'31/6/14
xx.1
"in dem Arm"
昼下がりの午後、天気は雲ひとつない快晴。
私の通う壱高は、土曜日の午前中も授業がある。失われた期間中の教育の補填が主な目的だそうだが、内容はくだらない。退屈な授業は、今日も何事もなく終わった。霧島は陸上部、山岸は図書委員で、昼までの授業が終るやいなや、部活へと行ってしまった。バイト漬けの洞木は、いつものようにそそくさと下校してしまっている。リョウジは相田〝センセー〟の手伝いとかなんとかで、すまんが今日はパスだと、聞いてもいないのに話しかけてきた。こいつはどうでもいい。
一人で下校していると、どうも私のクラスメイトらしい初対面の女子グループから「もし暇なら一緒に遊びませんか?」と声をかけられた。悪い人たちではなさそうだったから、新吉祥寺まで一緒に行き、ファミレスでお昼ご飯を食べて、カラオケに行った。だがカラオケルームに入ってものの15分ほどで、吐き気を催すほど気分が悪くなり、結局帰ってしまった。身体的な不調ではない。みんなが楽しそうにしているその場に、場違いな自分が無理矢理に居るのがたまらなくなったという、つまらない理由だった。みんなからは別に引き止められなかった。事実私は、そういう気難しいヤツだと認識されている。気に入らないクラスメイトを殴って以降、学校で私をナメてかかってくるやつは居なくなった。これ以降、学園生活が少し楽になったのは事実だ。前みたいに、表層的な人付き合いを気にしなくていいから。
しかしながら、繁華街を独りで歩いているときの、ゴミみたいな連中のうざったいナンパは、避けては通れない地獄だった。ベタベタしてくるやつには全力で暴行を加え、半殺しにしているにも関わらず、一向に減らない。むしろ増える一方だ。「式波大佐似の暴力女には近づくな」なんて噂が立っちゃえば、だいぶ楽になるのかしら。だが、仮にそんな噂がたったとしても、爆発的に人間が増え続けるこの街では、あっという間に消費しつくされ、すぐにその効力を失ってしまうのだろう。結局今日は見知らぬ男7人に声をかけられて、「綺麗だね。どう、お金稼いでみない?」と道端でいきなり肩に手を回してきたナンパ男、帰りの電車でお尻を触ってきた汚らしい太った痴漢の、計2人を半殺しにした。一人は気安く肩に伸ばしてきた左手にカウンターをあわせてダウンさせた後、顔面を思いっきり蹴った。もう一人は、尻をいやらしくなぞってきた人差し指と中指を折り、金的を3発食らわせた。現場からは走って逃げた。警察に厄介になると、色々と面倒だからだ。こんな連中がもっと増えると思うと、おしゃれして、お化粧して、繁華街に外出なんて、もう絶対に御免だ。
警察を巻くために最寄り駅の一駅先で降りた。駅前にはかろうじて公園がある程度で、数名の家族連れが遊んでいるのが見えるが、全く興味がわかない。とにかくここには、自分にとって面倒な他人は居ないようだった。家路はいつもより長くなってしまったが、これは今の最悪な気分を落ち着かせるのにちょうど良かったと思う。
「一人くらい本当に殺しちゃえば、ナメられなくて済むのかしらね」
なんて、ありえない、しかし近接格闘術を一通り習得した私には不可能ではないことを、軽々しく呟いた。
そして、その経験を思い出して、口を閉ざした。
誰も居ない舗装された道を、黙って歩く。その道は、いつまでも続いていた。この地域では『外』からの大量移住に備えるべく、団地群の建設が淡々と行われている。延々と連なる退屈なコンクリートの建物たちは、その全てが未入居物件であるため、驚くほど静かだった。工事もしょっちゅう行われており、金槌のトンテンカンという金属音や、重機のけたたましい咆哮が、遠くの方で鳴っているのがわかる。だが私の目には、どこが工事をされているのかは全くわからない。風は全く無い。まるで拷問のようなつまらなさに、私は思わず顔をあげる。
天気は雲ひとつない快晴だ。それだけが今日起きた良いことだった。
「ただいま」
暫く歩いてマンションに帰ってみると、家には誰も居なかった。
私はこの家で、兄、姉と三人で暮らしている。実際の兄でもないし、実際の姉でもない。疑似兄弟である。お互い古くからの知り合いで、身寄りがないことも相まって、成り行きで一緒に暮らしている。私はこの暮らしにいつも苛まされている。兄は家事のことしかわからないバカだし、姉はわかめと豆腐の味噌汁を寸胴鍋で作るアホだ。むしゃくしゃしている自分にとって、今居ないのはありがたい。
携帯を見てみると、「1630に帰宅予定です」という、姉からの素っ気ないメッセージが入っている。昼ごろにも、「二人で買い物に行きます。一緒に行きませんか」というメッセージが入っていたが、顔も知らないクラスメイトが下手糞に歌い上げる安っぽいラブソングを味わっていた私は、それを無視した。どうせ実際の姉弟でもなし、とっととくっつけばいいのに。アホとバカでお似合いだ。
することもない私は、ろくに制服から着替えもせず、先週ヨワムシと一緒に買いに行ったゲームで遊ぶことにした。
ヨワムシは、いい歳してお人形遊びが好きな、ガキっぽい女だ。自分のことに自信がなくて、いつもウジウジしているから、ヨワムシと呼んでやっている。外見が私にそっくりなくせに、性格も男の趣味も何もかもが私と違うから、癪に障る。しかし、ゲームの趣味だけは合う。お互いレトロゲームが好きで、オンラインインストールでなく実機で遊ぶ、というこだわりも一致していた。
プレイするのは、ヨワムシと一緒にいった中古ガジェットショップで入手した、昔好きだったゲーム機と格闘ゲーム。現在も格闘ゲームというジャンル自体は流行しているが、このゲームの姿はもうそこにはない。けれども、その流行の火付け役として、一世を風靡したことは確かだ。やってみると、意外と操作方法も覚えている。しばしの間没頭する。なんだか少し、昔に帰れたような、寂しさが紛れたような、そんな気がして、それが何よりの救いだった。
ただしばらくして、もうこのゲームをしたって何の意味も無い、と思うと、えもいえぬ虚無感が私を襲った。私はおもむろにゲーム機の電源を落とし、リビングに向かう。カーテンから漏れる日差しが、フローリングを白で塗りつぶしている。
もちろん、誰も居ない。
私は、誰も居ないリビングに向かった理由を探した。多分、喉が乾いたんだと思う。そこで少しだけ歩いて、冷蔵庫を開けてみる。ドリンクホルダーには、麦茶、ミネラルウォーター、そして兄がたまに飲むビール缶が一つ、差し込まれている。姉が好きなミネラルウォーターはしっかりと補充されているのに、私が好きな牛乳は切らしている。ミネラルウォーターと違って買い溜めが効かないから、こんなことはしょっちゅうだ。でも、こんなくだらないことに、私は腹がたってしまって、冷蔵庫を乱暴に閉めた。
「温かい飲み物にしようっと」
私は独り言を云った。私が私に説明するために。
水道水をケトルに注ぎ、コンロの上に乗せ、火にかける。そしてキッチンテーブルに目を遣り、紅茶が封入された複数のガラス瓶を視界に捉えた。私は、少し迷って、スプーン一杯のローズヒップティーの茶葉をティーポットにサラサラと注ぎ、沸騰したお湯を入れ、蓋をした。家には数種類の茶葉が常備されているが、これは全て姉が買ってきたものだ。姉は随分、昔と変わった。人に云われたことをただやるだけの、まるで人形のような人だった。それが今や、自ら紅茶を楽しむ、可愛らしい女性に成長した。気に入った茶葉を1キログラムも買ってくるアホだけれど、お出かけする時のお洋服も、お化粧も、とても綺麗。本当に素敵な、大人の女性になったと思う。
「アタシには無理ね、きっと」
不意にそんな独り言がこぼれる。私も変わった。昔は、こんなこと云うわけなかったのに。
出来上がった紅茶をカップに注ぎ、大好きなバラの香りでリビングを満たす。そして、その不意に出た言葉を飲み込むように、ローズヒップティーを口に含んだ。苦味と酸っぱさが口に広がる。普通の紅茶より大人っぽい味だけれど、嫌いな味じゃない。きっと昔は嫌いだったと思う。
少し落ち着いた私は、さっきの一言を反芻して、ふとしたことに気がついた。
私は、大人になれないんじゃない。なれなかったのだ。
きっと無理、なのではない。大人になるなんて、絶対に無理である。
私はもう死んだのだ。
自分の甘い思い上がりに、心底嫌気が差した。私は死んだ。それは確かだ。だから、今の私は亡霊だ。ここには居てはいけない存在だ。ヨワムシだっていい迷惑だろう。自分の亡霊が、実際に生きている自分に何の配慮もせず、大手を振って歩いているのだ。自分だったら耐えられない。もしそんな奴がいたら、今すぐにでも首を締めて殺してやる。死んでいるんだから、こんなものは殺人ですらない。死んでいたものを、死んでいた状態に戻すだけだ。
思考がまとまらない。とにかく、今のこの私は本当の私ではない。私は死んだのだから、生きている私は当然偽物だ。当たり前だ。誰がこんな偽物の私に、私をしたのか。兄と名乗るあの男のせいである。あのバカのせいで、そんな当たり前の事実も忘れそうになる。結局はあいつのエゴだ。私を見殺しにして、勝手に私を生かした。私はあいつの人形じゃない。こんな不条理には耐えられない。全部あいつのせいだ。全部あいつのせいだ!
「全部あいつのせいだ!」
そう叫んで、全力で椅子を蹴飛ばす。
最悪の気分だった。
お気に入りの紅茶だったはずなのに、今の私にとっては、そのわざとらしいバラの香りがうっとおしかった。もう、何もしたくなかった。私は机に顔を突っ伏した。私は偽物だ。だからもうこんな世界には一秒たりとも居たくない。死んだ私をバカにしてヘラヘラしているだけのくだらない連中と疑似兄妹だなんて、凄惨な悪夢としか云いようがない。もう二度と会いたくない。誰もいらない。何もいらない。独りにしてほしい。死にたい。関わりたくない。そっとしておいてほしい。独りにしてほしい。
私は、醜悪な思考のループに入り込んだ。私の痩せこけた見窄らしい肉体が、腐りだした時の匂いを思い出す。バラの香りがうっとおしい。
そして段々と、あの時のように、意識が遠のいていく。寂しいけれど、これでいい。これでこの忌々しい世界からも開放される。これで元に戻れる。
これで……。
*****
はっ、と目を覚ます。
壁掛けのシンプルなアナログ時計の長針と短針は、現時刻が5時を過ぎたことを告げている。
茶葉をずっと放置してあったから、ポットの紅茶はすっかり渋く、そして冷たくなっていた。
リビングを満たしていたあのバラの香りは、まるで夢だったかのごとく消え失せてしまった。
携帯に手を伸ばし、通知を確認する。何も来ていない。
兄に電話をかけてみる。応答はない。
姉に電話をかけてみる。応答はない。
燃える太陽から容赦なく発せられる西日が、窓から否応なく侵入し、空間ごと私を照射した。
誰も帰ってきてはいなかった。
「……」
私は太陽の方角を睨め付ける。そしてその視線を外さずに、ゆっくりと体育座りをして、久しぶりに自分の膝の感触を確かめた。
この姿勢で、毎日毎日、きっとあのバカにまた会える、そんなことを思い続けていたのは、もうどれだけ前のことか。途中から、それは純粋な失望に変わっていった。幾ら待とうとも、誰も来ない。そもそも、誰か来たところで、私には気づかない。
当たり前だ。私は、死んだ後、完全に消去された。幸福でも不幸でもなかった。
「……」
でも、もしかしたら、今はそうじゃないかも知れない。そう、あいつはただ、買い物に出ているだけだ。
そうとも。あのバカは結局、私に会いに戻って来てしまったのだ。どの面を下げて来るのかと思えば、まるで忘れ物を取りにきたような軽やかさで、私を砂浜から無理矢理に連れ出したのだ。そして、この世界に戻ってきて、また一緒に生活をはじめたのだった。
そうよ。そうだったわ。さっきから、ちょっと大袈裟に考えすぎたみたい。いつもの悪い癖ね。きっと、少し遅れているだけ。なにしろ、あのバカには夕飯を作る義務があるんだから。うちの夕飯の時間は19時。だから、そうね、あと一時間もすれば帰ってくるわ。それだけ。
何かに心臓を素手で掴まれる。
「……大丈夫、買い物にでかけているだけ」
私は独り言を云った。私が私に説明するために。
しかしそれは、明らかに逆効果だった。
あのバカに会える。私に気づいてくれる。きっとまもなく到達する未来。私は独りじゃない。そんなことは、もうすでに証明されたのだし、きっとまたすぐに証明される。してくれる。
しかし、今この瞬間に、証明されていない。ここには誰もいない。
だから、こんなにも頼りなく、こんなにも寂しい。
期待が現実になることへの渇望と、現実にならないことへの不安が、酷く私を憔悴させた。
心臓が素手で締め上げられる。
きっと、私は泣いているのだろう。確認する気にもならない。
あの頃と同じだ。
いつもと同じだ。
ようやく気づいた。
薄々わかっていた。
「……大丈夫よ、アスカ。大丈夫」
そう、これは、私の夢だ。
いつもの、狂った私の、粗雑でいい加減な妄想だ。
学校だの、ファミレスだの、カラオケだの、ナンパだの、痴漢だの、ゲームだの、紅茶だの、姉だの、兄だの、全て私の造り物だ。
何が学校だ。何がファミレスだ。半身がボロボロに腐った気違いの女を、誰がカラオケに誘って、誰がナンパして、誰が痴漢するんだ。レトロゲームなんて、そんなものは好きでもなんでもない。自分が昔しか知らないだけだ。
何がヨワムシだ。強く気高く美しい彼女が、妬ましくて仕方がない。弱く卑屈で醜い私は、敗北し、体が腐り、気が狂い、ただ消え去るのみだ。何が一緒にゲームを買いに行っただ。彼女が私の手を取るなんて、そんなものはこちらから願い下げだ。こんな責苦はもう沢山だ。
何が姉だ。あの人形が紅茶だなんて笑わせる。化粧や洋服に気を使う女性なのは、自分の理想像を当てはめただけだ。あの男が好きなあの女に。何が買い物だ。絶対に行くものか。私の全てを奪ったんだ。お前だけは、絶対に許さない。
何が兄だ。何が会いに来ただ。何が砂浜から連れ去っただ。そんなわけないだろう。こいつは私の目の前で、私に気づかず去った。私はもう居ないのだから当然だ。今や関係は完全な虚無であり、過去すら馬鹿げた虚構そのものだ。未来なんてものは、ない。
何が、妹だ。これが、一番くだらない。情けなくて、みすぼらしくて、卑屈で、惨めで、史上最低の糞みたいな妄想だ。
ふざけるな。そうまでして、私は一緒に居たいのか。
一番の大馬鹿者は、私だ。
とっくの昔に、破滅した私だ。
私など、もうどこにもいないのだ。
どの世界の誰もが、私に気がつくことは、金輪際ない。
「……」
都合のいい作り事による、現実の復讐。虚構への逃避による、真実のごまかし。それは夢ではなく、現実の埋め合わせ。現実の続きが夢であり、夢の終わりが現実。
大昔にあの女がしていた話によれば、これは夢としか云いようがなかった。埋め合わせる先である、現実がすでにないからである。
私の夢は、想像を遥かに下回り、あまりにもちっぽけで、くだらないものだった。
「……」
心臓を掴むものを受け入れる。私と空間が静穏を取り戻すと、目尻から流れる水も引いていく。
何もなくなった。
ただ、燃える夕日を、じっと見つめる。
「……」
空が好きになった。心底どうでもいいものだと思っていた。私に背景は必要ないから。
でも、空は、いつも同じに美しい。何年経っても、何も変わらない。
その退屈な美しさ。
孤独が気づかせてくれた。
「……」
いや、違う。
孤独がきっかけではない。
私が気づいたのではない。
「……」
大昔、あの男は、空が美しいことを教えてくれた。
「……シンジ」
「アスカ?」
思わず、立ち上がる。
声のする方を、振り返る。
白いTシャツに、紺のウィンドブレーカーを羽織った男が、その間抜けな面構えをこちらに向けていた。首元まで伸びたショートヘアと、藍色の瞳。精悍な、でもどこか中性的な顔立ち。野菜やら肉やらの食材でパンパンになったレジ袋を大事そうに抱える様が、そのルックスを台無しにしていた。
少しすると、キョトンとしたその表情が、どこか頼りない笑顔へと、緩やかに変わっていく。
「……いやぁ、スーパーで携帯探しててさ。見つかってよかったよ」
あの頃よりも低くなった声で、話される内容のバカらしさ。相変わらずだった。
こんな虚像も、幾度となく見てきた。
そこにいる肉体の像が、私に近づいてくる。
これは虚像だ。幻覚だ。妄想だ。虚構だ。
怖い。やめて。もう近寄らないで。もう私を独りにして。
「もう消えて」
抵抗虚しく、肉体の像は、私の目の前にやってきた。あまりの恐ろしさに全身が緊張して、全く動くことができない。
失われることに、もう二度と耐えられない。
これ以上私を壊さないで。もうやめて。
その肉体の像が、私の肩に手を乗せる。
「……ちょっと遅くなったね」
その声が柔らかく鳴る。これが幻聴だ。そんなわけないのに。
その肉体の像は、実際の肉体だった。いや、そう感じるだけかもしれない。とにかく、恐ろしくてたまらない。
それでも、離れることができない。その肩に置かれた手のひらの暖かさが、私を捉えて離さない。これが現実であるわけはない。そのはずなのに。そうだと理解したのに。
心臓を握りしめる何かが、活動を再開する。さっきよりも乱暴に、私の心臓を物凄い勢いで握り締める。
死ぬほど苦しい。
夢か現実かなんて、細かいことはもうどうでもいい。
とにかく、これを失ったら、私は本当に終わってしまう。
もう後がない。私の最期になるかもしれない。
どうすればいいの。
何を聞けばいいの。
何を云えばいいの。
私は、最後の気力を振り絞った。
「もう、殺して」
気力を使い切ると、私はへたりとそこに座り込んだ。私は、ようやく微笑んで、肉体の両手を掴み、自分の首にかけた。
醜い私は、どうしても生き残りたかった。死ぬのは嫌だった。本当の私が生き残るためには、偽物の私を否定する必要があった。
私の妄想なら、私の望みを叶えて、きっと私を殺してくれる。私の知っているあの人なら、きっと私を殺してくれる。
夢の終わりが現実。
これで、終われる。
生き残れる。
だが、その肉体は膝をついた。
残念ながら、私の妄想でも、私の知っているあの人でも、なかった。
右手が首からゆっくりと外れ、私の後頭部に回る。
左手が首からゆっくりと外れ、私の背中に回る。
少しだけ強く、抱きしめられる。
「おかえり」
──信じられない。
意味不明だ。何を言っているのかよくわからない。それでいて全く面白くない。あまりにも没個性的、凡庸かつ陳腐な。
そんなどこまでもくだらない挨拶が。
心臓を締め上げていたものを吹き飛ばす。
殺してって云ってるのに、おかえり?
今やってきたのはそっちなのに、おかえり?
会話になっていない。俄には信じがたい。こんなにも、人の話を聞かない奴があるか。使い方がめちゃくちゃだ。日本語が間違っているんだ。
想像を、超える、バカだ。
私の妄想ではない。私の知っている私の中のあいつじゃない。
「シンジ?」
すると、まるで子供をあやすように、彼は私の頭を撫で、私の背中をさすった。
私は、彼の成長した胸板に顔を埋め、それをただ受け入れた。
子供扱いされることは不愉快極まりなかったが、その不快感を表現できるだけの気力は残っていなかった。
さっきから、涙と鼻水が止まらない。
きつく、きつく、力いっぱい、抱き返す。
シンジだ。
私は、シンジの体温が私の体温に移っていくのを、暫くの間待つことにした。その間、彼は私のことをずっと撫でていた。やはりこいつは少ししつこい。
やがて体温を取り戻した私は、シンジの首に手を回した。それに呼応するように、シンジは私を抱き寄せる。体が密着したため、涙と鼻水で酷く濡れたTシャツが、私の制服を湿らせたのが分かった。
私は目を瞑り、彼の首元に抱きついて、頬をすりすりとこすりつける。鼻で大きく呼吸し、彼の匂いで肺を満たす。別に、良い匂いというわけではない。それでも、止まっていたはずの涙が、またポロポロと溢れてしまう。
「ふふ、くすぐったいよぉ」
笑うな。こいつを調子に乗らせると最悪だ。ろくな事にならないからだ。
「そうだ。アスカ、ここ座って」
シンジは突然片膝立ちになって、膝に座るよう、耳元で囁いてきた。ほら、云わんこっちゃない。
「……なんでよ」
「いいからさ。座ってみて」
「……いや」
「なんで?」
「アンタの云うことなんか聞きたくないからよ!」
「痛ぁ!?」
バカシンジの目が丸くなる。涙混じりの罵声でも、それが出せることに、ほっとした。
ざまあみろ。首元をがぶっと噛んでやった。
「いってぇ、なにすんのさぁ!」
「ふん、当然の報いよ!」
「くっそぉ、そしたらこうだ!」
シンジは私の腰と太ももの裏にさっと手を回すと、そのまま私をヒョイと持ち上げてしまった。
「きゃあ! 離してよ!」
「うわ、暴れないで!」
「こら離せ! もう! 何よこれ!」
「いいから、しっかり捕まってて!」
確かに、もし力を抜けば、腰から床に向かって落ちてしまいそうだ。本能的に、首に絡みついた腕に力が入る。
少々の混乱の後、私の体はシンジの両腕に抱えられる形で収まった。右手は背中を、左手は膝の裏を、しっかりと支えている。
「ホントは膝に座ってから抱き上げたほうが、安全なんだけどね」
そういいながら、私の肩が抱き寄せられる。
私の顔が、シンジの肩付近に動く。その唇が、近い。
「遅くなってごめんね、アスカ」
大人びた、申し訳無さそうな、優しい、いつもの微笑みに。こんなバカに。私は。
火が出たかと思うほど、顔が熱い。目頭が灼けるようだ。
「ただいま」
まずい! 姉の声だ。姉にはこの姿を見せるわけにはいかない。
「あぁ、おかえり」
そう云いながら、このバカはあろうことか、私を抱きかかえながら、姉の方をくるりと向いた。
姉の空色の髪は、ふわりとしたショートボブにまとまっていて、その耳元に飾られる小さな銀色のイヤリングが、夕日に煌めいている。白のフレアワンピースを纏った姉は、ルビーのような瞳をパチクリとさせた。
「あら、アスカ、おかえり」
「ちっ、違うの! これはバカシンジが無理やりやったのよ!」
「そう。お姫様抱っこ、してもらっているのね」
私は愕然とした。
何それ! これ日本語で「お姫様抱っこ」って呼ぶの!? ネーミングまで恥ずかしいじゃない!
「お、お姫様抱っこって、何よそれ!」
「これのことだよ、アスカ知らなかったの?」
「いいから、もう離せ! エッチ痴漢変態信じらんない!」
「い、痛い痛い! 暴れないでって!」
「レイ違うの! こいつ勝手に、勝手に私に抱きついて、こんなことしてきたのよ!」
「レイ、やっぱりね、アスカ寂しがってた」
「ち、違う! 違うわ! 嘘つくな変態!」
「違くないよ?」
「や、やめて! もう嫌ぁ! 恥ずかしいから離して!」
「静かに」
氷のような言葉が空間を貫く。
この家庭の実質的なリーダーシップは、私こと天才パイロットアスカ様でも、一応世帯主のバカシンジでもなく、このアホレイが握っていた。どんなにぎゃあぎゃあと喧嘩していても、バシッと一言云われると、私もシンジも、蛇に睨まれた蛙のようになってしまう。
すっかり虚を突かれた私達を尻目に、レイはトートバッグから一眼レフカメラをさっと取り出した。
右手でグリップを握り、左手でボディの底面とレンズを下から支え、脇を締め、ファインダーを覗き込み、シャッターを切る。
あまりの淀みない動きに、ピピッという電子音がなるまで、私は反応すらできなかった。
「……うん、撮れた」
「ちょっ、ちょっと、待ちなさいよ! 何勝手に撮ってるのよ!」
「とても、素敵だったから。写真に収めたかったの。でも、少し逆光だった」
「な、何すんのよ! 恥ずかしいからやめてよ! もうアタシ降りる!」
「駄目。もう一枚、とるから」
恐ろしさすら感じる彼女の命令に、私は抵抗できなかった。なんとも情けないようだが、三人での共同生活も、もう足掛け2年になる。色々なことの積み重ねが、もう二度と覆らない、強弱関係を決定づけてしまっていた。
レイは私達を横切って、カーテンを軽く閉めて光量を調節したあと、ファインダーを覗き込んだ。
「……シンジ」
「……」
「シンジ」
「ハッ、ハイ!」
「顎を引いて。半歩、左に動いて。左手、握りこぶし一つ分、腰からももの方へ動かして」
「う、うん、こうかな?」
「ええ、それでいいわ……アスカ」
「ハッ、ハイ!」
「こういうときは、笑顔になるのよ」
そういうと、レイはファインダーから目を離し、私に笑った。
瞬間、心臓が跳ねる音がして、私の心は急速に暖まっていく。
確かに、夕焼けを背後に神秘的に笑う彼女の姿は、息を飲む美しさだったが、それだけが理由じゃない。
それは、私への無償の愛が、あの微笑に込められているからだ。決してこれは自惚れでなく、レイとはそういう人間なのだ。シンジを、私を、心から愛している。そのことを信頼できる、そんな芯の強さを持つ女性なのだ。
私は、たまらず苦い顔をした。
シンジの顔を覗き込んでみると、このバカはそんなレイの美しさに当てられたか、にこやかな顔で私を見ていた。
「うん、そうだったね」
「ええ、シンジも笑顔で」
シンジは私から視線を切ると、その温和な微笑みをレンズに向ける。
しかし、レイはまだファインダーを覗かない。きっと私がまだ笑えていないからだろう。笑顔って、どうやって作るんだっけ。遠い昔の記憶を、なんとかほじくり起こす。
私はなんとか、笑顔を作ってみる。鏡を見なくてもわかる。きっとまだぎこちない。
「うん、とても素敵よ」
レイは満足した様子で、ファインダーをまた覗き込んだ。
「はい、チーズ」
レイがこんなことを云うなんて。そのギャップがおかしくて、笑えてしまった。シャッターが切られる頃には、きっとさっきよりは、自然に笑えていたと思う。
「ど、どうだった……?」
「ええ、とても綺麗に撮れたわ。アスカ、ありがとう」
「そうだ、レイも一緒に写ろうよ」
「……何故?」
レイはカメラの写真確認画面を見たままであり、その表情は逆光で隠れているが、私は彼女の逡巡を予想した。
「うん、今まで、3人のだけの写真って、あんまりとってこなかったしさ」
シンジは屈託のない言葉をレイに話しかける。その頭はおそらく、何も考えていない。そんなバカの言葉でも、顔を上げたレイが先程の笑みをすぐに取り返したことが、その逆光の中でもわかった。彼女はなにか損をしている、そんな気がした。
「そう……アスカ、いいかしら?」
「……あっ、あ、当たり前でしょ! いいに決まってんじゃない!」
「ありがとう」
レイはそう云うと、リビングのハイテーブルにカメラを置き、素早く画角を調節した後、タイマーセットを行った。
「……準備ができたわ」
「僕の左隣に来る?」
「ええ。十秒後、シャッターが降りるわ。ランプが緑から赤に変わって、3回目の点滅が、シャッターの合図。じゃ、タイマー始めるから」
すると、カメラに取り付けられたランプが、緑色に点滅する。
ほんの少し、たった数歩の距離を、レイは駆け寄ってきた。ワンピースがその影と共に踊る。レイはシンジの左隣に到着すると、くるりと反転した。そして彼に寄り添い、彼の肩に乗せるように、頭を右に傾ける。
彼女は、頬を薄紅色に染めながら、満面の笑みを浮かべていた。
彼は少しの間、そんな彼女に心を奪われていたようだった。その表情が次第に、穏やかで、頼もしい笑顔に変わっていく。
夫婦。
かつて私達が云われていた、その二文字がぴったりだった。
「アスカ、レンズを見て。笑顔でね」
シンジの両腕の中で、二人をぼおっと見つめていた私は、ハッとした。
レイはレンズから視線を外してはいない。
なのにシンジは、撮影が間近であるにも関わらず、包むような笑顔で私を見た。抱く腕に力が入り、私は再度抱き寄せられる。
やっぱりこいつは、なんにも考えていないようだった。なんだか、怒りを通り越して、もはや笑えてきてしまった。
そうだ。私だって。もう大丈夫。私は笑顔を取り戻してる。
私は、シンジの首を強く抱きしめ、とびきりの可愛い笑顔で、レンズを見つめた。
シンジも、きっとレンズを見つめたのだろう。
点滅していたランプが、緑から赤に変わる。
3。
2。
1。
ピピッ。
◎
レイはカメラに近づき、今の三人の写真を見つめ、微笑んでいた。どうやらうまく撮れたみたいだ。
そして、どこからともなく携帯デバイスを取り出したレイは、カメラとの同期作業をテキパキと行い、先程撮った三枚の写真を速やかに保存した。
「へぇー、もう使いこなしてるんだね。すごいなぁレイは」
「……感心してる場合じゃない! いつまでこうしてんのよ!」
「あ、ああ。よし、降ろすよアスカ、まだ捕まっててね」
シンジが私の両足を優しく床に降ろした。ようやくこの辱めも終わった。
「よいしょっと。ふふ、アスカおっきくなったねぇ」
締まりのない笑顔で、感慨深く、シンジはそうつぶやいた。
ぶちん、と血管が切れる音がすると同時に、私は思いっきりシンジに蹴りの連打を浴びせていた。
「ぐおおっ! 痛い! 痛いって!」
「どーいう意味よそれ! 何云ってんのよこの変態、ホント信じらんない! 大体いつと比べてんのよ!」
「ぐはっ! え、えーと、あれ、あの時だよあの時……」
「あの時って、あの時!?」
思い出した。お姫様抱っこをされたのは、今日が初めてではない。
名前を知らないだけで、何度もされていた。
「……ふざけないでよ、この大バカシンジ! だいたいあれから何年たったと思ってんのよ! 殺してやる!」
「ぐほぉっ!? 死ぬ! 死ぬって!」
「あの時って、何?」
「あ、レイ、い、いやぁその……」
「こいつはアタシが大怪我してんのに変態みたいなことしたのよ! 弱ってるのをいいことにね!」
「え、ちが、違うよ!」
「違わないわよ! このド変態の大嘘つき! 一生許さないから!」
「そう、シンジはド変態なのね」
「違うよ! レイ、ちょっと待ってよ!」
「いいわ、ド変態でも。私もそう思うから」
「そ、そんな……」
「ハン! まあなんでもいいわ。アンタは一生アタシの奴隷よ。っていうか奴隷のくせに牛乳切らしてんじゃないわよこのバカシンジ!」
「しょ、しょうがないだろ! 朝全部アスカが飲んでっちゃったんじゃないか! 僕飲む分なかったんだよ!」
「うっさいわね! アンタが飲むもんなんてこの家にあるわけ無いでしょ! 大体ちゃんと買ってきたんでしょうね!」
「あ、そうだそうだ。冷蔵庫に食材入れなきゃ……もちろん牛乳も買ってあるよ。今日ねぇ、牛乳安かったんだ! ハイこれ」
「何よこれまた高温殺菌の安もんじゃない! ちゃんと低温殺菌のやつを買って来てって云ってんじゃないのよこの間抜け!」
「痛い! え、ええ、これ今朝の牛乳と一緒だよ! ごくごく飲んでたじゃないか!」
「あーうっさい! とにかく買い直し! いいわね!」
「そ、そんなぁ、ほんとに買い直しなのぉ?」
「当たり前でしょ! とっとと買いに行かないと、アンタがアタシにしたこと、全部レイに云うからね!」
「え、や、いやいやいや! それはやめてよ!」
「いい。大体知ってる」
「……まだ云ってないことあんのよ」
「……聞かせて」
「か、買ってくる! 買ってくるから! すぐ買うんでちょっと待っててください!」
「5分」
「は、はい!?」
「5分で一個バラす」
「……」
「返事は!?」
「は、はい!」
私を床に降ろしてから、わずか3分も立たないうちに、シンジはスニーカーを履いて、慌てて家から飛び出した。
『あの時のことを全部バラされたら、家での立場はゼロになるどころか、多分未成年への性犯罪で捕まる。5分で一個。最寄りのスーパーまでは自転車をかっ飛ばして片道3分だが、アスカが好きな牛乳が置いてあるスーパーは中央街に近いところにしかない。最速で片道15分。なんとか、6個以内で済まさなければ……』
おおよそそんなことを考えているんだろう。この大バカが。すでにレイは全部知ってる。
私はシンジが大慌てで出ていくのを尻目に、牛乳のパックを開け、グラスに注ぎ、一気に飲み干した。
うん、やっぱり牛乳って美味しいわね。
口を拭き、冷蔵庫に牛乳パックを戻すと、食材を冷蔵庫に詰めにきたレイと、至近距離で向かい合わせになった。彼女は私を見ると、ハッと息を呑んだ。
「目元、腫れているわ」
すぐさま彼女はハンカチを取り出すと、涙の後を拭ってくれた。上目遣いで私を心配そうに見つめる、薄く化粧が施されたその表情は、誰がどう見たって、世界一可愛い人だった。
「気づかなくって、ごめんなさい」
「……いい、謝んないで」
「どうして?」
「……レイに酷いことしたから」
「……そうなの?」
「うん」
「そう……私は大丈夫よ」
レイはそう云うと、私を抱きしめてくれた。品のあるフローラルノートが香る。彼女のぬくもりが伝わってくる。とろけて眠ってしまいそうになるほどの安らぎに、体の余計な力が抜けていく。
「遅れちゃって、ごめんなさい」
「……いい。アタシはもう大丈夫。カメラ、今日買ったの?」
「ええ、シンジと買いに行ったの」
「そうだったんだ」
ほらね。やっぱり二人っきりでデートしてて遅れたんじゃない。
私はレイを、そっと抱き返す。
「カメラを買って、浮かれていたのが良くなかった。デバイス、落としちゃったの」
「……珍しいこともあるものね、レイが携帯落とすなんて」
「それを探すのと、私のモノだと証明するために、時間がかかってしまって……本当にごめんなさい」
「いいってば、もう。謝りすぎるの、シンジそっくり」
「そう……シンジには、先に帰ってもらった。16時30分には帰ると伝えたといったら、血相が変わったから」
信じられない。デート中に先に帰るなんて。
「最っ低ねあいつ……」
「……」
「……あれ? 携帯落としたの、シンジじゃなくて、レイだったの?」
「ええ」
「……なんだ」
私はシンジを少しだけ見直した。デート中は、他の女の電話に出ない。流石に、それくらいはできるようになったようね。
私はとっさにレイを抱き寄せて、彼女の肩の上に自分の顔を置いた。私の表情を見られるわけにはいかなかった。しかしレイは、私の頭を優しく撫でて、声をかけてくれた。
「シンジのデバイス、バッテリーが切れていたわ」
「……」
「だから、余計に狼狽していたの。アスカが寂しくしていたらどうしよう、って」
顔を肩から離して、レイを見る。彼女はやっぱり微笑んでいた。彼女は私の頬に軽くキスをしてから、私の頭を胸の中に優しく抱き寄せた。大人になったレイの胸は、私のよりも大きくなっていた。マシュマロみたいに柔らかくて、ムスクみたいに甘くていい匂いがした。また優しく撫でられて、私は、顔をあげることができなかった。
「大丈夫。あなたを愛しているわ」
──前言撤回。やはりあいつは、本物の最低男だ。
「……ふん。携帯の意味ないじゃん。つくづく使えないグズね」
「本当は、三人で買いに行く予定だった。でも、アスカから、返事帰ってこなかったから」
「……今日はクラスメイトと遊んでて、それで返せなかった」
「そう……楽しかった?」
私はレイの胸から顔を離す。そして鼻からゆっくりと息を吸い、胸いっぱいに新鮮な空気を取り込んで、一気に吐き出した。
「……ぜんっぜん楽しくなかったわよ!」
「そう」
「大体なによあのファミレス! ヴィレの食堂より高いしマズい! あれじゃあまるで豚のエサね!」
「そう……でも、ヴィレの食堂より美味しいレストラン、アスカは知っているの?」
「……ふん! エサよりはマシってだけよ!」
「そう……ふふ、そうかしらね。いま、紅茶淹れるわ」
あっ、と気がついた私は、慌ててリビングに戻り、テーブルに置いてある、すっかり冷めたローズヒップティーを全てカップに注いだ。飲んでみると、香りは完全に飛んでいて、酸っぱくて、苦くて、冷たい。でも、さっきより美味しく感じた。ファミレスのマズいパスタのせいで、舌がバカになったのだろう。
私は、ちっとも美味しくないローズヒップティーを、すっかり全部飲み終えてから、空になったカップをレイに差し出す。
「これに注いで」
「うん」
レイが最近特に凝っているのが、ロイヤルミルクティーだ。レイは牛乳があまり得意ではなかったが、シンジの作ったミルクティーを甚く気に入って以来、牛乳そのものにも少し慣れてきたようだった。
偏食で無愛想だったかつてのレイが、少しずつ変わっていく。それが、私のささやかな楽しみになっていることに、気がついたのはつい最近だった。こんなこと、昔の私が知ったらびっくりだろう。レイにも、こんな私の変化を受け入れてくれてほしい。そんな都合のいい、でもきっとレイなら叶えてくれる願い事を考えていると、アッサムの香りが鼻孔を刺激した。
芳醇な香気にうっとりとする間もなく、違和感に気づく。
なにかがおかしい。香りが強すぎる。
心配になりキッチンに向かうと、コンロの前に佇むレイがいた。流し台には、さっき私が開けた牛乳パックと、買ってきたばかりであろう牛乳パックの計二つが、綺麗に分解されてたたまれている。
コンロには、土鍋が二つ、火にかかっている。
まさか。
「あ、あ、アンタ、土鍋で作ってるの?」
「ええ」
「そ、そんで、牛乳全部使っちゃったの?」
「ええ」
やはり、こいつは、アホだ。二つの土鍋をなみなみと満たすロイヤルミルクティーは、誰がどう見積もっても4L弱はある。
「たくさん飲んでほしい」
「あ、アハハ……」
いや、土鍋二杯分は無理だ。
……まあいいか、新しい牛乳は買いに行かせているし。残ったミルクティーは無敵のシンジ様が一気飲みしてくれるだろう。レイとのデートをおろそかにした罰ゲームとしてもちょうどいい。
レイはお玉と茶こしを使って、2つのティーカップに上手にミルクティーを注いだ。彼女はそれを一口すすると、上機嫌に笑った。その様子を見て、私も土鍋ロイヤルミルクティーを一口すすってみる。
「うまっ!」
「ありがとう。嬉しいわ」
「へぇ、土鍋で淹れても美味しいもんは美味しいのね……」
「うん。美味しくできて、良かった」
「……それにしても、レイがカメラなんて、意外ね」
「うん、洞木さんに、色々教えてもらった」
「え、そうなの?」
「あ、電話……」
噂をすればなんとやら。洞木から電話がかかってきたみたいだ。
「もしもし、惣流です……ええ……さっきはありがとう……うん……ほんのお礼……そう……うん、ポカポカした……嬉しい……来週土曜……了解……さよなら」
プツっ、と電話を切る。ものの1分もない会話だった。
「……いっつも思うけど、それで会話できてるの? アンタたち」
「ええ」
「まあ、なら良いんだけど。今日は珍しいことばっかりね、洞木から電話なんて」
「さっき、スーパーで助けてくれたの」
「あ、そうだったんだ」
「ええ。デバイス、彼女が見つけてくれた」
「ふーん」
「そのお礼の気持ちで、写真をあげたわ。それで、来週、写真交換会を開くことになった」
「へえ、あいつもそんな趣味あるんだ……」
「ええ、ツバメの写真、とても素敵なのよ」
「そうなんだ。ツバメの写真、アタシも見たいかも」
そう云って、ロイヤルミルクティーに口をつける。そのままでも美味しいけど、やっぱりこれにはお砂糖を入れなきゃね。
スティックシュガーを取りにキッチンに向かおうとしたその時、また、違和感に気づいた。
『写真をあげた』だって?
今日カメラを買ったばかりなのに?
「レ、レイ、ちょっと、待ってね」
「何?」
「あの、そのお礼の写真って、どんな写真をあげたのかしら?」
「さっきの写真」
「さっきの写真って、さっきの写真のこと?」
「ええ」
「お、お、おお、お姫様抱っこの写真?」
「ええ」
ああ、本当に、本当にこいつはドアホだ!
そんなことをしたら、私とシンジが結ばれたみたいに見えるじゃないか!
あの写真は、簡単に他人に渡してしまってよいものでは断じてない。私とレイとシンジの思い出で十分、心の中にあればいい、そんな代物だ。一つ処理を間違えれば、複数の人間関係を簡単に破壊してしまえる、危険すぎる兵器である。
それを洞木なんかに送ってしまって! 一歩間違って鈴原の妹なんかが見たら、次の日には私とシンジの合いびき肉がスーパーに並んでいても不思議じゃないのよ!
……まあでも、洞木なら多分大丈夫。彼女はその辺の微妙な機微も意外と察せるし、他人に写真を回すようなことをする人ではない。
だが、他の人間となると、話は別だ。
「レイ、ちょっと確認なんだけど、他に助けてくれた人はいる?」
「あと一人いるわ。デバイスを受け取る時、身元を保証してくれたの」
「そ、その人にも、お礼に写真を送ったの?」
「ええ」
「な、なるほどね。その人っていったい誰なのか、お、教えてくれる?」
「真希波さん」
──終わった。
真希波・マリ・イラストリアスにデータが回ること。
それはヴィレ職員全員どころか、全世界、いや全時空にデータが回ることを意味する。
レイは、洞木と違って、全然周りを察せていない。そう思った。
いや、諦めるのはまだ早い。
私は通学鞄から携帯を取り出す。つい先ほど、レイから電話が入っていることに今更気がついたが、今はそんなことはどうだって良い。とにかくあの写真をどうにかすることが先決である。
連絡リストから真希波・マリ・イラストリアスを選択する。
「ここが正念場よ、アスカ」
そう一人でつぶやいて、気合を入れ直し、通話ボタンをタップした。
「……もしもーし!」
「も、もしもし?」
「あー! プリンセス、お元気かにゃー?」
「え、ええ! 元気です! 真希波さんはお元気ですか?」
「元気元気、チョー元気だよ! いやーさっきさ、レイさんからと〜ってもイイモノを頂いてね〜」
「あ、ああ、も、もしかして、あ、あの、うちの兄が私を抱っこしている写真ですか?」
「そーそー! すっごいねぇこの写真! しかもさ、プリンセス、満面の笑顔じゃないの〜! ついにゴールインか! ってことで、ヴィレ本部はもう大盛りあがりだよ〜!」
やばい、やばすぎる。とにかく、でっち上げでも良いから、なんとかするしかない。
「ま、真希波さん? あのですね、その写真は、家の姉が合成で作った写真ですの。最近ね、姉も情報機器に興味を持つようになったんです! それで、ね!」
「へ〜ぇ?」
「それで、ちょっと合成で、姉と兄でとった写真に寝ている私をくっつけて、三人にしたってだけなんです。すみませんね、なんか紛らわしくって! だから、決して、決してお姫様抱っこされてたわけじゃないんですよ!」
「……ふーん。三人にねぇ……これ、合成なんだぁ」
「そ、そうなんですよ! 合成写真なんです! とってもよくできているでしょ? おほほほほ……」
「わかった、じゃあ鑑識まわしとくね〜」
違う、そうじゃない。
「い、いや、鑑識にまわすとか、そうじゃなくてですね」
「あ、香椎っちからの結果出た〜? あんがと〜」
こ、こいつ! 最初からヴィレの鑑識課に回してるじゃないか!
「こちらの鑑識結果によると、実際の写真の確率99.9999%みたいよーん! とってもいいカメラで撮ったみたいね! バッチリ署名付きの超高画質だし、これが合成だとしたらレイさんの能力は相当なもんだねぇ。立派に犯罪者で食っていけるよぉ〜」
「あ、ああ、そうかもしれませんね? う、うちの姉ってすごいでしょう! 自慢の姉なんです! ですから、その画像は、ね?」
「あ〜ん、わんこ君のガッチリした首をぎゅ〜っと掴むプリンセスの潤んだ瞳、可憐な笑顔……と〜ってもベリー very adorable ね♡」
「あ、あの真希波さん?」
「ん、な〜に?」
「あのですね、私とシンジは、あの、わかっていると思いますけど、兄妹なんですよ? だから、ね、その、恋愛関係とか、そういう関係性ではないんですよ? おわかりいただけましたかね?」
「うんうん、二人は兄妹の関係だもんねぇ、イ・ン・モ・ラ・ルぅ〜」
ぶちん、と血管がブチ切れる。本日何本目かはもうわからない。
「いい加減にしてくれませんか」
「……うん?」
「もう私達を冷やかすのはやめてください」
「……」
「今日、私の姉が携帯を落として、その時の身元確認でご対応していただいたとのことを伺っています。それについては、本当に感謝しております」
「……」
「でも、その三人の写真は、姉が本当に素敵だと思って、純粋な恩返しの気持ちでお渡ししたものです」
「……ん」
「それをダシにして、私達の関係をバカにするのはやめてください」
「……ごみんごみん。鑑識なんか回してないよん。でも、あんまり可愛いから、意地悪しちゃったの! 大体今日は土曜日で、だいたいみんな休みだし」
「……ならいいんです。すみません、少し熱くなってしまって」
「あれでも、ってことは、まだまだわんこ君フリーってことだよね! 狙っちゃおうかな〜?」
ぶちん。
「……」
「あれ、もしもーし?」
「……が」
「ん? あ、え、ちょっ」
「……アンタなんかが」
「……」
「アンタなんかが、レイの幸せを、奪っていいわけない!」
「…………」
私は興奮して、フーッフーッと息をしていた。
キッチンにいたレイのキョトンとした顔が、視界に入って、我に返る。
直感的にわかった。これは、云ってはいけない言葉だ。
「……すみません。私……」
「……もしもし、ナキムシ?」
「……え、アスカ?」
「うん、コネメガネから携帯取り上げた。聞こえてないよ。そっち大丈夫?」
ホッ、と胸をなでおろす。間一髪、とりあえず、助かった。
そう思ったのは束の間だった。
それは酷い勘違いであることに、私はすぐに気がついた。一番避けなければいけなかったことが起きてしまった。
もう言い逃れもできない。私はもう、腹をくくるしかなかった。
「……ハン。ヨワムシに同情されるようじゃ、このアタシもおしまいね」
「何よ、コネメガネが地雷踏んだと思ったから代わってやったのに。感謝の言葉もないわけ? あんたって、ホントガキね」
「うるさい。余計なお世話よ。ほっといて」
「……良い写真じゃない。良かったじゃん。バカシンジに抱っこされて」
「……なによ、見たんだ」
「コネメガネとあたししか見てないよ。コネメガネもそのへんのこと、わかんないやつじゃないから。他人に勝手に見せるようなマネはしない。まあ一生ネタにはするだろうけど」
「……もういいわよ、そんなことどうでも」
「へそ曲げてんじゃないわよ、このガキ。もうちょっと大人になったら?」
「それ、ずーっとグンペイやってるアンタだけには云われたくない」
そう云うと、少しの間、沈黙が私達を包む。私は思い切って、口を開いた。
「……あのさ」
「うん?」
「あの写真、ほんとに、なんでもないから」
「わかってる。あんた自意識過剰なのよ。ただの兄妹のスキンシップ。それでいいじゃない」
「もし傷つけたら、ごめん」
「うわ、うっざ。勝手に決めつけないでくれる?」
「……ごめんね」
「しつっこいわね! はいはいわかったわかった。あたしは気にしてない。これで満足?」
「…………」
「……もしもし?」
「…………」
「何あんた、また泣いてんの? ほんとにナキムシのガキね!」
「……ごめん、ごめんね、アスカ。ほんとに、ほんとになんでもないのよ」
「あんた何も悪くないじゃん。何様のつもりなのよ」
「ごめんね。アタシなんかが、あなたの幸せを、奪っていいわけないのに……」
「……」
「ごめんね……ごめんなさい……」
「……あーもう! ジメジメジメジメ鬱陶しい! あんた、シンジそっくりね!」
「……え?」
「聞こえなかった? バカシンジにそっくりよ、あんたって」
「……なんですって?」
「もう一度云ってあげよっか? ガキっぽいとこ、すぐ泣くとこ、泣いてりゃ済むと思ってるとこ、そういうとこぜーんぶまとめて、あんたはバカシンジにそっくりよ!」
ぶちん!
「ぬああぁんですってぇ! バカシンジにこのアタシがそっくりってぇのぉ!?」
「ホント、瓜二つよあんたら。ほんとに兄妹なんじゃないの?」
「ばっかじゃないのアンタそんなわけ無いでしょ! せっかく心配してやったのにもう最悪! さっきまで云ってたの全部ウソだからねわかった!?」
「最初から余計なお世話だっつってんでしょこのナキムシ!」
「泣いてない!」
「うそつけ!」
また少しだけ、会話が途切れる。
「……この貸し、いつか必ず返すから」
「……まあ楽しみにしとく。ああ、そういやさ、サターン動いた?」
「あ、うん、動いた」
「そう、良かったじゃん」
「……先週は付き合ってありがと、感謝してる」
「ううん、あたしも掘り出しもの、いっぱいゲットできたから。ありがと」
「ねぇ、また行きたいね」
「うん。行きたい」
「あのさ……こんど、うちに来てよ。一緒にバーチャやろ?」
「うん……あたしもなんか持ってく。来週の土曜とかどう?」
「おっけ。待ってる」
「……ナキムシ」
「うん?」
「Ich bin glücklich, dass der Prinz ist bei der Prinzessin.」
「……Du willst mich wohl auf den Arm nehmen?」
「Ja, gut, Nur ein scherz. Bis bald.」
「Bis bald.」
電話を切って、窓に視線を移すと、すっかり日は暮れていた。リビングにやってきたレイは、私にハンカチを貸してくれた。私はそれでほんの少しだけ出た涙を拭き、冷めたミルクティーを飲み干した。
ヨワムシに本当に大きい貸しができてしまった。一体どうすれば、この貸しを返せるんだろう。皆目検討もつかない。
けれど、一つだけ、わかったことがある。
「……はぁ。ホントにガキね、アタシって」
「アスカ、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「幸せって、何?」
「……んーん、なんでもない。レイ、もう送ってないわよね?」
「うん」
「そう。あのね。あの三人の写真は……その……大事な写真だと思うの」
「ええ」
「うん、だから、他人に見せるときは、本当に大事なときだけ。バカシンジはどうでもいいけど、アタシには許可をちゃんととってね。いい?」
「ええ。そうする」
「あと、三人じゃない方。あれは、もう、絶対に誰にも見せちゃだめ。わかった?」
「……ええ。そうする」
「うん。それじゃ、ミルクティーおかわりするわね!」
「ふふ、どうぞ。とても嬉しいわ」
私は、さっきよりも少し軽い足取りで、キッチンに向かった。
カップに一本のスティックシュガーを入れ、土鍋からお玉でミルクティーを注ぐ。これは初めての体験だった。土鍋の保温力は素晴らしく、ミルクティーはまだ温かい。
スプーンで軽く混ぜると、ミルクと紅茶の香りが、ふわっと広がる。そして、今日の寂しさを飲み込むように、ミルクティーを口に含んだ。まろやかな甘みが口に広がる。普通の紅茶より子供っぽい味だけれど、嫌いな味じゃない。きっと昔は嫌いだったと思う。
少し落ち着いた私は、今日の夕方を反芻して、ふとしたことに気がついた。
きっとまた、私は寂しくなる。私はまだガキだから。
ここが、私の妄想の茶番であること、それがまだ否定できないから。
しかし、いつか素敵な大人になれる。それだって否定できないのだ。
どちらが事実はわからない。そして私が死んだこと、それは事実だ。
でも、それに引け目を取ることなんか、全くない。この街にいる人は、大体みんなそうなのだ。
全部、あいつのせいだ。
全部、あいつのおかげだ。
だったらあいつを使って、みんなみたいに、素敵な大人になりたい。この街で。
だから、素敵な大人になってしまう、その前に。
「あ、あのね、レイ」
「なにかしら?」
「あとで、その、さっき撮った写真、あの、今じゃなくて良いんだけど、ああ、いや」
「……ええ、そうするわ」
「……ありがとう」
「3つ目だけ、送っておくから」
「はえ?」
「だって、二人きりの方は、誰にも見せちゃだめ。アスカもだめ。そうでしょ?」
「あ、あえ、そ、そうじゃなくて、あ、じゃなくて、い、いや、そうなんだけど。う、うんうん、そ、そうよね! あ、ありが──」
「Nur ein scherz.」
「……アホレイ! もう知らないっ!」
だんだんこのアホもあのバカに似てきた。どいつもこいつも、私を子供扱いして!
やっぱり、みんな大っ嫌い!
【おまけ】
◎あまりにも雑な登場人物紹介
惣流・アスカ・ラングレー
15歳。高1。今日みたいなのはよくあるやつ。JAパイロットとしてヴィレに所属。あれからぐんぐん身長が伸びて今や海外モデルみたいになってしまった。異常に綺麗すぎてクラスから浮いてしまうパターン。ちょっと長い間放置されすぎて泣きグセがついた。リョウジは無理。バーチャの持ちキャラはアキラ。
霧島マナ
16歳。アスカのクラスメイト。陸上部。彼氏持ち。JAパイロットの訓練生。バーチャはあんまりわからない。
山岸マユミ
15歳。アスカのクラスメイト。図書委員。彼氏なし。カヲシンが激アツ。バーチャはあんまりわからない。
洞木レイ
15歳。アスカのクラスメイト。帰宅部。彼氏なし。農場やらスーパーやらでバイトしまくりの苦学生。壱高のアイドル。名字の変更で一悶着あった。シンジが好き。バーチャは何もわからない。
加持リョウジ
15歳。アスカのクラスメイト。帰宅部。彼女なし。学校一のイケメン。惣流のことが気になりまくり。洞木のことも気になりまくり。相田先生の手伝いは未だに続投中。バーチャは何もわからない。
相田ケンスケ
29歳。既婚。土曜は自然保全調査にボランティアで参加。バーチャの持ちキャラはラウだった。
クラスメイトの女子グループ
アスカのクラスメイト。彼氏なし。カラオケ好きで結成した5人組。モデルのような惣流さんに憧れて、勇気を出して誘ってみた。惣流さんが一曲歌って帰った後、あまりの美しさに速攻で惣流様親衛隊を結成。以降彼女らの友情は永遠に続いたのだった。バーチャは何にもわからない。
ナンパ男
31歳。鼻が折れた。彼女は腐るほど。バーチャの持ちキャラはジャッキーだった。
痴漢
30歳。玉がつぶれた。童貞。バーチャの持ちキャラはサラだった。
惣流シンジ
26歳。独身。今日みたいなのはもう慣れっこ。惣流家の形式的世帯主。持ち前の金銭感覚を活かし惣流家の財布の紐を握っているが、3人の中で収入は一番低い。カメラのことは何もわからない。バーチャの持ちキャラはカゲだったが、コマンドがまともに入力できない。
惣流レイ
29歳。独身。今日みたいなのはもう慣れっこ。3人の中で収入は一番高い。その内容は月々振り込まれる今までの功績に対するヴィレからの報奨金。惣流家の大黒柱。味噌汁、紅茶、カメラ、化粧などハマると手がつけられない惣流家の散財王。バーチャは何もわからない。
相田・アスカ・ラングレー
29歳。既婚。ナキムシは、なんやかんやで、大切な友だち。バーチャの持ちキャラはアキラ。
真希波・マリ・イラストリアス
独身。最近はプリンセスをイジるのが好き。写真を姫に見せちゃって、ちょっとミスった。バーチャの持ちキャラはジェフリーだった。
香椎エリカ
独身。鑑識課。今日はお休み。家でパソコンをいじってたら背後に気配を感じたが、気のせいだった。バーチャはあんまりわからない。
◎あまりにも雑な惣流家のきっかけ
色々あった。けど、だいたい
式波 「あんたら何者?」
シンジ「あ、え、えと、俺たち兄弟でして、ハハ」
惣流 「はぁ!? 何言ってんのよ!」
シンジ「(シー! そう言っときゃ丸く収まるだろ!)」
レイ 「……」
式波 「……あんた、アタシにそっくりだけど、一体誰よ!」
惣流 「アタシは、惣流・アスカ・ラングレーよ!」
式波 「はぁ!?」
シンジ「お、おい!」
レイ 「……」
式波 「……あなたたちは?」
シンジ「あ、え、えと、惣流、惣流シンジです。ハハ……」
レイ 「私は、惣流レイ」
式波 「……ああそう」
で、IDまで発行して、後に引けなくなった。
で、後で全部バレた。
◎あまりにも雑なレイ→アスカのきっかけ
色々あった。けど、だいたい
うーわ。碇君って弐号機パイロット好っきゃなー。弐号機パイロットも碇君好っきやなー。
まー、ほっとけばええか。色々あったけど、ウチは碇君のそばに居たい。それでええと決めたんねん。
あー、でもなー。あー、やっぱ。あーもー。我慢しよ。
って、あかんあかん。何しとん自分ら。
もー、ほんま自分らしょーもないわ。特にシンジがしょーもない。もっとアスカに優しくしたれや。ほんまに。
あー、アスカも目ぇ離すとすぐこれや。あかんで自分。シンジがせっかくきてくれたんやし、自分をもっと大事にしいやー。まーウチも言えた義理ないけどやな。
おー、よしよし。寂しかったな。
はー、この子、ほんまはかわええやないの。シンジに甘えてると赤ちゃんみたいや。シンジがベタ惚れなんもわかるわ。とろけてまうわ。
あー、かわええなぁ。よっしゃ、おばちゃんほっぺにちゅーしたろ。シンジによー似とるわこの子。
お、兄弟?
えー、いややウチ。
お、惣流?
まー、ええけど。
◎あまりにも雑なアスカ→レイのきっかけ
色々あった。けど、だいたい
ファーストなんかきらい! きらい! だいっきらい!
→シンジがむぎゅーってする
→へんだ、とーぜんよね
→あれ、なんできらいなんだっけ?
→レイがむぎゅーってする
→やだ! シンジ以外はやだ! やだ!
→二人でむぎゅーってする
→あれ、あったかい、やわらかい、いいにおい
→あれ?
◎首元すりすり、首元ガブガブ
もはや日課。シンジは羞恥心が麻痺しており、今日は強めだなくらいにしか思っていない。アスカも羞恥心が麻痺しており、DSSチョーカーって邪魔だなとしか思っていない。
◎ウィンドブレーカー
トウジのよりシャコシャコしてる。DSSチョーカーというよりは歯型を隠すために着てる。チョーカー自体はカッコいいと思っている。
◎『外』って、何?
第3新東京市の外のこと。
とっても治安が悪い。