男子社員が社長から女性管理職にならないかと誘われて安易に引き受けてしまうお話です。

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女子社員になるよう言われて安易に引き受けた俺の末路

「絶対嫌ですよ。というか、俺が女子社員にって……女装なんかで誤魔化せるものじゃないでしょう?」

 

 

 

 

 俺の名前は志賀凛也。そそっかしさから積み上がる膨大なミスと、それを補って余りある業績を誇る、数打ちゃ当たるを地で行くアクティブサラリーマンだ。

 そんな俺が社長直々に呼び出され、先の案件についてお小言を頂くのかとげんなりしながら社長室に入り、出会い頭に受けた社長からの一言が、

 

「志賀君、私は君を女子として部長に昇進させたい。そう、女子としてね」

 

というものだった。

 社長の話を要約すると、どうやら近年の社会情勢を鑑み、我が社でも女性の登用を増やし、さらに管理職の人員においても一定の女性枠を設けるべきだという声が株主総会で多く寄せられたらしい。

 しかし我が社の女子社員数は元々少なく、さらに優秀な人材も乏しいため、その枠に充てる人選がなかなか捗らないのだそうだ。

 

「そこで入社2年目にして大型案件をいくつも呼び込み、その多くを成功に導いた期待の新人志賀君に、その役を担ってもらおうかと」

 

 なんと。まさか社長からここまで評価されているとは。俺は思わず目頭を押さえ込む。

 

「どうだね。女子社員の任、引き受けてくれるかね」

「社長……」

 

 

 

 そんな社長に対する俺の返答は、先に述べたとおりだ。

 呆れてものも言えない。この人、普段は頼りになるのだが、こういうおかしな話にはやたら弱い。

 

「じゃ、これから先方と打ち合わせがあるので、これで」

「ま、待ってくれ!もし君が引き受けてくれるというのなら……そうだな、最低でもこの位の給与アップを約束しよう」

 

 しかし社長は往生際が悪く、踵を返した俺の背後へといつの間にか回り込み、電卓をカタカタと弾いて交渉を強行する。

 

「嫌なものは嫌ですよ。何が好きでいい歳して女装なんて……えっ、これ……社長、マジですか……?」

「ああ、マジだ。さらにささやかだが、役職手当もいくらか弾むと約束しよう」

「やります」

 

 俺は目先の大金に、二つ返事で飛びついた。

 

 

 

 

 

「いやあ、まさかリアルにこんなうまい話が転がっているとは!研修期間が3年ってのは長ったらしいけど、その間ですら今の5倍の給料だ!」

 

 その日の夜、高揚する気分のままに、俺は自宅で飲んだくれていた。

 

「まあ女子社員になるといっても書類上の話だろうし、女装なんかする必要すらないかもなぁ」

 

 莫大なメリットと瑣末なデメリット。ノーダメージ・ハイリターン。その実なんと給料5倍。これで落ち着いていられる方がおかしい。

 

「あー、来月が楽しみだ」

 

 しかしそんな俺の幸運は、単なる愚かさ故のまやかしだったのだと、この時の俺は気づけないでいた。

 渡された書類もろくに読まずに、俺はただぬか喜びに浸っていた。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

「ん、ふわぁ……」

 

 カーテンの隙間から差し込む朝日で俺は目を覚ます。

 あれからひと月、今日から俺は女子社員の扱いになる。まあ実際にはいつもと何ら変わらないわけだけど、給料日への待ち遠しさは桁違いに膨れ上がっていた。

 

「うー、ねむ……うん?」

 

 なんだろう。喉の調子がおかしい気がする。

 

「風邪か?」

 

 ここ数日の激しい気温差にやられてしまったのだろうか。

 それにしてはガラガラ声のような不快さもなく、自分の声とは思えないほど高く澄んだ綺麗な声音だ。

 まあ寝ぼけているだけだろう。そういうことにしておいて、俺はとりあえず朝の生理現象の対処へと向かう。

 

「……うーん?」

 

 と、足元を見下ろして、違和感。なんだか昨日の夜と違う寝間着のような。それも、普段俺が着ているようなタイプじゃなく、まるで女の子が使いそうな色合いとデザインだ。

 ……というか、視界を阻むこの膨らみはなんだ?

 

「……二日酔いか。昨日はそんなに飲んだつもりないんだけど……」

 

 おそらく酒のせいで脳が覚醒しきれていないのだろう。

 俺も飲酒量に注意しないとな年頃かなとぼんやり考えながらトイレにたどり着く。ドアを閉め、ズボン、それから馴染みのないブリーフを降ろし、放尿を始める。

 

「んっ……なんか、ゾクってする……ふう」

 

 随分と溜め込んでいたのか、いつもの比じゃない勢いで音を立て、にしてはあっという間に収まる尿意。

 いつにない違和感を抱きながらも特に気にすることもなく、下着を履こうとして立ち上がったそのとき、俺はとんでもないものを目にした。

 

「……おい、なんだよこれ」

 

 そこにあるはずのものが、ない。

 そこに手を伸ばす。しかしその手は視覚の通りに空を切る。すると、これは現実……?

 もはや寝ぼけだとか二日酔いでは納得のできない異常事態。なんと、俺の股間から男の象徴たる存在が消え失せていたのだ。

 

「おい、おい、おいおいおい」

 

 俺は下着だけ履き勢い任せにトイレから飛び出る。足元でもつれたズボンを蹴り飛ばし、慌てて洗面台の前に顔を覗かせた。

 そして。

 

「うそ……だろ……?」

 

 鏡が映した俺の姿は、まるで中高生の女の子だった。

 肩に掛かるほど長く、絹のようにさらりとした艶やかな黒髪。

 以前の面影を残しながらも女の子然とした小さく丸い顔立ち。

 そんな小顔とは不釣り合いなほど大きくぱっちりと開かれた、見る者に快活な印象を与える黒目。周囲には華やかに伸びた睫毛が並び、その少し上には細く上品に整えられた眉がある。

 相応に小さくなった鼻。そしてそれは唇にも言えるが、にも関わらずこちらの存在感が際立っているのは、そのしっとりとした桜色が染みひとつない白肌から魅惑的に浮き立っているからだろうか。

 ほんのりと朱に染まる頬は愛らしく、寝起きとは思えないほどの生気を醸し出していた。

 

「じゃあ、ひょっとして……あっ……」

 

 呟きながら俺は衣服を脱ぎ捨てる。袖から腕を引き抜く際、自然とその手が胸部の膨らみに触れてしまい、思わず声が漏れ出る。

 そんな気恥ずかしさをなんとか無視して、俺は再び鏡面に向き合う。

 

「うわあ……」

 

 男ではありえない胸をしていた。思春期らしく、大人への前段階を思わせる女子の胸。男のそれとは違い、脂肪を蓄え赤子に母乳を与えるように設計された、まごうことなき女性の胸。

 そんな瑞々しい色白の双丘の先端にいつく桃色の突起物もまた以前とは様相が異なり、性の役割を彷彿とさせる。

 

「……」

 

 ぴょんと軽く跳ねてみる。すると鏡の胸は慣性に従い上に振れ、重力に従い定位置に落ち着いた。胸自体はそう大きくないように思えたが、胸部からは「ぷるん」と揺れ動く感覚が伝わり、これらが自らに備わった器官であることを実感させた。

 

 股間に張り付く女物のパンツを脱ぐと、そこにはやはり男たらしめる一物が見当たらず、かといってまるっきり平坦というわけではなく、ささやかながらの膨らみがあり、その中心にはまるで男の性器を迎え入れんがための膣口が形成されていた。

 そしておそらくその入り口は、本来であれば俺が有するはずのない、女性の生殖機能の要である子宮へと繋がり、着々と成熟を進める卵巣共々、男の精子が注がれるのを今か今かと待ち侘びている。そんな直感があった。

 縮んだ身長。華奢になった体格。撫で肩や盛り上がった臀部。腰部のしなやかなくびれ。細く頼りない腕と脚。声を発すると室内に響く可愛らしいソプラノの女声。

 

 鏡に映る不安げな女の子の表情は、奇しくも俺の心情を、この上なく如実に再現していた。

 これ以上は語るべくもない。

 俺の身体は、もはや男ではありえないものとなっていた。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

◯◯株式会社 女子管理職推進計画要綱

 

1条.女子管理職選抜(以下、選抜とする)に応じた男子社員は、次年度初日に女子高校生となり、「その性格や学力、特長、勤務態度、女性化への適正等」を総合して考慮し、「この要綱の指針とする管理職として備えるべき技能及び社会通念上一般的とされる健全な女性としての思想、理念、情操を養成し得るに足る高等学校」へと入学させる。

 

2条.女子高校生として3年間の研修を受け、上述の技能、思想等を十分に体得したと疎明できた者は、その高校を卒業し、女子としての戸籍を維持しつつ弊社に再入社し、以後管理職としてその職務を全うするものとする。

 

3条.女子高校生として3年間の研修を受け、なお女子としての素養が1条によるところに満たないとき、弊社はその者を指定した女子大学に入学させることができる。この場合、弊社は監督人を選任し、管理職候補者が女子大学生として健常な思想、理念、情操を養育できるよう補佐しなければならない。

 

 

 

 

10条.選抜に応じた男子社員は、以後男子として有した一切の経歴を放棄し、弊社の供する戸籍と経歴に従って、その生活を送る。

 

11条.選抜に応じた男子社員は、その身体を女体生成の材料として提供しなければならない。

 

12条.身体の差し替えは、毎年度末日に行うものとする。

 

13条.選抜に応じた男子社員は、この要綱に反することができない。これに反しようとする男子社員は、弊社特別研修センターに移送する。

 

(一部抜粋)

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 隙間風の煽りを受け、自慢の長髪がなびく。肩に逸れてしまったその一部を手でかきあげながら、私は改めてこの入社式の会場を見渡した。

 相も変わらず、我が社の新入社員は男の子ばかりだ。

 変わらない入社式。ただ、私の面持ちは1度目のときより晴れやかなものとなっているだろう。

 首元をくすぐる髪の毛や膨らんだ胸部を締め付ける衣服の感触、内股を強要させるタイトスカートに、踵を持ち上げ爪先を細く見せる女性特有のパンプス。

 身に纏ったすべてのものが、新しい私を自覚させる。

 

「では続きまして、女性管理職の方からのお話です。志賀部長、お願いします」

 

 変わらない慣習に辟易としながら、私は司会に言われるまま壇上へと登った。

 

 長いようで短い研修期間だった……なんて、言えた立場じゃないかな。

 実に7年もの下積みを経て、私は今、新入社員の子たちの前に立っている。

 とんでもない思い違いから始まった私の女子としての生活。年齢も性別も、環境までもが一新された長い長い研修生活は、男だったこれまでの私を心身ともに綺麗さっぱり払拭させ、完全な女子としての私を今この場に立たせている。

 

 そんな私の女子社員生活は彼らと一緒に、ここからようやくスタートするのだ。

 

「……」

 

 ここ、段差が大きくてタイトスカートじゃ登りにくいなぁ。こういうところを、私がきっちりひとつひとつ直していかなきゃ。

 私が、この会社を女性でも楽しく働きやすい職場にするんだ。絶対に。

 決意を新たに居住まいを正し、マイクを手に取る。

 自然と洗練された所作。座り、立ち、歩き、物を手に取る、この一挙手一投足が女性としていかに完成されているか、気づけた社員はどのくらいいるだろう。

 

「いるわけないよね。男性ってほんとがさつ」

 

 まあ、こればっかりは仕方がない。そういうところに意識が向くのも私が女性たる所以であって、逆に言えば男性に求めるのは酷なのだ。

 

「皆様、はじめまして。××株式会社、◯◯課部長の志賀凛と申します」

 

 肩書きこそ部長の名を冠してはいるけど、今の私はもうこの子達とそう変わらない。年齢も、たぶん精神も、普通に新入社員だろう。まあ前世的な経験値を含めたら、さすがに一日の長があると思うけど。

 ただ、唯一明確に違うものがある。それは性別。

 男子と女子。人間であればおよそ不可避の、絶対的な性の枠付け。

 私の使命は、それがもたらす悪慣習を和らげてあげること。

 ひとりでも多くの女子社員を増やして、活躍させてあげられる職場にしたいな。

 

 もしかしたら私みたいな子が、いずれこの中から現れるかもしれない。

 そんなまだ見ぬ後輩のために今は気持ち先輩の私が、人肌脱いであげるのだ。

 

 

 




はじめまして。孔明の罠と申します。
pixivより拙作の一部をマルチ投稿させていただきます。ハーメルンにいらっしゃる皆様の性癖を刺激することができたら幸いです。


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