たづなさんにこってりと絞られウマ耳を下向きに伏せているルドルフ(通称『ションボリルドルフ』)を連れて社宅へと戻ったダンテ。
「あの…トレーナー君……」
「なんだ?」
「えっと…その……」
何か言い淀むルドルフ。しかしダンテはすぐにルドルフの言いたいことを察する。
「昼間のことなら気にしてねえよ。だからお前も気にすんな」
「本当にすまない………」
ダンテの言葉に謝るルドルフ。本当にそう思っているのなら、周囲とぶつかり合うことを止めてほしいものだ。まあその原因はダンテにも一端があるので、一概にルドルフが悪いとは言い切れないのだが。
それはそうと、遠征から帰ってきたスズカとグラス。先も言った通り、彼女らはダンテがルドルフと契約した時の頃から面倒を見ているため、その付き合いはこの前契約したライスとブルボンよりも長い。
そんな彼女達が今だに専属契約をしないのは、『いつかきっとダンテが専属契約してくれる』と思っているからだろう。
そして最近ダンテになにかと付き纏ってくるトウカイテイオー。彼女もまた目を見張るほどの資質を秘めており、その才能が開花すれば優秀な戦績を残すことができるだろう。それでも今だにトレーナーと契約しないのは、テイオーもまたダンテが契約してくれるのを待っているからである。
尚、マックイーンはただの腐れ縁なのでノーカンのものとする。
とにもかくにも、今後を見据えるのなら彼女達との関係性も変えていかなければならない。
しかし残念ながらダンテはチームスピカの伊達男やチームカノープスの優男、黒沼元トレーナーのような器用な男ではない。それが人間ウマ娘関わらず女性が相手となれば尚更だ。
(『身の程をわきまえろ』、か)
つい先ほどバージルに言われた言葉を思い出す。
まさにその通りだ。自分はこの世界ではただのトレーナーで、彼女達の夢や想いに応えるのが仕事だ。それをつまらないちっぽけなプライドで有耶無耶にしていたというのだから、なんともみっともないことをしていたのだろうと呆れる他ない。
これではルドルフ達のことなど言えたもんではない。
ならば、自分がやるべきことは一つ。
「……ルドルフ」
「何だい?」
「明日、授業が終わったらトレーナー室に来い。その時にブルボン、ライス、テイオー、スズカ、グラスも連れてきてくれ」
ダンテの言葉に一瞬キョトンとした表情になるルドルフだったが、すぐにダンテがいつになく真剣なことに気づいたのか、同じく神経な表情で頷いた。
「承知した。全ての授業が終わり次第、皆を連れてトレーナー君の元へ向かおう。ちなみに何の話をするのか、私には教えてくれないのかい?」
「悪いが、今は話さない。明日のお楽しみだ」
「実にトレーナー君らしい」
肩をすくめながら言い放ったダンテに、ルドルフはわかっていたと言わんばかりに笑う。とはいえ何の話をしようとしているのかは大体理解しているだろう。そのことを口に出さないのは、ダンテのことをトレーナーとして信頼している証である。
(ほんと、俺には勿体ないやつだ)
そう思いながら、ダンテは鼻唄混じりに料理を作り始めたルドルフを尻目に、片付けられる仕事を始めた。
………
……
…
何か大事な用事がある日に限って時間が過ぎるのは早く、気がつけばいつの間にか午後3時を過ぎて約束の時間になろうとしていた。
ダンテはかけていたジュークボックスの電源を落とす。それにより程よく響いていたロックが消え、静寂がトレーナー室に訪れる。まるでこれからなるであろうトレーナー室の空気を体現しているかのようだ。
「………」
必要な書類を用意してからデスクに座り、その時が来るまで目を閉じて待つ。
そして────
────コン、コン────
────トレーナー室の扉がノックされる音が響く。
「いるぜ」
ノックを聞いたダンテが目を開けてそう言うと、ガチャリと扉が開いてルドルフ達が入ってくる。
「トレーナー君、皆を連れてきたよ」
突然ダンテに呼び出されたことを疑問に思っているらしく、ルドルフ以外の五人が首を傾げたりしている中、ルドルフのみが平然とした表情でそう言ってくる。
「助かった」
ルドルフの言葉にダンテは一言だけ返してデスクから立ち上がる。
するとブルボンが皆が思っているであろう疑問を代表して言った。
「マスター、今回何故私達が呼び出されたのか、回答を要求します」
「そう慌てるなよブルボン。ちゃんと話すさ」
ブルボンの言葉をやんわりと制するダンテ。そして皆を見回してから口を開いた。
「単刀直入に言う。テイオー、スズカ、グラス、
ダンテはそう言って三人に契約書を差し出す。
その突然の契約の話に当事者の三人だけでなく、ライスとブルボンも驚いたような表情になる。唯一ルドルフのみ、わかっていたかのように静かに見守っていた。
「え、あの、急にどうしたの……?」
突然の契約の話に理解が追いついていないのか、テイオーが訳がわからないといった感じでダンテに聞いてくる。まあ今の今まで頑なに契約しようとしなかったダンテが急に契約を持ちかけてきたのだ。疑問に思うのも無理はない。
しかしダンテは本気で三人と契約するつもりである。
「なに、俺の中でケジメをつけた結果さ」
そう言って一息ついてから、ダンテは再び口を開いた。
「……先に言っておくが、俺はお前らが思っている以上にデキるトレーナーじゃねえ。ルドルフが三冠を取れたのもコイツが努力していたからで、俺は何もしていねえ」
何度も言っているが、ルドルフが打ち立ててきた偉業は全てルドルフ自身の努力の結果であって、ダンテは本当に何もしていない。だからダンテは当初ルドルフ以外の担当を取ることに消極的であった。
しかし、それでも彼女達はダンテを求めた。それはつまり、彼女達はダンテの元で頂点を制したいと願ったということである。
それならば、ダンテもその想いに正面から向き合わなければならない。
「それでもいいって言うなら、俺は全力で協力する。だからどうするかは────」
『お前達が決めろ』、と最後まで言い切る前にダンテの身体に衝撃が走り、背中から床に倒れ込む。
理由は明白、三人に押し倒されたからだ。顔を顰めながらも前を見るとテイオー、スズカ、グラスの三人が感極まった表情でダンテに抱きついており、尻尾はパタパタと揺れまくっている。
「そんなの言わなくても決まってるよ! ボクはトレーナーの元で強くなりたいんだ!」
トウカイテイオーが涙声でありながら、力強く言う。
「トレーナーさんは担当でもない私に先頭の景色を見せてくれました。トレーナーさんとなら、まだ見たことのない先頭の景色を見られる気がするんです」
サイレンススズカが泣きそうになりながら、嬉しそうにそう言う。
「トレーナーさん、私はどのような相手にも引かず、屈せず、頂点に至るまで進み続けることをトレーナーさんに誓います。ですからどうか、どうか私を導いてください」
グラスワンダーが静かに、それでいて闘気を漲らせながらそう言う。
三人とも反応はそれぞれだが、総じてダンテとの専属契約を受け入れてくれた。ならばこれからはダンテも全力で応えるだけである。
────ここに、新たなる伝説が幕を開けた。