半人半魔のトレーナーと頂点を目指すもの   作:ユリゼン

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第二話 双子の会話

 シンボリルドルフは幼少の頃から両親から英才教育を施されてきた。ウマ娘としての誇りや使命を教え込まれ、ルドルフもそれを正しいものとして学んできた。もちろんそのことを苦に思ったことはないし、英才教育を施してくれた両親には感謝している。

 そしてルドルフは『他のウマ娘も笑顔でいられるようにしたい』と願うようになり、そうなるように努力し続けた。

 

 そしてトレセン学園に入学してからも、ルドルフは数々の記録を叩き出し、選抜レースでも圧倒的な記録を見せつけた。

 当然そんな彼女を誰もが注目しないはずもなく、多くのトレーナーがルドルフをスカウトしにきた。

 そんなトレーナー達に三日の期日と共に『何を示すのか』という課題を与えた中、ルドルフの目はあるトレーナーに留まっていた。

 

 そのトレーナーは銀髪碧眼にどんな時季でも常に真っ赤なコート姿という派手な格好をしており、明らかに普通ではなかった。

 他のトレーナー達は熱心に自分を勧誘してくるにも関わらず、そのトレーナーは少しだけルドルフの話を聞いてから、『やれやれ』といった感じで肩を竦めてその場を立ち去っていった。

 なぜ彼だけそんな反応をしたのかわからず、同時にそのことに対して少し怒り覚えた。

 

 そして期日である三日が過ぎて多くのトレーナー達が各々の考えや思いをルドルフに示したが、結局はトレーナー自身の利益のことしか考えていなかったので、ルドルフはどのトレーナーの元に着くこともなかった。

 

 

 その後一人で淡々とトレーニングに励む中、ルドルフは例のトレーナーと出会した。

 その時のルドルフは思うように力が出せず、結果は出せてもギリギリだったりとかなり苦しい状態であった。

 それでも自らの悲願のために走り続けていると、彼が声をかけてきた。

 

 「へえ、頑張ってるじゃねえか」

 「……努力しなくては私の悲願は叶いませんから」

 

 トレーナーの言葉にルドルフはニコリともせずに汗を拭きながらそう返す。

 今のままでは駄目だ。もっと努力しなければ、全てのウマ娘を笑顔にすることなんてできない。それが未来を約束された自分の役目なのだから。

 

 しかし、トレーナーは感心することなく口を開いた。

 

 「だけど最近記録が伸び悩んでいる、違うか?」

 「…………」

 

 その言葉に押し黙るルドルフ。事実なのだから言い返す言葉もない。

 ルドルフが何も言えずにいると、不意にトレーナーが提案してきた。

 

 「一回何も考えずに走ってみな」

 「? なぜ?」

 「いいからやってみろ」

 

 なぜそんなことを指示してくるのかわからなかったが、とりあえず言われた通り何も考えずにトラックを走ってみる。

 

 

 ────するとどうだろうか?

 今まで重かった足が嘘のように軽く、まるで飛んでいるかのように走れたではないか。計っていたタイムも直近の中で最高に早い記録を叩き出していた。

 

 「……うそ」

 

 ルドルフが叩き出した記録に呆然としていると、トレーナーが近づいて口を開いた。

 

 「どうだ? 今までと違っただろ?」

 「いや、でも、同じように走ったのにどうして………」

 「俺から見たら今のお前はただ義務感で走ってるようなもんだからな。タイムの伸びが悪いのも頷けるってもんだ」

 「義務感で走ってる……?」

 

 トレーナーの言葉がイマイチピンと来ずに首を傾げるルドルフ。確かに『全てのウマ娘を笑顔にする』という使命感を抱いて走っているが、何故それだけで記録の伸びが悪くなるのだろうか?

 

 しかし、次のトレーナーの言葉で全てが吹き飛んだ。

 

 

 「人生は刺激があるからこそ楽しい。レースだって同じ。そうじゃないか?」

 

 

 ────トレーナーの言葉はルドルフにとって衝撃的だった。レースそのものを楽しむなんて、今までに一度たりとも考えたことが無かったからだ。

 しかし、同時に納得している自分もいた。同じように走っただけのはずなのには気分が今までよりも晴れやかになっているのだ。

 

 そしてルドルフの脳裏には幼い頃の記憶が蘇っていた。

 まだ両親からの英才教育が始まる前の、ただ何も考えずに泥だらけになりながら走り回る日々。そんな毎日が幼いルドルフ────ルナは楽しくて楽しくてしょうがなかった。

 

 何故そのことを忘れていたのだろう。走ることが嬉しくて、それで皆にも笑顔になってほしいから競争バになる夢を抱いたのに。

 

 「……どうやら吹っ切れたみたいだな」

 

 憑き物が取れたようなルドルフを見てそうつぶやくと、トレーナーはその場から立ち去ろうとする。それを見てハッとしたルドルフは慌ててトレーナーを呼び止めた。

 

 「ま、待ってください!」

 「あん?」

 「えっと、その……名前を聞いても……?」

 

 随分とおかしなことを聞いてしまい恥ずかしくなるが、トレーナーは不審に思うことなく口を開いた。

 

 「『ダンテ』だ」

 

 そう名乗ったトレーナーは今度こそその場を立ち去る。その後ろ姿をルドルフはただ見つめ続ける。

 

 

 これが後に史上初の七冠を達成し『皇帝』と呼ばれるようになったシンボリルドルフと、彼女のトレーナーとなったダンテの出会いだった。

 

 

………

……

 

 

 4月某日。本日も青空が何処までも続く快晴である。

 

 目を覚ましたダンテは身体にまとわりつく汗をシャワーで流し、いつもの服装に着替えてからトレセン学園内に建設されている社宅を出てトレセン学園のカフェテリアへと向かう。

 いつもなら多くのウマ娘で賑わっているカフェテリアだが、今日はやけに少ない。少し疑問に思ったが、今日はまだ春休みであることを思い出す。

 

 カフェテリアに到着したダンテは厨房に佇むトレセン学園の料理主任に声をかける。

 

 「おばちゃん、いつもの頼むぜ」

 「もうできてるよ」

 

 そう言って料理主任はダンテの前にピザ(オリーブオイル抜き)を出す。

 

 「全く、こんな昼時に起きてくるなんて、生活がなってないんじゃないのかい?」

 「問題ねえよ」

 

 呆れ気味の料理主任にダンテは笑いながらそう返して席に着く。そして早速ピザを食べ始めた。やはり焼きたては美味い。

 

 しばらくピザを食べ続けていると、何者かがダンテの前に座る。しかしダンテはピザを食べながら口を開いた。

 

 「珍しいな、お前もこっちで食うのは」

 「『ウマ娘以外は使ってはいけない』とは言われていないからな。俺が使ってもおかしくはあるまい」

 

 ダンテの言葉に淡々と返す人物ことバージル。その手には弁当箱が握られていた。

 

 「へぇ、愛妻弁当か」

 「俺は止めろと言ったんだがな、聞き入れてくれん」

 「愛されてる証拠だ。いいことじゃねえか」

 「貴様も世帯を持てば嫌でもわかるぞ」

 

 真顔で返してくるバージルにダンテは肩をすくめるのみ。もしそんなことになろうともすれば、一瞬で修羅場になること間違いなしである。

 

 (こっちでも女運は無いらしい)

 

 そんなことを思いながらピザを食べていると、バージルが思い出したように口を開いた。

 

 「ダンテ、お前追加の担当ウマ娘はどうするつもりだ?」

 「……さあな。まだ決まっていない」

 

 バージルの言葉にダンテは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

 つい先日、理事長に呼び出しを受けたダンテが理事長室に向かうと、そこでトレセン学園の理事長である『秋川 やよい』から「今年度から新たに担当のウマ娘を追加して育てるように」と辞令を下された。

 訳を聞いてみると、シンボリルドルフを史上初の七冠バへと導いた実績や、他のウマ娘達の好意的な意見、さらには同僚や先輩トレーナーからの評価を鑑みて、新たなウマ娘の担当を持って活躍の場に導いてほしいとのことだった。

 

 その評価はありがたいのだが、だからといってルドルフがダンテの担当から外れるわけではなく、引き続きルドルフの担当を続けることになる。

 それ自体は別にいい。トレーナーという職業をやっている限り、担当するウマ娘がずっと一人だけとは限らないし、増えすぎるようであればチームの設立もありえるからだ。

 

 問題なのはルドルフの反応だ。

 トレセン学園の生徒会長にして七冠バ、そして『皇帝』という二つ名を持つシンボリルドルフは一見すれば文武両道、才色兼備な優等生なのだが、その本性は非常に負けず嫌いであり、そして()()()()()()()。その度合いはダンテが人間ウマ娘問わず女性と話をしているだけでどんどん瞳が濁っていき、二人きりになった時に何かしらやらかしてくるほどである。

 これがムスッとして膝枕と頭撫で撫での要求ならまだ可愛い方であり、権力を濫用してダンテと話をしていた女性を排除しようとしたり、ひどい時はダンテに対して無理矢理うまぴょいを迫って来たりする。

 一番やばかったのは真夜中にふと目が覚めると、ルドルフが一糸纏わぬ姿でダンテの上に跨っており、瞳を濁らせつつ頬を上気させていたことだ。

 あの時はさすがにビビった。危うく自分の知らないうちにうまぴょいされるところだった。まあクイックシルバーで時間を止めて脱出できたので、事なきを得ることはできたのだが。

 しかし次の日に顔を合わせたら何事も無かったかのように話しかけてきたのだから、自分の担当ウマ娘でありながら『こいつこんな面の皮が厚かったか?』と思ってしまったほどである。

 

 とにもかくにも、新たに担当ウマ娘を持つことになった以上、ルドルフが何かしらやらかしてくる可能性がある。なのでダンテはこの辞令にあまり乗り気ではなかった。

 そのことをバージルも理解しているらしい。

 

 「………まあ、気を強く持て」

 「お前の恥ずかしい話を今度お前の嫁さんに暴露してやるから楽しみにしとけ」

 

 顔を逸されながらそう言ってきたので、ダンテは笑いながら(目は笑っていない)そう返す。

 

 一見すると険悪な雰囲気に見えるが、やはり双子の兄弟ということなのでダンテとバージル自身はこの会話を少し楽しく思っていた。現に常に仏頂面のバージルだが、口の端が僅かに上がっているのをダンテは見逃さなかった。

 

 その後ウマ娘のトレーニングの内容等を話しながら、ダンテはバージルと共に昼飯を食べるのだった。

 

 

………

……

 

 

 カフェテリアで昼飯を食べ終えたダンテはバージルと別れ、トレーニングルームにてルドルフのトレーニングメニューを考えていた。

 以前なら絶対に読まなかったであろう学術書を何冊も引っ張り出し、以前なら絶対に見なかったであろうウマ娘のレース映像をスマホ画面に垂れ流しにしながら、ダンテはパソコンのキーボードを叩き続ける。

 最初はパソコンの操作に悪戦苦闘していたが慣れとは恐ろしいもので、三日も経てば完全に扱えるようになっていた。

 

 

 仕事に集中していると時間はあっという間に経つもので、仕事が終わった頃にはすでに日は地平線に向こうに沈もうとしていた。

 

 パソコンを閉じて軽く身体を伸ばすと、バキバキと音が鳴る。ここ最近ずっとデスクワークばかりなので、身体が固まってしまっているようだ。だからといって以前のようなドンパチが恋しいわけではないが。

 

 身体を軽く解したダンテは立ち上がり、学術書を本棚に仕舞い込む。そしてトレーナー室の電気を消し、部屋を出て施錠し帰路に着く。

 

 社宅に到着する頃には日もう沈んで辺りは暗くなっていた。

 ドアを開けようとドアノブを掴んだところで────ダンテは違和感を感じ取る。

 

 ドアの鍵が開いているのだ。社宅を出る時は確かに鍵を掛けたのに。ダンテが留守にしている間に何者かが鍵を開けて侵入したのかもしれない。

 

 「…………」

 

 ダンテは全身に魔力を漲らせ、いつでも『魔剣ダンテ』を顕現できるようにしながらドアノブを回す。

 ガチャリ、と無機質な音が響くと同時にドアが開く。そのまま中に入ると、リビングの電気が着いていることに気がつき、さらに物音も聞こえてくる。

 

 ダンテがそのままリビングに入ると────

 

 

 「やあトレーナー君、待っていたよ」

 

 

 ────リビングの中央でダンテの現在の担当ウマ娘であるシンボリルドルフが悪魔も泣き出すよう(Devil May Cry)な微笑を携えて立っていた。

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