ボクは新人トレーナーの彼と昼ご飯を食べていた。たまたまカフェテリアで出会ったのだ。
「明後日、会長が模擬レースをするんだってー!!君も見にこない?」
「もちろん行く」
ボクはあの日から彼とよく話すようになった。歳が近いのもあってお互い気軽に話せるみたいだ。彼はボクが会長の話をしてもうんざりせずに聞いてくれる。彼がどう思っているかは分からないけどボクと凄く楽しそうに会長の話をしてくれる。
「にしてもテイオー。トレーナー早く決めなよ」
「君がなってくれたりは?」
「そんな勿体ないことするなよ。テイオーみたいな才能マンは凄腕トレーナーでも着いてくれるだろ」
実際、選抜レースの度に様々なトレーナーに声をかけられる。正直、じゃんけんで決めてもいいのだけれど会長に『信頼出来るトレーナーを熟考の上で選べ』って言われてるからそうもいかないんだよね……
「まぁ、もう少し考えるよ」
「そっか」
「じゃあ、逆に聞くけど君はどうなのさ。担当するウマ娘、まだ決まってないんでしょ?」
「新人のうちはそんなものだよ」
新人トレーナーは基本的に担当を取りずらい。その腕も分からないのに着いてくれるウマ娘はひと握りだ。
「それならボクと組もうよー。ボク、君なら信頼できるよー」
「はぁ……」
「あ、ため息ついた!!幸せが逃げるぞ~」
「うっさい」
まるで学園の友達と喋っているかのように彼とは喋れる。本当に彼がトレーナーになってくれたら、ボクは嬉しいんだけどなー
「最近、新人トレーナー君と仲良くやってるそうじゃないか」
「そうそう、何かウマがあうんだよねー」
その日の放課後、彼の案内役をした際の約束だったカラオケに会長と来ていた。
「彼に担当になってもらわないのか、テイオー」
「僕もそうしたいんだけど、本人がヤダって言うんだよね~」
「私も彼なら君と上手くやれると思ったのだが……残念だな」
嫌がっているのに無理強いするのは良くない。
「というか会長明後日模擬レースだよね?カラオケ来て大丈夫なの?」
「その程度で負けるなら皇帝の名が廃るな」
「さっすが会長!!よーし、それじゃあ会長!!二人で歌お!!ほらほらー!!」
「……あぁ、分かった」
会長ははしゃぐボクを見て柔らかい笑みを見せた。
カラオケで歌い疲れ、会長とのんびり帰っているとふとある光景が目に付いた。
「会長、あれ」
「ん?あれは……新人トレーナー君だな」
そこには河川敷で走っている彼の姿が見えた。
「おーい!!」
大声で呼んでみると彼は足を止め、こちらに手を振ってきた。
「会長、行こう!!」
「そうだな」
そういうわけで彼の元に会長と走っていった。
「何してるんだテイオー……に会長」
「会長とカラオケ行ってたんだー!!羨ましいでしょー」
「……ちょっと」
彼はタオルで汗を拭きながら言った。
「トレーナー君、何をしていたんだい?」
「何って……運動ですよ、体がなまるもので」
「……そうか」
会長は少し不思議そうに返答した。
「ねぇねぇ、今度ボクと走ろうよ~。きっと楽しいよ」
そう言った瞬間、彼の顔があの時と同じように曇った。もしかしてまた何かやっちゃった……かな。
「それは遠慮しとく……そうだ!!カラオケ行こうよ、今度」
「あ、いいねー!!行こ行こ!!」
曇り顔はすぐに笑顔に変わった。何か気に触ることを言ったのは間違いないけど、彼がこうやって話を逸らしたのだからこれ以上追求はしないでおこう。
「じゃあ、僕はこれから行く場所あるんで」
「そうか、トレーニングお疲れ様。トレーナー君」
「……はい」
別れる時、彼の顔がもう一度曇った気がした。
『模擬レースは一緒に見たくない』
彼にそう言われてしまって、ボクは友達兼ライバルのマックイーンと模擬レースの観戦に来ていた。
「会長の走り、しっかり目に焼き付けておきましょう、テイオー」
「もっちろん!!会長の走り、楽しみだなー」
少し観客席を見渡してみると集団から少し離れたところに彼の姿も見えた。
(やっぱり見に来てるじゃん。ならボク達と見ればよかったのに……)
『何かしらの事情があるのだろう』と、心の中では思っているのだが正直、少し残念だ。
「テイオー!!始まりましたよ!!」
「え?あぁ、うん」
考え事をしていたら気づいたらスタートしていた。会長は少し後ろ目についてレースを進める。後ろからごぼう抜きして勝つ、会長が最も得意とする走り方だ。
どうしても気になったのでチラッと彼の方を見るとボクみたいに目を輝かせてレースを見ていた。
「会長はやっぱりすっっっごいね!!ねぇ!!マックイーン」
「そうですわね、流石は皇帝と呼ばれるウマ娘の走り。圧巻でしたわ」
会長は最終コーナーから差しきり、見事1位に輝いた。マックイーンの言う通り、圧巻の走りだった。
ボクがレースの感傷に浸っていると、チラッと、彼のことが目に入った。そしてその姿に目を奪われた。
(あれ……泣いてる……)
なぜだか分からないけど彼は泣いていた。しかも凄く悲しそうに涙を零していた。
「テイオー?」
「……え?」
「何をボケっとしているんですか。はやく戻りましょう」
「…うん、そうだね」
ボクは彼のことは一旦忘れ、その場を後にした。