遂にこの日がやってきた。
「来たね、遂に」
「そうだね、やっと……ボク達の夢が始まるね」
三冠のうちの一冠目 皐月賞がやってきた。
今は控え室でテイオーと話してるんだけど……
「テイオー、緊張してる?」
「大丈夫大丈夫……」
嘘である。割と緊張している。
「ねぇ、トレーナー!!緊張解すの下手すぎでしょ!!」
「えぇぇぇぇ!?」
「それに、トレーナーの方が緊張してない?落ち着かないんだけど……」
だって始めての担当ウマ娘の始めての大舞台。遂にやってきた僕達の夢のレースなんだ。緊張するに決まってる。
「やぁやぁトレーナー君、それにテイオー君」
控え室にやってきたのはアグネスタキオン。あの日からトレーニングには参加せられないものの、トレーナー室によくやってくるようになった。
「タキオン、何しに来たんだよ」
「いやいや、緊張しているんじゃないかなと思ってね」
タキオンはなんだかんだで良い奴だ。色々手伝ってくれるし、僕達のことをしっかり考えてくれている。
「頑張りたまえよ、テイオー君。私のためにも」
「あはは……そんなこと言われるとむしろ緊張するんだけど……」
「おや、失敬失敬」
テイオーがGIレースで勝てば僕がチームを作れる可能性が高くなるのは間違いない。でも、それを今言うのはダメだろう。タキオンが不器用ゆえに仕方ないとえば仕方ないのだけれど。
「さて、トレーナー君。そろそろ行こう。場所取りはカフェと会長にしてもらっている」
「ありがとうタキオン……それじゃあテイオー」
僕はテイオーに手を差し出す。
「うん、ボクは負けないよ。約束だからね」
「信じてる」
テイオーは僕の手を取り、しっかり約束を確認しあった。
「来ましたね」
「テイオーはどうだった?」
「緊張してました」
観客席で待っていたのは会長とタキオンと仲がいいというマンハッタンカフェだ。
「でも、負けませんよ。なんたって、無敵のテイオー様ですからね」
「ふふ……君はテイオーのことを信用しきっているみたいだな」
「もちろんです」
テイオーは努力してきた。出来ることはやった。これで負けたなら、運が悪かったとしか言えないくらい、頑張ってきた。
「……そろそろ私は帰ります」
「そう言わずに見ていくといいカフェ」
「タキオンさんは見るんですね、意外です」
タキオンはカフェと友達だと言ってたけど、カフェの方からは物凄い冷たい。
「失礼します」
そう言ってカフェは去っていった。
「全く、カフェはレースに興味がないのかな」
「それこそタキオンの方が興味なさそうなんだけど」
「……私は彼女が勝てばチームに入れるかもしれないからだ」
素直じゃないやつである。
「……始まるぞ、トレーナー君」
「うん」
物凄く緊張する。テイオーなら大丈夫だと思ってはいるけど、それでも緊張はする。
「トレーナー君、緊張しているな」
「……うん」
「……私もだ」
「……え?」
僕に緊張していると話してきた会長はいつも通り堂々としてみえる。
「でも、走るのはテイオーだ。私達が緊張しているようではテイオーはもっと緊張してしまうだろう。こういう時こそ堂々としておくものだ」
つまり緊張してもいいけど態度には出すなということだろう。
「わかった」
『さぁ、今年もやってきました皐月賞!!』
あぁ……始まる、夢の舞台が。
『来たぞ来たぞトウカイテイオー!!やはり勝つのはこのウマ娘か!!』
最後の第4コーナー。真ん中で控えていたテイオーはグングンとスピードを上げ、一人、二人と抜き去っていく。
『さぁ!!最後の直線だ!!』
このまま行けば勝てそうな勢い。でも、僕は……
「テイオー……」
気が沈んでいた。勝てるのに、テイオーが勝てるのに……レースを見ていられない。
『先頭に躍り出たのはトウカイテイオー!!しかし後続も追いすがる!!』
「トレーナー君、何下を向いているんだい!!」
タキオンに背中を叩かれ、ハッと前を見る。その瞬間、テイオーが一着でゴールインした。
「テイオー……」
勝った。なのに……なのに……
「うぅ……」
『トウカイテイオー!!一つ目の冠を取りました!!』
トウカイテイオーがシンボリルドルフを真似して1の指を空に掲げる。
それは僕の夢でもあったはずなのに……
なぜだか涙が止まらなかった。
「トレーナー!!会長!!見てた!!ボクの走り!!」
「あぁ、おめでとうテイオー」
「ありがとう会長!!」
ボクはレースを終え、トレーナー達の元にやってきた。
「トレーナー…?」
「おめでとう」
トレーナーは最初に会った時みたいな少し冷たい口調で言ってきた。目を見ると少し赤くなっている。泣いたのだろうか。
「テイオー君、今は放っておいてくれ。君の走りに感動して泣いてしまったんだ」
「ふふーん!!こんなので泣いてるんだったらこれからもっと泣くことになるよ!!トレーナー!!」
「あはは……うん」
……違う。トレーナーは感動して泣いたんじゃない。今のはきっと、タキオンが僕とトレーナーのためについた嘘だ。
「テイオー、ウィニングライブがあるのだろう。早く準備をするといい」
「うん!!みんなしっかり見ててよねー!!」
トレーナーに後で色々聞かないと。
「トレーナー君」
タキオンはウィニングライブは見ないで帰ってしまった。残されたのは私とトレーナー君だけだ。今は席をとって始まるのを待っているところだ。
「会長……」
トレーナー君は完全に気が沈んでいた。
「やはり、走りたかったのだろう」
「……うん」
彼はレースを見始めて、少しして以降ほとんどレースを見ていなかった。
「分かってる。乗り越えたつもりだったし、僕の夢はテイオーが叶えてくれる……でも!!でも!!」
「トレーナー君……」
何も言ってあげられない。その気持ちを私には分かってあげられない。
「走りたかったよ!!会長!!」
彼はまた泣き出してしまった。実際に夢の舞台を見て、走れないという現実を再び叩きつけられてしまったのだろう。
「……私もまだまだ未熟だな。今の君に、何を話せばいいのか全く思いつかない」
「……うぅ」
「すまない。しかしトレーナー君。これもまた試練だ……これから先、こういうことはいくらでもある。慣れるしかないさ」
「………うん!!」
泣きながらも必死に返事をするトレーナー君。その頭を思わず撫でてしまう。
「!?」
その瞬間、トレーナー君が飛び上がる。
「か…かか…会長!?」
「あぁ、すまない。わざとじゃないんだ」
つい、テイオーと同じように接してしまった。
「会長、ウィニングライブ始まるよ!!」
彼は顔を耳まで真っ赤にしながら言ってくる。きっと恥ずかしさを誤魔化すためだ。
「あぁ」
泣いた数だけ強くなれる。それはトレーナーだってそうだろう。彼はまだまだ強くなる。
大丈夫、二人なら乗り越えてくる。そして私にだっていつか勝ちに来る。
「これから楽しみだ」
小さな一言は会場の歓声にかき消された。
ちなみにタキオンの性格は他の二次創作と少し違う感じがすると思います。がっつり優しいタキオンもいいよね