てな訳でどぞ
迂闊だった。
あの不審者と話してた時にきた通信。曰く、張り込んでるのがバレ、戦闘に突入したとのこと。
私は強張りそうになった口を何とか動かし、直ぐに急行する旨を伝えると目の前の不審者に逃げるよう言い、全速力で廃ビルに向かった。
窓を割って中に入ると、右腕が鎌に変形した男が、うちのサイドキックに右腕を振り下ろしている所だった。
「させない!」
私は羽を羽ばたかせ、風圧で男を吹き飛ばそうとする。しかし、急な突風に気づいた男は床に鎌へ変形した足を突き立て風をやり過ごし、そのままサイドキックを人質にとった。
「一歩でも近づいてみろ!そうしたらこいつの首が飛び跳ねるぞ!」
「……わ、私に構わず、早くこの男を…」
「てんめぇだまってろっ!!」
「っっ!」
大失態だ。作戦に失敗した挙げ句、人質までとられるなんて。
私はギリッと歯噛みしながら、何とか人質を取り返せないものかと考える。
けれど…無理だ。私の羽はホークスのように自立して飛ばせないし、こういった状況を打破できるような必殺技もない。
この状況から人質を無傷で救出して、あの男も無力化する方法なんて、それこそ砂漠で色の違う一粒の砂粒を見つけるような神業だ。
「…分かった、大人しくするから危害は加えないで。」
「へへっ、物分かりがいいな。」
男は、濁った笑みを浮かべると人質を連れながら少しずつ後ろに後退していく。わたしは、連れていかれる部下の事を黙って見ている事しかできなかった。
「追いかけようなんざ考えんなよ?そん時はこいつの首を一思いに…」
そう言って、首筋に鎌を食い込ませようとした...まさにその時だった。
キーン!と、硬い物同士がぶつかったような、甲高い音。それと同時に、男の右腕が弾かれたように上へ飛ぶ。
「……はっ…?」
思わず困惑する男。脳が状況を整理できてないのか、なんとも間抜けな声を出しているが、私も今何が起きているのか把握できていなかった。
そして間髪いれず
「ガァッ?!」
砲弾でも当たったのかというくらいの速度で、脈絡なく吹っ飛ぶ男。体全体をコンクリートの壁に打ち付けられ、肺から空気という空気を絞り出し、その男は気絶した。
「へっ?…」
人質だった部下の子は、何がなにやらといった感じに困惑してる。一部始終を見ていた私だって何が起きたのか分からないのだ、その反応は自然と言える。
取り敢えず私は、人質にされてた部下の子に声をかけ、無事を確認し、吹き飛ばされた男に近づいてみる。……うん、完全に延びてる。こりゃしばらく起きそうにない。
私は何故男が吹き飛んだのか近辺を調べて見る。すると、異常は直ぐに見つかった。
「これ……コンクリート?」
延びていた男のお腹には、何故かボロボロに崩れたコンクリート片が散らばっていた。かなりの力で押されたのだろう、服を捲ってみると男のお腹には、崩れる前のコンクリートの形が痣のように残っていた。この形は……刃こぼれしたナイフ?いや、それにしては刃こぼれ部分が規則的な形過ぎる。そもそもこの痕には柄の部分が写ってない。ということはまた別の何か……
「って、形なんてどうでもいいよ。」
そう、大事なのはこれを誰がやったかだ。私の事務所に所属してる人達の中で、こんな真似が出来そうな人は居ない。という事は間違いなく外部による犯行なんだけど…
「あの…ブレイザー。私どうしたら……?」
と、後ろから遠慮がちに声をかけてくる部下の子。しまった、これに夢中になりすぎてしまった。
「あぁ、えっと、こいつに手錠をかけたら外まで運んで、その後は皆の援護に徹して。……さっきまで人質になってた貴女に頼むには、ちょっと重労働かもしれないけど…」
「だ、大丈夫です!私やれます!」
「そ、そう、元気そうでなによりね……。」
思ったよりパワフルな娘で助かった。
私はすっかり延びてる男をその娘に任せると、仲間の援護に向かおうと無線を繋げようとする。しかし次の瞬間、下の階からとてつもない衝撃音が聞こえてくる…!
それは、仲間が戦闘を繰り広げ絶えず音が響いてくるこのビルにおいても、一際目立つくらいに大きな音だった。
「そいつ任せたから!」
私はそう言って部下の娘と別れると、窓から外に出て、そのまま下の階に侵入する。
下の階の窓ガラスは戦闘の余波で壊れたのか、一部が割れていた為そこから音もなく侵入する事もできた。しかし、窓に入る前に一瞥した部屋の中の光景が、私の動きを止めた。
中には、二人程の倒れた男と、悠然たる態度でその場に立っている先程の不審者がいた。何故あいつがここに…?それを考える暇もなく、不審者はこちらに踵を返そうとしてくる。まずい、このままでは気づかれる!
「止まりなさい!」
咄嗟に私が移した行動は、不意討ちではなく警告。いや、明らかに怪しいは怪しかったのだが、彼の回りには倒れている強盗団のメンバーらしき男が二人、倒れているのが見えた。こいつらと関係があるのかは分からないが、少なくとも強盗団と敵対している事が分かった為、不意討ちは控えた。
けれど、それでも怪しいことは確か。警戒する事に越したことはなく、私は男にキツイ目線を浴びせながら言葉を紡ぐ。
「貴方、どうしてここにいるの?この強盗団達とどんな関係?」
不審者は無言を貫く。派手な眼鏡のせいか表情も読みにくい。一体あいつは、何を考えているんだ…。
「…黙ってないで答えなさい!」
尚も追撃するも、不審者は変わらず言葉を発しない。このまま強引に捕まえてしまおうかとも考えたけれど、相手も相当な手練の様子。1対1では逃げられてしまうかもしれない。どうしたものかと頭を悩ませていると…
「ブレイザー、下は粗方終わりまし…何してるんです?」
彼の後ろから、階段を登ってサイドキックのテッシが来た。
でかしたテッシ!と、私は内心でガッツポーズを上げる。
「テッシ、一緒にそいつ捕まえるわよ。強盗団の一味と何か関わりがあるかもしれないから。」
何を隠そう、テッシは捕獲のエキスパート。体から無数の鉄格子を生やせる事ができ、それでヴィランを捕まえるのが彼の得意技である。
「えっ、まじすか!」
そんな事を言いながらも、テッシは既に臨戦態勢である。
目の前でこんな会話をしていても、まだこいつは反応一つ示さない。不気味な奴だ……
と、そんな事を考えていた所、耳につけていた無線機から通信が入る。
『こちらドーフィ!緊急事態だ、早く応答してくれブレイザー!聞こえるかブレイザー!!』
耳をつんざくような音で、下の制圧をしていた筈のサイドキック、ドーフィから連絡が入る。やけに切羽詰まった声だが、一体何が起きたのだろう…
私は窓から部屋に入り、不審者が怪しい動きをしないよう見張りながら通信に答える。
「どうしたの、今こっちも取り込んでて…」
『大変だ、一味の一人が巨大化の個性持ちだった!急いで捕まえないと大変な事に…』
巨大化の個性…その意味を脳が理解する前に、足元が崩壊した。
コンクリートでできた筈の床は、轟音と共にひび割れ、粉塵を巻き起こす。そして下から、巨大な何かが迫り上がってくる。
そんな時でも行動できたのは、さっきまで反応一つ示さなかった不審者が、下で延びてる男のうち一人とテッシを掴み、脱出したのが目に見えたからだろう。
私は最早体に染み付いたと言っても過言はないほどスムーズな動きで足を鳥人化し、真下に落ちようとする男を掴み、窓から脱出しようとする。
既にビルは傾き、この崩落を招いた何かはどんどんどその体積を増していく。早く窓から脱出しなければ、この崩落に巻き込まれかねない!
「(間に合え…!)」
前方から降ってくるコンクリート辺や雑貨品を紙一重で避けながら、私は窓から脱出を
そこで、私の意識は暗転した。
……硬い。痛い。重い。そんな事を思いながら、私は意識が目覚める。
寝ぼけていた脳は、ぼんやりとした思考の元、未だ感覚の戻らない肢体を覚醒させようとする。
目を開けると、目の前にはコンクリートの破片が、そして隙間からは太陽の光が申し訳程度に射し込んでくる。
どうやら、ギリギリの所で崩落に巻き込まれてしまったらしい…なんて、他人事のように頭の中で処理する。
段々と体の感覚が戻ってきた。足に何か持っているような感覚がある為、どうやらあの延びてた男は回収できたみたいだ。
「持ってたのが体の一部だけだった…みたいな鬱展開は止めてよね……」
ぼんやりとした頭がようやく冷めてきた。
取り敢えず、私の上に乗っかってる何かをどけようと、腕に力を込めた…次の瞬間
「グギャァァ!!」
と、人間とも獣ともとれない、耳元で爆音の音楽をかけられたようなどでかい声が上ぁら聞こえた。
そしてそこから、断続的に地面が揺れたり、衝突音が聞こえる。
一体何が起きているのか……私は渾身の力を腕に込め、立ち上がる!
「うっ……らぁぁぁ!!」
鈍い音をたてながら、私の上に乗っていたコンクリートは地面に落ちた。多分外壁の一部だろう。そして足元に、五体満足の男も転がっていた。恐らく息はあるだろう..と、思いたい。
そして問題は、私の頭上の光景。
そこでは、宙を浮いているあの不審者が、身長が40mくらいもある怪獣のようなヴィランと戦っていた。
「ちょっと……マジで嘘でしょ…………」
あんなサイズのヴィラン、見たことも聞いた事もないし、そんなヴィランと渡り合えてるあの一般不審者も一体何者なのだ?体からビームのようなものも出しているようだし、よっぽど強力な個性だというのは確かなようだが……
「……そうだ、他の皆は!」
私は耳元の通信機に呼び掛ける
……が、応答はない。それどころか、一切の動作を見せなかった。恐らく崩落に巻き込まれた時、壊れてしまったのだろう。
急いで探したいが、ここはヴィランの足元。いつ戦闘に巻き込まれてもおかしくない。一旦安全な場所まで逃げようと、私は男を掴んで空を飛ぼうと羽を広げたが……なんとあの不審者、腕をクロスさせたかと思うと、怪獣を不可視の力で浮かし、吹き飛ばしてしまった。
どれだけ無茶苦茶な個性なんだと驚愕する一方、私はあいつと初めて出会った時を思い出した。そう、確かあの男、最初に職質しようとした時もあんなポーズをしていた。
「まさか……只の不審者じゃなかったとでもいうの?」
私は愕然とした表情で、そう言うしかなかった。
吹き飛ばされ、何もない空き地で悶えているヴィラン。あの男はそれを確認したような仕草をみせると、腕を曲げ空に胸を張る。あれは…何をしているんだ?わざわざあんな大きな隙を晒してまで、あんな事をする意味が……待て、あれは……光が彼の体に吸収されている?まるでエネルギーの充電でもしているかのような…
「って、まずい!」
あの男がそんな悠長な事をしていると、ヴィランはゆっくりとだが起き上がってきた。しかしあの男は、その光景が確実に視界に入っているにも関わらず、逃げる素振りを見せない。
「世話の焼ける…!」
私はまだ痛む体を動かし、全速力で巨大ヴィランの目前まで飛んでいく。
近づけば近づく程、ヴィランと自分の大きさの差を否応にも感じとり、思わず怖じ気づきそうになる。
だけど私はヒーローだ。この程度の恐怖、押し殺してみせる!
「(今だ!)」
「ブレイズ・ブラインド!」
ヴィランの文字通り目前に来た私は、目眩ましように編み出した必殺技、ブレイズ・ブラインドを放った。
私の腕から離れ、宙を舞う幾百もの羽は、ヴィランの巨大な目玉を覆いつくし、視界をシャットアウトする。
「(でもこんなの、気休めでしかない。稼げるのは精々数秒。そのうちに早く逃げ…)」
その場から離脱するように離れた私は、振り返った先で…気づいた。目線を向けた先にいるあの男が、感謝でもするかのようにこちらへ笑顔を向けた事を。
「時間切れだ!」
目の前の羽を払いのけ、再び男を視界に入れたヴィラン。けれどもう……遅かった。あの男は、まるでピンチをピンチと思っていないような、そんな声色でフィナーレを告げると、腕をLに組み
「ワイド…ショットォォォ!!」
そこから、鮮やかな色の光線を放つ。腹の底から響くような音をたてながら放たれたその光線は、ヴィランのどてっ腹に見事に直撃した。
「グゲッッ!ガッ…ガァァァァ!!」
体長40mくらいはありそうなヴィランであったが、その光線が当たると苦悶の声を上げ、苦しみだす。あの巨体に響く光線...一体どれ程のエネルギーが、あの光線に籠められているのか。
やはり先程体に光を取り込んでたのは、この光線を放つ為だったのかと、今更ながら納得する。
「グッ……ゲガァァァァ!!」
ヴィランは、数秒程はその光線に耐えていた様子だったが、どんどんと弱っていき、やがて断末魔のような声を上げる。
その段階で光線は止み、ヴィランは地響きや土煙を上げながら地面に倒れた。すすす〜…と、風船が萎んでいくように、体が縮んでいくヴィラン。最終的には、成人男性より少し大きめくらいの元の身長にまで戻っていった。
私はまだ信じられなかった。搦め手を一切使わず、真正面からあの巨体を打ち破った目の前の男のことを。一体彼は何者なのか…いつの間にか、私は彼の事を警戒すべき相手ではなく、興味の対象へと変わっていた。
「待ちなさい。」
何処かに去ろうとするあの男を、私は呼び止める。男は余裕のある態度でこちらに振り返ってくる。
「貴方……ヴィラン、じゃないのよね。もしかして、ヴィジランテとかいう自警団擬き?」
ヴィジランテとは、政府公認で活動しているヒーローと違い、許可をとってないにもかかわらず個性を用いて犯罪者を断罪する輩の事だ。法整備がまだされていなかった超常黎明期に多くみられたと言う。
あの男は少しの間迷う素振りをみせたけど、直ぐに首を縦に振る。なるほど、それならアジトの近くに居たのも納得できる。きっと彼も、独自の情報源から強盗団のアジトを突き止め、バレないよう張り込んでたんだわ。
数割かの謎は解けた、でもまだ全部じゃない。
「そう…でも、ただの自警団にしては、貴方の個性は強すぎる。教えて……貴方一体、何者なの?」
彼の異常な強さ。自警団とした活動してたなら、その異常な強さが私の耳に少しでも入ってこないとおかしいし、私自身、この街に自警団がいるなんて事務所を立ち上げて以降聞いた事がなかった。
この質問には、相当頭を悩ませていたようだったけど、暫くして彼は口を開いた。
「俺は……セブン。ウルトラセブンだ。」
「セ……ブン。そうか、それが貴方の名前か…。」
本名でないだろう事は、容易に想像がつく。けれど私は、敢えてその事を指摘する事はなかった。何故ならそれはきっと、彼にとって自分の真名よりも、価値のある名前なのだと直感的に感じたから。
私はそっと目を伏せると、彼に背を向ける。まるでそこに誰も居なかったかのように、彼の存在を黙認する。
「本当はこんな事しちゃダメなんだけど、幸いにも貴方の姿を見たヒーローは少ない。この件に、貴方が関わっていた事実は、私が消しておくわ。だから…行きなさい。」
彼の事を直接みた奴は彼にノされた二人とテッシ、それと私しかいない。テッシには私が後で釘を刺せばいいし、ヴィランについては喋ったとしても戯れ言として流される事だろう。まあ一応後で"挨拶"くらいはしておくか。
「…恩にきる。」
そう言うと、静かな風切り音と共に彼は去っていった。
…恩にきる……か。
「それはこっちの台詞だよ、怪しいヒーローさん。」
ーーーおまけーーー
・自宅にて
「あれ、なんだろこの封筒…」ビリビリ
『やあブレイザー!先月は災難だったね!』HAHAHA!
「お、オールマイト!どうしてオールマイトが封筒から?!」
『いやね、実は君に雄英の教員として働いてもらいたいんだ。元々在籍されていたプロヒーローが一身上の都合で引退する事になってね、そのプロヒーローが後任は是非君にと言ってきた訳だから、こうして封筒を送らせてもらったんだ。な〜に、返事は一ヶ月後まで受け付けてるから存分に悩んで結論を送ってきたまえ!……ここだけの話、君は最近伸び悩んでいる風に見える。後任の育成は、今の君にとってはいい刺激になるんじゃないかと私は思うよ。実際私なんかも、新しい発見が一杯で…』
「あれ、オールマイトの教師就任ってまだだったような……?」
『おっと話が逸れてしまった!では、いい返事を期待してるよ!!』
「…教師……か。確かに、いい気分転換になるかも……よし!」
青天の霹靂だけど、やれるだけの事はやって成長してやる!待ってろ雄英!待ってろ将来の教え子達!
中途半端かもしれないですが、一応これで完結です。反省点の多い今作でしたが、一番の反省点は三つのセブンを生かせなかった所かなと。
まあそこら辺の反省点も糧にして、次回も何か書きたいと思います。でわ、サラダバー…