スパッツ小隊in戦車道(まるで二次創作) 作:未確認動物
「『スパッツ小隊』……ですか?」
「そうそう。演劇部の皆はその名前で、YouTubeに動画を投稿してるんだよ」
「みほぉ! そんなの後でいくらでも説明してやるから助けてぇ!」
学校へと連行されていく芥さんの姿を視界に捉えながら、会長が彼女達の奇行の真相について教えてくれた。
あと芥さん、それは無理なので諦めて欲しい。
「それについては、私達が説明します……」
掠れ声になりながらも、先ほどまでコートを着ていた女子生徒がみほに声を掛ける。
「自己紹介が、まだでしたね。私は
「あの、すごく辛そうですけど大丈夫ですか……?」
「心配、無用です……。海馬社長とかの声真似の後は、大体こんな、感じなので……」
たしかに、先ほどのドスの効いた尊大そうな声を出すのは簡単ではなさそうだ。
そんな辛い思いをしてまで行なわれる活動とはいったい?
「私達は、部員数の少なさ問題を解決、するために、動画投稿をして、宣伝することに、したんです」
「それがまさかの大ヒット! 活動開始してわずか一年で、チャンネル登録者数二十万人を超える新進気鋭のYouTuber集団として有名になったんだよぉ」
やはり辛そうな様子が取れない如月さんの代わりに会長が話を引き継いだ。
「投稿する動画の内容は有名なキャラクターの声まねをしながら遊んでる様子を見せるって感じが主だね。さっきみたいにカードゲームで遊ぶこともあれば、ジェンガで遊んだりもしてるんだけど、本来ならそのキャラが絶対に見せないような絵面だったり、そもそも性別が違うキャラを演じてるのに迫真の演技力でそのキャラが性転換したんじゃないかって思わせるくらい熱意が込められてるところがウケてるみたいだね。
他にも踊ってみた・歌ってみた動画、料理動画、パック開封デスマッチ……手広くやってるよ」
「おかげさまで、儲かってます……」
「すごいなぁ……あれ? でも、宣伝の効果は……」
「いやさ、それがね?」
くっくっく、と笑いを抑えきれないといった表情を見せる会長。
「あまりの熱演のせいで、『部活動の演技にもこれくらいの熱意が求められるんじゃないか』って思われちゃって、宣伝の効果ゼロだったんだよね!」
「最大の誤算デース! ていうか私にも自己紹介させてくださーい!」
如月さんの後ろから、長い栗色の髪をなびかせた女子生徒が踊り出る。
先ほどまで妙なグッズを付けていたことで片目が隠されていたが、それを外した今はその青い目を露わにしている。
「Nice to meet you!私は
「あっ、えっと、よろしくお願いします!」
ダイアさんは自分の両手で私の両手を包んでぶんぶんと振り回す。先ほどから時々英語が飛び出ているのは、彼女が帰国子女だったからだろうか?
それにしても、イギリスからの帰国子女というよりも、アメリカからの帰国子女といった方がしっくり来るのは自分だけだろうか?
「慧留最に誘われて演劇部にjoinしたは良いのですが、まさかのnot enough manpower!宣伝の効果も無しでトホホに暮れていたところに、灯子ガールが来てくれたのデース!」
「あ、どうも。一年の
ぺこりと頭を下げるポニーテールの女子生徒は、どう見ても先ほどまで舌なめずりや独特な笑い方をしていた人物と同一人物とは思えなかった。
迫真の演技力である。
「演劇部に入ったと思ったら、色物YouTuberの巣だった……何を言ってるか分からないかもしれないですけど、私にも分かりません……」
「灯子はいい加減に受け入れるべきデース! 動画のコメントでも『新人と思えない演技力』と好評だったではありませんかー!」
「先輩達が色物キャラばっかり私に担当させるからじゃないですかぁ!」
「その割に、ノリノリ、だけどね……」
そのまま三人はワイワイと騒ぎ始めてしまった。私はそれを苦笑いで見つめながら、同時に複雑な気分になってしまう。
私と芥さん、そして
この感情の正体は何なのだろう。
「見ての通りの子達だけど、皆器用だからたぶん戦車も任せられるよ。ま、西住ちゃんと芥ちゃん以外は素人だから大して変わんないと思うけどね!」
「……」
「西住ちゃん?」
「あっ、す、すみません。ちょっと考え事をしてて……」
「ふーん? おっ、学校とうちゃーく」
「お断りします」
生徒会室のソファに座った芥さんは、会長の話を聞き終えると、それをにべもなく切り捨てる。
「復興したその年に全国大会出場? 経験者は私とみほ以外いない? 戦車は放置されていたものがほとんど?───馬鹿げてる!」
芥さんの言うことは、一から十まで正論だった。
しかし会長も芥さんの返答は予想出来ていたようで、粘り強く会話を継続する。
「いや、ほんと頼むよ。せっかく戦車がもう一両見つかって、あとは乗組員だけなんだよ~」
「人数少ないっても、私達には演劇部の活動もあります! 戦車道で勝ちたいっていうなら授業の時間だけじゃなくて、放課後だって使わないといけない! それくらい貴方なら分かるでしょう! それにみほを無理矢理巻き込んだっていうのも───」
「……頼む」
頭を下げる会長。
それを見た芥さんは吃驚したように目を瞬かせる。それなりの付き合いの彼女でも、こういった姿を見ることは珍しいようだ。
「……貴方が頭を下げる姿なんて、今まで見たことあるかどうかってレベルですね」
溜息を吐いた芥さんは、条件付きで会長の頼みを聞き入れることを決めた。
その条件は、一対一、自分だけに「何故そこまで戦車道で勝つことに焦っているのか」を教えること。思い切り顔を顰めながらも、会長はその条件を承諾。
私達は生徒会室の外にいったん追い出されることとなった。
「会長のあんな姿、初めてみたかな……」
「盛花でもデスか? ひょっとしてvery rare faceでしたか?」
「私はあまり関わったこと無いですから、いまいちピンときませんね……」
「私も転校してきたばかりだけど、なんとなく珍しい光景っていうのは分かるかも……」
会って一週間ほども経っていないけれども、会長のああいった姿は本当に珍しいんだろうというのは納得である。
そんな風にして話していると、芥さんが部屋から出てくる。
「あの、えっと、芥さん?」
「……」
手で顔を覆っていた芥さんだけど、次の瞬間にはバッと手を大仰に振り、言い放った。
なにかしらの、『決意』に満ちた表情で。
「我々『スパッツ小隊』は、大洗女子学園戦車道チームへの参加を決定する! 異論は認めない!」
「と、いうわけで。飛び入りで参加してもらうことになった演劇部もとい『スパッツ小隊』の面々だ!」
『おなっしゃーす!』
私達は芥さん達を伴って、戦車道チームで使わせて貰うことになる倉庫にまで戻ってきた。
先ほどまで会長からの打診を拒絶していたとは思えないくらいに乗り気になった芥さんを不思議に思うけれども、とにかく、彼女達も力になってくれるというのは素直に喜ぶべきだろう。
「経験者が自分だけという状況から解放された」というだけでもありがたいし、それが知人である芥さんというならなおさらだった。
「うそ……ホントにスパッツ小隊!?」
「間違い無いよ、あたし前学校で撮影してるとこチラっと見たことあるもん!」
「エルモ隊長、サインください!」
YouTubeをあまり利用しない自分としてはどれだけ凄いのかがまだ分かっていないが、会長が言っていた有名だというのは真実だったようだ。
現に中戦車”M3リー”を担当することになった一年生達を始めとして、何人かの生徒が芥さん達を見て盛り上がっている。
「芥さん達、有名人だったんだね……」
「まあ、それなりにご贔屓してもらってます的な? それより、私達の使う戦車ってどれ?」
「あー、ちょっと待っててね。今……おっ、きたきた」
会長が指を差した方向から、レッカー車に牽引されてこちらに向かってくる戦車の姿があった。
それなりに戦車に関しては知識を持っていると自負していたけれども、あの型の戦車には見覚えが無かった。どこかアメリカ製の戦車のフォルムに似ているような気はする。
私が首を傾げていると、チームメイトになる秋山さんが興奮して話し始めた。
「おおっ! あれはまさしく”M18戦車駆逐車”! アメリカで開発された対戦車自走砲で、WW2当時の強力なドイツ軍重戦車”ティーガー”や中戦車”パンター”を多数撃破した名車ですよ!
あれ? でもあの戦車は
「……あっ、なるほどそういうことかぁ」
秋山さんの解説のおかげであの戦車の正体が分かった。そして、違和感の正体も。
「オープントップの”M18”に、『屋根』を付けてるんだよ。いちおうあれで規定はクリアしたんじゃないかな」
「なるほど……」
「ゆかりん、それであの戦車って強いの?」
「勿論強いですよ! 先ほども言った通り”M18”は『戦車駆逐車』、つまり対戦車用の戦車なんですから! しかも最高時速は80km、WW2で最速クラスなんですから! ただ、その……」
目を輝かせていた秋山さん。しかし、”M18”の強さという点で言いよどんでしまう。
それも無理はない。私も”M18”に関しては最低限の知識を持っているけれども、あの戦車にはけして無視出来ない『欠点』が存在する。
「……すごく、装甲が薄いんです。一番装甲が厚い場所でも1インチ、25mmしかありません。ここにある戦車の中で一番古い、バレー部の皆さんの”八九式中戦車”に次いでワースト2といったところですね」
「うん。実際に戦争で使われた時にもたしかに戦果は挙げてるんだけど、その戦法は『ヒット&アウェイ』、装甲の薄い敵戦車の側面に砲撃を撃ち込むことで倒していく、装甲に頼らないものだったの」
「───なるほどね。たしかにエースと呼ばれるワケだわ」
どこか納得した表情で”M18”を見つめる芥さん。
小口径砲ですら撃破出来るあのピーキーな戦車を使ってエースと呼ばれる。それはつまり。
「アメリカ製戦車を用いる『サンダース』の戦車道チームですら、扱いが難しくて使っているチームはいない。もっと安定した“シャーマン”がたくさんあるから。
あれを使いこなせる腕があるだけで、エースと呼ばれるに相応しいでしょうね」
「……芥さん、いけそう?」
私は不安になり、芥さんに心配の声を掛ける。
彼女も戦車道の経験はあるし、車長としての実力は私も知っている。
しかし彼女が乗ったことのある戦車は黒森峰、つまりドイツ製の中・重戦車が多く、”M18”に関してはほとんど素人のようなものだろう。
「面白そうじゃない。一発でも当たったら終わりのオワタ式、その代わりに超ハイスピード! こういう戦車が活躍すると、動画的に盛り上がりそうよね」
「芥さん……」
楽しそうにする芥さんの様子に不安がほぐされていくが、一つだけ気になったことがある。
「動画?」
「うん。言ってなかったっけ?」
明日の練習で私達、戦車に乗りながら動画撮影するのよ。
そう言った芥さんと、固まる戦車道チーム一同。
『───えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?』
そして、翌日。
芥さんの突然のカミングアウトに面食らった私達だけども、理由を聞いて納得する。
「戦車道の練習をしてる様子を動画にして投稿、それで稼いだ動画広告代を戦車道チームの運営に充てる」という目的があり、きちんと会長にも許可を取って動画を投稿するのだとか。
たしかに戦車道連盟からの補助金があるとはいえ、捨てられていたり放置されていた戦車を集めた大洗戦車道チームには資金がいくらあっても足りない。
動画のクオリティと反響次第だが、資金難解決の一助になってくれるかもしれない。
「じゃあまずは、実際に戦車に乗って動かしてみましょうか! 何事も経験よ!」
特別講師としてやってきてくれた
しかし、そこに芥さん達『スパッツ小隊』の姿は無かった。
どうしたのだろうか。ひょっとして何か良からぬことがあったのだろうかと心配していると、バタバタとこちらに駆けてくる足音が聞こえてくる。
「すいません、準備に手間取って遅れました!」
「ああ、話には聞いてるわ。貴方たちが───」
その方向を見て、ビシッ、と石のように固まってしまった蝶野教官。
きっとあのコスプレを見て驚いてしまったのだろう。そう思って私も芥さん達の方に視線を向ける。
視線の先にいたのは、たしかに『スパッツ小隊』の皆さんだった。
だった、のだが。
「YouTuber最大の敵は視聴者の飽き……何時も通り遊戯達のロールで来ると思ったか!
と、いうワケで!
さあ、始まるざますよ?」
「行くでガンス?」
「ふんがー!」
「マトモに始めなさいよ! 演技と本音両方込めて言いますけど!」
どう見ても大洗女子学園のものではない制服と、それぞれカツラを被った『スパッツ小隊』の皆さんがいました。
私にはもう芥さんが理解出来そうになかった。
ということで、毎回戦車に乗る度にロールするキャラクターが変わっていくことになりました。
ちなみに最後のロール担当は
こなた→慧留最
かがみ→灯子
つかさ→盛花
みゆき→ダイア
となっております。
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