ある地方の山奥にひっそりと佇む一軒の屋敷にて、悪魔狩人ダンテはその生涯に幕を閉じようとしていた。
ダンテの生涯は波乱万丈に満ちていた。幼い頃に母親を悪魔に殺され、命を狙われながらも生き延び、生き別れた双子の兄と再会し殺し合い、母親の仇である魔帝を見事討ち倒し、ある依頼で訪れた辺境都市で知らなかった甥と出会い、復活した双子の兄と再び殺し合い、そして最後は魔界で殺し合いではなくただの兄弟喧嘩で決着をつけようとした。
実に波乱万丈な人生だったといえるだろう。しかしダンテには後悔など一つも無い。心残りがあるとすれば、可愛い愛娘の晴れ姿が見れなかったことくらいだろうか。
しかし案ずることはない。娘もまた魔剣士スパーダの誇りを受け継いでいる。だからこうして安心して眠りにつけるのだ。
そんなことを考えていると、いよいよ意識が薄れてきた。
半人半魔であるダンテが死んだ時、その魂は何処に行き着くのか?
かって知ったる魔界か?
それとも未だ見たことのない天国か?
はたまたファンタジーな異世界か?
────そんなことはどうでもいい。何処に行こうが、いつも通り全てを楽しむだけだ。
こうして偉大なる魔剣士スパーダを超え、新たなる伝説となったダンテはその生涯に幕を閉じた。
………
……
…
『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』、通称トレセン学園はウマ娘達が通う教育機関である。
ここでは普通校のように座学を受けるだけでなく、レースに出場するために日常的にトレーニングも受けている。
そんな場所にどういうわけかダンテはいた。
自分は確かにあの時その生涯に幕を閉じた。つまり死んだ。生きているはずがない。
それにもかかわらず、ダンテはこうして生きている。それも魔剣スパーダと融合し、新たな力を得た時と同じ状態で。
しかしこの世界を調べてわかったが、この世界には悪魔がいない。魔界の気配は感じるものの、元の世界とは違って完全に現実世界とは切り離されているようなので、悪魔が現れることはない。なのでダンテの力は完全に不要であった。
まあ平和であることはいいことなので、ダンテは全く気にしていないが。
その代わりにこの世界には『ウマ娘』なるものが存在していた。見た目こそ人間の女性なのだが、唯一の違いとして頭にはウマ耳が、そして腰には尻尾が生えており、身体能力も人間よりも優れていた。
そんな彼女達はダンテが元いた世界の馬と同じように多くのレースに出場し、人々を楽しませていた。トレセン学園というところはそんな彼女達の教育機関なのだという。
それはそうと、なぜダンテがトレセン学園にいるのか?
理由は単純、働いているからである。
この世界に悪魔がいない以上、以前のようにデビルハンターをすることはできない。かといって無職ではピザどころかストロベリーサンデーを食べることすらできない。
『さて、どうしたものか?』と考えながら歩いていた時にたまたま『トレセン学園のトレーナー募集中』という貼り紙が目に入り、他にやるべきこともなかったので応募、そうしたら見事に採用されたのだ。
当然トレーナーなんて今までに一度もやったことはなく(三つの首を持つワンちゃんや爆走巨大馬を手懐けたことはあるが)、そのことも理解してくれているらしく向こうが費用持ちでトレーナーの資格を取得させてくれた。
そのため、現在こうして真面目に働いているわけである。
ダンテがトラックに来ると、すでに多くのウマ娘達がそれぞれのトレーナーの指導の元トレーニングを行なっている。
ダンテがベンチに座っていると────
「やあトレーナー君、待たせてしまったね」
────背後から声をかけられる。
ダンテが後ろを向くと、そこには特徴的な白い三日月模様がついた栗毛のウマ娘がジャージ姿で立っていた。
「ああ、ルドルフか。俺も今来たところだ」
そう言いながらベンチから立ち上がる。
彼女は『シンボリルドルフ』。このトレセン学園の生徒会長にして、見事三冠を果たしたダンテの担当ウマ娘である。
「む、そうなのか。では早速トレーニングを始めるとしよう」
「ああ、これが今日のメニューだ」
そう言ってダンテはメニュー表をルドルフに手渡す。手渡されたメニュー表に一通り目を通してから、一つ頷いてからダンテに返してきた。
「うん、わかった。早速やってくるよ」
ルドルフはそう言って準備運動をしてから早速トラックを走り始める。
その様子を眺めていると、ふと何者かがダンテの隣に立った。
「珍しいな、お前がここにいるとは」
隣に立った何者かがダンテに声をかけてくる。しかしダンテは気にすることなく声を返した。
「おいおい、俺ほど真面目に働いているやつはそういないぜ?」
「週休六日の気分次第を公言していたやつが何を言う」
ダンテの言葉にフンと鼻で笑いながらそう返してきたのは、ダンテの双子の兄であるバージル。どうやらバージルもこの世界に生まれ変わったようであり、現在はダンテと同じくトレセン学園で『チームリギル』のサブトレーナーをしている。ちなみにこちらでも妻子持ちである。
「………まあいい。それよりもあいつの調子はどうだ?」
そう言ったバージルの視線はトラックを淡々と走り続けるルドルフに向けられている。
「見ての通り、調子は悪くないな。これなら次のレースの結果も良いものになるだろうよ」
「そうか。それならいい」
ダンテの言葉にバージルはそれだけ返すと、そのまま立ち去る。無愛想なところは相変わらずなようだ。
そのことに苦笑いしていると、走り終えたらしいルドルフがダンテの元に戻ってきた。
「トレーナー君、彼と何の話をしていたんだい?」
開口一番にそう聞いてくるが、何やら不穏な気配を纏っている。よくよく見れば目は光を宿しておらず、耳も後ろ向きに寝ていた。
どうやら相当ご機嫌斜めらしい。
「別に大したことじゃない。ただの世間話さ」
「……そうか。それならいいんだ」
ダンテの言葉にルドルフは少し無言になるも、すぐに機嫌を治してそう返してくる。一体何が気に入らなかったというのだろうか?
このようにルドルフは普段は文武両道や優等生を絵に描いたような人物なのだが、ダンテに対してはなんというか、こう………感情的に重いのである。
しかし悲しいことに、そう感じているのはダンテだけではない。
ウマ娘というのはどうも闘争心が高いだけではなく、恋愛感情についても人間よりも高いらしい。
要は恋愛感情が吹っ切れると何をしでかすかわからないのである。ついこの前も同僚の一人が恋愛感情が吹っ切れた担当ウマ娘に襲われ、うまぴょい(意味深)されたとかなんとか。
か弱いレディからヤバイ女まで大歓迎なダンテではあるが、襲うのも襲われるのもノーセンキューである。
(やれやれ、この先どうなることやら)
再びトレーニングに戻ったルドルフを見ながら、ダンテは内心ため息を吐くのだった。