彼は理事長と対面していた。
「……退職届」
「はい、やっぱりこの仕事、僕には無理です」
「しッ……しかし!!」
「失礼しました」
彼はその場を後にした。
「トレーナー君、退職するというのは本当かい?」
最年少トレーナーが担当を1度も持たずにトレーナーをやめてしまうと聞いて、彼に声をかけた。
「……会長、僕にこの仕事は無理です」
「まだ担当も持っていないのに何を勝手に……」
「大丈夫です、僕ならすぐ次の仕事見つけますから」
彼の顔はものすごい悲痛な顔をしている。見ていられないほどに。
「君は一体何を抱えているんだ」
「言えません。言えるわけがありません。もう赤の他人になるんですよ?」
「それは違うぞトレーナー君。袖振り合うも多生の縁だ」
「そう……ですか。僕はもう正直、ごめんです」
彼は冷たくそう言った。初めて会った時の言い方だ。
「会長、失礼します」
「待て、トレーナー君!!」
私の静止を無視して彼は去っていった。
「……ぇ」
ボクは彼がトレーナーをやめるということを同室のマヤノから聞いてしまった。彼とはもう模擬レース以降話していない。
「うん、噂で結構広がってるよ?」
「そ、そんな……」
「しょうがないよ。トレーナーちゃんがそう決めたんだもん」
本当に突然の話で頭が追いつかない。
……やっぱりあの模擬レースの時、泣いていたのが関係あるのかな……
その日はなかなか眠れなかった。
なぜ彼がいなくなるだけでこんなに悲しくなるのか、ボクにも分からなかった。だって、まだ出会ってそんなに経ってないんだよ?
それでも授業中も自主トレ中も彼のことが頭から離れなかった。
(なんであの時、泣いてたんだろう)
その結論は出ることはない。それでも考えることをやめられない。
ふと、泣く前の彼の顔が思い浮かんだ。彼はボクみたいに目を輝かせていた。ボクが会長に向けるあの目は応援するファンというより……
「いや、まさか……ね」
「会長、急に呼び出してどうしたの?」
その日の夜、会長に呼び出されていた。
「もう寮閉まっちゃうよ?早く戻らないと……」
「テイオー、君は彼のことをどう思っている」
「………」
会長も彼のことを気にしていたらしい。
「分からないけど……会長の模擬レースの後、泣いてたんだ」
「それは気づいていたよ。それとテイオーのような眼差しで私の走りを見ていたのも見えていたよ」
「……ねぇ、ボクちょっと思ったんだけどさ」
会長に今考えていたことを言ってみた。
「……同感だ」
会長も同じことを考えていたらしい。
「テイオー、私からのささやかなお願いだ。彼を……救ってやってくれ」
「……どうやって?」
「それは自分で考えるんだ。ただ私が言うよりテイオーが言う方が彼にはいいと思う」
「……わかった」
ボクが彼にしてあげられること……なんてあるのだろうか。それは分からない。でも……
「会長!!ボク、今から行きたい。明日授業休みだしいいよね」
「……わかった、寮長には事情を伝えておく」
「ありがとう、会長!!」
ボクはその場から駆け出した。
トレーナー寮に行き、話を聞いてみるとまだ帰ってきていないとの事だった。
「トレーナーさんに急ぎの用事?」
「そうなんだよー!!どこにいるか知らない?」
1人のトレーナーが声をかけてきた。
「彼なら……多分、走りに行ってるんじゃないかな。どこで走ってるかまでは知らないけど…」
「…!!ありがとう!!」
ボクはあの場所へと向かった。
悔しかった。情けなかった。
僕にはやっぱり何もなかった。トレセン学園でなら、実際に会長と話したら、トレーナーとしてやっていったら、いつかは忘れられる。そう考えていた。
でもむしろ逆効果だった。
このなんとも言えない気持ちを走りにぶつける。明らかに走りすぎなのはトレーナーなんだからわかる。それでも走らないと気がすまなかった。
「……っ」
突然、足に限界が来たのか倒れ込んでしまった。
「なんで……」
また涙が溢れていた。
「大丈夫!?」
そんな時だった、彼女が僕の前にやってきたのは
ボクと僕で使い分けるのかちょっとめんどくさいです