有職転生〜関係ないけど本気だす〜   作:Tの決戦兵器※支援絵配り隊

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第七話『魔眼』

 

 

アルが倒れた。

 

わたしは、なにが起こったのかまったく分からなかった。

 

なぜアルが倒れてしまったのか、なぜ唐突にあんなことを言い出したのか、なぜ彼は一度頭をおさえてから()をおさえたのか。

 

いくら考えても、混乱した頭では答えを出すことは出来ないまま。

 

 

気づけば、パウロさんがゼニスさんを呼び、慌てた様子でアルを抱えて家の中に入っていた。

 

それを見て我に返ったわたしは、リーリャさんを呼びに行こうとルディに呼びかけ、家の中へ入った。

 

 

リーリャさんを見つけ、なにがあったのかを話すと、彼女は珍しく驚きながらも、すぐに冷静になり必要そうな物を持って行くと言うと、その場を後にした。

 

 

アルが倒れてから半日が経ち、すでに日も落ちて家の中も薄暗い時間。

 

アルの容態はゼニスさんの治癒魔術のおかげで回復し、これ以上悪くなることはないだろうと安堵していた。

 

今、この部屋にいるのはパウロさんとゼニスさんとリーリャさんとわたし、そしてアル。

 

ルディには自室に戻ってもらっている。

 

今いるのは、パウロさんとゼニスさんの部屋だ。

 

ルディに自室へ戻ってもらったのは、アルの容態も安定したところで、一体なにが起こったのかを解明するべく、あったことをまとめてからルディに言うか決めるためだ。

 

といっても、この半日で大体の目星はつけてある。

 

伊達に30年程も生きてはいないのだ。

 

 

「それは本当かロキシーちゃん!」

 

 

パウロさんになにが起こったのか分かったことを伝えると、驚きながらそう言った。

 

 

「ええ。わたしの認識が間違っていなければ、恐らくは…」

 

 

「なにが起こっていたんだ。教えてくれ!」

 

 

…しかし、本当に言ってもいいのだろうか?

 

もちろんこれは憶測の範疇でしかない。

 

だが、これが当たっているならアルはもう『ダメ』かもしれないと言うようなもの。

 

けれど、言わなければならない。

 

 

「いいですか。よく聞いてください。」

 

 

周りに緊張が走り、ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえる。

 

私は、一呼吸置いてから、内容を話した。

 

 

 

 

 

「アルは…『魔眼』が開眼しています」

 

 

 

 

 

そう言うと、パウロさんはキョトンとし、周りも意味が分からないと言った様子だった。

 

 

 

「分からないのも無理はありません。魔眼とは本来、その人にとって得なもの。祝福(ギフト)とも取れるものです」

 

 

「ですが、魔眼はその強力な力を制御するために、高い技術が求められます。どういう技術かは分かりませんが、制御できなければ逆に持ち主の脳にダメージを与える。それが魔眼です」

 

 

わたしの説明に、周りはしばらく考えるように俯き、沈黙が流れる。

 

そこから真っ先に口を開いたのは、パウロさんだった。

 

 

「ふむ、アルに魔眼が…だが、魔眼一つであそこまで苦しむのか?それに、言っちゃなんだがアルなら、魔眼くらい簡単に制御できると思うんだが…」

 

 

その言葉にわたしはコクリと頷き、それに答える。

 

 

「パウロさんの言う通り、賢いアルなら魔眼程度、簡単に制御して見せるでしょう。ならなぜ倒れたのか。ここからが本題です」

 

 

わたしはまた少し間を置き、最初と同じ口調で話した。

 

 

 

 

「アルには、魔眼が…

 

 

 

 

()()開眼しています」

 

 

 

 

それが、アルが倒れてしまった理由。

 

わたしが導き出した結論だった。

 

 

「魔眼を…二つ?」

 

 

「はい、パウロさん。そうでなければ倒れたりしないはずです」

 

 

「だが魔眼を二つ持つやつなんて見たことも聞いたこともない。そんなことがあり得るのか?」

 

 

パウロさんの疑問はもっともだ。

 

わたしも見たことはない。

 

けれど、聞いたことだけはあった。

 

 

「…パウロさん。考えてみてください。一つあるだけで脳にダメージを負う魔眼。そんなものを二つ所持して生まれてきた子供がどうなるか」

 

 

わたしのその問いに、パウロさんは少し俯くと、どういうことか分かったようで、ハッと頭を上げた。

 

 

「まさか…!」

 

 

ゼニスさんもリーリャさんも、言葉の意味を理解したらしく、顔を見合わせていた。

 

 

「…そう、もし居たとしてもすぐ死んでしまうから『誰も見たことも聞いたこともない』んです」

 

 

その場にいる全員が黙り込む。

 

 

「……それは…確か、なのか…?」

 

 

「…はい。ラノア魔法大学で知ったので間違いないでしょう」

 

 

わたしがそう答えるとパウロさんは頭を抱え、大きく項垂れた。

 

そんなパウロさんを代弁する様にゼニスさんが口元を隠して言葉を口に出す。

 

 

「…それじゃあアルは……」

 

 

「………このままなら、良くて『廃人』…最悪の場合…『死』でしょう……」

 

 

 

 

 

 

またしばらく経った。

 

今、この部屋には言葉では言い表せないほどの、ドンヨリとした空気に支配されている。

 

やはり、受け入れ難いのだろう。

 

わたしも同じくらいそう思う。

 

中央大陸では無縁と考えていた、わたしと同じ青髪の少年。

もしかしたら、そんな彼の風体に親近感を覚えたのかもしれない。

 

だからこそ、希望を上げずにはいられなかった。

 

 

「…大丈夫ですパウロさん、ゼニスさん。()()()()()()そうなってしまいますが、まだアルが助かる可能性はあります」

 

 

「!ほ、本当かロキシーちゃん。アルは…アルは治るのか!」

 

 

希望は残っている。

 

その可能性は大いにある。

 

なら、言わない理由はない。

 

 

「はい。何もしないよりかは、充分に可能性はあると思います」

 

 

「何をすればいい?アルの為に出来ることなら、オレはどんなことでもするぞ!」

 

 

パウロさんはなにやらだいぶ焦っているようで、本当にどんなことでもしてしまいそうな、そんな印象を受ける。

 

確かアルの様子が急変したのは、パウロさんの稽古でアルが岩を斬った直後だったと聞いた。

もしかしたら、この件で責任を感じているのかもしれない。

 

 

「大丈夫です。そこまで難しいことではありませんし、やる内容も、一つだけですので。リーリャさん、持ってきた物に包帯はありますか?」

 

 

「はい、あります。」

 

 

「なら、それをアルの右目に巻いて、右目を隠してください。目が開かないように、少しキツめに巻いた方がいいかもしれません」

 

 

「分かりました」

 

 

リーリャさんはそう言うと、手慣れた手つきでアルに包帯を巻いていく。

 

 

「ああなるほど。眼帯の代わりということか!」

 

 

「そういうことです。魔眼を持っている方は、そのほとんどが完璧に使いこなしてはおらず、大抵の場合眼帯をつけていると聞いたので」

 

 

「ですが、着けるのはどちらか片方だけでいいでしょう。先ほども言ったように、アルは賢いです。片目だけなら、簡単に使いこなすでしょう。それと、本格的な眼帯も必要ないと思います。アルなら、早い段階で眼帯が必要なくなるはずですから」

 

 

そう説明すると、先ほどのドンヨリとした空気とは打って変わり、全員がほっと安堵し、ある程度いつもの雰囲気に戻っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「僕が寝ている間にそんなことがあったんですか」

 

 

「ええ。ですが、本当によかったです。あの時はどうなるかとヒヤヒヤしましたから」

 

 

俺が倒れてから一日、ロキシーの予想は見事当たり、俺は眼帯をすることで無事復活した。

 

だが念のためということで、親父からもう一日休めとのお達しが降った。

 

今、俺は自室のベッドに体を起こした状態で座っていて、俺から見て左手にロキシーがまるでお見舞いみたいな感じで椅子に座っている。

 

まだ薄暗いから、早朝くらいだろうか。

 

まるで病人だな。

いや、あながち間違っちゃいないか。

 

 

「念のため聞きますが、本当に大丈夫なんですね?気分が悪いとかは…」

 

 

「はい。体調の方は全然平気です。まぁ、視界の方は相変わらずブレブレですが」

 

 

ロキシーによれば、俺の両目は魔眼になっているらしいが、視界がブレる魔眼なんて何に使うってんだ?

 

それとも俺が気づいていないだけで、何か意味があるのか?

 

 

「視界がブレる…もしかしたら、『予見眼』と言われる魔眼かもしれませんね…」

 

 

そうロキシーはボソッと聞き慣れない単語を口にした。

 

 

「?なんですか予見眼って」

 

 

「数ある魔眼の中の一つです。確か、数秒先の未来を視ることができるという能力だったはずです。視界のブレは、その数秒先の未来を映したものらしいです」

 

 

スゲェ、それってめちゃくちゃ有能なんじゃあねぇか?

 

言われてみればたしかにブレは寸分のズレなくその後のロキシーの動きを捉えている。

 

…なんか「キン◯クリムゾン!」とか言うやつも似たような能力持ってたような……

 

 

「物は試しですね。アル、今からわたしが少し動いてみるので、予見眼に映ったものを口に出してください。分かりましたか?」

 

 

俺がおかしな方向に考えを巡らせていると、ロキシーがそう言ってこちらを見た。

 

どうやらこの予見眼の能力が本物か確かめるらしい。

 

俺は「はい!分かりました!」と体調が良いことをアピールするためにも、元気よく返事をした。

 

その俺の様子を見て、ほんの少しだけ笑みを浮かべたロキシーは、「では、行きますよ」と言い椅子から立ち上がった。

 

 

「『右に進み左へ曲がる』」

 

 

「『そのまま直進してUターンする』」

 

 

「『左に曲がって進んでからその場で一回りする』」

 

 

「『そのまま椅子に座ってから髪を後ろに回してため息を吐く』」

 

 

最後にそう言うと、ロキシーはピクッと眉毛を上げてすぐにいつもの顔に戻った…という予知も当たった。

 

するとロキシーは再度ため息を吐くと少し俯いた。

 

顔が少し赤くなっていたから、恥ずかしがっているのだろう。

 

ロキシーのことだから、自分の弟子にあまり情けない部分(俺はそうは思わないが)を見せたくないのかもしれない。

 

 

「スゴいですねこの予見眼って魔眼!一秒先の未来を少しの狂いもなく予知出来るなんて!」

 

 

「え、ええ。そうですね…わたしの知っている情報とは少し違いますが、使いこなせばとても強力な武器になるでしょうね」

 

 

ロキシーはそう言ってから頭を横に振り、「では、右目の魔眼の能力も調べましょうか。目を閉じてください」と言って俺の包帯製の眼帯に手を掛けた。

 

俺は素直に目を閉じ、包帯が結び直されるのを待った。

 

二、三分ほどの間、ゴソゴソという音を聞いて待っていると、ロキシーの「はい、出来ましたよ」という合図で、俺はそっと右目を開けた。

 

 

「…どう、ですか?何か見えますか?」

 

 

「…」

 

 

そこには、今まで見たこともない視界が広がっていた。

 

例えるなら、赤外線カメラのような、そんな視界だ。

 

真っ暗だった視界に、黄色い光が灯っている。

空中に漂う、川の流れのような感じになっている光の粒。

床や壁、家具のような形になり、流れている光。

そしてすぐそばにいる服のような形の光の線に覆われた人型の光。

 

その人型の光は外側に薄い膜のようなものになった光の線で覆われており、内側には血管のような形に流れる光があった。

 

そしてその心臓近くの部分には、子供の頭一つ分くらいの球体が、蒼白い光を強く、だがそれでいて優しく放っていた。

 

遠くの方でも似たような光の球体が、さらに強い黄色っぽい光を放っている。

 

俺はそばにいるロキシーと思われしその人型の光に今の光景を事細かに説明した。

 

 

「おそらく…その魔眼は『魔力眼』と言われる魔眼ですね」

 

 

また聞き慣れない単語…うん?いや、どっかで聞いたことがあるような気がする。どこだっけ?

 

俺は、その記憶を探ってみたが、その前にロキシーが話を続けたので、特に気にするほどのことでもないか、と意識を移した。

 

 

「ですがこちらも、私の知っている情報とは少し違いますね…」

 

 

「何か、おかしな点があるんですか?」

 

 

魔力眼っていうくらいだから、この光の正体は魔力なんだろう。

 

だとしたら正常に動作してるとおもうが、なにが違うんだ?

 

 

「恐ろしく精密なんですよ。先ほどの予見眼といい、普通はいくらかズレるものなんですよ?魔力眼も、大体の魔力がボヤッと見えるだけと聞きます。それなのに、一秒のズレなく予知したり、魔力の流れを視たりなんて…」

 

 

そう言いながら、ロキシーは包帯を付け直し始める。

 

それに合わせて、俺も先ほどと同様に目を閉じて付け直されるのを待つ。

少ししてから動きが止まり、目を開けると、いつもの景色に戻っていた。

 

まぁ、相変わらずブレはあるが。

 

 

「こんな天才達に、一体わたしはなにを教えればいいのでしょうか…」

 

 

見ると、ロキシーは大きく項垂れていた。

 

ああ、そうか。

ロキシーは今、打ちのめされているのだ。

 

俺達の成長を見て。

 

この世界では、聖級魔術を使える人間はほとんどいないと親父から聞いた。

 

その聖級魔術を、その歳で使えるようになったのだ。

ロキシーでなくとも増長するだろう。

 

それなのに目の前の兄弟はもうそこに届きそうな位置にいる。

 

兄は無詠唱魔術を使いこなし、その弟は剣術まで同時に使おうとしているのだ。

 

しかも弟は魔眼まで開眼して、それでも尚二人共増長しない。

 

羨ましいだろう。

 

妬ましいだろう。

 

だが、その兄弟に魔術を教えたのはロキシー自身である。

 

それを誇らしく思うこともあるだろう。

 

複雑な気持ちだろう。

 

分かるよ。

 

生前、俺も似たようなことを体験した。

 

確かあれは、高1の時か。

 

爺ちゃんのやってる道場で、師範代になった。

十五歳で師範代になれたんだ。

 

もちろん俺も喜んだし、ロキシーみたいに増長もした。

 

だが、半年もしない内にその手前まで来たやつがいた。

 

俺よりも十数センチ小さい中2くらいのやつだったか。

結局、高3の頃には辞めてたから、どうなったかは知らないがな。

 

ぶっちゃけ、今俺が増長してないのは、その出来事があったからとも言える。

 

だがもちろんロキシーはそんな経験したことないだろう。

俺達みたいに死んだことないだろうからな。

 

俺はあの時、自分より強くなれる才能があるあいつに嫉妬した。

 

だが、その頃教えていたのは体が弱くなった爺ちゃんではなく、師範代の俺だ。

 

尊敬したさ。

 

何故かは分からんがね。

 

だからロキシーの気持ちは分かる、少なくとも俺は。

だから、少しそれを紛らわせることぐらいは出来るかもしれない。

 

そう思い、俺は口を開いた。

 

 

「…先生。今思い出したんですけど、誕生日に父様から貰った剣を手入れしてなかったんですよ。錆びてないか心配なので、ちょっと持ってきてもらってもいいでしょうか?」

 

 

「…え、あ、はい。いいですよ」

 

 

そう言い、俺が指さした棚の傍に立て掛けてある剣をロキシーが持ち上げようとする。

 

 

「あ、気をつけてくださいね。その剣結構重いですかrー」

 

 

ドンガラガッシャン‼︎

 

 

俺が気付き、注意しようとする頃には時既に遅く、剣は倒れロキシーは尻餅をついていた。

 

 

「…だ、大丈夫ですか?」

 

 

「え、ええ。なんとか…よいっしょ」

 

 

倒れて横になった剣を、ロキシーは取り直し、引きずりながらもなんとか持ってきてくれた。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

「ありがとうございます。すいません、変なお願いしちゃって」

 

 

「いえ、これくらい大したことありませんよ。ですが本当に重いですねこの剣。一体、どうしたらこんな重い物を持てるんでしょうか」

 

 

「気合いと根性、でしょうか」

 

 

「ええ…」

 

 

「冗談ですよ」

 

 

そう言って、俺はベットの傍まで持ってこられた剣を手に取る。

剣には、貰った時は無かった鞘と剣帯が付いている。

 

誕生日の後、親父に「使いこなしてみろ」と言われ貰った物だ。

 

鞘から剣を少し出して、状態を確認する。

 

しばらく手入れしていないと聞いていたが、剣身は覗き込む自分の顔が綺麗に映るほどピカピカだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

髪色は母譲りの空のような青。

 

顔は父と母を足して割った感じの美形男子だ。

 

目の形は母似だろう。

 

ただ、左目のその瞳はそのどちらにも似つかない黄色。

 

右目は隠されて見えないが、紅い瞳だと聞いた。

 

俺は何を思ったのか、()()()を話すことにした。

 

 

「…ちょうどいい機会です。先生には、話しておきましょうか」

 

 

「?なんの…話でしょうか」

 

 

「僕の…『生まれた頃の話』です」

 

 

そう言うとロキシーは絶句した。

 

 

何故この事を話そうと思ったのかは、俺自身もよく分からない。

 

たぶん、ロキシーには話しておいた方がいいと、どこかでそう思っていたのかもしれない。

 

 

ー同じ、『青い髪』を持つ者として。

 

 

気づけば、俺は転生云々以外の生い立ち全てを語っていた。

 

 

「ーこうして、僕はこの…グレイラット家に拾われ、『アルクトゥルス』。そう名付けられたんです」

 

 

「…それではアル、あなたの本当のお父さんとお母さんは…」

 

 

「…即死、でした」

 

 

そう言い、俺は自分の髪を持つ。

 

 

「…この青い髪とこの顔は、僕の母さんと父さんの忘れ形見なんです」

 

 

「…」

 

 

「…僕はこの青い髪に、自分自身に誓ったんです。もし次があるならば、その時は…絶対に家族を守って見せる。それが叶うなら、この命も惜しくないって…!」

 

 

自身の顔が険しくなっていくのが、自分でもよく分かる。

 

 

「ここに来た頃。外には出しませんでしたが、実際の所、内心ではずっとこんな感じだったんだと思います。あのままなら、僕はどこかで耐えきれなくなって、爆破してたと思います」

 

 

「でも、そうはならなかった。それは、この家があったから」

 

 

そう、この家が、家族が、みんなが居たから、俺はここまで来れた。

 

 

「そして、その中には、ロキシー先生。あなたもいたんです」

 

 

「…え」

 

 

「先生、才能があるとかないとか、そんなの関係ありません。僕は…僕達は、ロキシー先生の、あのどこか台本染みた話し方と、その中に混じらせた、ちょっぴり笑える冗談と、自分の体験を使った笑えない笑い話と、聞けば答えてくれるあの優しさ。全部が好きなんです」

 

 

 

 

少しクサイ事を言ったかもしれない。

 

らしくない事を言ったかもしれない。

 

 

だが、だからこそ、今まで言ったどんな言葉よりも、本音だと。

 

そう言えた。

 

 

「……盛りすぎ、ですよ…わたしは、そんなこと言われるような性格、してません…」

 

 

「そうかもしれません。でも、僕達は『ロキシー先生の授業』じゃないとダメなんです」

 

 

ロキシーは俯き、その肩は小刻みに震えている。

 

 

「…本当に、わたしなんかの授業でいいんですか…?」

 

 

「先生の授業()いいんです」

 

 

その声は上擦り、嗚咽が混じっていて、膝に置いた手には、ポタッポタッと涙が音を立てていた。

 

 

 

「…ありがとうっ、ございます…アル」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

次の瞬間には、もう、上擦った声も、嗚咽も、涙も、そこにはなかった。

 

 

 

 

 

「この事は、みんなには内緒ですよ?」

 

 

「何のことでしょう?僕は剣の手入れに夢中で、何一つ見も聞こえもしませんでしたが?」

 

 

「フフッ。そうでしたね。では、そろそろわたしは行きます。今からルディの魔術の授業があるんです」

 

 

そう言ってロキシーは席を立った。

 

そのあまり見せない笑顔は、やっぱりどこか母さんに似ていた。

 

 

 

 

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