あの日から僕はタキオンの研究室に度々おもむくようになった。タキオンは確かに少しおかしいけど、話してみると普通に優しいウマ娘だった。
ちなみにテイオーはタキオンの独特な雰囲気が苦手だから着いてこない。
「さぁて、モルモット君。薬品ができたのだが、飲むかい?」
「モルモットじゃないっつーの」
タキオンは僕のことをモルモットなどと呼んでくる。かなり失礼である。
「それで、効果は?それ次第だけど……」
「それを言うと面白くないが……疲労回復効果のあるものだ」
「なるほど」
僕はタキオンがくれた薬品を飲んでみる。何とも言えない味がする。
「これ、味はどうにかならないの……」
僕は基本なんでも食べれるけど、生粋の甘党なのでイチゴ味とかにして欲しいものである。
「うーん、なんか楽になった感はあるけど……」
「ふむ……私の見込みだと疲労回復しすぎて元気がありやまって飛び出していくほどだと思ったのだが……」
そこまで変なやつじゃないよ僕。
「失敗かな」
「みたいだねぇ」
僕がタキオンの研究に付き合い、こうやって被検体になっているのは少なからず理由がある。実は彼女なら、人間をウマ娘並に肉体改造出来るんじゃないか……とか夢を見ているんだ。
彼女の夢は『速さの限界を知る』こと。そのため肉体改造の薬も割と作る。
「ここにいたか、タキオン」
「おやおや、会長じゃないか」
研究室に珍しく客がやってきた。会長は凄く深刻な顔をしている。
「大事な話がある。来てくれ」
「わかった。モルモット君、君は帰っていい」
「へい」
会長が深刻な顔をしていたので少し不安だが、タキオンの事だしまた爆発でも起こしたんじゃないかな。
「あ、トレーナー!!会長が呼んでるよー!!」
「会長が?」
次の日、僕は会長に呼び出された。
「案内するねー」
「生徒会室の場所くらいわかるって」
「ぶー」
可愛くほっぺをふくらませても僕に効果はない。
「僕も話聞きたいし着いてこーっと」
と、言うわけでテイオーと共に生徒会室に向かった。
「トレーナー君、残念なお知らせがある」
部屋に入ると会長は物凄く悲しそうな顔をしていた。
「会長?大丈夫ですか?」
「ふふ、大丈夫だ。だが、少し残念なんだ」
そう言ってフッと笑ってみせる会長。
「……アグネスタキオンが退学処分になる」
「……え」
確かにタキオンはこの前、退学寸前だと言っていた。それにしても早すぎる。まだあれから2週間も経っていないのに。
「な…何とかならないんですか!!」
「君ならそういうと思ったよ」
なんだかんだで、タキオンと仲良くなってしまった僕はタキオンにはここでのびのびと研究をして欲しかった。
「私も何とかしてあげたい……が、担当トレーナーを取り付けようともしないウマ娘に、この学園にいる資格はないんだ」
「な……なら、僕が!!」
「無理だよトレーナー、ボクがいるからね」
「……ぐぬぬ」
この学園のルール。基本は一対一でウマ娘トレーナーが関係を築く。一部、認められたトレーナーには複数人のウマ娘を見る権利、いわゆるチームの創設権利が貰える。が、それはある程度経歴を残した選ばれた人だけが持つもの。
もちろん、まだ新人の僕がそんなことできるわけがない。
「そこをなんとかー!!」
「……トレーナー君の頼みでも、これはルールだ。揺らぐことはない」
「……」
どうにかならないか頭を回す。しかし、何も思いつかない。他のトレーナーを探してもらうのもいいと思ったが、今までつかなかったのに今更やるという人はいないだろう。
「トレーナーはやっぱり優しいね」
「テイオー……」
テイオーは僕の目をまっすぐ見て、会長を見た。
「会長、ボクからもお願い。何とかならない?」
「テイオー……!!」
テイオーはタキオンのことをあまり好きじゃないと思っていたから助け舟を出してくれるのには驚いた。
「……ふふ、君達には敵わないな。理事長の所へ行こう。この件は私に決定権はない。理事長に直談判するしかないだろう」
「「会長!!」」
会長はヤレヤレという顔をして、僕たちと理事長室へ向かった。
「「お願いします!!」」
テイオーと僕で秋川理事長に頭を下げお願いをしてみる。
「拒否ッ!!流石にこの例外は認められないッ!!」
「そ……そんな……」
流石にルールはルール。そう簡単には破れないらしい。
「理事長、私からもお願いです」
会長も頭を下げる。タキオンに聞いたのだが、会長はタキオンが退学にならないように手を回してきたらしい。もしかしたら、最初から僕達なら助けてくれるかもしれないと頼ったのかもしれない。
「そんなこと言われてもな……」
流石に理事長とはいえ会長が頭を下げると、動揺するらしい。
「おやおや、私を抜いて何を話しているんだい」
なんと、理事長にタキオンが入ってきた。
理事長秘書のたづなさんがタキオンの白衣を引っ張り、中への侵入を防ごうとしている。
「タキオン……」
「なんて顔をしているんだいモルモット君。私が居なくなるのがそんなに寂しいのかい?」
「……うん」
僕はタキオンとまだ話したい。こんな所でいなくなるなんていやだ。
「理事長……お願いです」
「お願い!!」
テイオーも会長も、タキオンの為に理事長を必死に説得しようとする。
「君達、何勝手に話を進めているんだい?私はここに残りたいと一言でも言ったかい」
その説得も何もかも彼女の言葉が壊した。
「タキオン!?」
「ここにいても私の研究は成熟できない。だから私は退学を受け入れたんだ。どちらにせよ遠くない未来そうするつもりだった」
「……」
三人とも何も言えなくなる。
「君たちの行動は些か疑問なんだ。私の気持ちも考えず、勝手な行動をするとは……相変わらず不思議だ」
「タキオン、僕は……」
「言わなくても分かる。私に愛着が湧いてしまったのだろう。全く困ったものだ」
タキオンは僕のことを目を細めて見ている。
「ふむ……不思議だな」
タキオンは僕の目をジッと見てくる。
「……なに?」
「私のことを心配してくれることに対して、悪い気はしない……むしろ良い気分になる」
タキオンは薄っすら笑いながら僕に言ってくる。
「……愛着が湧いたのは君だけじゃないというわけか。全く、私も甘いな」
「タキオン……」
「理事長、退学しないようにするにはどうすればいいんだい?」
少し遠回しな言い方だけれど、タキオンは退学したくないという意志を見せた。最初からそう言えばいいのに。不器用にも程がある。
「……君達には敵わなんなッ……」
理事長は困ったように頭をかいた。
「提案ッ!!退学は一年延期するッ!!その間にトレーナー。君がチームを作る権利を得たら君達の勝ち……というのでどうだッ!!」
「……受けてたちます」
こうしてタキオンの退学騒動は幕を閉じた。
「モルモット君、せめて私に聞いてから行動すべきではないか?」
「ごめんごめん」
理事長への抗議の後、僕達は四人でタキオンの研究室に来ていた。
「うわぁー!!試験管がこんなに沢山!!」
「こらこら、テイオー。あまり騒ぐな」
向こうではテイオーと会長が親子のような会話をしている。
「まぁ、約束は約束だ。君がチームを作るとなれば、すぐにでも入れるように私も準備しておこう」
「任せてよね」
「そーそー!!ボクとトレーナーならチームなんかすぐ出来ちゃうよ!!」
チームは担当しているウマ娘の成果によって作れるかどうかは決まる。僕にはテイオーがいる。なんとかなるはずだ。
まぁ、テイオーは僕の夢とタキオンのこと、二つも新たに背負って走っていかなければならない。僕のワガママでテイオーに負担をかけてしまったと、反省している。
「トレーナー。ボクなら大丈夫だよ。なんたって、ボクは無敵のテイオー様だからね!!」
「……相変わらず心が読めるのかお前は」
「ふふ……テイオー、君は相変わらずだな」
会長は完全に保護者の目だ。
「ふむ……テイオー君に会長。少しいいかい?」
「なになに?」
そこでタキオンが取り出したのは……
「「……!?」」
空の注射器だった。
「え、えっと……」
「君達ほどのウマ娘の遺伝子を少し見てみたいてねぇ。血を少しばかり……」
「ヤダー!!オチュウシャヤダヨー!!カイチョータスケテー!?」
テイオーは慌てて会長の後ろに隠れる。そういえばテイオーは病院が苦手とか言ってたし、その流れで注射も苦手らしい。
「た……タキオン。それは少しやめて欲しいのだが……」
会長は堂々としているが、足が震えている。あの会長が足を震わせて怯えている。珍しい光景すぎて写真撮りたくなる。
「ふふ……大丈夫、痛みは一瞬さ」
「ヤダー!!」
「テイオー!!逃げるぞ!!」
会長はテイオーより先に脱兎のごとく逃げ出した。
「カイチョーマッテー!!」
「ふふ、逃げても無駄さ!!」
続いてテイオーも逃げ、それをタキオンが追って走っていった。
「……ワケワカンナイヨー」
一人の研究室に残された僕はそう呟くしかなかった。
会長も注射は苦手な気がするんですよねぇ