半人半魔のトレーナーと頂点を目指すもの   作:ユリゼン

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第十二話 酒の席

 新たにスズカ、グラス、テイオーの三人と契約を交わしたダンテは、その日のうちにトレセン学園の理事長である『秋川 やよい』に報告した。

 その際理事長はダンテが三人を担当に取ることをわかっていたかのような口ぶりであったが、まあまだ子供であるのにトレセン学園の理事長の座に昇り詰めたのだ。ダンテが三人を担当に取ることも見透かしていたのだろう。

 

 

 それはさておき、理事長に報告を終えてトレーナー室へと戻ろうとしたとき。

 

 「ダンテさん」

 

 背後から声をかけられる。

 振り向くと、黄色いネクタイを締めたグリーンの制服と同じ色の帽子を身に纏った女性が微笑みを携えて立っていた。

 多くの職員が勤めているトレセン学園だが、このような格好をしている人物は一人しかいない。

 

 「『たづな』か」

 「はい、あなたのたづなです♪」

 

 ダンテの言葉にたづなと呼ばれた女性が微笑みながらそう返してくる。

 

 『駿川 たづな』。ここトレセン学園の理事長秘書であり、トレセン学園の実質的No.2である。

 理事長秘書という肩書きの通り、普段は文字通り理事長の秘書をしているのだが、それ以外にも寮から脱走するウマ娘を生活指導したり、ウマ娘の新規グッズの検品をしたりと、明らかに理事長秘書の仕事の枠を超える優秀っぷりを発揮している。

 それに加えて人当たりも良いので、職員ウマ娘問わず大人気なのだが………

 

 「あら、もしかして私に見惚れてました?」

 

 茶目っ気たっぷりにそう言ってくるたづな。このようにダンテに対してのみ他とは接し方が違ったりする。

 

 「そりゃ、こんな良い女が目の前にいたら見惚れちまうってもんだ」

 「褒めても何も出ませんよ」

 

 ダンテの言葉にクスクスと笑うたづな。どうもダンテはたづなが相手だと手玉に取られやすいようだ。

 

 「それでどうしたんだ? 話はさっき終わっただろ?」

 「それなのですが、理事長から伝言を預かっております」

 「伝言?」

 

 たづなの言葉にダンテは首を傾げる。理事長からは『シンボリルドルフ以外にも担当を持つこと』という辞令以外は何も降りていないはずだ。

 だとしたら一体何なのだろうか?

 

 「ふふ、ご安心ください。いつものアレです」

 「……ああ、新人研修か」

 

 この新学期で開催されるアレといえば、新人トレーナーの研修の他ない。

 

 ここトレセン学園では入職してきた新人トレーナーが一度現職トレーナーの元で研修を受けることができる制度がある。

 基本的には超ベテラン層が人気であり、リギルのおハナさんやカノープスの南坂トレーナー、あと黒沼元トレーナーに教えを乞うことが多い。

 

 

 ………とまあこんな感じらしいのだが、実のところダンテは詳しいことは知らない。

 

 というのもダンテ、この新人研修には全くといっていいほど関わっていなかった。何せダンテの担当バは『皇帝』シンボリルドルフであり、彼女に特化したトレーニングしかしていない。

 その上ダンテはスピカ以上の放任主義であるため、まず新人トレーナーがついてくること自体が不可能に近い。

 それ故にダンテは新人研修のことは知っていても、直接関わったことはないのだ。

 

 それでも何人かはダンテのことを指名してくる。まあ大体は『どうやってシンボリルドルフのような才能を見出したのか?』ということが気になっているのだろうが、残念ながらルドルフの才能は見出したわけではないし、なんならいきなり向こうから公開プロポーズよろしく逆指名されたので、本当にダンテは何もしていないのだ。

 

 「まあ指名が来たらまじめにやるさ。それで、用件はそれだけか?」

 「はい、理事長からの伝言は以上です。………それで本題なんですが、仕事終わりにどうですか?」

 

 そう言ってクイッとグラスを呷る仕草をする。どうやらこちらが本題で、ダンテを誘っているらしい。

 この人、普段温厚な分相当ストレスが溜まりやすく、かなり酒を呑みたがる。そしてその度にダンテを誘ってくるのだ。

 

 「……まあ、この後はやることも特にないしな」

 「なら決まりですね。場所はいつものところで」

 

 それだけ言い残してたづなはその場から立ち去る。おそらく残りの仕事を片付けに行ったのだろう。

 

 ダンテも残っている仕事を片付けるべく、トレーナー室へと戻っていった。

 

 

………

……

 

 

 全ての仕事を終わらせ、トレーナー室に屯っていたルドルフ達を追い返したダンテは、その足で約束している場所である居酒屋へと足を向ける。

 ここはトレセン学園からも徒歩圏内で行けるところにあり、トレセン学園に勤める大人達にとって憩いの場となっている。

 

 「あ、ダンテさんこっちです」

 

 ダンテが居酒屋に到着すると、店の前で待っていた私服姿のたづなが手を振ってくる。

 

 「悪い、待たせちまった」

 「いえ、私も今来たところですよ。では入りましょうか」

 

 そう言ってダンテはたづなと共に店内に入り、座敷へと通される。

 そこで早速ビールを頼み、店員が持ってきたところでジョッキを鳴らす。

 

 「かんぱーい!」

 

 そう言って早速豪快に飲み干す。

 

 「ふー、やっぱり仕事終わりの一杯は身に沁みますねぇ」

 

 早速一本飲み干したたづながリラックスしたようにそうつぶやく。そしてそのまま二本目を注文した。

 この清楚な見た目してかなりの酒豪だというのだから、実にギャップのあることだ。

 

 まあ彼女は秘書と言いつつ、朝は校門前に立ち登校してくるウマ娘達に挨拶、日中は理事長と行動。空き時間にはウマ娘やトレーナー達の様子を見て回り、夜は夜で寮から脱走したウマ娘を追いかけ回す。明らかにオーバーワークである。

 しかし当の本人はそれを好きでやっているのだから、ダンテが口出しするのは無粋というものである。なればこうして酒に付き合うのも吝かではない。

 

 「それにしても、まさかダンテさんがルドルフさん以外にも担当を取るなんてねぇ」

 

 すでに酔いが回っているのか、頬をほんのり赤く染めたたづなが感慨深そうにそう言ってくる。

 

 「全くだ。なんだって俺みたいな適当なやつと契約したがるのかねぇ」

 「皆さん、ダンテさんのことを好いていられるんですよ」

 「おいおい、俺はもういい歳こいたおっさんだぜ? いくらなんでもそれはありえないだろ」

 

 たづなの言葉をダンテは一笑に伏す。仮にそうだったとしたら物好きもいいところだ。

 

 「はぁ………ダンテさんの自己評価の低さは相変わらずですね。謙遜するのは美徳といいますけど、いきすぎればただの嫌味になってしまいますよ」

 

 そんな言葉を聞いたたづながめんどくさそうにため息を吐く。

 そのことを心外に思うが、同時に心当たりもあるので、ダンテは何も言い返すことができずビールで喉を潤す。

 

 そこからしばらくビールを飲んだり、運ばれてきた料理を食べたりしながら世間話をしていたが、ふとたづなが思い出したように口を開いた。

 

 「あ、そういえば聞きましたか?」

 「何をだ?」

 「今年度の新人トレーナーに、あの桐生院家からも来られるんですよ」

 「へえ、あの桐生院家からねぇ」

 

 たづなの言葉にダンテはそうつぶやく。

 桐生院家といえば数々のエリートトレーナーを輩出している名門であり、ダンテも何度か顔を合わせている。

 

 「また荒れやしねえか?」

 「………そうですねぇ」

 

 ダンテの言葉に少し間を空けてからそう返してくる。

 トレーナーとウマ娘という関係性は難しい。ベテラントレーナーでさえ担当ウマ娘との関係が一歩間違えれば取り返しがつかないことになるのだ、新人トレーナーなんか最初の対応を間違えれば即そのウマ娘と共にトレセン学園から立ち去らねばならなくなる。

 

 「まあ、そこはダンテさんがどうにかしてくれますよね」

 「勘弁してくれ。ただでさえじゃじゃウマ娘共が増えたっつうのに、これ以上面倒ごとに巻き込まれてたまるか」

 

 頭の中に瞳を暗くさせる皇帝サマの姿が浮かび、げんなりするダンテ。アレの機嫌を治すのは今でも苦労するし、担当が増えた今さらに増えている。

 

 「……でも、羨ましいんですよねぇ」

 「ん? 何か言ったか?」

 「いいえ、何も」

 

 たづながそう返してくるが、その際に()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかし彼女がそう言うのなら、それ以上突っ込むべきではないだろう。

 

 「さて、お仕事のお話もここまでにして今夜はとことん飲み明かしましょう!」

 

 そう言って次々と飲んでいくたづな。

 そんな彼女に苦笑いしつつ、ダンテもまたたづなに付き合うように飲んでいった。

 

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