに、アイナはそう告げた。
「ねえ、あたし達にも早く仕事を教えてよ!」
エステルはこれから始まる遊撃士としての仕事に興奮を抑えられないようだった。
「わかったわ、あなた達にお願いできる仕事はとりあえず三つあるのだけど、まず最初は、パーゼル農園に行って欲しいのよ」
パーゼル農園とはロレントの街の郊外にある、エステルの幼馴染のティオの両親がやっている酪農と菜園を営む農家だ。
「あなた達には農園を荒らす魔獣を退治してもらいたいの」
「ティオ達は大丈夫なの!?」
「ええ、荒らされたのは畑だけで今のところ怪我人は出ていないみたいね」
「よかった」
アイナの言葉にエステルは少し安心して胸をなで下ろした。
「でも、これから被害が拡大する恐れはありますね」
「だから協会の方に相談があったのよ」
ヨシュアの言葉にアイナは軽くうなずいた。
「うん、わかった! この仕事、引き受けさせてもらうわ!」
エステルは拳を突き上げ力強く宣言した。
「では、ギルドの委任状を渡すわね。これは、あなた達に正式に仕事を依頼したという証明書」
アイナはそう言ってエステルに一枚の遊撃士協会のスタンプが押された紙を渡した。
「ティオならあたし達の事知ってると思うけど……まあ一応、受け取って置いた方が良いのかな」
「遊撃士の名に恥じないように頑張ります」
二人の返事に満足したアイナはさらに話を進める。
「それで依頼の話なんだけど、昼間は農作業や出荷で忙しいから、夕方に話を聞きに来て欲しいそうよ」
「大分時間が空いてしまうね」
「ティオ達の仕事を手伝おうか?」
アイナの話を聞いたヨシュアとエステルは困った顔を見合わせて相談した。
「それなら掲示板の仕事をこなしてみない? そこには遊撃士協会からの直接依頼じゃない依頼が書かれているの」
そうアイナに提案されて二人が掲示板を見ると、用件が書かれた紙が数枚貼られていた。
「そこにある依頼は、遊撃士協会に所属している遊撃士なら誰でも引き受けて良い、特に指名されていない依頼なんだけど……他の遊撃士の負担を軽減するためにも、余裕があったら引き受けてあげて。もちろんこれも正式な依頼だから遊撃士協会から報酬がでるから、よろしくね」
「了解」
「わかりました」
説明をアイナから受けた二人は首を縦に振った。
「僕達ができそうな依頼は、まずこれかな?」
ヨシュアがそう言って指差したのは、光る石の捜索と書かれた依頼だった。
「探し物なら他の依頼のついでに出来るかもしれないし、依頼人から話を聞いてみようか」
「OK!」
アイナから依頼人である少年、カレルの特徴を聞いた二人は、さっそく街の中を捜したのだった……。
「困ったな、どこいっちゃったんだろう……」
泣きそうな顔で地面を探している少年を見て、二人はこの少年がカレルだと確信して声を掛ける。
「キミがカレル君?」
「うん、そうだけど」
少年はポカンとしてエステルに答えた。
「僕達は遊撃士だよ」
「石を見つけたのか!?」
ヨシュアが胸の紋章を指差すと、カレルは嬉しそうに詰め寄った。
「あたし達、依頼を見て話を聞きに来たのよ」
「なんだ、そっか……」
エステルの返事を聞いて、カレルはガッカリとした様子だった。
「あたし達が絶対見つけ出すから、詳しい話を聞かせなさい」
「エステル、何でそんなに偉そうなんだよ」
腕組みをするエステルを見て、ヨシュアは溜息をついた。
「オレ、昨日雑貨屋でお袋の商売の手伝いをしていたんだよ。それで、気が付いたらポケットに入れてあった光る石が無くなっていたんだ」
「手掛かりはそれだけ? 他には何か無いの?」
エステルに聞かれたカレルは首を左右にブンブンと振る。
「やっぱり無理だよな」
落ち込んでしまったカレルを励ますようにエステルは大見得を切る。
「大丈夫、あたし達は遊撃士なんだから、言わば探し物のプロよ」
自信たっぷりなエステルに、カレルは期待に目を輝かせた。
「で、どうしたらいいかな?」
エステルが尋ねるとヨシュアとカレルは思いっきりずっこける。
「エ、エステル……」
「姉ちゃん……」
気を取り直したヨシュアはエステルに提案をする。
「そうだね、もう一度雑貨屋を調べてみよう」
「兄ちゃんだけが頼りだよ」
カレルはヨシュアに深々と頭を下げるのだった……。
<ロレント市 リノン総合商店>
「いらっしゃい、エステル、ヨシュア」
カウンターに居た店主のリノンは店に入ってきたエステルとヨシュアに声をかけた。
「今日は捜し物があって来たのよ」
「ストレガー社の新モデルなら入荷は来週だって言わなかったかな?」
「スニーカーを買い来たんじゃないのよ」
リノンにエステルは苦笑いを浮かべて答えた。
「昨日、この店に親子の二人連れが来ませんでした?」
ヨシュアに尋ねられて、リノンは考え込む。
「そういえば、カルバード共和国から木芸品を売りに来た人がいたね。うちは生活雑貨を売る店だからって断ったんだけど」
「その子がこの店で大事なものを落としたって言うから捜しに来たのよ」
「キラキラ光る石らしいんですが……リノンさんはご存じありませんか?」
「掃除はしたけど、そんなものは店の中では見かけなかったな」
リノンは気まずそうに首を横に振ってヨシュアの質問に答えた。
「そうですか、ありがとうございました。じゃあ他を探してみようか、エステル」
ヨシュアがそう言って声を掛けると、エステルがお菓子のコーナーに釘付けになっている事に気が付いた。
エステルは財布を鞄から取り出している。
「エステル、仕事中に買い食いはダメだよ」
ヨシュアはエステルの腕を引いて強引に店を出た。
「手掛かりも無くなったし、どこを探そうか……」
「あっ!」
店を出たヨシュアが空を仰ぎながらつぶやくと、エステルが叫び声を上げた。
声に驚いたヨシュアがエステルの方を向くと、エステルは地面にはいつくばって排水溝を覗き込んでいる。
「お金を排水溝に落としちゃったのよ」
「財布の口をきちんと縛って置かないから、落とすんだよ」
ヨシュアはあきれた顔でため息をついた。
「こうなったら、地下水路に行くかないわ!」
「小銭なんて、見つけられないよ」
気合を入れてガッツポーズをとるエステルに、ヨシュアはウンザリとして言い放った。
「大丈夫、あんなにキラキラ光ってるし」
「そんなバカな!?」
エステルの言葉に驚いたヨシュアが排水溝を覗き込むと、陽光を受けて輝く物体が確かに地下水路に落ちているのが見えた。
「もしかして、あれって依頼の光る石じゃないのかな。貨屋で落としたって話だし、調べてみる価値はあると思う」
「じゃあ早く行こう!」
今度はエステルがヨシュアをグイグイと引っ張って地下水路へと向かうのだった……。
<ロレント市 地下水路>
エステルとヨシュアは地下水路に入るのはこれで三回目。
内部の探索や魔獣との戦闘も落ち着いて慣れたものだった。
そして、二人はあっさりと地下水路の奥でキラキラと光る石を見つける。
「これは、何かのクォーツみたいだね」
「でも、あたし達の持っているものに比べて光りが弱いわね」
「きっと劣化しまっているんだよ。さあ、これを持っていこう」
ヨシュアはそう言って光る石を水路の底から拾い上げた。
「あたしの落としたお金はどこ?」
そう言いながらエステルは辺りを見回す仕草をしていた。
「多分、水に流されてしまっただろうね」
「そ、そんな!」
頭を抱えたエステルの絶叫が地下水路に響くのだった……。
街に戻った二人が見つけた石をカレルに渡すと、カレルは飛び跳ねて喜ぶ。
「ああ、これだよ。ツァイスの街でオジさんから貰った宝物なんだ」
「よかったわね」
カレルの笑顔を見て、エステルも胸をなで下ろした。
「なるほど、ツァイスの街だからクォーツなんだ」
「この石、クォーツって言うのか」
ヨシュアのつぶやきを聞いて、カレルは感心した表情で手に持った光る石を見つめた。
「残念ながら、劣化が激しくて使う事はできないけどね」
「それでも、オレにとって宝物だって事は変わらないぜ」
そう言ってカレルは誇らしげにクォーツを握り締めた。
「そうだ、宝物を取り戻してくれた兄ちゃん達にコレをやるよ」
カレルは自分の弁当箱から串に刺さったミートボールを二人に差し出した。
「ありがとう」
ヨシュアとエステルは内心冷や汗をかきながらも笑顔を作って受け取ったのだった……。
<ロレント市郊外 パーゼル農園>
その後いくつか小さな依頼をこなし、エステルとヨシュアは予定通りパーゼル農園へと到着した。
「結構歩いたわね」
エステルは農園に着くと思いっきり深呼吸をした。
パーゼル農園はティオの両親と、ティオ、ティオの妹チェルと弟ウィルの五人家族が運営しているロレント郊外に存在する農家の一つだ。
トマト畑、ナス畑、キャベツ畑、ビニールハウス、そして牛の居る厩舎まである兼業農家。
ブランド品としてリベール国内や近隣諸国まで知れ渡っている。
「まったくのどかで、魔獣が暴れているなんて信じられないんだけど」
「いや、あそこを見てよ」
ヨシュアの指差す方には、作物が食い散らかり荒らされた畑があった。
「ひどい事するわね」
「魔獣達の規模は侮れないな」
二人は深刻な顔をしてつぶやいた。
「あ、エステル姉ちゃんとヨシュア兄ちゃんだ。遊びに来てくれたの?」
農園にやって来た二人に気が付いたウィルにそう聞かれたヨシュアは申し訳なさそうに首を振る。
「ごめん、今日は遊撃士の仕事できたんだ」
「えーっ、残念だな」
「後で時間があったら遊んであげるよ」
「わーい!」
ヨシュアの言葉を聞いたウィルは嬉しそうに歓声を上げた。
話している間に牛舎の方からティオがやって来て、エステルとヨシュアに気が付き声を掛ける。
「聞いたわよ、二人とも遊撃士になったんだって? おめでとう」
「まだ見習いの準遊撃士だけどね」
「それで、僕達は今日は父さんの代わりに来たんだけど……」
ヨシュアが事情を話すと、ティオは深刻な顔でうなずく。
「ここ数日、ずっとだから私もすっかり寝不足よ」
「という事は、その魔獣は夜にやって来るんだね?」
「そう、詳しい話はお父さん達から聞いて。そろそろ戻ってくると思うけど……」
ティオの言葉に答えるようなタイミングで、ティオの母親のハンナと父親のフランツが農園の入口に姿を現す。
「おや、エステルにヨシュアじゃないか」
「レナさんのお使いか?」
「今日は、遊撃士協会の仕事で来ました」
ヨシュアはフランツに委任状を見せて、父親のカシウスの仕事を代わりに引き受けた事を話した。
「……なるほど、しかし二人だけで退治なんて危険すぎやしないかねぇ?」
「そうだな、ケガなんかさせたら申し訳ないし……」
ハンナとフランツは渋い表情でエステルとヨシュアを見つめた。
「遊撃士協会の承認も得ています。どうか任せていただけませんか?」
「だがな……」
ヨシュアが訴えかけても、フランツはためらっている様子だった。
「おじさん、あたし達だって魔獣に負けないように鍛えてるのよ!」
エステルはそう言って棒術を披露した。
「ねえ、お父さん、私からもお願いするわ」
「分かった。それなら、お任せしようか」
ティオにも頼まれたフランツはゆっくりとうなずいた。
「やった!」
フランツの言葉にエステルは笑顔になった。
「それで、どんな魔獣が出るんですか?」
「暗くて良く見えなかったんだけど、ウサギみたいな猫みたいな魔獣でね。夜に数匹のグループで現れては畑の野菜を食い荒らして行くんだ」
ヨシュアの質問にフランツはそう答えた。
「私達に襲いかかってきた事は無いけど、遊撃士に退治してもらうしかなさそうだって事になったのよ」
「大丈夫、あたし達がとっちめてやるから!」
ため息をつくハンナを、エステルは励ますように言った。
「じゃあ、家の中で夜まで待っていると良い」
「すみません、お邪魔します」
ヨシュアはフランツに礼儀正しくお辞儀をして家へ入った。
「わーい、お兄ちゃん一緒に遊ぼう!」
ウィルも嬉しそうにヨシュアの後をついて行った。
そんなヨシュアの姿を見送って、エステルは軽くため息をつく。
「まったく、ヨシュアってば小さい子に人気あるのよね」
「エステルも街の子に好かれてるじゃない、パット君とか」
「あいつはあたしを舐めてるのよ」
エステルはウンザリとした顔でティオに答えるのだった……。
ティオの家族達と楽しい夕食を共にした後、エステルはティオの部屋に呼び出される。
「ティオ、二人だけで話したいって何の話?」
「ヨシュア君、好きな子が居るのかな」
「別に誰も居ないと思うけど」
ティオに聞かれたエステルはキョトンとした顔で答えた。
「だってヨシュア君、告白して来た子を全部断ってるらしいわよ」
「あんですって!? そんなの聞いてないわよ」
激高したエステルをなだめながらティオは話を続ける。
「まあまあ、女の子に相談するような話じゃないだろうし。それに、エステルには言えるはずないじゃない」
「えっ、何で?」
「鈍感もここまで行くと救いようが無いわね……」
エステルの反応にティオは深いため息を吐き出した。
「エステル、そろそろ見回りの時間だよ」
二人が話していると、ヨシュアのノックの音が鳴り響いた。
「わかったわ!」
エステルは返事をすると、急いで部屋を出て行った。
ティオはエステルを見送ると、再び大きなため息をつくのだった……。
「そろそろ例の魔獣がやってくる時間だ、気を引き締めて行こう」
外に出たエステルは返事をせずに疑うような目でヨシュアの事をじろじろと見ている。
「ねえヨシュア、あたしに何か隠し事していないでしょうね?」
「えっ、何を?」
エステルに突然尋ねられてヨシュアは不思議そうな顔をした。
「ヨシュアはあたしの家族だよね? そりゃ本当の血がつながった家族じゃないけど、家族って言ってもいいよね?」
「エステル?」
「だから、何でもお姉さんに相談しなさい! 恋の悩みとか!」
「はあっ!?」
エステルはヨシュアを励ますように肩を叩いたが、ヨシュアは訳が分からず頭の中で疑問符(ハテナマーク)がグルグル回っていた。
夜の農園は草原や森から聞こえる虫の声とフクロウの声以外は静かなものだった。
「こんなに静かなら、魔獣がやって来たらすぐにわかるね」
「うん、月のおかげで明るいようだし、見つけるには絶好の機会だ」
二人は警戒されないように畑から少し離れた物陰から見張る事にした。
今日やって来なければ、また明日からも張り込みを続けなければならない。
エステルは早くやって来いと念じ続けた。
するとエステルの祈りが通じたのか、しばらくして複数の足音が静かな農園に響き渡った。
足音は畑の方から聞こえて来る。
これは標的の畑荒らし達だと確信した二人は武器を握り締め畑へと駆けつけた。
しかし、二人の姿を目撃した魔獣達は猫のような鳴き声を上げて森の方へと逃げ去ってしまった。
「こらまて~!」
「森の中に逃げ込まれたら、探すのは難しいよ」
武器を振り上げ農園の外へと追いかけようとしたエステルを、ヨシュアは肩をつかんで引き留めた。
「どうしよう、もう諦めるしかないのかな」
「いや、また戻ってくる可能性もあるよ。エステルみたいに食い意地が張ってればね」
「あたしみたいは余計よ!」
エステルはヨシュアの一言に顔を膨れさせながらも、おとなしく魔獣が再び姿を現すのを待つ事にした。
夜もさらに更けた頃、二人の耳にまた複数の足音が届く。
「よし、今度こそ捕まえるわよ!」
「待ってエステル」
ヨシュアはエステルを止めて、作戦を使って魔獣達を捕まえようと提案したのだった。
「こらっ、性懲りも無くまた来たわね!」
エステルが魔獣達の正面に姿を現すと、魔獣達は背を向けて逃げ出した。
「おっと、こっちは行き止まりだよ」
森への最短距離にはヨシュアが立ち塞がっていた。
回り込まれた魔獣は農園の別の道を迂回しようとしたが、その行く手に並べられていた木の枝の山が燃え上がった!
エステルがファイアボルトのアーツで火をつけたのだ。
火の勢いは大したものではないが、野生の動物は火を極度に恐れる習性と同じように、魔獣達のグループは崩壊し、パニックになっている。
「よし、今だ!」
ヨシュアは魔獣達ではなく、足元の地面を狙ってアクアブリードのアーツを放った。
水分を多量に含んだ畑の土はドロドロになり、魔獣達の足に絡みつく。
「ふっふっふ、覚悟しなさい!」
足が滑って動きのとれない魔獣達をエステルが棒で殴りつけた。
ヨシュアも気絶効果のあるカオスブランドのアーツで応戦する。
気絶して大の字になって横たわる魔獣達をエステル達は縄で縛り上げた。
「魔獣達を一網打尽にして捕らえるとは驚いたよ」
報告を受けたフランツは魔獣達の姿を見て、感心した様子で話した。
「ところで、この魔獣達をどうしよう?」
「明日の朝、人目につかない森の中に運んで処分しよう」
「ええっ!?」
冷静に答えたヨシュアの言葉に、エステルとティオはショックを受けた。
「僕達は魔獣退治に来たんだよ。次に同じ被害が出たら、遊撃士協会の信用にかかわるじゃないか」
「そりゃ、そうだけど」
ヨシュアにたしなめられて困った顔をしているエステルに、ティオが助け船を出す。
「ねえヨシュア君、人に危害を加えなかったんだし、見逃してあげて」
「これだけ痛い目にあったら懲りるだろうね」
「私もみだりに生物の命を奪うのは反対だ」
ハンナとフランツまでに反対されて、ヨシュアは黙り込んでしまった。
考え続けるヨシュアをエステル達は固唾を飲んで見つめた。
そして結論を出したヨシュアはゆっくりと口を開く。
「わかりました。被害に遭われたみなさんがそう言うのなら意向を尊重します」
「すまないね、せっかく来てもらったのに。これからは柵を高くして再発防止に努めるよ」
「それじゃあ決まりね」
ヨシュアとフランツのやり取りを聞いたエステルは笑顔になると、魔獣達を農園の外へと連れて行き縄を解いた。
「夜遅くまで疲れただろう、泊まって行きなさい」
「ありがとうございます」
二人はフランツの好意に甘え、パーゼル農園に一泊する事にした。
「ごめん、今日はみんなに嫌な思いをさせちゃったね」
母屋へと入る前に、ヨシュアはエステルに謝った。
「まあ、普通に考えたらヨシュアの意見も正しいと思うって」
エステルは深刻な顔をするヨシュアを励ますように明るい笑顔で答えた。
「僕って心の冷たい人間だと思うだろ。こう言う時、僕はたまらなく自分が嫌になるよ」
「ちょっと嬉しいかな」
「えっ?」
そのエステルのつぶやきに驚いたヨシュアは、目を丸くしてエステルを見つめた。
「ヨシュアってさ、いつも一人で溜めこんじゃうじゃない。それって、あたしにとっては寂しい事よ」
「エステル……」
月明かりに照らされた優しい笑顔を向けるエステルを、ヨシュアは眩しそうに見つめていた。
「あたしの前ではもっと自分をさらけだしてもいいのよ。あたしはヨシュアの事、わかっているんだから無理して強がらなくてもいいのよ」
「ありがとう」
エステルの言葉で気分が軽くなったヨシュアは、安らかな眠りに就く事が出来たのだった……。
「ティオ、おはよう!」
「おはようエステル、ヨシュア君もよく眠れた?」
「うん、おかげさまで」
朝食の用意をしていたティオに返事をしたヨシュアはエステルとチラッと見合わせた。
二人の様子を見たティオは昨日の夜、何かあったのかと感じた。
「エステル、ご飯を食べたらギルドに報告に行くよ」
「合点承知!」
「私もお礼に腕によりをかけた料理を作るからね!」
ティオの作る料理の匂いが食卓に充満していった。
初めての遊撃士の仕事を通じて、お互いの信頼が深まった事を感じた二人だった……。