転生したらドラゴンだった件 作:炭酸水素水
「驚いたね…。」
他に誰もいない部屋でユウキは呟く。
精神体のみになったと言え、カザリームは古き魔王。その呪縛はそう簡単には振りほどけるものではない。ユウキ自身も召喚された当時、普通に無効化しているのだが……その事は一先ず向こうの棚に置いておく。
「カザリームの呪縛を素で受けても何ともないって…」
以前、自身が召喚された時は、世界を渡る際に獲得した「能力封殺」を使う事でカザリームに勝利した。
逆に言えば、何も無しに受けが通じるような、やわな呪縛ではない訳だ。
しかし、先程の相手は呪縛を簡単に弾いて見せたどころか、その術式に干渉してあまつさえ吸収しているかのように見えた。
「まさかボクの
ユウキが召喚された時、その時は「能力封殺」を使っても、今回のように召喚が無効化されることは無かったはずだ。
相手側が何かしたのだろうが、何をしたのか思い当たる節はない。
「相手は既に肉体から離れてたってのに、とんだ化け物だよ全く」
召喚した器は既に死にかけた状態だった。つまりあの抵抗は魂の力のみを使っていたんだろう、と推測できる。
相手に肉体があり、万全の状態で戦ったとしたら、自身も危なかったかもしれない。そう思うユウキ。
「まあでも、肉体の方は確保できたんだろ? ………あれ、カザリーム?」
『…………。』
カザリームの返事はない。心なしか、肩を震わせて俯いている感じの思念が流れているような…?
どうやら肉体の確保に失敗したらしい。肉体を確実に奪うために相手の精神体を先に破壊しようとしたのが裏目に出てしまったようだ。
『………うっ』
「うーん」
前に検討していたサリオン製の
…………
……
…
汚染され、廃墟と化した死せる砂漠。生物のより着かないこの土地は大陸の最西にあり、世界有数の危険地帯である。
文字通り神に見捨てられた地。そんなこの地に、フラフラと漂う何かの姿があった。
(右!左!右!ちょっと上!左っとと)
エネコンの事を思い浮かべたそこの君! それは誤解だ。私はあんなカードは使わない!
私は現在、絶賛飛行中である。え?そうは見えないって?
失礼な、このスキル「重力支配」で飛ぶ事自体はできる。けど、飛べるってだけで操作がとっても難しいのよコレ!
多分だけど、これ単品で空を飛べるような代物じゃないんじゃないかな?
例えば、翼を持ってるとか、揚力やら軽い体のほうが飛びやすいって感じで、同じ「重力支配」を持っているにしても、より上手く飛べるっぽい。 なので、飛行に向かないタマゴの私が飛んでいるのは、結構すごいんだと思う。
(でもこの移動方法って神経使うよねー、体の軸も結構ぶれるし。…砲丸投げみたいに飛ばしたら、楽できそうだし早いかな?)
そう考えた私はタマゴがかっ飛んでいく様を想像してみた。空気抵抗の少ないタマゴは、きれいな放物線を描いて地平線の向こうへと勢いよく飛んで行く。その先でどうなったかは知らん。見えないし。
うん、完璧な作戦だな! タマゴの落下地点に目を瞑れば、だけどな!
(うん、ないな。知ってた!)
仕方ないので今まで通り、重力支配と私の神経をフル活用して飛行を続ける。 ずっと頭を使い続けたせいか、途中で演算領域が増えたりして、飛ぶのが大分楽になった。
これで、ボーっとしながらでも進めるよ!やったね!
《危険感知に反応。後方地下30mから対象が迫っています。》
ボーっとできませんでしたよ!別の事に神経を使う羽目になったからね!
思わずそう愚痴る私。そうしている内に、私がさっきまでいた地面が大きく揺れる。
「ギャギャリィリィ!!!」
あ、野生のなんだろう…デカイ蟻?が飛び出してきた!
脳内でそんなアナウンスが流れる中、 気がつけば巨大な蟻は私の眼前まで迫っていた。
「ギャリギャギャギャー!」
蟻は私を食べようと大きく顎を開く。マズイ、このままだと喰われる!?
(あわわ、、おお落ち着け!私!そしてかわせ!!)
私は体を砲丸よろしく大きく横へ吹っ飛ばす。そのまま蟻との間に距離を取る。
演算領域が増えたお陰なのか、結構なスピードが出てるけど、しっかりと方向をコントロールできている。
間違っても、地平線の向こうでスクランブルエッグ状になることはなさそうだ。
《確認しました。 エクストラスキル「重加速」を獲得しました。「重力支配」と統合されます。》
(さあ、荒野の大レースといこうじゃないか!)
蟻に向かって「略奪者」を仕掛けるのも忘れない。ある程度侵食すると検索結果が出るし、相手の魔素の使用権を奪って弱体化させる事もできる。それまで逃げ切れば私の勝ちって訳!
そして、今は私の方が速いのか、蟻との距離が段々開いてきている。
(私はまだスピードが出る…相手は多分あれが限界っぽい。)
挑発をしてみてもこれ以上スピード上げてこない辺りきっとそうだと思う。
(こっちはまだ余力があるし…魔力吸収を強めようかな?)
「略奪者」で使用権を奪った魔素なんだけど、相手が死亡したり魔法やらで体外に排出された後は、そのまま私の魔素として取り込むことができる。
相手の中にその魔素がある内は、魔素の動きを悪くして妨害する位のことしかできないけど…。
でも、今みたいに余裕がある時なら魔力吸収で無理やり奪うこともできる。
(私の10倍以上デカイけど、意外と大したこと無いかも)
そう思った私は、さっさと決着を着けようと、魔力吸収を発動した。 その瞬間、蟻のいた方から岩塊の群れが飛んできた。ギャーなにそのスキル!
(うわっ!大したこと無いとか思ってませんから!!すみませんでした!)
散弾よろしく飛んでくる岩塊を必死でかわす私。あばば、一気に余裕がなくなってしまった。
しかも飛んでくる岩塊に使われてる魔素は、私が使用権を奪いかけてるやつだ。
ああやって体内から排出してデバフを解除するなんて!くそう、あの蟻意外と鋭いぞ。
(いつまでもあの岩塊を避けきれるとは思わないし、略奪者の侵食を待つのは多分無理…)
(排出された岩塊の魔素も、属性がついてて吸収し辛くなってるし…! 蟻本体を叩くしかない!)
タマゴであり、基本的に戦いに向かない私に取れる攻撃手段は限られている。
魔法の欄にあった「風魔法」、そのまま攻撃に使えそうなのはこれ一つくらいだ。
しかし、風魔法は今、飛行中の姿勢制御の方に使ってしまっている。
演算領域が増えて、新たに重加速を獲得した今ならば、風魔法抜きでも多分ある程度は飛べる。
でも、岩塊の雨の中で回避を続けられる程の精度じゃない。一見するともう打つ手は無いように思える。
(フッフッフ!
一体どうするのか、答えは簡単! 避けられないなら、避けなければいいのだよ!
実は岩の散弾が飛んできた辺りから、私はとある作戦の為に、蟻の周りをグルグル回るような動きをしていた。
(…適当に避けてたら偶然そうなった訳じゃないよ?本当だよ。)
コホン、取り敢えずその結果、岩塊は蟻を中心に円を描くように転がっている。
そしてその岩塊には私の魔素が含まれている。 え?使用権を奪っただけでお前の魔素じゃないって? 細けーことはいいんですよ!
(ユニークスキル「略奪者」発動!)
周囲に転がっていた岩塊がコゴゴ、と音を立てて蟻の周りを転がり始める。重力支配で他の岩を巻き込みつつ、岩塊は大きくなっていく。岩のボールみたいだ。
(地爆天星!ちょっと違うけど!)
(あれ?私って風属性だったよね? うーん変だな)
若干アイデンティティーを失いつつ、さっと岩のボールの後ろに隠れる。
蟻は岩塊を発射し続けてるけど、勢いづいた岩ボールは止まらない。ついでに風魔法と略奪者もフル稼働でサポートする。
守る必要もうないからね!
「ギャ―!」
岩ボールと激突した蟻は、そう叫んで爆発した。粉々になった蟻の残骸から、漏れた魔素が私に取り込まれる。
ハアハア…! 割と危なかったが何とか私は勝利を勝ち取ったのだ!
《確認しました。スキル「砂岩弾」を獲得しました。ユニークスキル「略奪者」に組み込まれます。》
砂岩弾ってさっきの蟻が使ってたスキルかな? 検索結果が送られてくる前に決着したから分からないけど。これであの岩ボールも任意で発動できるってことだよね。
風竜から遠ざかってる気がするけど、まあ戦力強化に越したことはないし大丈夫!
そう結論づけた私は、再び東の山脈へと歩みを進めていくのだった。
あれから砂漠を進んで数日。
そうして移動しつつ思ったのは、この土地は基本的に生物はおろか魔物すら見当たらないって言うこと。多分ここいら一帯に満ちている、汚染された魔素が原因だろうけど。
それでも私が平気でいられるのは、スキルの呪縛無効・汚染浄化と「略奪者」の範囲支配で周囲の空間を安全にしているからだと思う。
何で今そんなことを言うのかって言うと、私に再び敵が迫っているかも知れないからだ。
その根拠になりそうなのが、先日襲ってきたあの巨大な蟻。
私が生まれた時、親はおろか巣や他のタマゴすら無かった。そうすると私は何処から来たの分からない。
もしかしたら、私は「何もない所からいきなりスポーンした」のかも知れない。
そして私が通りすがりに浄化して、魔物がスポーン出来る環境が整った場所で、あの蟻も同じようにスポーンしたと考えると合点がいく。
(あの蟻って私の通った所しか通らなかったし、腐食耐性が無いのかも?)
この砂漠に吹き荒れる砂は体を腐食させる…… 弱点発見。これで勝ったな!
そして、魔物は私の通った跡に…つまり後ろからやって来る。そいつらを千切っては投げてれば、どんどんスキルを獲得出来るんじゃないかな!?
(EPも増えて進化も近くなる!お得!)
出会った魔物は片っ端から倒そう、とそんな物騒なことを決意する私なのだった。
砂巨大蟻は、本編に出ていたジャイアントアントの亜種のようなイメージです。
蟻を相手に苦戦している主人公は、タマゴなので物理的には弱い感じです。カザリーム相手に優位だったのは単に相性の関係です。