半人半魔のトレーナーと頂点を目指すもの   作:ユリゼン

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第九話 野球の名優、帰ってきた逃亡者と不死鳥

 トレーナーの仕事は何も一日中やるわけではない。午前や午後みたいな半日、一日休みなオフの日など、担当しているウマ娘の体調や予定に合わせてスケジュールが決まるのだ。

 

 では、なぜ今こんな話をするのかというと、ダンテは現在暇であった。というのも担当している三人が授業やら生徒会の仕事やらで午前中丸々潰れてしまったために、ダンテは何もやることがなく街中をぶらぶらしているのだ。

 

 (平和っていうのもなかなか悪くないもんだな)

 

 活気に満ちた街中を歩きながらそう思うダンテ。こちらの世界に来た当初は悪魔がおらず争いの無い平和な世界に慣れなかったものの、慣れとは恐ろしいもので今では平和な生活を謳歌しているほどである。

 

 

 そんなわけでダンテはなんとなく、本当に気紛れでカラオケに訪れていたのだが………

 

 

 『かっとばせー、ユーターカー! かっとばせー、ユーターカー!』

 

 

 ────今日は隣の部屋は野球のスタジアムらしい。

 

 

………

……

 

 

 結局隣の応援歌のおかげで歌う気にならなかったダンテは、持ち歩いていたスマホを取り出して適当なレース情報を見る。結局こんなところでも仕事をしてしまっていた。

 

 (……そういや、そろそろあいつらが遠征から帰ってくる頃だったか)

 

 遠征に行っている栗毛のウマ娘共を思い出し、ため息を漏らすダンテ。

 担当ウマ娘ではないのだが、いろいろあって面倒を見ていたので、結局担当ウマ娘となんら変わりない関係性であった。

 そしてルドルフが唯一手を焼くウマ娘共であり、同時にルドルフに匹敵するほどブッ飛んでいるヤバいやつらである。

 ダンテがブルボンとライスシャワーと契約したことを知ったら、何をしてくることやら。

 

 (バージルのやつに押し付けるか?)

 

 そんなことを考えていると────

 

 「────え?」

 「あん?」

 

 ドアが開いたかと思うと、一人のウマ娘が入ってくる。

 カラオケ店という閉鎖的な場所に加え、歌の熱唱によるテンション爆上がりな状態では、自分の部屋と他人の部屋を間違えてしまうことはよくある話だろう。

 そんなことが当然気まずい空気が流れるというものだ。

 

 「た、大変失礼いたしました…」

 

 やってしまった感を盛大に顔に出し、羞恥に頬を染めてドアをそっと閉めようとしていたのが、よりによって知った顔であれば余計に。

 

 「………何やってんだ、『マックイーン』」

 「えっ、あっ」

 

 ダンテの視線の先には名門であるメジロ家の誇るステイヤー、『メジロマックイーン』が、いかにもな縦縞模様の野球のはっぴを羽織ってそこにいたのだった。

 

 

………

……

 

 

 「……くっ。いっそ殺してくださいまし」

 

 顔色を信号機のように赤や青に点滅させていたマックイーンだったが、ようやく状況をはっきりと把握したのか、よよよとその場に崩れ落ちてさめざめと泣き始めた。

 

 しかしそんなところで崩れ落ちられても困るしあらぬ噂も立ちかねないので、とりあえずダンテはマックイーンを部屋の中に招き入れる。

 

 「…………」

 「……あの、これは……」

 

 今更ながら応援はっぴを羽織ったままであることに気が付いたのか、いそいそと脱ぎ始めるマックイーン。

 恐らくも何も、先ほどから延ずっと隣の部屋で繰り広げられていた応援歌はこの少女がかましていたものである。

 

 「……………………野球か」

 「………………………………はい」

 

 話が続かない。

 マックイーンは顔を赤くしてずっと俯いているし、状況が状況なのでこちらも迂闊に刺激できない。

 というよりもまさか「くっ、殺せ」という言葉を聞くことになるとは思ってもいなかった。悪魔共からは聞いたこともないというのに。

 

 とはいえ会話をしたいというと、実はそうでもない。部屋の前で崩れ落ちられてはあらぬ噂が立ちかねないのでとりあえず部屋に入れたのだが、部屋に入れたら入れたで何を話せばいいのかわからない。

 

 というのも実はダンテ、マックイーンをはじめとしたメジロ家の小娘共とは彼女達がチビ助の頃から知っているのである。まあそれは()()()()()()()()()()()、ダンテ自身何度かマックイーン達を相手にしていたのだ。

 

 それ故にある意味ではルドルフよりも付き合いは長いのだが……………トレセン学園に入ってからというもの、マックイーンのポンコツ具合が年々酷くなっているような気がする。特に野球関係になると頭のネジが十本ほど抜けたかのようにアホになるのだから、正直目が当てられない。

 

 「………まあ深くはツッコまねえが」

 「そこは深くツッコんでくださいまし!」

 「無茶言うなよ。あんなの見せられてどうツッコめってんだ」

 

 どうにかならないのだろうか、このポンコツお嬢様は。

 こんなのでもステイヤー候補の最強の一角なのだ。特に先代と同じく春の天皇賞候補にもなる逸材であり、決してこんな残念美人ではないのだ。

 

 「んなことより、こんなところで油売ってる暇があるならさっさと戻って練習でもしろ」

 「そ、そうですわね! 私もそろそろ戻ろうと思っていましたわ!」

 

 ダンテの言葉にあたふたとしながらはっぴやらなんやらをカバンにしまうマックイーン。そして部屋を出る前に恥ずかしそうにこちらを見てくる。

 

 「……その、今日のことは」

 「わかってる。あの四人にも黙っといてやるよ」

 「約束ですからね。もし破ったらあなたをパクパクですわ!」

 

 そんな変な忠告を残して部屋から立ち去るマックイーン。

 メジロ家の将来の当主候補があんなので大丈夫なのだろうか、とダンテはため息を吐かずにはいられなかった。

 

 

………

……

 

 

 腐れ縁のあらぬ姿を見せられたダンテは結局一曲も歌を歌うことなく、安物のストロベリーサンデーだけ食べてカラオケ店を出た。別のところに出かける気も無く、そのままトレセン学園に戻ってきた。

 その途中トラックを何事も無かったかのように走るマックイーンの姿を見かけたが、ここで関わって先ほどのような気まずい空気にはなりたくなかったので、ダンテは無視してきた。

 

 そんなわけでトレーナー室へと戻ってきたダンテ。早速トレーニングのメニューでも考えようとドアノブに手をかけたところで、ダンテの動きが止まる。

 

 

 中に人がいるのだ。それも二人。

 ルドルフ達はまだ生徒会の仕事やら授業やらで戻ってきていないはず。だとしたら一体誰がトレーナー室にいるのだろうか?

 

 ダンテはコートの懐からエボニー(不審者撃退用魔改造水鉄砲)を取り出してからドアを開ける。

 するとトレーナー室の中に置いてあったソファに二人のウマ娘が顔を埋めて寝転がっていた。

 寝ている…かと思いきや、尻尾がブンブンと取れそうな勢いで動いているため寝てはいない。

 

 

 この二人、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「………何やってんだ、変態共」

 「「───ッ!?」」

 

 ダンテが言葉をかけると二人の変態の激しく動いていた尻尾がピンと伸び、ガバッと起き上がってこちらを見てくる。

 

 「あ、あの………」

 「え、えっと………」

 

 そしてダンテの顔を見た瞬間、顔を真っ赤にさせる。そんなに恥ずかしいなら最初からやるなってんだ。

 

 そんな変態共である『サイレンススズカ』と『グラスワンダー』はダンテがルドルフと契約してからすぐに面倒を見始めたウマ娘だ。

 サイレンススズカは『異次元の逃亡者』という異名の名の通り、逃げを得意とするウマ娘だ。その実力は選抜レースで圧倒的な実力差を見せつけたほどである。

 反面、彼女はかなりのマイペースであり、それはトレーニングにもレースにも出てくるほどである。それ故にスカウトしたトレーナーとウマが合わずに解約することも多かった。それを見かねた理事長が理事長秘書を通してダンテに『面倒を見るだけでも』と依頼、ダンテは『面倒を見るだけだぞ』と言ってサイレンススズカの面倒を見るようになったのである。

 しかしどういうわけかサイレンススズカの中ではダンテは理想のトレーナーらしく、向こうはダンテのことを偉く気に入ってしまい、以来ダンテから離れようとしなかった。

 

 

 そしてもう一人のウマ娘である『グラスワンダー』は『スペシャルウィーク』、『キングヘイロー』、『エルコンドルパサー』、『セイウンスカイ』を同年代とした黄金世代と呼ばれるウマ娘の一人である。

 アメリカ育ちの帰国子女であり清楚な大和撫子なのだが………ちょっと常識がぶっ飛んでいる時がある。

 しかしその実力は世代最強に相応しく、デビューして間もないが他と互角の勝負を繰り広げている。

 

 そんな品行方正、文武両道を形にしたようなウマ娘が何故ダンテのようば適当男の元にいるのか?

 まあこれもたまたま助言したダンテをグラスワンダーが気に入ってしまい、以来ダンテの側から離れようとしないのである。

 

 とはいえ、この二人もルドルフと同様愛情がまあ重い。ただルドルフのようにすぐうまぴょいをしてくるのではなく、この二人の場合はじわりじわりと距離を詰めてくるタイプである。

 

 「……とりあえず、お帰り」

 「……ただいま戻りました」

 「……えっと、ただいまです」

 

 先ほどのポンコツお嬢様の時とは違う気まずい空気が流れる。そりゃ目の前で自分の匂いが染み付いたソファで興奮している二人を見たら、いくらダンテでもそんな反応をしてしまうものである。

 

 とはいえ、いつまでもこんな気まずい空気でいられるのも困るので、ダンテは話題を変えることにする。

 

 「遠征はどうだった?」

 「あ、えっと、とてもいい経験になりました」

 「はい、スズカ先輩のレースは素晴らしかったです。私も大変勉強になりました」

 

 ダンテの言葉にスズカとグラスがそう返してくる。とりあえず今回の遠征で何か得るものがあったのなら、それだけで儲けものだ。

 

 

 そんなわけでスズカとグラスをトレーナー室から追い払おうとした時、スズカが口を開いた。

 

 「……ところで、トレーナーさん」

 「何だ?」

 「生徒会長以外にブルボンさんとライスさんを担当ウマ娘に加えたと聞いたのですけど?」

 

  ニッコリと笑顔でそう言ってくるが、その笑顔とは裏腹に怒気をあっちこっちに撒き散らしている。相当ご立腹らしいのだが、なぜ契約していない彼女が怒るのだろうか?

 

 「私も聞きました~。私達というものがいながら他の子と契約するなんて、これは責任を取ってもらわないといけませんね~」

 

 グラスもグラスでたおやかな笑顔を浮かべながら、全身から青いオーラを立ち込めらせている。こちらもこちらでご立腹らしいのだが、一体何の責任を取らされるのだろうか?

 

 そもそも、何故この二人がブルボンとライスシャワーと契約したことに怒っているのだろうか? この二人とは契約していないというのに。

 

 (どうしたもんかねぇ?)

 

 ダンテがこの状況をどうしようかかんがえていると────

 

 

 

 「やあトレーナー君、失礼……するよ………」

 

 

 

 ────その瞬間、トレーナー室が魔界と化した。

 

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