彩へ   作:ゆめの

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琥珀色

「キミってライブとか興味ある!?」

「ライブってなんのライブ?」

「もちろんアイドルのだよ!」

 

 そこまで言われれば、いくら鈍いと言われる僕であっても容易に理解する事はできる。

 テンションも声音も高めに黄色い感情をぶつけてくる辺り、きっと自分のライブに来て欲しいのだろう。

 

 アイドルのライブに興味があるか無いかで言われたら、正直興味は無いのが事実だった。僕の趣味は絵を描く事で音楽を聞く事でもないし、それこそアイドル趣味だってありはしない。

 

「見てみたいかもね」

「ほんとっ!? あのねあのね、ライブのチケットあるんだけどさっ!」

 

 そう言ってヒラヒラと青葉が舞い落ちるように一枚のチケットを僕に見せてくる。ここで興味無いなんてシラける事は言わない。それこそ彼女を落ち込ませて青い感情を抱かせてしまうのが分かっていたから。

 

 ただ、一つだけ。彼女の歌って踊る姿を見たいとは思う。普段美術部の部室で見せてくれる姿とは違う姿が見られる事は貴重な事だ。

 

「これは特別なチケットで、普通は手に入れられないんだよ!」

「そんなに人気があるんだね。すごいね」

「みんなで頑張ってるからねっ!」

 

 そうやって笑う彼女の笑顔を瞳に焼き付ける。彼女に惚れた要因の一つでもあったその笑顔が好きだった。だけど、やはり彼女と僕の住んでいる世界は違うんだなと、少しだけ深い青色の感情が覗き込んできた。

 彼女には親友と呼べる存在がいて、何かの目標に向かって助け合う仲間がいて、そんな充実した毎日を送っている。

 僕には絵と彼女しかない。ただそれだけの違いだけど、彼女の事を遥か遠くに感じるには充分な理由でもあった。

 

「どうしたの?」

「ん?」

「なんかボーッとしてたから」

「ごめん。ライブで歌って姿を想像したら、すごく楽しそうだなって」

「うんうん! 多分体験したらすーっごい楽しいと思うんだ……!」

 

 少しだけ。ほんの少しだけ、彼女が羨ましく思えた。別に友達なんて要らないと思っていたあの頃には無い色合いだ。それもきっと、彼女との出会いから加わった色合いで、彼女から教えて貰った色でも、少し面白くない色もあるのだと知った。

 

 アイドルである彼女。ファンと呼ばれる存在のほとんどが異性なのだろう。ずっと考えないようにしていた。考えてしまうと……こうして彼女に暗い表情を見せてしまうのが分かっていたから。

 

「やっぱり……来たくなかったかな……」

「違うんだ……ライブに行きたい行きたくって話じゃなくって……」

 

 上手く言葉にできない。醜い灰色の感情を、キャンバスにベタ塗りすることみたいにぶつけた所で彼女も、僕だって得はしない。

 

「嫉妬……なんだと思う」

「嫉妬?」

「うん……僕の知らない姿を知っている人がいるって……そんな当たり前の事にモヤモヤしてるんだ」

「そ、そっか……」

 

 口に出した言葉は無かった事にはできない。そのセリフを聞いて、彼女は何を思うのだろうか。情けない人だと思われただろうか。女々しい人だと思われただろうか。嫌われてしまっただろうか。

 そのどの問いも、彼女の口付けによって全て否定された。優しく柔らかくて、そして熱を帯びて綺麗な桃色の感情。

 

「私の気持ちはね、真っ直ぐキミに向いてるんだよ」

「……うん」

「証拠って言われても、具体的にこうって出す事はできないけど……ほら……キスはさ……好きな人としかできないじゃん……? ふつーはさ」

「……うん」

「ごめんね。でも、これからもそういう気持ちにいっぱいさせちゃうと思うんだ。だけど、不安だなとか思った時は素直に言って欲しい。溜め込まないで、そしたら私もキミに抱いてる好きをたくさん教えてあげるから」

「ありがとう。でも、アイドルとしては頂けない発言ではあるね」

「今はアイドルの丸山彩じゃないから。キミの事が好きな、ただの丸山彩だからね」

 

 これを言ったら怒られるかと思ったけど、彼女は怒る事なく、僕に淡いオレンジ色の言葉をくれた。

 普段はトチったりして少し年下のイメージもあるけど、今日だけは立場が逆転してるのかもしれない。

 

 

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