有職転生〜関係ないけど本気だす〜   作:Tの決戦兵器※支援絵配り隊

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第十二話『天才の発覚』

 

 

グレイラット邸の外でザァザァと雨が降っている中、その内側に一人の少年とその眼前の湯に浸かる少女が一人。

 

現在、少年アルクトゥルスは少女イオの長い金髪と背中を入念に洗っている真っ最中。

 

何故兄妹でもない彼、彼女が仲良く背中を流しているのかと言うと、ここに来るまでに雨に打たれ、その身を濡らしたせいという理由がある。

 

だが雨に打たれたくらいで何故そこまで入念洗っているのか?と言われそうではあるが、そもそも水自体が菌の増殖しやすい環境なのだ。

 

しかも水だからといって放置すれば衣服が臭い出すため、アルクトゥルスの行動は間違っていないと言えるだろう。

 

と、言っても本人にそのような意図はなく、ただ単純に()()()()()一生懸命になっているのだが…

 

まぁそうは言っても、イオが清潔なままでいて欲しいという考えもあるので、あながちないとも言えない。

 

 

そんな彼の今の心境はというと、とても穏やかとは言えない。

 

その理由を一つ挙げるとすれば、彼がイオの背を流していることだろう。

 

背中を流しているので前は見えないものの、背中越しでも身体のラインは見える訳であって、アルクトゥルスにとっては彼女の背中をタオルで一度洗うだけでも頭が悶々とし、上手く回らなくなる程のある種の修行なのだ。

 

そこに彼女、イオのそのスタイルが追加されることで、俺彼の頭はクラッシュ寸前にまで追い込まれる事となっていた。

 

というのも、イオのスタイルは六歳にしては異常で、『ボンキュッボン』の内最初の『ボン』こそないものの、残りの『キュッボン』が彼女にはなんとあるのだ。

 

しかも少しではあるが、既にその『ボン』の部分が若干膨らんできているところも、アルクトゥルスの脳の溶解に拍車を掛けていることだろう。

 

だが、一番の要因はやはり相手がイオである事に他ならない。

 

前にも言ったかもしれないが、彼は今の今まで『恋』と言うものをしたことがない。

 

そしてそれは、彼の()()も例外ではない。

 

彼は、前世の三十四年という長い時間の中、本当に一度も誰かを本気で好きになった事どころか、少しでも好きになったことすら、

ない‼︎

のである。

 

更に言うと、彼は自分をEDではないと言っているが、彼自身人生で一度として勃った経験がない。

 

ただ彼がそのことについて特に気にしていなかっただけなのである。

 

気にしていないから、病院に行って検査もしていないのでED判定されていないだけで、実際のところ彼自身もよく分かっていない。

 

だから、今彼が『前世だったら勃ってたなぁ…』と思っているのも、根拠のない想像妄想に過ぎない訳だ。

 

まぁ、それほどまでにこのイオとの出逢いは、アルクトゥルスにとってとてつもない衝撃(インパクト)を与えたということだ。

 

そんなこんなしていると、アルクトゥルスは濡れたタオルを動かすのをやめた。

どうやら、大方洗い終わったらしい。

 

背中を再度チェックし、汚れが残っていないか確認すると、彼はしばらく閉じていた口を開いた。

 

 

「ほら、洗い終わったぞイオ」

 

「うん、分かった〜」

 

 

イオの伸びた返事を聞き彼は、ようやくこの悪魔的天国が終わった…と感じると共に、ちょっと勿体ないなぁ、とも感じながら、床に腰を下ろした。

 

あとはイオが着替えて部屋を出るのを待つだけ。

 

そうやって少しの間休んでいたアルクトゥルスだったが、いつまで経ってもイオが桶から出ようとしない。

 

 

「あー、イオ?背中は流し終わったぞ?」

 

「ん?そうだね」

 

「…いや、そうだねじゃなくて。イオが出てくれないと俺が入れないんだが」

 

 

イオの言葉にそう返すが、イオはキョトンとした顔でこう答えた。

 

 

「前は洗ってくれないの?」

 

「それくらい自分で洗いなさいッ!」

 

 

そう言うと、アルクトゥルスはイオの後頭部にボフッと未使用のタオルを投げつけた。

 

こんな漫才の様なことをしているが、その状況下でもアルクトゥルスは、イオが怪我をしないように、投げつけるタオルは手にしていた水に浸かった重い物ではなく未使用の軽い物に。

 

それに加えて投げつける速度は怪我しない程度に抑えて投げるという、イオへの最大限の配慮を怠っていないのは、彼のイオに対する愛の賜物と言えるだろう。

 

だが、アルクトゥルスのそんな配慮は梅雨知らず、イオは「もー、アルのケチ〜」といつもの伸びた言葉を口にしつつ、頭に巻きつくように被さったタオルを手に取り、先程の入念な洗い方とは程遠い適当さで体を拭き始めた。

 

先程のアルクトゥルスの洗い方が『ゴシゴシ』なら、今のイオの洗い方は『サッサッ』という擬音が一番適切であると言える。

 

そうやって適当に体を拭くこと数分、彼女の手は一箇所拭いては止まり、一箇所拭いては止まりと、洗う部分が少なくなってきた様子。

 

彼女も、そろそろいいかな?と思い始めてきたようだ。

 

ちなみにアルクトゥルスは何をしているのかというと、タオルをイオの頭に投げつけてから、ずっとイオの反対側を向いてじっと座っている。

 

部屋から出はしないのかと思うだろうが、そうやって部屋を出ようとしてまた先程のような状況に陥ってはいけないと思い、仕方なく待っているのだ。

 

と、言っても、彼自身のイオの体を吹く音を聞いておきたいという、変態的願望も、無くは無いが…

 

そうしてアルクトゥルスがイオが服を着るのを待つこと数分後、人の着替える時特有の布の擦れる音が消えたと思うと、座って待つアルクトゥルスの右側に、イオが後ろから顔をヒョイっと出してきた。

 

 

「はい、終わったよアル。どうかな?臭ったりしてない?」

 

 

イオがそう言って自分の匂いを気にする仕草をとると、少しだけアルクトゥルスもスンスンと、すぐ横に垂れている彼女の長い髪の匂いに意識を移す。

 

イオの髪からは、これと言った刺激臭のようなものはなく、むしろシャンプーでも使ったのかと思えるほど、(かぐわ)しい花のような香りに満ちていた。

 

体からも、特に臭いといった感じの匂いは感じ取れないあたり、問題ないだろうと考えたアルクトゥルスは、

 

 

「いや全然。むしろいい匂いがするな」

 

 

と、返事を返した。

 

深く考える事なく返した純粋な返事にイオは声音を上げ嬉しそうに、

 

 

「えっホントに?ありがと〜」

 

 

と言いアルクトゥルスの背にバッと抱きついた。

 

その瞬間アルクトゥルスの顔もボッとなった事は、言うまでもない。

 

だが、なんとかそれを抑えたアルクトゥルスは、一旦一息ついて、じゃあちょっと外で待っててくれ、と言おうと息を吸う。

 

 

「じゃあ次はアルだね。ほら、体洗うから服、脱いでね」

 

 

抱きつかれたまま耳元で囁かれたその言葉に、アルクトゥルスは顔から湯気が出た。

 

 

 

 


 

 

 

 

結局抵抗も虚しく、アルクトゥルスは湯に入り、イオはその背中を嬉々として流された。

 

一応条件として流すのは背中だけとしたものの、自身が好意を向ける相手が懸命に背中を流していると考えると、それだけでもうアルクトゥルスの頭は悶々として考える事をやめてしまいそうになっていた。

 

だがアルクトゥルスはそれを鋼?の意思でギリギリのところまで耐えることが出来た。

 

この身体は幼くとも、知識は大人。

()()()()()は知ってはいたので、抑えなければ自分でも何をするか分かったものではない。

 

その為、アルクトゥルスは一層心を強く持った。

 

 

その後、なんとか二回目の悪魔的天国を乗り切り、今は服を着てからも雨が止む様子がないので、イオに適当に雑学を教えている真っ最中だ。

 

この光景を両親が見れば、二人仲良く本を読んでいる、もしくは本を読む真似をして遊んでいるようにしか見えないだろう。

 

今現在は雑学を教えるにあたって必要だった数冊の本の内の一冊である、列強博書を開き、一つ一つ丁寧にイオに読み聞かせている。

 

そう()()()()()ているのだ。

 

魔術は口頭で伝えていた為失念していたことであった。

イオは読み書きが出来なかったのだ。

 

よく考えてみれば当たり前のことであった。

この世界では普通、特に農民レベルの人間は読み書きが出来ないのだ。

 

それは中世を参考にすれば分かることだが、国の方針を一人で決める政治体系を保つためには、周りの多くが頭が良いと途端に反発が起こってしまう。

 

周りの多くとはすなわち国民であり、反発されれば国が回らなくなるのは明白。

しかも高度な教育には長い時間と労力、そして金を要する。

 

そういったデメリットが多い為、基本的に学校などの教育機関は少なく、通うための学費は貴族の(たぐい)や豪商が払える程の金額に設定されたものがほとんど。

 

更にそこに奴隷制度が加われば、もはや教育に意味はない。

 

農奴(農奴という身分から上がることを家系ごと許されない人間)や奴隷といった下の人間によって支えられている世界では、全員の教育はデメリットなのだ。

 

本当によく考えてみれば分かることだったのだが、ここに至るまでの読み書きのできる人に会った比率と、現代日本に生きていた頃の考え方、ここが異世界であるということの偏見などが、この事を気づかせるのに随分と手間取らせたのだ。

 

もちろん、この世界は魔術や剣術のあるファンタジー世界だから、一概にそうとも言えないが。

 

ともかく、今は雑学よりもまずはイオに読み書きを教えることが重要だと思い知るアルクトゥルスだった。

 

と、アルクトゥルスは思っていたのだが…

 

現在イオは、物凄いスピードで読み書きを習得している。

 

どのくらいのスピードでというと、5分前まで本のタイトルすら理解が出来てなかったのに、今ではそのタイトルの意味や、そこからどういう内容が書かれているのかを考察できるようになる程、凄まじい習得スピードを見せている。

 

これはモノの例えなどでは無く、本気(マジ)本当(リアル)に5分なのだ。

 

兄であるルーデウスや、水聖級魔樹師であるロキシーの影響でこちらも感覚が狂っていたが、そもそも初級魔術の全てと、中級魔術のいくつかを()()()かつ()()()で、しかも()()のみで覚えるなど、尋常ではない理解力がなければ不可能なのだだ。

 

アルクトゥルスは人にものを教えることが得意という訳ではなく、彼自身、むしろ下手な部類だと考えている。

 

実際、彼がイオに魔術を教える際は、父であるパウロほどでないにしろ、一定の割合で擬音による説明も、なくはなかった。

 

そんな説明でも、イオはその意味を的確に汲み取り、必ず一度で成功させてきた。

 

魔術の訓練も、どちらかというと魔術の習得よりも魔力総量の増幅に時間を割いていた節が、いくつもある。

 

これでハッキリしただろう。

 

 

 

彼女、イオは……

 

 

 

 

       ()()であると…

 

 

 

 

 

 

 

※ちなみに、アルクトゥルスはテンパってて気づかなかったが、別の場所で自身の兄がとんでもないことをやらかしていたのは、また別の話。

 

 

 

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