遂にやってきた二つ目の夢の舞台『日本ダービー』。皐月賞では余裕の勝利をしたけど今回は上手くいくかどうか……
「なーに緊張してるのさー!!ボクより緊張するのやめてよー!!」
「緊張してませんー!!」
「いや、してるよね!?」
してる。凄いしてる。走るのはテイオーなのに吐きそうなくらい緊張する。
「テイオーは大丈夫?」
「うーん……皐月賞の時よりは大丈夫かなぁ」
「凄いな……」
テイオーは強くなっている。心も体も。僕は相変わらずだなぁ……
「トレーナー、大丈夫。今日も勝つよ。だってボクは無敵のテイオー様だもん!!」
「そうだな」
分かっている。今のテイオーならこの日本ダービーであったとしても充分に勝てる力はある。後は運があるかどうか。
「そろそろ観客席に戻るよ」
「うん!!」
皐月賞の時と同じように手を差し出す。
「約束、絶対守るから」
「ありがとう」
テイオーが僕の手を取り、もう一度約束を確認した。
「テイオーはどうだったか?」
「前回よりは緊張してなかったみたいですよ」
観客席で待っていた、会長に声をかけられる。
「ふむ……会長。これにテイオー君が勝ったらチームは作れるのかい?」
「いや、それは理事長次第だな」
そして今回も見に来てくれたタキオンが会長と話している。
「タキオン、今はその話はしないでいいでしょ」
「私にとっては最重要事項なんでね」
相変わらず本音は言ってこない。会長も僕も何となく分かっているけど。
『さぁ!!やってきました日本ダービー!!今日も多くの観客が詰めかけている、この東京レース場!!』
実況と共に観客席が大きく湧き上がる。
『やはり注目はこのウマ娘!!一番人気!!トウカイテイオー!!』
「テイオー!!」
出来る限りの声でテイオーに声をかける。
聞こえたのかは知らないけれどテイオーはすぐに僕達を見つけて大きく手を振ってくれた。
「ふふ……あの様子なら大丈夫そうだな」
「テイオーは負けませんよ」
僕は緊張はしているけどテイオーが勝つという自信はある。誰よりも信じてあげなきゃいけないのは僕だしね。
「ふむ……トレーナー君。テイオー君は本当に大丈夫なんだね?」
「うん?」
「……いや、なんでもない」
タキオンは何か言いたそうな顔をしている。少し気になったけど、今はテイオーに集中しよう。
『さぁ!!全てのウマ娘がゲートインしました!!日本ダービー!!今、スタートです!!』
テイオーはいつものように第一集団に混じって様子を伺っていた。
「位置取りは完璧。あとは仕掛けるタイミング」
東京レース場の直線はまぁまぁ距離がある。仕掛けるなら最終コーナーの終わり際から少しずつ前に出て、スパートで一位に躍り出る。それが僕とテイオーの今回の作戦だ。
「今回はしっかり見れているな」
「あ、はい」
そういえば前回の皐月賞ではレースをまともに見れなかったんだった。僕も少しは成長出来たってことかな。
『さぁ!!先頭は最終コーナーに差し掛かってきた!!トウカイテイオーまだ足を貯めているぞ!!いつ前に来るのか目が離せません!!』
そしてテイオーがコーナーの終盤に差し掛かったところで……
「来る!!」
僕の声が聞こえていたかのようにテイオーが少しずつ前に追いつき始めた。
そして直線に入り、テイオーが大きく踏み込んだ。
「あ」
隣で見ていたトレーナー君が突然、声をあげた。
その一方でテイオーはものすごい末脚で前を先頭を追い抜き、一位に躍り出た。
「トレーナー君?」
「……」
トレーナー君はテイオーの走りを無言で見ていた。何かあったのだろうか。
『トウカイテイオー抜けた!!トウカイテイオー抜けた!!3バ身から4バ身!!もう誰も追いつけない!!』
もう間違いなく勝った。なのにトレーナー君はいったい……
「何二人ともボケっとしているんだい!!」
タキオンから背中を叩かれ、前を向いた瞬間テイオーが余裕の一着でゴールインした。
『トウカイテイオー!!プレッシャーを跳ね除け、今!!無敗で二冠を達成しました!!』
テイオーが私の真似をして、二本指を空につきあげる。
その瞬間、会場が大きく揺れるほどの大歓声が沸き起こる。
「やったな、トレーナー君」
「会長、僕ちょっと」
トレーナー君はグラウンドに降り立ち、テイオーの元にかけて行った。
「トレーナー!!」
テイオーコールが沸き起こる中、トレーナーはボクの元にやってきた
「なになにどうしたの?」
「うーん……テイオー、ちょっと」
トレーナーに手を引かれ、地下バ道までやってきた。
「なになに?わざわざすぐに来たんだから何かあるんだよね?」
「まぁ、ね。脚見せてよ」
「え?って、トレーナー今は……っ!?」
トレーナーに左脚を触られた瞬間に激痛が走った。
「ほらね……スパートかける時の踏み込みで力入れすぎたね」
「……」
一瞬だったし、気づかれないだろうと思った。トレーナーの目は誤魔化せないらしい。
「トレーナーは流石だね……バレちゃってたか」
「……でも、二冠は取れた」
トレーナーは深刻な表情から一変してニッコリ笑って言った。
「うん!!」
「ただ、明日は病院だね」
「えぇー!?」
それは勘弁して欲しい。
「ほら、ウィニングライブの準備。してきなよ」
「うん!!ありがとう!!トレーナー!!」
ボクは痛む左脚を庇いながら歩き出す。
ボクを眺めているトレーナーがどんな顔をしていたかも知らずに。
トレーナーの目は誤魔化せません。ほんの少し走り方がブレても気づくくらい目がいいです。