エステル、僕の村にお嫁さんに来てくれないか? ~ハーメル村次期村長物語~   作:朝陽晴空

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とりあえず完結を目指して、小規模な加筆修正ですが前に進みたいと思います。
今回の話ですが、修正前はグズグズだったので推理の穴などを修正しました。


第八話 市長邸強盗事件(事件編)

<ロレント市 遊撃士協会>

 

次の日の朝、エステルとヨシュアの二人は昨日の仕事の報告をした。

アイナはいつもより嬉しそうな笑顔で二人を出迎える。

 

「お疲れ様、ナイアルさん達はとても感謝してたわよ」

 

取材を終えたナイアルとドロシーは今朝の定期便で、リベール通信社のあるグランセルに帰るらしい。

 

「民間人の保護が遊撃士の本分だって、身をもって分かったでしょう?」

「はい」

 

受付に居たシェラザードの言葉に、ヨシュアはしっかりとうなずいた。

 

「シェラ姉の調査の方はどうなの?」

「マルガ鉱山や翡翠の塔周辺を調べたけど、追跡は無理ね。空を飛べるんだもの」

 

エステルに尋ねられたシェラザードはため息を吐き出した。

シェラザードは空賊の調査を打ち切り、今日から通常の仕事に戻るようだ。

 

「さてと、今度は溜まった私の仕事を手伝ってもらおうかしら?」

「ひええっ、せっかく父さんの分が終わったのに!」

 

シェラザードがそう言うと、エステルは頭を抱えて悲鳴を上げた。

ヨシュアはそんなエステルをなだめるように声を掛ける。

 

「まだ僕達は指名を受ける事が無いんだから、仕方が無いよ」

「仕事をこなしているうちにあなた達も声が掛かるようになるわ」

 

アイナは優しく微笑みながら二人を励ました。

そんな 和やかに話している雰囲気をぶち壊すように、大慌てのクラウス市長が遊撃士協会に飛び込んでくる。

 

「大変じゃあ!」

「どうしたの!?」

 

エステルが市長に駆け寄って声を掛けた。

 

「ぜいぜい、はあはあ……一大事じゃ!」

 

しかし市長は息を切らせて同じ言葉を繰り返した。

 

「何があったんですか?」

 

シェラザードが身を乗り出して市長に尋ねた。

市長は大きく息を吸って、

 

「私が留守の家に強盗に入ったらしいのじゃ!」

 

と言うと、

 

「へっ!?」

 

間抜けな声を出しエステルは目を丸くして固まってしまった。

そんなエステル達を見て市長は首をかしげる。

 

「わしは何かとんでもないことを言ったか?」

「奇跡的に意味の通じる文章を最悪の形でね」

 

シェラザードは額に手を当ててため息を吐き出した。

 

「市長さん、落ち着いて下さい」

 

アイナに促されて市長は深呼吸をする。

 

「実はわしが昨夜家を留守にしている間に、強盗が入ったのだよ」

「えっ、ミレーヌおばさん達は?」

 

市長夫人とも親しいエステルは、その安否を市長に尋ねた。

 

「怪我は無い、使用人達と共に屋根裏部屋に閉じ込められただけだ」

「よ、よかったあ」

 

市長の言葉を聞いたエステルは安心して胸をなで下ろした。

 

「行政府が関わる事件なら、王国軍に連絡を入れなければなりませんね」

 

アイナはそう言って導力通信機を使い、ヴェルテ橋のアストン隊長に連絡を入れた。

 

「遊撃士協会には、国家権力への不干渉と言う規約があるから、勝手に行政府である市長邸じゃ調査できないのよ」

「なるほど」

 

シェラザードが説明すると、エステルは納得したようにつぶやいた。

 

「アストン隊長と連絡が取れたわ。二時間ほどで街の方に到着するそうよ」

「ヴェルテ橋は遠いですからね」

 

アイナの言葉を聞いたヨシュアは、ミルヒ街道を疾走するアストン達の姿を思い浮かべた。

 

「あたし達は隊長さんが来るまで待ってるの?」

「まさか、時間を無駄にするわけにはいかないわ。市長邸に行くわよ」

「えっ、でも調査は出来ないって……」

 

質問に答えたシェラザードの言葉に驚いたエステルが疑問の声を上げた。

 

「後で許可をもらえばいいのよ」

「事後承諾ですか」

 

自信たっぷりに言い放つシェラザードに、ヨシュアはため息をついた。

 

「王国軍と遊撃士協会の関係が良好なロレントだから成り立つのよ」

 

アイナは少し誇らしげに胸を張った。

 

「お互い協力関係と言う建前はあるけど、縄張り意識が強い軍人も居るわ」

「ボース地方のモルガン将軍ね」

 

シェラザードとアイナは顔を見合わせてため息をついたのだった……。

 

 

 

 

<ロレント市 市長邸>

 

シェラザードの調査に同行する事になったエステルとヨシュア。

三人が市長の書斎を訪問すると部屋中の物が散乱しており、窓ガラスは割られていた。

 

「これはひどいわね」

 

惨状を見たエステルが感想をつぶやいた。

 

「おととい、君達が苦労して持って来てくれた七耀石の結晶も盗まれてしまったよ」

 

肩を落としてなげく市長の傍らに、空っぽになった金庫があった。

市長の話によると、七耀石の結晶を保管するために、おとといの夕方、金庫に鍵を掛けたのだと言う。

 

「他の部屋も荒らされてますか?」

 

ヨシュアの質問に市長は首を横に振る。

 

「いや、屋根裏部屋が少し散らかった程度でな」

「それなら、あなた達はこの部屋を中心に捜査をお願いね」

「シェラ姉はどうするの?」

「私は一階で市長さん達の話を聞いてるから、捜査結果がまとまったら報告をお願いね」

「オッケー!」

「わかりました」

 

シェラザードにエステルは元気良く、ヨシュアは力強く返事をした。

市長とシェラザードが書斎を去った後、 エステル達は部屋の入口の方から調べ始める。

まず二人の目についたのはドアの側に置かれた空っぽになった小物入れだった。

 

「鍵が壊されているわね」

「うん、焼きただれたように引きちぎられている」

 

鍵の部分は円状の焼け焦げた跡が付いていた。

それ以上特におかしな点が見つからなかった二人は本棚に移る。

本棚に入っていた本は床に落とされ、無残な有様だった。

 

「無くなっている本とかあるのかな?」

「本を戻してみようか」

 

本は番号別に揃っており、無くなっている物は無いように思えた。

二人は本が盗まれていないと言う手がかりを手に入れ、部屋にある引き出しに取り掛かる。

引き出しの中には住民の台帳や土地の登記簿など、行政に関わる重要な書類が収められていたようだ。

 

「中の書類がめちゃくちゃね」

「整理して、無くなったものがないか確かめてみよう」

 

ヨシュアに言われたエステルは床に散らばった書類を見て、大きなため息を吐き出した。

書類は盗られていない事を確認したエステルは倒れたツボを調べたが、中身は空っぽだった。

 

「多分飾るためのツボだから、中には何も入っていないと思う」

「後で市長さんに聞いてみましょう」

「そうだね」

 

二人はお互いに顔を見合わせてうなずいた。

部屋の中の物を一通り調べ終わった二人は、金庫の前に立つ。

 

「さて、いよいよ金庫ね!」

「手掛かりが無いか注意深く調べよう」

 

二人は最初に金庫の鍵を調べたが、こじあけられた様子は無い。

金庫の鍵は傷一つなく、暗証番号を入力するボタンはきれいだった。

 

「これってもしかして……」

「うん、暗証番号を入力して鍵を開けたんだと思う」

 

エステルにヨシュアはうなずいて答えた。

 

「じゃあ、犯人は暗証番号を知っていたの?」

「これは市長に話を聞く必要があるね」

 

ヨシュアは真剣な表情でそうつぶやいた。

鍵以外にいろいろ調べたが、他に気になる点は無かった。

部屋の中を調べつくした二人はベランダも調べてみる。

 

「泥だらけね」

「手すりに新しい鉤爪の跡があるよ」

 

この手掛かりは重要だと判断した二人は手帳にメモをした。

 

「じゃあ、市長さんに聞きたい事もあるしシェラ姉の所に行こうか?」

「まだ二階を調べ終わってないよ」

 

ヨシュアは厳しい顔でエステルに注意をした。

二階の廊下や他の部屋は整然としていて、荒らされた様子は無い。

念のため二人は人質になった市長夫人とメイドのリタが押し込められた屋根裏部屋を調べてみる事にする。

 

「あれ、葉っぱが落ちてる」

 

エステルは部屋の床に落ちている数枚の葉っぱを拾い上げた。

それは二人にとって見慣れた物だ。

 

「セルベの葉っぱだね」

「森で虫取りをして帰ってくると、玄関を泥とこの葉っぱで汚して母さんに叱られたっけ」

 

ヨシュアとエステルはそれぞれの思いをつぶやいた。

二階を調べ終えた二人が階段を下りると、市長邸へと到着していたアストン隊長が声を掛ける。

 

「君達が現場の捜査をしてくれたんだって?」

「はい、出過ぎた事でしたらすみません」

「そんな事は無い、助かるよ」

 

アストンは首を横に振ってヨシュアに笑いかけた。

一階の応接間ではシェラザードが市長や夫人、使用人達に話を聞いていたが、二階からエステルとヨシュアが降りて来たのを見ると、

 

「あなた達、二階の調査は終わったの?」

 

と振り返って声を掛けた。

エステルはシェラザードに向かってVサインをして答える。

 

「うん、バッチリ!」

「それなら聞かせてもらおうかしら」

 

シェラザードは腕組みをしてエステル達に話すように促した。

エステルとヨシュアは細かい点まで調査した結果を報告する。

応接間に居た人々は静かに二人の話に耳を傾けた。

聞き終わったシェラザードは感心したようにため息をつく。

 

「なるほど、屋根裏部屋まで調べて来るなんてやるじゃない」

「もしかして、セルべの葉っぱって重要な手掛かり?」

 

シェラザードが無言でうなずいて答えると、エステルは飛び跳ねて喜んだ。

 

「それなら今度が私が聴き取りの結果を話す番ね」

 

昨日は朝から、クラウス市長はボース市に出張し、夕方までに帰る予定だった。

しかし、定期便の航路上に不審な小型飛行艇が出現するトラブルがあり、ロレント市に戻ったのは翌日の朝になってしまった。昨日、市長邸に居たのは女性であるミレーヌ夫人とメイドのリタだけだったので、用心のために玄関には鍵を掛けていたのだった。

 

「それじゃ、玄関からは誰も入れなかったって事ね」

「ええ、こじ開けられた形跡も無かったそうよ」

 

エステルの意見をシェラザードも肯定してうなずいた。

ミレーヌ夫人とメイドのリタは自分の部屋のベッドで眠っている所を突然襲われ、目隠しと口を布で塞がれたので、犯人の姿は見ていないらしい。

 

「さらに犯人は厨房から大量の食糧を盗んだみたいね」

「きっと母さんみたいに大食いだったのよ!」

「犯人は複数犯だったんじゃないかな。一人でミレーヌさんとリタさんを屋根裏部屋に監禁するのは手間がかかるよ」

 

迷推理を得意げに披露するエステルに、ヨシュアはあきれた様に答えた。

 

「犯人は金庫の暗証番号を知っていたようですが、市長の他に知っている人物に心当たりはありませんか?」

「わしは誰にも話した憶えがないのだが……」

 

ヨシュアに尋ねられた市長は視線を上へ彷徨わせながら答えた。

エステルが何か名案を思い付いたように、ポンと手を打って発言する。

 

「金庫の鍵を作った人なら暗証番号がわかるんじゃない?」

「市長さんが暗証番号を設定するはずだよ」

「まあ、出荷時の初期設定番号をそのまま使い続ける人も居るから、その可能性は否定できないわね」

 

ヨシュアは渋い顔をして否定するが、シェラザードがなだめた。

クラウス市長によると金庫の鍵はオーブメント仕掛けで、メルダース工房で作られたようだ。

 

「じゃあ、メルダースさん達が犯人?」

「それは無理があると思うけど。市長さんが番号を変える可能性もあるし」

 

驚いてエステルが声を上げると、ヨシュアはため息交じりにつぶやいた。

二人の話を聞いて考え込んでいたシェラザードが顔を上げて市長に尋ねる。

 

「……市長さん、自分で設定した暗証番号をメモした紙があったりしないかしら」

「ああ、それなら肌身離さず持っているよ」

 

クラウス市長はエステル達に暗証番号を書いた紙を見せる。

金庫と同じ部屋に暗証番号を書いた紙が置いてあったら金庫の意味が無い、さすがにクラウス市長もそこまでは抜けていなかった。

 

「それじゃあ、暗証番号を知っている市長さんが犯人になっちゃうじゃない!」

 

エステルは頭を抱えてそう叫んだ。

しかしそうなると窃盗事件を遊撃士協会に報告すると言う矛盾した行動を市長はした事になる。

 

「メモ以外の方法で、犯人は暗証番号を知ったんじゃないでしょうか」

「ふうん……それで?」

 

ヨシュアがそう言うと、シェラザードは目を光らせてそうつぶやいた。

 

「暗くなると光って反応する粉があります。それを金庫のボタンにまぶして置くんです。そうすれば市長さんが指でボタンを押した時、張り付いた粉が剥がれて、後で暗証番号を確かめる事が出来ます」

「凄いヨシュア、何でそんなこと知ってるの!?」

「読んでいた推理小説に、そんなトリックが書いてあったんだよ」

 

エステルに尊敬のまなざしで見つめられたヨシュアは、少し照れながらそう話した。

 

「話としては面白いわね。でも、そのトリックが実際に使われた根拠は?」

「暗証番号を入力するボタンがきれいすぎるんです。まるで何かを念入りに拭き取ったかのように」

 

シェラザードに問い掛けられたヨシュアは、しっかりと目を見つめてそう答えた。

 

「そうなると、犯人の一味はおとといの夕方、エステル君達が七耀石の結晶を届けてから今日の朝までの間に、市長邸に七耀石の結晶がある事を知っていた人物となりますね」

「時間はもっと絞れるわ。昨日の朝に市長はボース市に出張しているのだから、市長が暗証番号を入力するのはその前しかない。市長の目を盗んで粉を金庫の鍵のボタンに振り掛けるならね」

 

話を聞いていたアストンが口を開くと、シェラザードはそう付け加えた。

おとといの夕方から夜までに市長の書斎を訪問した人物達のリストが急いで作られる。

リストによると候補は、市長と考古学の談義を楽しんだアルバ教授、カシウス夫妻のインタビュー後に取材に来たリベール通信社の二人、大きなツボを書斎に運び込んだカプア宅配便の業者三人。

 

「市長、この中に金庫に七耀石の結晶がある事を話した相手は居ますか?」

 

シェラザードに尋ねられると、クラウス市長は恥ずかしそうに顔を赤くして、

 

「つい、訪問して来た客全員に七耀石の結晶の事を自慢げに話してしまったのじゃよ」

 

と、ごまかし笑いを浮かべた。

 

「その訪問した人達の目の前で暗所番号を押したりはしませんでしたか?」

「いやいや、流石に金庫を開け閉めたりはせんよ」

 

シェラザードの質問に、クラウス市長は首を横に振って否定した。

この線で犯人を絞り込むのは難しそうだ。

 

「さて、情報は揃ったみたいね。これから私の推理を話してもいいけど……あなた達の考えも聞かせてもらおうかしら」

「えっ?」

 

シェラザードの言葉を聞いたエステルはキョトンとした顔になった。

 

「遊撃士の事件解決能力は現場を調査するだけではなく、推理する事も含まれるのよ」

「僕達の力量が試されるって事ですね」

 

ヨシュアは表情を引き締めてつぶやいた。

 

「これから私はあなた達に事件に関する質問をするわ。あなた達の導き出した答えを聞かせなさい」

「受けて立つわよ!」

 

エステルはファイティングポーズをとって大声で宣言した。

市長やアストン達は暖かい笑みを浮かべてエステル達を見守る。

そしていよいよ遊撃士の推理ショーが始まるのだった……。

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