転生したらドラゴンだった件   作:炭酸水素水

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別に無くても魔王になれるのは内緒。




12話 何!魔王種を持つ私は魔王では無いのか!?

ガハハハハハハ!

 

これ程愉快な事は久し振りだ!

勝手に年代物の酒を飲んだ罰として、ワシの特訓を受けさせたのは正解であったわ!

 

そう思うダグリュールの前には既に満身創痍のクレアがいる。しかし、その動きに陰りは無い。クレアが倒れる度に無理矢理エネルギーを送り込むことで、こうして何時間も模擬戦を続けているのだ。

 

(技術は荒削りじゃが、伸びしろが凄まじい。どんどん頭角を現していっておる!)

 

この鍛練を始めて数ヶ月。クレアのなかで何かが日に日に高まっているのを感じる。

ワシの動きを見よう見まねだけで物にしていく様は見ていて飽きぬな。

このまま伸びていけば、いずれはワシのいい喧嘩相手にもなるやも知れん。

そう思うだけで年柄にもなくワクワクする。

強い相手がいる、そう思うだけで心踊るわい。ワシもここでの生活が長くなり、丸くなったと思っていたが、本質は何も変わっておらんかったのだな。

 

思わず笑みが深くなる。

クレアもこの戦いを楽しんでおるのだろう。先程からずっといい笑顔だ。

 

「うむ!それで良いのだ。もっとこの闘いを楽しもうではないか!」

 

 

「風魔法!」

 

「ぐはぁっ!!」

 

魔法を放とうとするクレアを拳で吹き飛ばす。

 

生憎ワシには魔法は分からん、故にこうして肉弾戦のみを教えておる。

もしも詳しい者に習う事ができるならそれでいいが、この辺りには残念ながらそんな者はいない。

 

(そうじゃの!あやつ…ヴェルドラがおったか!)

 

風属性のドラゴンじゃし、ヴェルドラに教えを乞うのが良いかも知れん。

今は消滅しているが、そう遠くない内に復活するじゃろうて!

 

ダグリュールは今は亡きヴェルドラが師匠となった場面を思い浮かべる。

 

「では暴風魔法をお前に教える!」

「はい!」

「まずはこう、魔素をだな、グワー!とやって、ガー!っと放出するのだ。分かるか?」

「分かりません!」

「うむ、素直でよろしい!」

「ヴェルドラよ、流石にそれでは分からんだろう。」

「むっ、そうであったか!」

「クレアにも分かりやすいよう実演してみてはどうだ?」

「なるほど、それは名案であるな!ではクレアよ、我の魔法を良く見ておくのだ。」

「はい!」

「いくぞ!」

 

「ぬおおおおおお!!!」

ヴェルドラから暴風が吹き荒れる。

宙を舞うクレア。そして見上げる二人

「うわ ー!」

クレアの影がどんどん遠ざかり見えなくなる。

「おい!クレアまで巻き込んでおるぞ!」

「おっと、範囲設定を間違っていたわ、

クアハハハ!我、うっかりさん!」

 

――うっかりさんではないわっ!!

 

思わずそう突っ込むダグリュール。

 

勿論これはダグリュールの想像上での話である。

いきなり罵倒されるヴェルドラは不憫だが、彼の人となりを知る者であれば、同じ結論に至るだろう。

少なくともダグリュールはそう確信している。

 

(だが、それもそれで良いかも知れんな)

 

武術の飲み込みも早い将来が楽しみな娘だが、クレアは転生者だ。他の環境や考え方(せかい)を知るクレアを、このままダマルガニアに縛りつけて良いものだろうか?

 

(ワシの過ごした世界の、如何にちっぽけなものよ!フハハハ!)

 

思わず自嘲してしまったわい。

ワシは主の命により、この先もダマルガニアの守護をし続けるだろうが、息子や娘達はそうではないだろう。

 

そんな事が頭に浮かぶが、今は模擬戦の最中だ。ワシは頭を振り、その考えを振り払うと再び闘いへと意識を集中させる。

 

「さあ、ゆくぞ!クレア!」

 

 

 

 

 

ダグリュールの左拳が迫る。

私はダグリュールの足元に、咄嗟に落とし穴を生成する。

 

「ほう、魔力操作のスピードが上がったようだの」

 

落とし穴の上に浮きながらそう言うダグリュール。

「(ダグリュール…あんた古龍だったのか)」

 

その足からはエネルギーが噴出している。

宙に浮けるんじゃ、落とし穴を用意しても意味がないじゃないか。

 

「発想は悪くなかったぞ、後これを百万回も繰り返されれば、流石のワシと言えどもキツいのう。」

 

「oh…」

 

それじゃあ戦闘訓練が整地作業になってしまう。せめてイベントリとチェストを下さい。それに私の魔素量ではそこまで魔素が持たない。

 

戦闘訓練とは言えやはりこれは模擬戦、ダグリュールがもしその気なら私はとっくに立ち上がれなくなっている。

ダメージやエネルギー切れで倒れる度に、ダグリュールがエネルギーを送り込んで(無理矢理)回復させてくるのだ。ひどい。

 

「(一瞬一秒が長い…)」

 

普通より数段早い蹴りが私の足を穿つ。今までのパターンならこの後に右手のふり下ろしが来る!

 

「はああああッッ!」

 

その場でクルリと回転し、ダグリュールの打ち込んだ腕を狙い、私の渾身の右ストレートをかます。

ズドン!

ビギビキと音が鳴り、辺りに火花が散る。

 

「動きは良くなってきたようだが、まだまだ!」

 

ダグリュールの纏う闘気は、私の全力を少し上回る。

これは勿論、私の力がダグリュールに及んでいるとか、そう言う事ではない。

 

「脇が空いておるぞ!」

 

それはダグリュールの動きや、力の入れかたを見れば分かる。そのエネルギー量は絞られているのだ。

 

 

「(理屈では勝てなくは無いはずだけど)」

 

今のダグリュールは、使えるエネルギーを一定に制限している。具体的には、私と同じくらいの量にした上で、私と戦っている。

 

「それでこの実力差ってどうなのよ」

 

 

そう、私の全力の一撃でも明確なダメージにはなっていない。

お返しとばかりに振られた右腕に吹き飛ばされる。

 

「…でも、なんとなく分かってきたぞ!」

 

受け身を取りつつも私は考える。

相手のエネルギー量は一定、しかし力の割り振りは一定じゃない。

 

そして強力な一撃の後には、守りが薄くなる場所が必ず出てくるのだ。

 

「私の勝ち筋はそこにある!」

 

 

…突破口は見えた!守りが薄くなった部分を的確に狙い続けるのだ!

力を一点に凝縮して攻撃を繰り出せば、ダグリュールの纏う闘気を超えてダメージを通すことができるはず。

 

理不尽に見えてもこれは鍛練、攻略する為の糸口はきちんと用意されているって訳か!

 

 

私は狙いを澄まし、身を屈める。

足の筋肉に熱い血がたぎり、その筋にビキビキと力がこもる。眼差しは鋭く、真っ直ぐにダグリュールを見据える。

 

足が飛び出す瞬間を今か今かと待っている。

狙うは一瞬、相手の攻撃後の隙だ。

 

(…ここで決める!)

 

ドォンッ!!

 

破裂寸前のドラム缶が爆発するかの如く、私は弾丸のように自身を撃ち出した。

全身は衝撃波を放ち、空を切り裂き相手へ迫る。

「(うっ…ぉおおおお!!)」

 

…景色が縮まり、猛スピードで後ろへ流れる。

私は身体強化を駆使し、身体中のエネルギーを拳一点に集中させる。

 

「喰らえッ!!」

 

バリバリバリ!!

 

拳から闘気が溢れ出す!

その拳は、一直線にダグリュールの鳩尾に吸い込まれていく。

 

 

―――ズドゴォンッ!!

 

初めてまともな一発が入った!

いけるっ!これはいけるよ!

ダグリュールも目をグワっと見開いている。

 

「…!?」

 

しかし、そこでガクンと力が入らなくなる。

一瞬膝をつくものの、すぐに立ち上がろうとする。

 

「うっ、!」

 

見れば、ビリビリッと音を立てて、拳から雷のような闘気が溢れ出ていた。

思わず構えを解いて、右腕を押さえるクレア。

自らの気の奔流を受けて、右手は一瞬にして傷だらけだ。

 

「(ずっと同じ場所に留めるのは無理か)」

 

思わず苦い表情になる。

私は急いで拳の闘気を解除して、右手を回復させる。

 

 

「あれ、でもなんか体が軽い…?しかもなんだか力が溢れてくるぞ!?」

 

掌を離れた気の奔流は、右腕の骨髄を通り、背中を抜けて全身を駆け巡る。

 

大量のエネルギーが通った為か、気の奔流が通り過ぎた後には、太いエネルギーの通り道(パイプ)が出来ていた。

その道を通り、体の奥底から力が湧き出す。その全身からは、ビリビリとした気が満ち溢れる。

 

「これがもしや、俗に言う経絡系では?確か、あれ!点穴をツンツンする奴!」

 

目が白かったなら完璧だったのに、そう思うクレア。しかしクレアの目は金色である。

惜しいな、と思いつつも戦闘の方に意識を向ける。

 

「フハハハ!何か掴んだようだの。では此方もそれ相応の技で相対しよう!」

 

 

ダグリュールがそう言った瞬間、大気が破裂し、地面はメキメキと音をたてて蠢きだす。

そうとしか言い様のない光景に、私は思わず息を飲む。

 

「はああああああ!!!」

 

(これでもまだ全力じゃないってマジか!)

 

ダグリュールから溢れる力は、先程とは比べ物にならないくらい多い。

ダグリュールはこちらに向き直り、再び口を開く。

 

「ここからが本番だ、覚悟してかかるのだ」

 

そう言って、ダグリュールは眼光鋭く構える。私も闘気を練り上げて迎え撃つ。

ダグリュールを良く見ればエネルギーの量そのものは変化していない。

ダグリュールの持つ力が、周囲に満ちたエネルギーと共鳴し、その力を限りなく高め上げているのだ。

放たれている力は同じはずなのに、その違いは歴然としている。

その威風堂々たる姿はさながら、自然の猛威そのものを体現しているかのように見えた。

 

「はッ!!」

 

ダグリュールの拳から、全身から、纏う空気から、絶えぬ荒波のように連撃が私を襲う。

鱗で衝撃波を反らしつつも、完全には避けきれない。

 

「私の魔力場干渉でも、似たような事はできる。けど…」

 

今のダグリュールと、私のエネルギー出力は同じ。なのでこのデタラメな攻撃も、理屈では私にも出来るって事だ。

 

「(でも、今私の取るべき手は一つ!!)」

 

弾幕が増えても相手の隙があるのは変わらない。

私は全身の経絡系に、凝縮した闘気を流し入れる。ドクドクと鳴る鼓動と共に、全身が闘気で満たされる。

 

「(もう一度!さっきと同じ一発を決める!)」

 

――身体が軽い。

それはまるで一瞬でトップスピードに達する戦闘機のよう。

気付けば私はダグリュールの懐に立っていた。

 

「えっ」

 

しかし、驚いた一瞬、そのコンマ一秒が相手にとって絶好のチャンスとなる。

 

「二度も同じ手が通じると思ったかっ!甘いわ!」

 

ゼロ距離で全方面から衝撃波が襲い来る。

逃げ場は…無い!

思考が速まり、世界の流れるスピードが遅くなる。

 

「(避けられない…!)」

 

くそっ、どうする!?

このままじゃお仕舞いだ!

でも、私の勝ち筋は完全に絶たれている。

 

ギリリ、と歯が軋む音が鳴る。

 

…負けるとしても、せめて何か一矢報いたい。

まだ決着はついていないんだ。最後まで、逆転の一手が何処かに転がっているか分からないんだ。

だから私は最後まで、闘う選択肢を捨てる事は絶対しない!

 

――私は強くなるって、そう決めたんだ。

そう、私は強くなるって………ん?

 

(あれ?いつから私、そんな事決めたんだっけ?)

 

――うーん?分からないな。……でも、

今はこの状況をなんとかひっくり返すのが先決だ。考えろ、必ず道はあるはず!

 

――どんな小さな事でも何か……あれば!

 

《確認しました。ユニークスキル「虚飾者」の能力が解放されました。新たに「能力解放」が使用可能になります。》

 

――世界の言葉が響く。

 

ん?世界の言葉?

なにそれ、もしかしてこの声がそうなの?

 

そう思い、辺りを見回す。

しかし、戦いの最中だと言うのに辺りは鎮まり返り、得体の知れない不気味さをかもしだしている。

 

《…》

 

《「能力解放」を使用しますか? yes/no?》

 

私の手札は全て切った。新たに手札に加わったのは、全く未知のスキル。

あらゆる可能性を試すのならば、私がこのスキルを使う選択を逃すはずが無い。

……けど

 

「使えって、まるでそう言ってるみたいだね」

 

《…》

 

応答は無い。まるで、世界に一人取り残されたかのような、何処か違う世界に立っているんじゃないかと錯覚する。

 

「いいよ、その案に乗ってあげる。

…それに答えは元から決めてるしね、イエス!」

 

――私は負けない!絶対に!

 

世界が動きを取り戻す。

血の熱さ、痛み、戦いの高揚感と火照りが戻ってくる。

 

「能力……解放ッ!!」

 

ズドオォン!

 

星が降ったかのような衝撃が辺りに響く。

脳天から全身を貫くのは、途方もなく莫大なエネルギー。

その余りの大きさに、私はその殆どをその場に霧散させてしまう。

しかし――

 

 

《確認しました。旋風竜(ボルテックドラゴン)、個体名:クレアの魔素量が増大…規定量を満たしました。

魔王種への進化を開始します・・・。》

 

 

「(私が魔王……だと!?)」

 

私の身から禍々しい光が放たれる。

それと共に、私の肉体が咆哮を上げた。

 

「グオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 

一匹の竜に宿った種。

地の底から響かんとする声はまるで、その種が芽吹くその時を、待ち望んでいるかのようだった。

 

 

 




ヴェルドラさんに魔王の偽物呼ばわりされてしまう魔王種。おまけにドラゴンも竜種の偽物と言うダブルパンチ。
そんな十字架を背負ったクレアの明日はどっちだ!?
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