TS聖女見習いがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:大丈夫、問題ない

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新階層を目指して

「酷いですよ、神様…」

「元気出してください、ベル。ベルはちゃんとかっこいい男の子ですよ」

 

 酷く落ち込むベル。何の話かと思っていたら、どうやら何故か知らないけどヘスティア様に弄られていたらしい。

 

 確かにベルは色合い的には兎みたいで草食系だが、ダンジョンの中では頼りになるのは今日一日で身をもって知っている。俺はとりあえず口にじゃが丸君を差し出しつつ、フォローをしてあげることにした。この年頃の男の子は繊細なのだ。特に可愛い女の子からの口撃には赤ちゃん肌のように非常に敏感なのである。

 

 もそもそとじゃが丸君に噛り付くベルに、動物園の兎触れ合いコーナーで餌をやった時の事を思い出していると、それを見ていたヘスティア様がほほを膨らませた。

 

「むっ、た、確かにかわいいって何度も言っちゃったけど、僕はベル君がかっこよくないなんて思ってるわけじゃ…」

「ヘスティア様…散々ベルをからかっておいて、それはちょっと無理が…」

「神様…」

「な、何だいベル君?そ、そんな目しないでおくれよ!君に嫌われたら、僕は明日から何を支えにして生きていけばいいのか分からないよ…!」

 

 「ごめんよベル君、ちょっと楽しくなっちゃって、言い過ぎたんだ…」とベルの真横に来て縋るように涙目を浮かべるヘスティア様に、ベルは毒気を抜かれたのか小さく笑って頷いた。

 

 仲良きは美しきかな。見た目は少年少女の兄妹みたいな二人が仲直りしている様子はなんだか父性を刺激されるというか、可愛らしいというかなんというか。

 

 まあ中身に関してはベルが弟っぽいんだけどな。

 

「ところで、何故そんな話になったんですか?」

 

 ふと素朴な疑問を口に出してみると、ベルが答えた。

 

「うん…実はスキルが発現したんだけど、その内容の事でちょっと…」

「そ、そうだった!ちょっと遅くなったけど、スキル発現おめでとう、ベル君!」

「え?ベル、スキルが出たんですか?」

 

 俺は目を丸くさせた。スキルについての話はベルの担当アドバイザーのエイナさんから聞かされている。俺の場合は最初から持っていた為自覚は無かったが、スキルとは本来中々発現するものではなく、これまでの経験、価値観など、その冒険者の感じたものがスキルとして現れることもある。これまでの冒険の集大成の様な側面を持つ、これからの冒険の仕方を左右する重要な要素なのだ。

 

 そんなスキルが発現したというのは、確かにおめでたい事だ。俺はとりあえず「おめでとうございます、ベル!」と拍手した。ヘスティア様も流れに乗る。

 

「あ、ありがとうテレサ。神様!」

 

 照れた様にはにかんで後頭部を撫でるベル。

 

「それで、どんなスキルだったんですか?」

 

 思わず言葉尻が弾む。ライトな部類だったとはいえ、オンラインゲームに興じる一ゲーマーとして、ベルが発現させたスキルの内容の事が当然気になる。

 

 ベルは言葉を詰まらせた。視線が明後日を向くので、俺は首をかしげる。

 

「ベル?」

「い、いや、その…とりあえず、ステイタス強化系、だったかな…」

「そうなんだ!なら、癖もそうなさそうだし、使いやすそうな部類ですね」

「そうだねぇ。きっと役に立つと思うよ、うん」

「?」

「神様ぁ…」

 

 ヘスティア様の含みのある言い方に、肩をずるりと落として眉を下げるベル。「ごめんごめん」とヘスティア様。

 

 俺はそれを眺めながら、自分の分のじゃが丸君にかぶりついた。スキルを持ったベルはまさしく鬼に金棒だろう。戦える力があるのが少しだけ羨ましい。

 

「そうそう、テレサ君も初のダンジョン攻略、お疲れ様!という訳で、今日はささやかながらじゃが丸君以外にもこんなものを用意させてもらったよ!」

「え?」

 

 突如話の矛先を向けられ目を丸くしていると、ヘスティア様がぱたぱたとソファから飛び降りて、キッチンの方から大皿を持ってきた。

 

「か、神様…これ、どうしたんですか…!?」

「ふっ…ベル君、僕を舐めてもらっちゃ困る。今日という今日はさしもの僕も本気を出させてもらったよ…さあ、二人とも準備はいいかい!?」

 

 驚愕のベルにどや顔を浮かべながら、ヘスティア様が手に持ったお皿をテーブルに投下した。

 

「テレサ君初ダンジョン攻略お疲れ様会…に加えて、ベル君初スキルゲットおめでとうの会を今から開催したいと思います!」

「わー!神様流石!神様可愛い!」

 

 テーブルに出されたのは、色とりどりのサラダとチキンだった。小さいながらも一羽分丸々使ったそれは、このヘスティア・ファミリアの財政状況を鑑みるに確実に無理をしたであろう贅沢品だ。

 

「わあ…あの、大丈夫ですか?これ、無理してませんか?」

「大丈夫、へそくりは致命傷で済んだ!」

「大丈夫じゃないじゃないですか!」

 

 「あはは、本当にダイジョブダイジョブ」と笑うヘスティア様を信じることにし、俺とベルは笑い合い、へそくりの仇を取るべくフォークを手に取ったのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「たあっ!」

「ギー!?」

 

 あれから数日が経過した。やってる事と言えば毎日のようにダンジョンに潜ってはモンスターを倒す事だ。ダンジョンの環境にも少しずつ慣れてきて、戦い方もほんの少し無駄が無くなってきた気がする。

 

 ただ、相変わらずゴブリン相手に一撃で倒すのは出来ていない。ステイタスが育ちやすい時期とは言え、俺にとっては雀に涙らしい。

 

 それに明らかに、力の成長が遅い。その代わり魔力の成長が著しいのだが…もうこうなったら攻撃系の魔法を狙うしかないな。本を読んで知識をつけつつ、気長に待つことになるが。

 

「えいっ」

「ギャっ」

 

 何度目かの殴打の後、やっとこさゴブリンを倒すことが出来た。魔石が地面に転がるのを肩で息をしながら見つめて振り返ると、ベルがゴブリンやコボルトを相手に無双している姿が見えた。

 

 今、ベルは成長期らしい。本人が嬉しそうにそう言ってた。

 

 確かに初日とは明らかに速度が早い。なんでも前までは熟練度アップトータル30前後だったのに、今は70前後まで上がってるらしい。特に敏捷と力がよく上がってるらしく、今ではコボルトの群れ相手でもかすり傷一つ付けずに、余裕で倒せるようになった。多分、スキルの効果も有るのだろうが、それでも凄い成長速度だ。

 

 俺のステイタスは魔力が一日で20近く増えるが、他のはピンきり。全部合わせて30いかないかどうかなので、ルーキー冒険者の成長速度はだいたいが1日30程度なのだろう。そう考えると、2倍の勢いで成長していくベルはやっぱり才能があるらしい。

 

 それに加えて、何か思うことでもあったのか、ベルはいつも使っているナイフの他に、今は片手剣も装備している。その辺の屋台で買った安物だが、ベルの速度で振るわれればゴブリン程度は倒せるらしい。明らかに殲滅力が上がった。

 

 っと、考え事をしてる間に戦闘が終わりそうだ。周囲を一度見渡し、敵の増援が無さそうなことを確認した後、地面に転がる魔石を拾い集める。

 

「これで全部やっつけたかな…」

「あ、お疲れさまです、ベル」

 

 キョロキョロしながら近づいてきたベル。返り血や泥、汗で汚れてるが、怪我はしていない。とりあえず労りつつ、ベルにちょいちょいと手招きする。

 

 手を合わせてじっと集中する。すると、俺の足元を中心に、円柱の形をした白い光が膝上辺りまで緩やかに立ち上った。するとその中にいるベルに付いていた汚れが、まるで洗剤のCMみたいに浮かび上がっては分解されていく。

 

 ベルは綺麗になっていくのを感じているのか、気持ちよさそうに目を閉じている。だいたい綺麗になったところで俺は祈りを辞めた。

 

「どうですか?」

「うん、すっかり綺麗になったよ。ありがとうテレサ」

「いえいえ」

 

 今のは俺のスキルの力だ。スキル『見習い聖女』のおかげで、俺は祈るだけで汚れを取ることができるようになった。ダンジョンに潜り始めて数日で俺の持つ力の中で有用ランキング1位に躍り出た力だ。

 

 最初は目に見えて役に立つ回復魔法が1位だったが、ダンジョン攻略というのは意外と…というか、当たり前のように汚れる。土汚れや汗なんかは当然、それに加えてモンスターの返り血なんて浴びた時には、匂いが大変なことになる。

 

 当然バベルの足元にはそうした冒険者のために簡易的なシャワールームが置かれている。不衛生なまま街を歩かれてしまうと冒険者全体の評判が悪くなるし、病気にも繋がる。余り褒められたことではないのだ。

 

「いつ見ても幻想的だなぁ、テレサのスキルは。それに、最初に比べて範囲もどんどん増えてきてるし」

「毎朝練習してますからね」

 

 ゲームではボタン一つで『汚れ』や『汚濁』などと言ったバッドステータスを打ち消す効果のあるスキルだったが、この世界ではほぼ別物に変わってしまっていた。

 

 というのも、祈りの質によって範囲や効果が大きく変わるのだ。

 

 最初は範囲は俺一人がギリギリ入るかぐらいのものだった。お陰でベルに物凄く近づいてもらわないと効果を発揮できず、練習の為とはいえ非常に気不味い思いをさせてしまった。一応手を繋げば範囲の外にいても浄化できるのだが、その度に顔を真赤にされてはこっちまで恥ずかしくなるというものだ。

 

 これはスキルが未発達だったって訳じゃなくて、そもそも『祈る』っていう行為に理解がなかったからだったらしい。最初は何に祈れば良いのかさえ決めずにただただ目を瞑っていただけだったので、範囲は狭く効果も薄かった。

 

 今はとりあえずヘスティア様に祈るようにしている。それに加えて毎朝起きた後祈りの練習をすることで、大分効果も上がってきたように思える。

 

「それに、凄いのはベルのスキルの方じゃないですか。目に見えて早くなりましたし、ちょっとうらやましいです」

「え!?えっと、あはは…そ、そうかな…」

 

 …うーん。ベル、自分のスキルについては反応が悪いんだよなぁ。なんでだろう。

 

「いいなぁ。俺も、昔はブイブイ言わせてたものですが」

「ブイブイって、今日日聞かないよね。っていうか、テレサがブイブイ言わせてるの全然予想できないや…」

「えー。そんな事ないですよ?剣を持って、こう、ぶおーんと!」

 

 思い出すのはメインキャラを操作して、当時のエンドコンテンツだったラスボスをソロ攻略した時の記憶だ。あの時は楽しかったなぁ。たった一体の敵を倒すためだけに、アルゴリズムやダメージの乱数を調べまくって、使えそうな装備を片っ端から試して試行錯誤して…多分、あの頃が一番輝いていた気がする。

 

 そんな風に浸っていると、ベルが目を丸くした。

 

「剣!?剣を握ったことあるの!?」

 

 俺は思わず目を泳がせた。

 

「…ええまあ」

「そうなんだ…じゃあ、はい!」

 

 そう言ってベルは片手剣を渡してきた。え。

 

「そのブオーンってやつ、見せてよ!実は片手剣を使った戦い方、余りコツが掴めて無くて持て余し気味なんだ。だから、剣術が使えるなら少し教えてほしいなって!」

「…そ、そうですね。えっと…」

 

 俺はとりあえずゲームの中の剣の振り方を真似してみた…が。

 

「…えっと、参考になった…よ…?」

「下手な哀れみは人を傷つけます…」

 

 やっぱり見習い聖女には剣士の真似事は出来なかったよ…。

 

 剣を振ると、当然のように身体がそっちに持っていかれるし、そもそも全くと言っていいほど剣が手になじまない。それにゲームの中の剣技なんか見栄え重視の人間の関節の可動域や物理法則を無視した動きが主なので、上手くいくはずがなかった。

 

「…た、ただ、戦い方のタイプなんかは知ってますよ。えっと、敏捷型だと…カウンター剣士とかが有名でしたかね!」

「…カウンター…?」

「はい。相手の攻撃に合わせて、避けたり弾いたり受け流したりして、その直後に反撃を行う事で攻撃を行う、後攻必殺の剣士のことです。他にもリッパーとかもいましたね。攻撃を避けつつ、相手の懐に潜り続けて延々と切りまくる剣士です」

「なるほど…うん、参考になったよ。ありがとう、テレサ!」

「い、いえいえ…」

 

 なんか今の俺、口先だけの人間みたいになってるから、余り純粋な顔でお礼を言わないでもらいたい。逆に惨めな気持ちになってしまうのだ。

 

 

 

 その日、ベルの戦闘力が更に上がった。どうやらカウンターとすれ違いざまの切りつけを両方やってるらしく、殲滅力が凄まじいことになってしまったのだ。まさか少し話をするだけでここまで取り込んで進化してしまうとは…なんかもう、ベルにはかなわないや。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…5階層進出を許可します」

「やったー!」

 

 難しい顔を浮かべていたエイナさんが、最終的に口にしたのは、5階層…すなわち『最初の壁』である新階層への進出の許可だった。

 

 今日、ベルの殲滅力が上がったことで魔石の量も上がり、いつもよりも数時間早くバックパックが一杯になってしまったのだ。そもそもいつもは一杯になるまで狩れなかったので、効率が段違いに早くなった。

 

 そして、そんな俺達を見て、エイナさんは次の階層への進出の許可を決意したらしい。その割には数十秒間悩んでたけど…。

 

 ベルが横で喜びの声を上げている。まあさっきまで、今日1日で15000ヴァリスも稼ぐことが出来たため二人で大喜びしていた所だったのだ。それに加えて新階層の進出は、ベルにとっては飴にはちみつが付いてきたみたいな思いなのだろう。

 

 そんなベルの横で、俺はエイナさんに尋ねた。

 

「…本当に良いんですか?その、以前聞いた話と違うのですが…」

 

 冒険者はその多くが4,5年程度経っても上層から抜け出せない者たちで占められている。故に普通5階層への進出には最低でも2,3ヶ月程度は様子を見なければならない…とは、他でもないエイナさんの言葉だ。

 

 5階層からは新米殺しと呼ばれるモンスターの姿が見られるようになる。その代表であるウォーシャドウの主な生息域こそ6階層だが、偶に5階層へと昇ってくる事もあるのだ。当然、現れるモンスターの数も増える為、危険度も上がる。

 

 普通に考えて、冒険者を初めてベルが後少しで半月、俺も1,2週間程度の初心者が足を踏み入れていい場所ではない。

 

 その事を尋ねると、エイナさんは呆れたような諦めたような顔で頷いた。

 

「うん、本当はそうなんだけどね…今のベル君、どんどん強くなっていってるし、パーティーも組んでるしで…もうイチギルド職員としては、許可しないわけにもいかないんだよね…。もちろん、許可を出したからって、いかなきゃいけない訳じゃないよ?二人で十分に話し合って、それで行くかどうか決めた方が良いと思う」

「は、はい」

 

 ため息を吐きそうな面持ちのままそういうエイナさん。

 

 そうは言うが、ベルはとても嬉しそうだしやる気まんまんだ。

 

 加えて、俺はもちろん怖くはあるが、ベルの足手まといにはなりたくないし、負けたくない気持ちもある。故に…どちらかと言うと、行くのに抵抗は少ない。

 

 これは話し合う前に結論が決まってるやつだ…まあ、不安っちゃ不安だけど、いざとなれば様子見してから判断することもできるわけで。だったら、まずはとにかく一回行ってみるしか無いか…。

 

「とは言っても、私としては、そろそろ装備を整えてから行った方がいいかな、とは思うけどね」

「装備ですか?でも、もうベルは片手剣を新しく買ってますよ?」

「あ、違うよ?武器のほうじゃなくて、防具の方。二人共ほぼ服のままでしょ?」

「「…た、たしかに…」」

 

 ベルと二人で目を合わせて、そしてお互いの装備を見下ろす。エイナさんの言葉の通り、俺たち二人の装備は初心者然とした…悪く言えば、貧相な装備だった。一応ベルは胸当てをしているが、俺なんか本当にただの修道服みたいな感じだし…。

 

「…あと3日くらいは4階層でお金稼ぎをして、装備を整えて、それから5階層に行きましょう」

「そうだね…」

 

 ちょっと残念そうだが、こればっかりはエイナさんの言う通りだ。それに3日くらいなら、あっという間に過ぎ去ってしまうだろうし、今日の稼ぎを3日続けられたら十分にお金は貯まるはずだ。

 

 そんなベルとの会話を聞いたエイナさんが、思いついたように手を叩いた。

 

「そうだ!だったらその日、私もついていっていいかな?良いところに連れて行ってあげるよ?」

「…良いところ?」

 

 ベルと二人で首をかしげる。そんな俺達が面白かったのか、エイナさんは楽しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 3日後。ベルの活躍もありお金が十分に溜まったので、予定通り装備を整えるべく、俺とベルは待ち合わせ場所である噴水広場までやって来ていた。

 

 噴水広場は休日を満喫している冒険者やカップル達で賑わっていた。他にも遊びに街に繰り出した神々が休日の男子高校生みたいなノリで遊んでいたりと見ていて飽きない。

 

 そうしたヒトを目当てに屋台まで隅っこの方で出ていたりする。

 

「あ、ベル。あそこの…ケバブ?みたいなの美味しそうじゃないですか?」

「…え!?あ、うん、そ、そうだね…」

 

 なんだろう。ここに来てからベルが顔を赤らめたり周囲を見て顔を青くしたりと忙しそうだ。とりあえず話しかけてみたけど言葉の端切れも悪い。気分でも悪いのだろうか?

 

「おーい、二人ともー!おまたせー」

「あ、エイナさん」

「やっほ、テレサちゃん。それにベル君も」

「は、は、はい!その、おはようございます…!」

 

 やって来たエイナさんは、いつもの見慣れたオフィスカジュアルではなく、可愛らしいブラウスとスカートと、年相応のおしゃれをしてきていた。

 

 ちなみに、今日は俺もいつもの『見習い聖女の服』ではなく、普通の私服を着ている。ヘスティア様チョイスの女の子らしい可愛らしい服を着ている。もちろん俺も最初は抵抗感があったが、ヘスティア様の「眷属(家族)とショッピングデート~♪」という謎の歌とウキウキの顔を見て、なされるがままの人形となる決意を固めたのだ。

 

「よし、それじゃあ早速行こうか?ベル君もテレサちゃんも、やっぱり軽装備が良いよね?」

「そうですね…。私はともかく前に出るベルは、もう少しほしい所ですけど」

「そうだねぇ…、…」

 

 俺と話しながら、エイナさんは赤くなって固まるベルに目を向けてニンマリと笑みを浮かべた。そして急に俺の両肩に手を置いて引き寄せてきた。

 

「べーる君?今日の私達を見て、何か言うことはないのかな~?」

「へ?」

「え、えええ!?」

 

 唐突に悪ふざけを始めたエイナさんを、思わず目を丸くして見上げる。とてもいい笑顔だ。

 

 顔を真赤にしたベルは「いやその…」だとか「ええっと…」だとか物凄い勢いで吃り続ける。なんだろう、これはあまりにも可哀想だ。

 

「あの、無理しなくていいですよ…」

「あ~、駄目だよテレサちゃん。女の子はこういう時積極的にいかないと」

「とか言って、楽しんでるだけですよね…?」

 

 にこやかなエイナさんを呆れた目で見ていると、ベルがついに口を開いた。

 

「そ、その、おふたりとも、とってもよくお似合いで…か、可愛らしく見えます…!」

「んー?駄目だよベル君。ちゃんと一人ひとりの感想を言わないと」

「そ、そんなぁ…え、エイナさんは、その、いつもよりも若々しく見えます…!」

「こら、私はまだ19だぞ~?」

「ちょ、え、エイナさん!?」

 

 うわ、ベル、あんなにエイナさんの胸を…少しだけ羨ましく思ってしまうのは、元男の悲しい性なのだろうか。

 

「ちっ…あいつあんな可愛い子がいて…」

「やってらんねーよな…」

 

 と、その時ふと周囲からそんな声が聞こえてきて、俺は先程ベルが顔を青くしていた理由にやっと気がついた。エイナさんはギルドでも1,2を争う人気の女性職員であり、アイドルのようなものだ。そんな存在と買い物に行ける期待感でワクワクしつつも、周囲の目が怖くて顔を青ざめさせていた…というのがベルの不調の正体だったらしい。

 

 そして今はエイナさんの胸にそれどころじゃないくらいワチャワチャしてしまっている、と。

 

 うんうん、元男として分かるぞその気持ち。頑張れベル、俺は応援しているぞ。

 

「それで、テレサちゃんは?」

「て、て、テレサは…テレサは…」

「うんうん?」

「…っ、あー!あそこの屋台美味しそうだなぁー!ちょっと僕行ってきます!」

「あっ、は、はやっ!?」

 

 ばびゅんと風を切って走り去るベル。顔がりんごのように赤かったな。哀れベル、ダンジョンでは頼りになる男でも、エイナさんには勝てなかったようだ…。

 

「あはは…やりすぎちゃったかな。ごめんねテレサちゃん、ベル君走って行っちゃったよ。うーん…私達もついでに何か買おうか」

「は、はい。そうですね…意外とSなんですね、エイナさん」

「S!?ち、違うよ!?」

 

 まあそんな感じで、俺とベルの装備新調のための一日が始まったのだった。

 

 

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