有職転生〜関係ないけど本気だす〜 作:Tの決戦兵器※支援絵配り隊
リーリャが我が家の第二の母になって、早数ヶ月。
彼女は慣れない日常に戸惑いつつも、着実に我が家での立ち位置を確保していた。
家族と共に食卓へ座り、団欒の中に混ざる。
そうして、いつの間にか母ゼニスとも楽しそうに会話するくらいの仲になっていた。
そんなこんなしている内に、二人の母の子は産まれた。
二人の誕生はほぼ同じ時間。
どうもリーリャの方は早産だったらしく、ゼニスの出産が終わると同時に産気づいた時には、俺もちょいと驚いた。
親父の方はもはや軽いパニック状態だ。
流石に驚きすぎだっての。
だが、それでも出産には特に影響はなく、無事二人共元気な子を産んだ。
二人の子はどちらも女の子だ。
ルーデウスが望んだ通り妹ができたわけだ。
親父はゼニス方の妹に『ノルン』、リーリャ方の妹に『アイシャ』と名付け、馬鹿丸出しの顔でキメェ笑い方をしていた。
威厳は
ともかく俺達に妹が二人出来た。
俺は兄弟なんぞ知らないから結構新鮮だ。
だが、ここからが大変だった。
ノルンとアイシャはよく泣いた。
特にノルンは一日中泣きっぱなしだった。
朝から晩まで泣いていた。
対してアイシャは必要な時以外泣かなかった。
乳を飲む時漏らした時怪我をした時、その時だけ泣いて人を呼ぶのだ。
といっても手の掛かる事は同じなので、父も母も俺達が静かだったためかそんな状況に慣れておらず、すぐにノイローゼになってしまった。
生命線はリーリャとルーデウスと俺だ。
リーリャは嬉々として子育てをこなして、ルーデウスも
俺は弟も妹も持った経験が無いためまだ拙い事しか出来ないが、長期間寝ずに作業も出来るので、二人の寝ている間の夜泣きにはとても重宝された。
ちなみにリーリャはまだ俺のことを坊っちゃまと呼ぶ事がある。
咄嗟の時や反射で呼んだ時とかだ。
それでも偶にはアルと呼んでくれるので、それも愛嬌という事にしている。
一方、イオの方はというと…
「はーいノルンちゃーん。こっちですよ〜」
我が家で二人の面倒を見るのが日常風景のようになっていた。
彼女、子供好きな一面もあるようで、雑学の勉強が終わるといつの間にかよく二人(主にノルン)の相手をするようになったのだ。
最初はリーリャも止めていたが、彼女が自ら望んで世話を焼いていると知ってからは、むしろアドバイスをしているのをよく見かける。
知らない間にイオの女子力が物凄い勢いで上がっている…
というか元から高かったか。
不思議なことに、彼女がノルンの相手をしていると、普段はあまり動かないノルンも彼女の方にハイハイをして近づいて行くのだ。
髪色が母と同じ金髪だから、親戚か何かだと思っているのかもしれない。
今だって、ノルンは自身を呼んだイオの元へ近づいて行っている。
「よく出来ましたね〜良い子良い子」
そうして近くまで来たらノルンを持ち上げ頭を撫でる。
これがイオのいつもの行動パターンだ。
笑っている姿がとってもキュート、うーん天使(^^)
そんなイオが今日はいつもより楽しげだ。
どうしたのかと聞いてみると、結構意外な答えが返ってきた。
「今日ね、ここに来る道のりで、旅人っぽい服装の人にコレ、貰ったの!」
そう言ってイオが見せてきたのは子供サイズの指輪だ。
小さな赤い宝石のついた、銀の指輪だ。
魔力眼で見ると、なんか変な感じの魔力をしている。
「へぇ〜こんな高そうな物よく貰えたな」
「えへへ〜私が可愛いからくれるって言ってたぁ。私って、可愛いのかなぁ〜」
そう言いくねくねとさせる姿は少々癪だが、イオだから許しちゃう。
「旅人っぽいって、具体的にはどんな感じだった?一人だった?それとも複数?」
「えっとねー、見た限りでは四人くらいの人達で、みんな外套を羽織ってて、剣も持ってたよ〜」
ふむ…となると冒険者のパーティか。
この村は宿はないから適当に寄っただけ、か?
この村に宿がない事を知らなかったとしたら、たぶんここら辺の人間じゃないな。
「顔はー…ごめんなさい、みんなフードを深く被ってて見えなかったの」
「あぁ、いや。いいよ、ちょっと気になって聞いてみただけだから」
その後、親父にも言ってみたが、たまにそういう物好きも来ると言っていたので、俺はこれといって興味も薄く、すぐに忘れていった。
事態が動いたのは、さらに数ヶ月後の事だ。
その日は、いつもより妹たちの世話に時間がかかり、イオの帰る時間が遅くなってしまった。
結局、終わる頃には日はもう落ちかけ寸前で、辺りも暗くなっていた。
俺はイオに、俺が家まで付き添うか、ウチに泊まって行った方がいいんじゃないか?と彼女に聞いたが、彼女は、
「アルがこっちまで来ちゃったら、アルが帰る時には真っ暗になっちゃうし、泊まるにしても迷惑を掛けることになっちゃうから、一人で帰るよ。大丈夫!暗くても帰り道くらいは分かるから!」
と言って、そのまま帰っていった。
思えば、この時点で止めておくべきだったと思う。
そうして日は沈み、もう寝る時間になった頃、急に前触れも無く風と共に大雨が降り始めた。
最近はもう春になる時期だが、それでもまだ夜の外は寒い。
この大雨に打たれれば、風邪を引くのは間違いないだろう。
今すぐにでも彼女の元へ行って傘を届けたい衝動に駆られるが、そうなれば両親に迷惑をかけると考え、その気持ちを抑える。
俺は治癒魔術が使えないので、彼女にはまだ解毒魔術は教えられていない。
母がよく怪我をした妹たちに初級の治癒魔術で治しているのを見ているから、それは使えるかもしれないが…
せめてイオがこの大雨が降るより先に家に着いている事を祈り、俺は眠りについた。
俺は一階からする物音に気付き、目が覚めた。
時間はもう深夜頃か。
ほんの少し窓を開けてまだ雨が降っているのを確認した限り、まだそんなに時間は経ってないように思える。
せいぜい一時間か、二時間と言ったところか。
俺は、起きたばかりの眠い目を擦りつつ、下の様子を見に自室の扉を開け、廊下に出た。
またノルンあたりが夜泣きでもしたかと思ったが、一階の玄関あたりからは人の話す声が耳に入ってきた。
この声…親父と母と、あと2人は…イオの両親、か?
その会話に、俺は廊下から耳を傾けて盗み聞く。
「パウロさん!イオが、娘がまだ家に帰ってきてないんです!」
…………は?
俺は青褪めた。
イオが帰っていない?
なんのことだ?
「いつもなら日が暮れる前には帰ってくるのに、日が沈んでも雨が降っても帰ってきてないんです!そちらで泊まっていたりしませんか⁉︎」
「…いや、アルが『迷惑になるからと言って帰った』と言っていたから、それはない」
「そ、そんな…」
親父の言う通り、イオはこの家にはいない。
もうとっくに家に帰っているハズだ。
「すれ違いになったんじゃ…」
「来る時も周りをよく見ていたのでそれはないです。あの子は話した事のない人の家に泊まったりはしないでしょうから、この家にいないなら…」
「…目の良いお前が言うならそうなんだろうな」
…可笑しいな、激しい運動をした訳でもないのに息が上がってやがる。
いや、これは動揺か…
だが落ち着けアルクトゥルス、ここで出て行ったってみんなの迷惑になるだけ、だろ?
子供の俺が出て行って何になるってんだ。
親父に任せたほうが早いに決まってる。
案外簡単に見つかるかもしれないだろ?
そう、そうだ。
だから俺は何も聞かず、考えず、ただ部屋に戻って、扉を閉じる。
簡単だろ?
俺は自分にそう言い聞かせ、さっき感じたモノと同じ、だが遥かに強い焦りにも似た衝動を抑え、後ろを向く。
だがその時だ。
「パウロさんお願いします!娘を探してください!賢い娘が道に迷うなんて考えられない!何者かに誘拐でもされていたら…」
誘拐、この二言を聞いた俺は、目を見開いた。
その瞬間、俺の枷は外れ、自室の棚に立て掛けていた二振りの剣を
廊下を出て、玄関を抜けて、土砂降りの雨の中を走った。
親父の声が聞こえたが、構やしない。
俺は、右目に付けている包帯を破り捨てるように外し、魔力眼を開眼させた。
この土砂降りならそこまで遠くへは行けないだろう、そう直感し、イオの膨大な魔力を捉え、そちらに走り出した。
よく使っていたからか、俺は魔眼二つを同時に使っても前みたいに痛みはしなかった。
見える物を魔力魂に絞り負担を軽減したおかげかもしれんが今はどうでもいい。
イオの元へ急ぐ、ただそれだけだ。
アルクトゥルスが行ってしまった。
俺達四人の間を縫うように何かが駆け抜けて行き、それがアルだと分かった時にはもう遅かった。
あいつの名前を叫んで止めようと振り返った時、その時にはすでにアルの姿は影も形もなく、叫んだ名前もただ月灯りもない大雨の降る真っ暗な夜にただ霧散しただけだった。
我ながら、本当に情けない親父だと思う。
俺があいつに教えてやれることは剣の事くらいで、それ以外は全てあいつの努力。
拾ったのは自分だってのにろくに面倒も見れず、挙句拾われた身である事すらアルにはとっくにバレてて、それでも尚家族を助けようとした。
オレはあいつの父親である自信がない。
もしかしたらルディ以上に…
アルにはオレともルディとも違うものがある。
真っ直ぐなのだ。
他のヤツからはどう写っているのかは知らんが、少なくともオレはそう感じた。
あいつはただ一心に『家族』と呼べる者のみを本当の意味で尊重しているように見える。
あいつの『家族』の範囲がどれくらいかは分からないが…
少なくとも今。
イオの窮地を知って真っ先に駆け出していった。
あの頃のオレなら、そんな事思いつきもしなかっただろう。
特にあいつはイオに対して、絶対に裏切らないという固い意志を感じる。
六歳になって間もない子供とは思えない考え方だ。
まぁ、それがあいつの特徴なのかも知れないが。
昔鍛錬していた剣神流道場の師範は言った。
『剣神流に必要な物は何かと言われると様々な考えがあるが、私は何よりも必要なのは愚直で真っ直ぐな
と。
俺には最後までそれがよく分からなかったが、子供を持ったせいか、段々と分かってきた気がする。
アルは剣神流の成長が少し遅いが、もしあの師範の言葉が正しければ…化けるかもな。
だが、今はそんな事より他にやるべき事があるのだ。
オレは一旦、ファランベール達に帰ってもらい、捜索の準備をする事にする。
リーリャにも話を通しておいた方が良いだろう。
アルの事は、俺みたいなダメ親父よりはよく知っているだろうからな。
大方やる事が決まり、オレは顔を上げる。
「アル、二人共。無事でいてくれよ…」
数kmほどの距離を全力疾走し、深い森の中に入ってしばらく進んだ後速度を落としながら俺は足を止めた。
目の前には暗い闇の中に数個の光があたりをウロウロしている。
その正体は外套を羽織った数人の冒険者風の格好をした男共が、ランタンを片手に徘徊しているのだ。
そしてその奥には馬車が一台と中に強力な魔力魂の反応。
間違いない、コイツらがイオを誘拐した誘拐犯共だ。
ここまで来るまでに先程よりかは幾らか冷えた理性で、力尽くでもイオを助けたいという感情をグッと抑え、見つからないように茂みに身を隠す。
イオの周りで魔力眼による索敵は効果を為さない。
彼女のその大きすぎる魔力が、彼女の周りの魔力を覆い隠してしまう為だ。
見え方としては、太陽の光を見ていると眩しさで太陽の周りの空がその光で見えなくなるアレと似ている。
見ようと思えば見れるが、魔力眼の負荷を最小にしても頭痛がするので、現状では実用的とは言えない。
どうやら魔術で細かい物を作ろうとすればするほど魔力消費量が増えるのと同じで、魔力眼もよく見ようとすればするほど負荷が大きくなるようだ。
ちなみに、ルーデウスの魔力魂もそうかと言われると少し違う。
魔力魂の見え方は人によって違うのだ。
なのでルーデウスの近くにいても索敵に支障が出る訳ではない。
あくまでイオの近くでは、だ。
話が逸れたが、そういった理由で俺はいつも以上に慎重にならざる負えない。
この暗い中、自力で敵を索敵し、イオを救い出す必要がある。
全員殺してしまえば早いというのは大間違いなのだ。
確かに人を殺したくないという考えもあるが、それ以上に敵の戦力も分からないまま突っ込むのはバカのする事だろう。
ましてや俺はご都合主義で塗り固められた最強チート主人公ではないのだ。
もちろんイオが危険に晒されれば命でもなんでも投げ打って守るが、その必要がないなら戦いは避けるべきだ。
そこらのゴロツキよりは強くなれた実感はあるが、それでもこの身体は子供。
大人相手に力比べになって勝てる道理は、まず無いと言っていい。
だから今回、俺は隠密行動をする。
慣れない方法だが、これしかないだろう。
ランタンの数からして、大体六人くらいか。
まだ春になったばかりだってのに律儀に見回ってやがる。
よく見てみると馬車の方は車輪が片方おもいっきり地面に埋まっている事から、雨で
馬車にはどこぞのF○で見たような感じの白い天幕が貼られている。
目的地までは行商人とでも装う予定だったのかね。
だが相手は慣れない土地で、しかも真夜中の雨で見張りは六人。
当然穴は見つかった。
結果、俺は見張りの目を避けつつ、馬車の近くの茂みからそこに乗り移る事に成功した。
中に居たのはただ一人。
純金のような金髪は乱れ、口には
気絶しているイオである事が分かるのに、時間は必要なかった。
だが、決して冷静を欠いたりはしない。
大きな声を出せばバレてしまうからだ。
どれだけ嬉しくても、だ。
俺はゆっくりと、持ってきたダガーで手首の縄を切り、彼女の猿轡を外した。
硬く結ばれていた所が赤い跡になっていて痛々しい。
それを見て俺は再びこの誘拐犯共への怒りが湧いてくるが、今はそれよりも先にイオを起こす事を優先した。
イオ、イオ…!と小さく呼び掛けながら優しく揺さぶる。
するとゆっくりと、だが確実に、イオの
「…ア、ル…?アルなの…?」
「ああ、イオ。助けに来た」
目覚めたばかりの拙い質問に、俺はそう答える。
イオは、その言葉に安心の表情を浮かべ、涙がその頬を伝った。
「本当に、アルだ…よかった…もう誰もッ、来てくれないんじゃないかって、ヒグッ、起きたら知っている人ッ、居ないんじゃ、ないかってェッ、私ッ……ッウゥァ……」
「あぁ、大丈夫。俺が来たんだ。助けにな、だから心配する事はない。大丈夫、大丈夫だから」
泣き声を抑えようとしているあたり、状況は大体把握済みのようだ。
後はイオを連れて帰るだけ。
「さぁ泣き止んで、あまり時間はないぞ。立てるな?」
「ヒック…うん…立てるよ」
「よし。なら帰ろう」
俺はイオの前に立ち、魔力眼を使い近くに敵の気配がない事だけ確認し、警戒を切らさずゆっくり外に出る。
幸い、こちらに目を向けている者はおらず、イオに大丈夫と合図を送って俺たちは早々に馬車を出る。
近くの茂みに入り、身を隠しながら進む。
イオは状況を理解しているからかそれとも緊張しているからか、ずっと無言でついて来ている。
本当に強い子だ。
イオが静かについて来てくれていた事もあり、特にピンチになる事もなく、もうすぐ警戒網から抜けれそうな所まで来た。。
だが悪いことに、いつの間にか雨はほとんど止み
これは本格的に早く逃げた方が方が良さそうだ。
完全に雨が止めば、奴らは馬車を動かそうとするだろう。
その時になってイオがいない事に気付かれて、追手が来たらマズイ。
急がなければ…
「ねぇアル」
「うん?」
なんだ?
イオに小声で呼ばれ、俺は足を止めて振り返る。
「いつもアルは右目に包帯を巻いてるのに、なんで今は外しているの?」
「あぁ、俺の両目は魔眼になっててな、いつもは負担が大きいから包帯を巻いてるんだ」
「魔眼って、どんな…?」
「そうだな…右目の魔眼は魔力眼って言う魔力を直接見る魔眼で、お前の場所が分かったのもこれのおかげだ」
「あの人達の場所が分かったのも?」
「ああ。といっても、今は場所は正確にはあまり分からない。精々相手の人数が六人って事くらい…ってこんな事話している時間はないんだった。早くここから離れー」
「ー私が見た時は七人だった…よ…?」
………七?
瞬間、俺の後頭部に強い衝撃が走った。
気付けば俺の体は宙に浮き、重力に従ってバシャッドチャッとバウンドして雨で濡れた地面に倒れ伏していた。
……ぁ?