走って河川敷にやってくるとそこには倒れ込んでいる彼の姿があった。
「大丈夫!?」
彼の元に寄って、立ち上がるのを手伝おうとした。でも彼はボクの手を拒んできた。
「大丈夫…立てるから」
立とうとすると再び体がグラッと揺れ、倒れてしまった。
「無茶しないでよー!!」
それでも彼は一人で立ち上がろうとする。右足がガクガク震えている。
「それで……なんのようさ」
それでも彼はいつものように振舞おうとしていた。
「うん、少し話がしたくてね」
何とか彼を支えながら移動し、ボク達は河川敷の坂に座って話を始めた。
「君さ、ボクに何か隠してるよね」
「……トレーナー辞めること?」
「それは知ってるよ」
それに聞いて彼の顔は曇った。
「話してくれない?」
「もう縁が切れる相手に話す筋合いはないよ」
今までとは違う、完全にボクのことを突き放すような言い方だった。
「そんなことないよ。ボクと君は似た者同士だからね」
「……」
彼はボクの言葉を聞いて、顔を下げた。
「やっぱり、そうなんだよね。ボクは何となく分かってるけど君の口から聞きたいんだけど……」
「うるさいよ」
その声には怒気を孕んでいた。
「持って生まれたお前に僕の何が分かるんだよ!!どうせ同情でもしに来たんだろ!!」
彼は叫ぶ。ボクに向かって怒りをぶつけてくる。
「あぁ!!そうだよ!!僕は……僕は……」
再び顔を下げてしまった。今にも泣き出しそうな声だった。
「僕は……走りたかった……あの皇帝のように……」
予想した通りだった。
彼はボクと同じ夢を持っていた。その夢は人間である彼には絶対に叶えることが出来ない悲しい夢だった。
「うん」
ボクはただ、頷いた。彼の本音を聞きたかった。
「お前には……分からないよ。努力する前から夢が叶わないことが決まってるやつのことなんて」
「……うん」
現実は残酷だ。彼はスタートラインの段階で絶対に越えられない壁に当たっている。
「トレセン学園に来たら気持ちが変わるんじゃないか、皇帝を近くで見れば何か変わるかもしれない、そんな気持ちでわざわざ高校にも行かずにトレーナーになったんだ。でも……この前のレースを見て、僕はあんな風には慣れないんだって思い知らされて……そしたら……辛くて……」
ボクはなんて言葉をかければいいのか物凄く悩んだ。ボクに、彼のことは分かってあげられない。彼は人間でボクはウマ娘だ。ボクは夢を努力すれば夢は叶う、でも彼は何をやっても夢を叶えることは出来ない。
なら、せめてボクが出来ることは……
「ここにいても……何も変われない。だからもうトレーナーはやめたいんだ……」
彼は泣いていた。涙を必死にこらえているけど止まることなく流れていく。
「ねぇ、トレーナー」
一つ、彼に提案をする。
「ボクのトレーナーになってよ」
「言っただろ、やめた方がいいって。それにもうトレーナーは辞めるって言ったはずだ」
彼は泣きながらボクに静かな怒りの声をぶつける。
「それでも、ボクは君にトレーナーになって欲しい」
「……訳わかんないよ」
彼はついに怒り通り越して呆れていた。
「ボクね、代わりに君の夢を叶えるよ」
「……違う、それは自分の夢を叶えるたら必然的に僕の夢も叶えたことになるんだ。そんな都合のいい言い方するなよ」
「それでもボクはやるよ」
「……なんだよ」
静かに怒りを口にしてくる。
「何もわかんない癖に、分かったように……!!」
「うん、君の気持ちは分かってあげられない」
「……はぁ?」
彼は驚き、そして再び呆れていた。
「分かるわけないじゃん、ボクはウマ娘、君はただの人間だよ?それに関わって一ヶ月も経ってないんだもん」
「……なんだよそれ」
「だから、ボクは君を分かるようになりたい」
彼は再び驚いていた。
「約束するよトレーナー。僕が夢を叶えたらトレーナーを観客全員に紹介して、『二人の夢が叶った!!』って高らかに宣言する!!」
「………」
彼は無言でボクの言葉を聞き始めた。
「確かに、トレーナーの夢は自分では叶えられないけどさ。ボクは代わりに夢を叶えるよ、誰でもない君とね」
「………アホだろお前」
ボクは必死に考えたことを言ったのにアホと言われて少しムッとなった。
「誰がアホだ!!」
彼を見るとまた泣いていた。でも今度は笑いながら泣いていた。
「全く……アホだな……でも、なんでかアホなのに、凄く心が救われた気がするよ」
彼は涙を拭ってボクを見た。
「後悔しないよな」
「もちろん」
「……あぁ、全くなんでこうなるんだか」
彼はボクに手を差し出してくる。
「……よろしく、トレーナー」
「よろしく、テイオー」
こうしてボク達の夢……『無敗の三冠ウマ娘』という大きな夢への道のりが始まった。
「あーあ、かっこわりぃ」
「えぇ!?今ここで終わる流れだったよね!?」
「まぁまぁ」
僕は坂に寝っ転がって言った。
というかそんなメタいことを言わないで欲しい。
「はぁ……歳の近い女の子にこんな姿を見せるなんて……はっず」
多分、顔真っ赤だと思う。
「あれれ~、顔真っ赤だよー」
「うっせ」
「ふふーん、今日のことは秘密にしておくから大丈夫大丈夫」
テイオーも隣に寝っ転がってきた。
「うーん、気持ちいいねーこれ」
「……そうだな」
僕達はしばらくそのまま話し続けた。
「綺麗だね、星」
「同じこと考えてるねボク達」
「……やっぱりテイオーとは何となくウマが合う気がする。これからも上手くやっていけそうだ、ウマが合うだけにー」
「……トレーナー、会長みたいなこと言わないでよー」
「もう言いません。いや、というか会長ダジャレ言うんだ…」
「ねぇねぇ、明日休みだしさ、カラオケ行こうよー!!」
「約束だしね、行こ」
「やったー!!」
「まぁ、カラオケ行く前に退職を撤回しに行かなきゃな」
「ボクも行くよー」
「そうしてくれると助かる」
「ついでに契約書も出しに行こうよー」
「名案」
まぁ、こんな感じで他愛のない話を続けて……
「そろそろ帰ろ」
「そうだねー。トレーナー、歩ける?」
「大丈夫……だと思うっっっっっ!?」
立とうとすると右足に激痛が走った。
「全くしょうがないなぁ、トレーナーは~。ほら、肩貸してあげる」
「サンキューテイオー……はぁ……恥ずかしい」
「ため息すると幸せが逃げるよ~」
「うっせ」
とりあえず、誰ともすれ違わないことを祈るばかりだった。
重要な回でした。