突然で悪いが俺の話をさせてくれ。俺は至って普通の人間だと思う。
どうしてそんな自信のない言い方をするのかは一つ理由がある。
それの理由は、俺に不思議な力があるからだ。
俺のその力とは、《人の顔内側を見る力》その力のせいで、俺は小さな頃から忌み嫌われていた。
まぁ、それもそうだろうと自分でも思う、何故かと問われたら俺はこう返すだろう。
『気持ちが悪い』
しかも俺のその能力はある一つの事に限られていた。
その一つというのは人の《汚い部分》だ。
誰にも一つや二つ、隠したい秘密ごとはあるだろう、けれど俺には関係ない。それが全て見えてしまうのだから。
少年が目を開けた其処は教会であった。
少年の名は 増本高弘 高校一年生の男子高校生だ、増本は辺りを見渡す、僅かに痛む後頭部を手で押さえればのそりと起き上がった。
見渡す増本が最初に目を見付けたのが、胸の前で指を絡め何かを祈る聖母マリアの像であった。
天井をふと見ればマリアが赤子を抱えるステンドグラス、素朴なその雰囲気に増本は、心が安らぐのが解った。
「おにぃちゃん」
増本の背後から幼い少女の声が聴こえる、明らかに自分を呼んだ、増本はオズオズと後ろに顔を向ける、ビビりまくる増本に少女はクスクスと笑みを洩らした。
「おにぃちゃん、こわがりなんだねっ」
「ちっ、違うよ!」
尚もクスクスと笑う少女、そんな少女に、増本は恥ずかしさを覚えた、そのまま下を向けば少女の笑いはピタリと止まり言葉を紡ぐ。
「こんな普通のおにぃちゃんが主様の"選んだ人"なんて信じらんないなぁ」
ー…主様?
その言葉に増本は顔をあげようとする、途端、脳内に激しく不快なノイズが流れ出した。
こんなに不快なノイズは初めてだった、その酷いノイズから僅かに聴こえる言葉、拾ったその言葉はあまりにも衝撃が強過ぎた。
増本の脳内に流れる言葉は次第にはっきりとしていく。
コ……ス……ロ……コロ……ス……コロス……コロス…コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス
怨念か何かか、地を這うようなその声に増本の脚はガクガクと振るえる、みっともないくらいに、増本は怖気付いていた。
「おにぃちゃん、ごめんね?でもね、わたし、主様には逆らえないの」
そう言った少女を見た増本。そんな増本に少女は喋りかける、唇と唇が触れるか否かの至近距離で。
「じゃっおにぃちゃん、主様の為に死んでねっ」
最後にハートが付きそうなその声は、至極楽しそうだった。
そんな声と共に増本の身体は吹っ飛んだ、吹っ飛んだ、というよりは突き飛ばされたの方が正しいだろうか。
とにもかくにも、増本の身体は宙へと浮き壁へと叩き付けられたのだった。
「!!」
声に成らない声を上げた増本はその場へと倒れ込んだ、カツカツ、と靴を鳴らして増本へと近付く少女の顔はまるで恍惚としていた。
人を殺す感覚、 人が苦しむその姿に、まるで欲情しているようだった。
「な、……で、…れが…」
「案外しぶといですねぇ」
息をし、途切れながら言葉を発する増本に少女は眉根を寄せた、増本の頭に蹴りを入れよう、そう決めた少女は足を高く振り上げた。
刹那、協会の扉が勢い良く開かれる。
「ハァイ!!パオロちゃんさーんじょーっ!!」
その声の主は増本と同じくらいの年齢だろう、少女が居た。
少女、パオロと名乗ったその手には華奢な身体にそぐわない大剣が担がれていた。
何処にそんな力があるのか、増本は、ぼやける視界そのままにパオロを見ればそう思う。
「あちゃー、ダメじゃないかぁ増本くぅん、そんな瀕死状態じゃ持ち帰れないよぅ」
何を言ってるんだこの女。
声が出せない増本はただパオロを見る事しか出来なかった。
そんなパオロは増本の近くに居る少女を見付ける、瞬間、目付きが変わるのが解った、否、空気が張り詰めた、という方が正しいだろう。
「お嬢ちゃんなの?ウチの"ナーハフォルガー"をこてんぱんにした子は」
「ええそうですよ?"ヘラオス"?」
「…君、"僕達"のこと知ってたんだ」
パオロのその言葉にくす、と含み笑いを洩らした少女は当然、という顔でパオロを見つめた。
「だって、貴方達はバケモノだもの、」
バケモノ、その言葉にパオロは大げさな程に反応した。
大剣を少女の前へと突き付ければパオロはブツブツと呟き始める。
「我に従いし魂達よ、我ともに授からん、無に返る静寂共に "ハイリヒシュティレ" 」
そうパオロが呟けば、大剣は鋭い光を放つ。
それを見た少女は笑みを浮かべた、少女も続く様に言葉を発する。
「我ともに始まる生命よ、時と共に桃源郷へと脚を踏み入れんことヲ、 "イニーツィオテンポ" 」
少女が言葉を発すると同時に、その周りは体力の時計で囲まれる、その時計はカチ、カチ、と時を刻んでいた。
それを見たパオロは小さく呟く。
「面白みもない技」
その一言で少女は怒りを露にさせた。
「ー…+α」
神重ね、そう呼ばれるこの技は神をも超越すると言われている。
古より伝わるその技は選ばれたものにしか使えない、なら少女は選ばれたものなのか、否、違った。
「只の偽物じゃん」
「……あまり、嘗めた口を利かないで貰えますか "ディーオアッヴェント" !!!」
叫ぶ少女の手には魔法陣が描かれる、拳を作り両手を広げた少女の手からは無数の黒い蝶が飛び交って行った。
パオロへと襲い掛かるその蝶は分裂し、何百ともなる大群へと成ったと思えば、その形を変えて鋭い刃へと姿を変えた。
「めんどくさい魔法使いやがって、!」
そう叫ぶパオロは大剣を目の前へと掲げた、それと同時に蝶から刃へと変わったそれは、勢い良くパオロへと目掛けて飛んでいく、その刃はパオロの持つ大剣へと阻まれた後、地面へと落ちればまるで灰のように無くなってしまった。
それを見たパオロはケラケラと笑い少女へと言葉を掛ける。
「はは、ショボ過ぎない?流石にさぁ」
「あーら、そんなに油断してもいいのですか?…貴女が偽物だと謳った私の神重に殺される事になりますよ!」
少女は叫ぶ、パオロは笑う、どちらが有利か。
それは少女であった。
パオロの大剣は、刃が当たったその箇所からパラパラと欠けていくのである。
パオロの目は大きく見開かれた。
「私の作り出す刃はどんなものでも貫くのです、貴女の剣が、多少強く作られていたとしても、私の手に掛かれば脆く儚い物質にすぎないのです、」
くるくるとその場で回る少女、少女を見つめるパオロはフッ、と小さく鼻で笑った。
「"レゲネラツィオーン"」
パオロは再生の言葉を告げた。
大剣から落ちた欠片は、再び集まり結合していく、……筈だった。
「な、んで…」
「ふふ、貴女が言った "面白みもない技" の能力ですよ、この力で貴女の時間はずっと進み続けているのです」
「は?、何を言っているの」
「貴女は過去へと戻れない、再生は過去に戻るのと一緒、つまり時間の進み続ける貴女の所有物は、過去へと戻れない、再生は出来ないのです。」
解りましたか?
にこりと笑った少女、弾むようなその声にパオロの顔はみるみるうちに歪んでいった。
その目はまるで、汚物を見るかのような。
「薄ら寒い技を使いやがって…、こんな卑怯な魔法を使うより正々堂々戦ったらどうなの?…嗚呼、僕達に負けるのが怖いんだ?」
パオロのその言葉に、少女は笑った。嬉しそうでも楽しいでもない、冷たい笑い。
「……肯信者風情が何を生意気な口を聞いているのです?」
「反信者風情が、私の可愛い可愛いエスパダに傷を付けていいとでも?」
少女はこめかみに青筋を立てる、それを見たパオロは口元に手を当て嘲笑った。
「短気な女は男に捨てられるよ」
その言葉が引き金と成ったのか、少女は両手を天へと翳し再び神重を唱える。
「"ディーオアッヴェント"」
少女が唱えれば、先程より遥かに多い蝶が舞う、パチン、と鳴る指とともにそれは鋭い刃へと変わり再びパオロへと襲い掛かった。
「私を侮辱した罰よ!!大人しく天に召されなさい!!」
欠けた大剣は小さく成り、最早盾としては使えない、パオロの身体には無数の擦り傷が残って行った。
そう、無数の擦り傷が。
「なんで、なんで刺さらないの?!」
少女が言う通り、刺さらないのだ、パオロへと目掛けて飛んでいく刃は寸での所で軌道を変えパオロの横へと通って行く、まるで磁石が働くように。
「なんで、なんで、なんで!!」
少女は叫ぶ、狂ったように叫ぶ、再び呟いた呪文によって、少女の手からは何千ともなる蝶が沸き上がった。
刃に変わり、何千もの刃がパオロへと飛んでいく。
パオロはそれをただ無言で見詰めていた。
「しねぇえええ!!!貴様らに私達の計画の邪魔はさせないんだよ!!!!」
何千の刃はパオロへと突き刺さる、最早パオロの身体は見えていなかった。
「…私のことを怒らせた罰、…そのまま眠っていなさい」
吐き捨てた少女は踵を返す。
その身体は何かにぶつかった。
「嬢ちゃん、俺の相棒傷付けちゃあイケンな、」
そこに居たのは大柄の男、黒い服を身に纏いサングラスをしているため、ただならぬ威圧感を感じた。
少女は少なからず怖気付く、男の表情はまるで読めなかった。
「あな、たは、誰ですか」
「答える義理もねえだろ、」
「何を言って、」
言葉を紡ぐ少女、その声は途中で途切れる、盛大な発砲音と共に。
「Die peacefully」
小さく呟いた男の声は小さな協会に響き渡る。
男の足元に転がる少女は見るも無惨に、顔の半分が無くなっていた。
「パオロ」
「……ぶはぁ!!!あっ、先輩じゃないっすかぁ!!」
パオロへと刺さっていた刃は光と共に塵へと変わる、顔を見せたパオロは、男の姿を見るなりパァッと顔を明るくさせた。
「てめぇ何してんだゴルァ」
「いやいやいやぁ、手古摺っちゃいましたよぅ」
「嘘付け、遊んでただろテメェ」
「遊んでませんって!兎に角ナーハフォルガーを回収しましょうよ!瀕死寸前なんですよ!!」
「はぁ!?テメェそれ先言えや!」
男はぐったりとした増本に近付けばペチペチと頬を叩く。
増本はピクリとも動かなかった。
「死んでんすか?」
「否、多少成りとも息はしてる、"ハイレン"」
男の発した声と共に増本の身体はシャボン玉のような丸い何かに覆われた。
それを見たパオロはほぇー、と感嘆の声を漏らした。
「先輩のそれ見るん初めて」
「テメェの前で使った事ねえからな」
「まぁ確かに、僕達の治癒能力は人間と比べ物に成らないっすもんね」
他愛もない会話をしていれば、増本の身体はみるみるうちに綺麗に成っていった。
傷だらけの腕は、既に傷一つ無くなっていた。
「……っん」
身じろいだ増本を見た男は魔法を解いた。
再びペチペチと頬を叩く。
「起きってっか?返事しろ坊主」
男の声に増本は目を薄く開く、状況を理解していなのだろう、キョロキョロと辺りを見渡した。
「俺はジューリオ、こいつが俺の相棒パオロ・ネーゼ」
簡単に自己紹介をした男、ジューリオは増本を担ぎ起こす、未だ痛みは引いていないのか増本は顔を歪ませた。
「俺たちと共に同行してもらう、ヒンメルへと」
増本高弘の新しい人生はまだ始まったばかり。
ー…To be continued…ー
処女作でございます!
稚拙な文ではあると思いますが温かい目で見てくだされば幸いです!