有職転生〜関係ないけど本気だす〜 作:Tの決戦兵器※支援絵配り隊
この家に拾われて半年が経った。
俺は最近、ハイハイが出来るようになった。
この調子なら更に半年後には二足歩行も夢じゃないだろう。
右目は相変わらず見えないまんまで、うんともすんとも言わない。
目自体はあるようだがどうも自分のものじゃないような感覚がある。
まあ、いずれ分かるだろう。
そんな片目だけの生活を続けていた為か、遠近感覚はだいぶ戻ってきた。
壁にぶつかりまくってその度に冷や汗をダラダラ掻いていた両親の顔がもう懐かしい。
あぁ、両親といえばこの家はどうやら3人家族(俺を入れたら4人家族だが)らしく、母と父、そして兄がいて俺はその弟、次男なのだそう。
あとメイドが一人。
だいぶ裕福な家庭だ。
半年で言葉も結構分かるようになってきたので言ってる事も大体分かるようになった。
物覚えが異常に良いのはまだ成長期だからだろう。
兄は両親にルディと呼ばれているがたぶん愛称。知らんけど。
俺もアルと呼ばれているがたぶん愛称だ。
本名が全く分からん。
両親も基本名前で呼び合うことがないので分からない。
だが、メイドさんの名前は分かった。
メイドさんの名前はどうやらリーリャと言うらしい。
彼女はあまりルディが好きではない様子で、姿を見かけるとあからさまに嫌な物を見る目をすることがある。
ある日、どうしてか気になった俺はルディの方も見てみた。
なんということでしょう。
そこには子供とは思えないいやらしい目で彼女の胸部を凝視する
こんなん俺でもリーリャみたいな目になるわ。
これはー…ま、ルディの自業自得というものだろう。
俺は別に嫌われている気はしないんだがなぁ。
まあとにかく、本名もルディもいずれ時が解決してくれるだろう(白目)
今日もテキトーに家中を移動していると俺は台所に行き着いた。
ふと周りを見渡すと椅子の上に乗り、窓の外を見つめるルディが目に入った。
何してんだろ。
少々気になったので、俺はルディの乗っている椅子の上の隣に立ち、窓を覗いた。
するとそこには、家の庭で剣を片手にブンブン振り回している親父の姿があった。
まぁ、ファンタジーの世界なんだからそれくらいは、ね。
そう思ったその時、後ろからドテッという音がして俺は後ろを振り向く。
見るとどうやらルディが驚いた拍子に椅子から滑り落ちたようで床の上に仰向けに転がっていた。
おいおい大丈夫なのか?
こんなんで初めての兄弟が死んだ、とかなったら俺ショックで泣くぞ。
「キャア‼︎」
ルディが落ちて間もなく、母が悲鳴を上げ、顔を真っ青にしてルディの元へ慌てて駆け寄る。
「ルディ!大丈夫なの⁉︎」
母は、ルディを抱き上げ異常がないかを確認すると安堵して胸を撫で下ろした。
「……ほっ、大丈夫そうね」
俺から見ても大したことなさそうだ。
せいぜいたんこぶ程度くらいか。
椅子の上からルディの頭頂部を覗き込みながらそう思っていると、
「でも、万が一の事もあるし、念のため…」
と言うと、母はルディの頭に手を当てて、
「神なる力は芳醇なる糧、」
と何かを唱え始めると、ルディの頭の手を当てた部分が光りだす。
ルディは何してんだろって顔して母を見ている。
「力を失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん」
「『ヒーリング』」
そう言った瞬間、母の手が淡く光った。
「さ、これで大丈夫よ。母さん、これでも昔は名の知れた冒険者だったんだから」
そう母は自慢気に言う。
生まれて半年の息子に言葉が分かると思っているのだろうか?
にしてもホントルディって泣かないよなぁ。
初めて会った時から泣いてるの見たことないし。
すると、母の悲鳴を聞きつけて父が玄関から入って来た。
「どうした?」
「聞いてあなた、ルディったら椅子の上になんかよじ登って…危うく大怪我するところだったのよ」
と、母は父の方へ駆け寄る。
まったく、ヒステリックな母ちゃんだゼ!
まあ俺も言えんけど。
「男の子はそれくらい元気なのが丁度いいじゃないか」
「あのねあなた、この子は生まれてから一年も経ってないのよ?もっと心配してあげて!」
「そうは言ったってな、子供は落ちたり転んだりして丈夫になっていくものじゃないか。それに怪我をしたなら、その度におまえが治せばいい」
「でも、あんまり大怪我をされて治せなかったらと考えると心配で…」
「大丈夫だよ」
父はそう言い、母とルディと俺を一緒に抱きしめた。
母の顔がみるみるうちに赤く染まる。
「最初は二人共泣かなくて心配だったけど、こんなにヤンチャなら大丈夫さ…」
父は母にチュッとキスをした。
果たして子供の前でそんな事してもいいのだろうか…
その後、二人は俺達を隣の部屋で寝かせると、そのまま二階へ上がって行った。
ナニをするかは言わないでおこう。
…『最初は二人共泣かなくて心配だった』か…
一歳になった。
俺が予想した通り、もう二足歩行が出来るようになった。
それどころか、駆け足くらいは出来るようになった。
毎日家中動き回ってトレーニングしたのと、俺の天性の運動センスの賜物だろう。
だが、やはり前世の高校生時代の頃の体力よりは圧倒的に下なので、もう一年くらい身体作りを継続しようと思う。
ちなみに俺が初めて立った時、もの凄く早い息子の成長を見て父は、
『こいつは天才だ!今すぐ剣の稽古を始めよう!』
と言っていたが、速攻で母に止められ父の野望は数秒で潰えた。
一方ルディの方はというとまだ歩くこともおぼつかない様子だ。
なんだか野菜の星のエリート王子にでもなった気分だ。
今日はリーリャの手伝いをしようと思う。
なぜ急にそんなことを、と思っただろう。
もちろんちゃんと理由はある。
先ほど、もう一年身体作りを続けると言ったが、どうせやるなら効率的かつタメになることをした方がいいと俺は考えた。
そうして行き着いた先が手伝いというわけだ。
手伝いなら、両親に怪しまれることもなく様々な筋肉を適度に鍛えられ、家事も出来るようになる。
そして何より子供らしい!
これ以上完璧な筋トレ法はない。
だが問題は俺の唯一の欠点である、『対人恐怖症』が邪魔しないかということだ。
今回はリーリャに手伝いの許可を得る必要があるからな。
少々不安要素はあるが…どうにでもなれ、だ。
俺はキッチンに足を進めた。
彼女はすぐ見つかった。
もうすぐ夕食ということもあり、今は調理の真っ最中だ。
とりあえず俺は機会を待っていると、まな板に置かれていたジャガイモがリーリャの脇を通り抜け、地面に落ちた。
リーリャは調理に気を取られて落ちたことに気付いていない。
きた!
俺はトテトテと歩いて行き、ジャガイモを手に取る。
パッパッと汚れを取るとそれを前に出し、
「落としたよ〜」
と、比較的子供らしい声音で話しかける。
リーリャは俺の声に気づいたらしく、
「あっ、ありがとうございます。アルクトゥルス坊っちゃま」
そう言いジャガイモを受け取ると、微笑みながらリーリャはこちらに手を伸ばす。
俺はその手にどうしようもない恐怖を覚え、咄嗟に身構えてしまった。
しまった
失敗した、そう思った。
俺のようなコミュ障野郎には、まだ早かったのか?
治ってきたと思っていたのは、ただの俺の勘違いだったのか?
哀しい。
ただ哀しみだけが積もる。
それくらい俺は俺を信じていたし、信じたいと思っていた。
だが、それがただの勘違いで、祈りのように意味のない、空虚な物だった。
そう思うともうダメだった。
その時だった。
頭に、何か温かいものが置かれた気がした。
リーリャが俺の頭を撫でていたのだ。
なにも言わず、ただ優しく、俺の頭を撫でていた。
静かに微笑みながら。
俺は、普段見せることのないその笑みを見て何故か、
もう少し頑張ってみよう。
そう思えた。
俺がそれについて話すと、リーリャは最初から決めていたように、快く頷いた。
また一年経ち、俺は二歳になった。
いや、ルーデウスもいるから、俺達と言った方が正しいか。
リーリャの手伝いを始めて、一年。
俺は家事、炊事、さらにリーリャが暇な時に読み書きや礼儀作法も教えてくれたおかげで完璧に出来るようになった。
身体作りも順調で、予想以上だ。
あと、この家のことも聞くことが出来た。
父はパウロ、母はゼニスと言うらしく、ルディはルーデウス、そして俺はアルクトゥルスと言い、この家の姓はグレイラットだそうだ。
アルクトゥルス・グレイラット…
長いな、こりゃあ普段はアルで固定かな。
さて、そんな手伝いざんまいのある日、俺は父の書斎の扉が開いていることに気がついた。
なんだ?と不思議に思い、隙間から覗く。
両親が元気にプロレスごっこをしていないことを祈り、覗いてみるとそこには、本を見てじっとしている兄ルーデウスの姿があった。
その様子は本を読んでいるようにも見える。
思えばもうずっと筋トレばっかで、ルーデウスと話したことはなかったな。
どれ、ちょいと声でもかけてみるか。
リーリャと毎日話していたからか、俺は少し調子に乗っていたと思う。
俺は扉を開けて、ルーデウスに話しかけた。
『どうしたんだ兄貴、柄にもなく読書なんてしてよぉ』
日本語で。
改善されたといってもやはり俺のコミュ障は健在だった。
ヤバい!早く訂正をー
『失敬な、俺だって読書くらいするぞ』
『……え?』
『…え?』
…なんてこった
リーリャ視点
最初は不気味だと思った。
ルーデウスも、その
なにせ二人共まったく泣くことがなく、さらにアルクトゥルスは魔族の拾い子なのだから不気味に思えてもおかしくはない。
その考えが変わってきたのは、二人がハイハイ出来るようになった頃だったか。
ハイハイ出来るようになった二人は家中どこにでも移動した。
とにかく家中どこにでも、だ。
ある日、ルーデウスを見つけた時の出来事で、私はルーデウスに本能的な恐怖を感じるようになった。
見つけるたびに笑っていたのだ。
とてつもなく気持ち悪い笑い方で。
元から不気味だっただけに、その不気味さにさらに拍車が掛かった。
だが、アルクトゥルスの方は違った。
アルクトゥルスは、はっきり言ってルーデウスより手間がかかった。
一度見失うと基本的に見つからず、見つけてもすぐに逃げられるからだ。
しかしアルクトゥルスは気持ち悪い笑みをすることはなかった。
そして家中探し回って見つけた時、大体の場合疲れたのか、見つけてくださいと言わんばかりに廊下の真ん中で眠っているのだ。
そこには確かにルーデウスにはない、赤ん坊の愛らしさがあった。
確かにルーデウスより手間はかかる。
だがそれが普通であり、子供らしさなのだと私は心からそう思った。
「ーーリャ、リーリャ」
「あっ、はい。なんでしょうアルクトゥルス坊っちゃま」
アルクトゥルスの声で、私は
「こっちの掃除は終わったから、2階の廊下を掃除しようと思ったんだけど、声掛けてもリーリャ反応がなかったから…」
どうやら心配させてしまったようだ。
「いえ、少し考え事をしていただけです。大事ありません」
そう言うと、アルクトゥルスはホッとした表情で、
「そっか。じゃあ僕、2階行ってくるね」
と言うと、雑巾を片手に階段を上がっていった。
1歳の頃から、アルクトゥルスには家事を手伝ってもらっている。
彼自身が手伝いたいと言ってきたからだ。
一歳の子に手伝ってもらってばかりというのもあれなので、最近は暇な時間に色々と教えている。
本当に出来た子だ。
だが、まだ子供らしいところも残っていることを私は知っている。
私は、足音をたてないように、静かに2階に上がるといつものようにパウロの書斎の扉の隙間から中を覗いた。
そこには、手伝いをサボって、ブツブツとルーデウスと仲良く本を眺めているアルクトゥルスの姿があった。
私は、廊下を掃除し始めた。