半人半魔のトレーナーと頂点を目指すもの   作:ユリゼン

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第十話 違い

 「「「……………」」」

 

 凄まじく気まずい空気がトレーナー室に立ち込める。そりゃお互いに牽制し合ってるやつらが同じ場所に揃えばそうなるのも無理はない。

 

 その当事者であるルドルフ、スズカ、グラスの三人は笑顔を貼り付けながらもウマ耳を後ろ向きに伏せている。いつ爆発してもおかしくない状況であった。

 

 「……やあ、スズカにグラス。遠征から帰ってきたんだね」

 

 最初に沈黙を破ったのはルドルフ。親しげに声をかけているが、その全身からは威圧感を振りまいている。

 これが普通のウマ娘ならビビって身動きどころか声も出せなくなるだろうが、そこはルドルフですら手を焼く二人。ルドルフが放つ威圧感を気にも留めていなかった。

 

 「はい、先ほど帰ってきました」

 「大変良い経験になりました」

 

 ルドルフの威圧感をその身に受けながらも二人は笑みを崩さず、それでいてルドルフと同様に穏やかではない気配を放っている。

 

 「そうか、それはよかった。………ところで、君達は何故トレーナー室にいるんだい? 彼は君達のトレーナーではないはずだが?」

 「そうですけど、私達もずっと面倒を見て頂いているので実質担当ウマ娘と変わりないと思うのですが?」

 

 あの生徒会長の言葉にスズカがまっすぐ言い返している。恐ろしいったらありゃしない。

 

 「むしろ私達というものがありながらブルボン先輩とライス先輩と契約したトレーナーさんの方がどうかと思います~。これは私とスズカ先輩への裏切りでないのですか~?」

 

 いきなり話の矛先をダンテに向けてくるグラスワンダー。こっちを巻き込むんじゃねえ。

 

 

 兎にも角にも、少し雲行きが怪しくなってきた。このままではこのいろいろと重い三人ウマ娘がナニしてくるかわからない。幸い三人は現在お互いに睨み合っている状態であり、ダンテに意識は向いていない。今なら気づかれることなく逃げ出せるだろう。

 このままいけばトレーナー室は無事では済まないだろうが、ダンテが襲われることに比べれば安い犠牲である。

 

 (三十六計逃げるに如かずってな)

 

 ダンテは三人に気づかれないように窓際へと移動する。そして次の瞬間、ダンテは窓を開けて三階から飛び降りる。

 その直後、トレーナー室からドンガラガッシャーンとものすごい音が響き渡った。

 

 

………

……

 

 

 見事トレーナー室から逃げおおすことができたダンテ。今頃トレーナー室は戦場と化し、三人は修羅と化していることだろう。

 まああの三人がダンテ絡みで(物理的に)ぶつかり合うことは多々あったので、大怪我に繋がることはない。なので心配することは何もない。

 

 

 そんなわけでやることがなくなったダンテは適当に学園内をブラブラ歩き回る。

 ちょうど今は放課らしく、数多くのウマ娘達が談笑しながら歩いていたりしている。

 ダンテは誰も座っていない手頃なベンチを見つけると、そこにドカッと腰かけ、そのまま横になる。

 

 

 そよ風によって擦れる木の葉の音。

 小鳥の囀り。

 談笑するウマ娘達の声。

 etc、etc………

 

 (………平和だな)

 

 前の世界では到底考えられなかった平和な時間を、今はこうして過ごすことができる。

 かつてそんなことを少しでも考えたことがあるだろうか?

 

 バージルと決着をつけるまでは考えたことは無かっただろう。

 初めて心の底から愛した女性と結ばれ、娘が生まれてからは少し考えるようになっていただろう。

 しかし、結局は『夢物語だ』と片付けてしまっていた。『そんな未来はありえない』と考えようともしなかった。

 

 ダンテは争いの世界に慣れきってしまっていた。だから今の生活に違和感を感じることが多々あった。

 

 「……ハッ、らしくねえな」

 

 そんなナイーブになってしまっている自分をダンテは鼻で嗤う。

 寿命が尽きる前に決めたはずだ。『何処に行こうが、いつも通り全てを楽しむだけだ』と。ならば今の生活をアイツらと共に楽しむだけである。

 

 

 「ここで何をしている?」

 

 不意にパコッと頭を棒状の何かで叩かれる。そちらを見ると、閻魔刀を持ったバージルが仁王立ちしていた。

 

 「なに、トレーナー室が魔界顔負けの修羅場になってるからな。逃げ出してきたところだ」

 「……またアイツらか。いい加減おとなしくできないものか」

 

 ダンテの言葉にバージルがため息混じりにそうつぶやく。まあバージルもあの三人がブッ飛んでいることを知っているので、頭を悩ませていたりする。

 

 「貴様も貴様だ。いい加減腹を括って担当にしてしまえばいいだろう」

 「無茶言うなよ、今でもドンパチやらかすってのに。むしろスズカとグラスをリギルに引き取ってくれ」

 「それこそ馬鹿を言うな。貴様もあのことを忘れたわけではあるまい」

 「あー………」

 

 バージルの言葉にダンテは覚えしかない。

 以前ルドルフに『チームリギルに所属したらどうだ?』と試しに言ってみたら偉大なる皇帝の姿は何処へやら、駄々っ子のように泣き喚いてはトレーナー室に置いてあったものを投げ飛ばしたり、ジュークボックスをぶっ壊したりと、それはもう目も当てられない姿となった。以来ルドルフの前では移籍は禁句となっている。

 ちなみにスズカとグラスにも同じような話をみたら、大号泣して泣きつかれた。

 

 「………貴様は無自覚なようだが、アイツらは貴様に好意を抱いている。それに応えるべきではないのか?」

 「既婚者の言葉は重みが違うな」

 「俺は真剣に話をしている」

 

 軽口を叩くダンテだっただ、いつになく真剣な表情のバージルに思わず黙り込んでしまう。

 あれだけ兄弟喧嘩して(殺しあって)きたバージルがダンテのことを心配してくるとは、やはりバージルもこちらの世界に来て変わったらしい。

 そんなバージルに調子を狂わされたらしく、ダンテはため息を吐いてから口を開いた。

 

 「………お前もわかってるだろ。俺やお前はこの世界の人間じゃねえし、身体の半分はこの世界に存在しないものだ。そんなやつがアイツらと深く関わって真っ当に生きれると思うか?」

 

 ダンテやバージルは元々この世界の人間ではないし、この世界に悪魔は存在しない。そんなダンテがルドルフ達ウマ娘と深く関わったらこの世界にどんな悪影響を与えるかわかったもんじゃない。だからダンテはトレーナーとウマ娘と一線を引いているのだ。

 

 「だが俺は妻に受け入れられた」

 「そりゃお前の嫁さんが特殊だからだろ」

 「しかし貴様の言うソレと事実は変わらん」

 

 バージルはダンテの意見など知ったこっちゃないと憮然として言い放つ。相変わらず頭の固いことだ。

 

 「ダンテ、貴様もいつかはアレらに真実を話さねばならん。アレらと共にいる限りはな」

 「…………」

 「確かに俺達はこの世界の人間ではない。だが、だからといってこの世界の住人と深く関わってはいけないというわけではない」

 「………何が言いてえ」

 

 バージルの言葉に珍しく苛立ちを露わにしたダンテ。しかしバージルは表情一つ変えることなく返した。

 

 「少しばかり身の振り方を考え直せ。俺から言うべきことはそれだけだ」

 

 バージルはそれだけ言い放つと、「俺は仕事がある」とだけ言い放ち、ダンテの言葉も待たずにその場から立ち去る。

 

 一人残されたダンテバージルの忠告じみた言葉により二度寝する気にもならず、モヤモヤ感を覚えながらトレーナー室へと戻る。

 

 

 尚、トレーナー室は嵐が通り過ぎたかのように荒れ果て、部屋の中央ではルドルフとスズカとグラスの三人が正座し、その目の前には悪魔も泣き出す笑顔を浮かべた理事長秘書の『駿川(はやかわ) たづな』が仁王立ちしているという珍妙な光景が出来上がっていたのだった。

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