半人半魔のトレーナーと頂点を目指すもの   作:ユリゼン

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第五話 三人での初トレーニング

 「………ルナ、いい加減機嫌を治してくれ」

 

 ダンテの自宅にて、ダンテは珍しく心の底から困ったような声でそう語りかける。

 ダンテの視線の先には、ベッドの上で三角座りで膝に顔を埋めたまま微動だにしないシンボリルドルフことルナの姿が。

 顔を膝に埋めているにもかかわらず、そのウマ耳は後ろに伏せられている。つまり完全にご立腹であった。

 

 ダンテは何度も声をかけてみるが、ルナの反応が変わることはない。

 ダンテが困ったように頭を掻いていると、ルナが膝に顔を埋めたまま口を開いた。

 

 「………トレーナーさん、なんでライスシャワーだけじゃなくてミホノブルボンとも契約してるの?」

 

 そう、ルナはダンテがライスシャワーだけでなくミホノブルボンとも契約してきたことにブチ切れているのだ。

 知っての通り、ルナはダンテがライスシャワーと契約することは了承した。しかしミホノブルボンとの契約は了承していない。どころか聞いてすらいない。だから何も言わずにミホノブルボンと契約したダンテにブチ切れているのだ。

 

 しかしこのことはダンテにもどうしようもない問題である。何せミホノブルボンのトレーナーだった黒沼のおっさんが寿退社と同時にダンテに次期トレーナーとして指名したのだから、断ることなどできないのだ。

 

 「無茶言うなよ。黒沼のおっさんが寿退社したなんてブルボンから初めて聞いたんだぜ? それに手紙とはいえ引き継がれた以上受け入れるしかねえだろ」

 「それはそうだけど………」

 

 ダンテの言い分はルナも理解できているため、あまり強く言い出すことができない。しかしそれでも納得できないものはできない。だから今回はうまぴょいではなく拗ねるような形になっているのだ。

 

 「だからいい加減機嫌を治せって。何もお前の面倒は見ないってわけじゃねえんだ」

 

 ダンテはルナを宥めるも、ルナはベッドの上で拗ねたままだ。

 そんなルナをしばらく黙って見ていたが、ついにダンテは折れるようにため息を吐いてから口を開いた。

 

 「………わかったわかった。お前の言うことをもう一つなんでも聞いてやるよ」

 

 ダンテのその言葉に後ろに伏せられていたウマ耳がピョコンと立つ。どうやら食いついたようだ。

 それを確認するかのようにルナが少しだけ顔を上げてダンテに聞く。

 

 「……なんでも?」

 「ああ、なんでもだ」

 「それじゃあ、う────」

 「ちなみに健全なものな。お前まだ子供だし」

 

 『うまぴょいしたい』と言う前にダンテは釘を刺す。かつての愛娘と同じくらいの年齢の少女に襲われる趣味などダンテには微塵も存在しない。

 

 少し不満そうにこちらを見てくるが、ダンテが一歩も譲らないことを察したのか再び口を開く。

 

 「……じゃあ、トレーナーさんの家で暮らしたい」

 「それは………どうなんだ?」

 

 ルナの言葉にダンテは首を傾げる。

 普段ウマ娘達は『栗東寮』と『美浦寮』の二つの寮で生活しているが、『絶対にそこで生活しなければならない』という決まりは確か無かったような気がする。そういう意味では問題ないが、仮にもトレーナーと担当ウマ娘とはいえ成人男性と未成年の女子が一つ屋根の下で生活するのは倫理的にどうなのだろうか?

 まあ間違ってもダンテがルナに襲いかかるのは、バージルに対して『ハグしようぜ』と言うくらいありえない話なのだが。

 

 「………やっぱり嘘なんだね」

 

 考え込むダンテを見て、ルナが恨みがましい声でそう言ってくる。おそらくもうすぐで実力行使(うまぴょい)に出るだろう。

 別に逃げようと思えばいつでも逃げられるので問題ないが、わざわざルナに実力行使(うまぴょい)させるようなことはさせないし、そもそもダンテが『もう一つなんでも言うことを聞く』と言ったのだから、ルナの言うことを聞かなければならない。

 

 「OK、とりあえず寮長……確かお前の方は『ヒシアマゾン』だったな。あと理事長にも言っておけ。許可が下りたらここで生活すればいい」

 「! わかった! 約束だからね!」

 

 ダンテの言葉にルナが顔をバッと上げ、笑顔でそう言ってくる。どうやらトレーニングの時だけでなく普段からダンテと生活できることが嬉しいらしい。

 しかしそれはあくまで許可が下りたらの話であって、許可が下りなかったら別のお願いをしてもらうことになる。

 

 (まあ、学園側もそんな許可は下さないだろうしな)

 

 そうたかを括っていたダンテだったが、この時ルナが本当に許可を掻っ攫ってくるとは思ってもいなかったのだった。

 

 

………

……

 

 

 ライスシャワーとミホノブルボンがダンテの担当ウマ娘となってから初めてのトレーニングが訪れた。

 

 「あー、わかってると思うが今日から三人でトレーニングをやっていく。とりあえず自己紹介から始めるか」

 

 ダンテの言葉にルドルフが頷いて口を開いた。

 

 「シンボリルドルフだ。君達の活躍は予々聞いているよ。二人と共にトレーニング出来ることを嬉しく思う。これからよろしく頼む」

 

 先日のことで気分が絶好調になっているルドルフはいつもの凛々しい表情でそう言う。

 

 「シンボリルドルフさんとのトレーニングならば大幅なステータスアップを望めます。よろしくお願いします」

 「ひゃ、ひゃい! ラ、ライスもシンボリルドルフさんと一緒にトレーニングできて嬉しいです! よ、よろしくお願いしみゃふ!」

 

 ルドルフの自己紹介にミホノブルボンはいつもの調子で、ライスシャワーは緊張のあまり噛み噛みで自己紹介する。どうやら出だしは順調なようだ。

 

 「よし、ならまずは走り込みから始めるか。二人の今の実力がどれだけなのかを知っておきたいからな。ルドルフは二人と併走してやれ。ああ、手加減はしなくていいからな」

 「承知した。では行こうか」

 

 そう言ってルドルフはコースに向かい、その後ろをミホノブルボンとライスシャワーがついていく。

 そしてスタート位置についたところでダンテが合図を出すと、三人は勢いよく走り出した。

 

 「Hum………」

 

 ミホノブルボンの脚質は逃げ、ライスシャワーの脚質はルドルフと同じく先行のようだ。そのため現在はミホノブルボンが先頭を走り、それを追うようにライスシャワーが、そして最後尾にいるルドルフが二人を追う。

 

 (さすがは黒沼のおっさんか)

 

 スピード、ペース配分、状況の把握等全てが完璧に近い。さすがは皐月賞と日本ダービーの二冠バといったところか。

 それに対してライスシャワーはまだ全体的に粗があるが、その闘争心は三人の中でも一番高い。現にミホノブルボンを抜き去ろうとピッタリとマークしている。育て方によっては将来化けるだろう。

 前任者はよくもまあこんなウマ娘を手放したものだ。呆れて物も言えない。

 

 

 そして第四コーナーを過ぎて最終局面、ここでついにルドルフが動く。

 直線に入った瞬間、ルドルフが溜めていた脚を解放して一気に速度を上げる。それのよりあっという間にミホノブルボンとライスシャワーを抜き去って先頭に立つ。そのルドルフを追い抜こうとミホノブルボンとライスシャワーも速度を上げるが、先頭に立ったルドルフとの差は縮まるどころか逆に開いていく。

 そしてそのままルドルフが一着、一バ身差でミホノブルボンが二着、その三バ身差でライスシャワーが三着でゴールした。

 

 「トレーナー君、どうだった?」

 

 クールダウンしている三人にダンテが近づくと、それに気がついたルドルフがダンテに聞いてくる。

 

 「ああ、タイムもいいしフォームの乱れも無い。この調子ならいつレースに出ても問題ないだろうな」

 「ふふ、皇帝たるものいつでもレースに出れるように心がけているからね」

 

 ダンテの言葉に微笑みながらそう返してくるルドルフ。しかし尻尾は正直で、ダンテに褒められたことが嬉しいらしく激しく揺れていた。

 そんなルドルフを尻目にダンテはミホノブルボンとライスシャワーに聞いた。

 

 「で、二人はルドルフと走ってみてどうだった?」

 「………さすがは無敗の三冠バ、今の私の実力では足元にも及びません………」

 「これが生徒会長さんの実力……」

 

 ミホノブルボンもライスシャワーもルドルフとの併走で、どれだけ実力の差があるのか理解できたのだろう。

 しかし、その瞳には闘争心が宿っていた。『絶対に次は勝つ』という強い意志が窺える。

 

 (こいつはおもしろいことになりそうだ)

 

 ダンテはフッと笑うと、口を開いて三人に言った。

 

 「よし、とりあえず三周してから今日は終わりにするか」

 「今日はそれだけでいいのかい?」

 「ああ。入っていきなりお前のトレーニングの量をやらせたら二人がぶっ倒れちまうからな」

 「む、それもそうだな」

 

 ダンテの言葉に納得するルドルフ。

 彼女の偉業の裏には血も滲むような努力が隠れている。今でこそ平気な顔でこなしているが、当初はぶっ倒れる寸前までやり込んでいた。

 そんな鬼のようなトレーニングを入ったばかりの二人にやらせたら間違いなくぶっ倒れるので、まずはルドルフとのトレーニングに慣れてもらってから本格的にトレーニングを始めた方がいい。

 

 その言葉を受けたルドルフはミホノブルボンとライスシャワーを連れて、再びトラックを走り始める。

 その姿をダンテは眺めるのだった。

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