ニーアランドの喫茶店   作:アテュ

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あなたにふさわしい一杯を

「次のライブ、何をテーマにしたらいいかしら……」

 

 私はディーヴァ、歌でみんなを幸せにするために生まれた世界初の自立人型AI。

 

ここニーアランドでステージに立ってからもう何年が経っただろうか。

 

今ではメインステージに立つ事が多くなった。最初のころはどうやって歌えばいいか分からず散々な状況だったようだ。

 

だが心を込めて歌う それが出来るようになってから自然とお客様は増え多くの人が私の歌を楽しみにしてくれるようになった。

 

それでも悩む事は多い。例えばどう心を込めて歌うかだ。

 

楽しい歌、明るい歌は分かりやすい相手に元気になってもらうように歌えばいいだけだ。

 

じゃあ悲しい歌、怒った歌は?そんな歌は無いかもしれない。でもあるかもしれない。

 

私が歌える歌は何十万、百万曲をそろそろ超えるが同じ曲は一つとしてない。

 

すなわち伝えたい思いも百万通りあるという事だ。

 

 最も大事な事とはその百万通りのうちどれを選ぶか。それが間違っていたら心は込められていない。

 

今までも悩む事はあった、その中で自分なりに考え選んできた。だが今回のメインステージはどうにも今までと少し勝手が違う。

 

「ナビ、次のライブだけど招待されるお客様の詳細。届いてる?」

 

「ん-?あーそういえば届いてたよ。いやぁ凄いよねぇ。よくこのグループの人たちを招待したもんだよ」

 

「またそんな言い方して……。お客様に失礼でしょう」

 

「いやまーそーなんだけどさ。正直企画考えた人ちょっとマジ?って思うよ」

 

自分も口には出さないが、なぜこのタイミングなのかと思わないではない。日をずらしてくれていたらもうちょっと素直なテーマを選んで終わりだったろう。

 

「敵対していたグループが和解……。停戦に近い状況らしいけど。何が切欠でまた争いが起こってもおかしくない……か」

 

詳細なデータをナビから貰い目を通す。担当者から先日口頭で聞いた程度だがおおよそはその通り。

 

長年争いの絶えない関係だったが、近年のAI世論の変化に伴い歩み寄りが行われその結果が実ったようだ。

 

「その打ち合わせ後に、ライブに招待するからそれに合わせた選曲を ね」

 

お客様を差別するつもりは毛頭無い。いつだって私――私たち――の使命は『歌で皆を幸せに』することだ。

 

その結果は決まっているが過程は私たちに委ねられている。

 

「まーぶっちゃけニーアランド側もこれ絶対持て余してよろしくって投げたよね~」

 

「ナビ、口が過ぎるわよ?」

 

確かに難題だ。今まで対立していたグループが急に仲良く等出来るはずがない。担当者も頭を悩ましたのだろう。

 

「難しいテーマという事は分かるわ。でもだからこそ私に託されたと考えれば期待の表れじゃない?」

 

「お~前向きだね。じゃあ私も一つアドバイスを」

 

「あら珍しい。素直に意見言ってくれるなんて」

 

本当に珍しい。いつもは迂遠な事が多く、アドバイスよりもそちらの方が本命かと思う事が多いほどだ。

 

「あと10分後にその担当者さんと打ち合わせだよ。場所はメインステージ付近のカフェ~」

 

「……」

 

いや、うん。確かにアドバイスだ。遅刻する等もってのほかだ。だけどね……?

 

「あと10分ってギリギリじゃない……!」

 

「いや、一応1時間前にも言ったよ?上の空みたいだったけど」

 

それは伝えたうちに入らないのではないだろうか。とはいえ愚痴を言ってもしょうがない。

 

「すぐに出るわ、ナビ。場所までの順路を」

 

「もう出してるよ~。スピード違反には気を付けて~」

 

こういうところは非常に助かるのだが……。どうにも気の使い方を間違えているような気がしてならない。

 

 

----------

 

 

「お、お待たせしました。ごめんなさい。時間ぎりぎりになってしまって」

 

「いや、大丈夫だよ。……貴重なシーンだったな。話題の歌姫がダッシュで駆け込んでくるところを見るとは」

 

思わず赤面する。あれほど走ったのは……?誰かを爆発から守るために走った……?そんな事あっただろうか。

 

「お見苦しいところを見せました。少々考え事をしていたら色々とギリギリになってしまいまして……」

 

ふむと口に手をあてるプロデューサー、どうやら彼も思い当たったようだ。

 

「もしかして例のライブについてかい?」

 

「はい、お察しの通りです。少しテーマに悩んでいまして」

 

ほうとまたもや珍しいものを見たような目でこちらを見てくる。

 

「今なお色褪せない輝きを見せる歌姫――ディーヴァーーとは思えないな」

 

「あらプロデューサー、いつだって悩んでおりますわ。例えば女性型AIに対して色褪せるという表現を使う事についてのアンケート等を」

 

「おいおい、勘弁してくれ。私が悪かった」

 

そう言って手を上げて降参のポーズを見せる。

 

「失礼しました。ただ本当に悩んでおります。先日プロデューサーから伺った際には和解を象徴するような曲、平和の証になるようなものをチョイスすればいいのかなと思っていましたが」

 

「うん、少々安直すぎてしまうだろうね。そのグループ達も露骨すぎて辟易してしまうに違いない」

 

周りが平和平和と言い出して仲良くなるのはせいぜい小学生までだ。大人になれば建前上には仲良くは出来るだろうが……果たしてそれは私が歌に込めたい思いなのだろうか。

 

プロデューサーもその事については悩んでいたようだ。投げてきたのはこの人だが。

 

「正直な事を言ってしまうとそういった曲を人間側が選んでしまっては非常に今回の和解は陳腐なものになってしまう。あくまで君のようなAIが選んでくれたものが大事なんだ」

 

極論、普段の人気曲でも構わないかもしれないがねと息を吐く。

 

「もちろんそういった曲もライブには加えます。ですがそれだけではいけないとも考えています」

 

ふむぅと唸るような声を上げて悩むプロデューサー。おや?

 

「プロデューサー、お茶が無くなっていますがお代わりはいりますか?」

 

そういってメニューを手渡す。……自分は当然飲めないが、ここはなかなかお茶の種類が豊富なようだ。

 

「あぁ、ありがとう。そうだ、一つここはアイディアをもらうのはどうだろうか」

 

「アイディアですか?一体誰に」

 

それはもちろんこの場にふさわしい存在にだよとにっこりする。

 

「ブリュー、ちょっといいかな?」

 

「はい、少々お待ちくださいませ」

 

そういってプロデューサーが呼んだのはカフェでお茶を淹れていたAIだ。

 

「お待たせ致しました。いつもご利用頂きありがとうございます。ご用件は何でしたでしょうか」

 

「……常連なんですか?」

 

「あぁ、ここのお茶はなかなかおいしくてね」

 

メインステージにも近いから打ち合わせの時にもよく使うんだと話す。

 

「ブリュー、今日は少し難しい注文をしたいんだがいいかい?」

 

「はい、どうぞご注文下さい」

 

淡々と話しているようだが、どこか期待に応えるというような覚悟を感じる目をしている。これは……自立人型AI?

 

「今度念願のメインステージで彼女との初仕事なんだ。その記念にふさわしい一杯をもらえないかな?」

 

そう言ってブリューというAIがこちらに目を向け敬意を十分に込めたようなお辞儀をする。

 

「初めまして、歌姫――ディーヴァ――。あなたの噂はかねがね。歌で皆を幸せにするという使命を見事に遂行しており素晴らしいと思っております」

 

「初めまして、ブリュー。ありがとう、でもまだまだ道半ばよ。これからも頑張らなくちゃ」

 

そういって握手を交わす。……成程、普通のカフェスタッフAIかと思ったがその実、もっと有名な存在のようだ。

 

「聞いた事があるわ、『あなたにふさわしい一杯を』のブリューね?」

 

それを聞いたプロデューサーが声を上げて笑う。

 

「これは嬉しいじゃないか、ブリュー?順調に君の評判が広まっているようだ」

 

「光栄です。私の使命を果たす事が出来ているようで何よりです」

 

そういって朗らかに笑うブリュー。

 

 お茶を美味しく淹れる。それは技術としての面では何十年も前にかなりのレベルまで高められている。だがどういったお茶を提供するかが非常に難しく、難航した。

 

そんな中一つの契機となったのが目の前にいるブリューという自立人型AIだ。プロトタイプがニーアランドにいると記事は見たことがあるが……。

 

何といっても彼の淹れるお茶はただ美味しいだけではない。お客様が求める一杯を出してくれるという事で一躍話題になった。

 

そうしてついたあだ名が『あなたにふさわしい一杯を』のブリュー。

 

同じAIとしても尊敬する。間違いなく使命を順調に遂行できているだろう。

 

 

「さて、どうかな?ブリュー。記念にぜひ一杯君に淹れてもらいたいんだ」

 

「光栄です。畏まりました。少々お待ちください」

 

……早い、もう決まったのか。

 

ライブではある程度準備する時間はある。しかしこういったカフェでは注文して僅かな時間で用意しなければならないだろう。

 

「いつも彼に注文をしているのではないのですか?」

 

「彼は人気者でね。普段は引っ張りだこなんだよ。今日みたいな日は珍しい」

 

そういって話すプロデューサーは信頼に満ち溢れた様子だ。自分が思った以上に店に顔を出しているのだろう。

 

「ちなみに一杯目は何を飲まれていたんですか?」

 

「あぁ、これも彼に勧められていたのだがね……キャンディという紅茶だ」

 

キャンディ……検索。

 

産地 スリランカ。標高――600m付近――での茶園が多い。癖のない味わいでストレート、ミルクだけでなくアイスティーにも使われることが多い。そのソフトな味わいは多くの人に愛される。

 

「スリランカの飲みやすい紅茶 ですか」

 

「あぁ、癖のない紅茶だ。場面を選ばないとも言えるね」

 

そういってプロデューサーは空になったカップをじっくりと見つめる。

 

「これは私が初めて彼に任せた紅茶でね。その時は若かった。なまじ成果が出てしまっていたため慢心してしまっていたのだろうな」

 

恥ずかしそうな顔を見せながら昔の話さと呟く。

 

「そんな時たまたまこのカフェに来て打ち合わせをしていた。上手くはいかなかったな。相手のスタッフも負けん気が強く議論は平行線だった。……そうしたら彼が私たちに注文してもないのに出してくれてね」

 

「え?注文していないのに?自立人型AIがですか?」

 

驚くべき話だ。注文もされずに出す事もそうだが間違えて出す等考えられない。

 

「私たちも驚いたよ。すぐに間違いではないかと聞いたが、謝られせっかくなのでいかがでしょうかとね」

 

何とも不思議な事をするAIだ。お客様に求められたものではない、求められていないものを出すとは。

 

「私たちはその不思議な出来事で頭が冷えてね。それから相手との話は順調に進むようになった」

 

「……素晴らしいですね。過程はどうあれ彼は見事にお客様を満足させているように見えます」

 

「間違いない。今なお非常に印象深い出来事だ」

 

彼は果たしてどういった思いでその紅茶を出したのだろうか。非常に気になる。

 

 

「お待たせ致しました」

 

そう言ってブリューが紅茶を持ってきたようだ。その態度には全くを不安を感じさせない。

 

「ありがとう、ブリュー。さて今日はどんな紅茶かな?」

 

そういうプロデューサーはわくわくした様子を隠さない。多分紅茶そのものも好きなんだろうか。

 

「はい、ですが私からご案内をする前に一口お飲み頂いたほうがより伝わるかと思います」

 

「これは一本取られた。お茶とはそういうものだろうな」

 

お茶を飲む事が出来ない私はプロデューサーの反応を見るしかない。が

 

「どうぞ、ディーヴァ」

 

「え、私にも?」

 

「もちろん飲む事は出来ないと思いますが、……できませんよね?」

 

「そりゃできないわよ」

 

思わず声を上げる。そこでようやく気付くブリューはからかったような顔を見せている。

 

あぁ。なるほど。からかわれただけか。全くよくできたAIだ。同じAIながら感心する。

 

「失礼致しましたディーヴァ。ですが目で楽しむ事は出来ます。どうぞあなたも紅茶をお楽しみください」

 

目の前に注がれた紅茶は実に美しい。しかし紅茶にしては色合いはとても淡い。緑茶と間違いかねないほどだ。

 

成分分析……、マスカット?そうかこれは……。

 

「ほう……これはダージリンか」

 

ご存じでしたかとブリューが恭しく頭を下げる。

 

プロデューサーが香りを楽しみ、一口含む。

 

「良い時期のものだな。特有の香りとはこの事かな?」

 

「ええ、セカンドフラッシュ特有のマスカテルフレーバーです」

 

「ダージリンとは紅茶のシャンパンとも呼ばれる一品です。その中でもダージリンを有名にしたのはその香りです」

 

確かに素晴らしい香りだ。フレーバーを着香もしていない紅茶でこれほど華やかで爽快感のある香りが出せるとは驚きだ。

 

「味に香りと一級品だな。素晴らしい紅茶であることは疑いようはない」

 

「……そう、ですね。素晴らしいと私も思います。ですが」

 

「そうだな、何故この紅茶なんだろうかだな」

 

そういってプロデューサーと私はブリューに目を向ける。

 

「このダージリンという紅茶はいわば紅茶の代名詞として百年以上愛されてきました。いわばダージリンこそが紅茶だと」

 

「では、そのダージリンは完成された一品なのでしょうか?もうそれ以上はないのでしょうか」

 

私は思わず沈黙する。これは問いかけだ。私の、私たちのステージへの。

 

「当初はその香りを求め注文されることがおおい紅茶でした。しかし……何分癖もある紅茶です」

 

「その形で飲めない方は未熟者なのでしょうか?スタイルが決まった紅茶に人の方が合わせろと」

 

そうではありませんとブリューは断言する。

 

「人にはふさわしいお茶、紅茶というものがあります。好みが合わなければ調整すればよいのです」

 

そうすなわち

 

「ブレンドかしら?」

 

ブリューはにっこりとこちらに微笑む。

 

「正解です。ディーヴァ様」

 

「ダージリンはシングル、それのみで作るだけでなくブレンドにも向いた紅茶であることが分かりました」

 

「例えばアッサムにダージリンを加える事で、そのコクはさらに深まります。お互いをより高めあうのです」

 

「成程、確かにこの存在感はブレンドにしても消えないだろうな」

 

そう言って静かに飲んでいたプロデューサーは納得した顔をする。

 

「ふむ、ディーヴァ。これは確かに我々にふさわしい一杯ではないかね?私は少し見えてきた気がするよ」

 

「ええ、私もどんな心を込めればよいのかわかりました」

 

それはよかったとプロデューサーは満足した様子でではもう一杯次はダージリンベースのブレンドをと。

 

飲みすぎではないだろうか?と思わず心配してしまった

 

 

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「いらっしゃいませ。これはディーヴァ、こんにちは」

 

「こんにちは、ブリュー。この前はありがとう」

 

私は再びこのカフェにやってきた。あれからライブが行われ無事成功したと言っていいだろう。

 

対立していたグループはお互いにこの機会を大事にしようととても実感してくれていたようだ。

 

「拝見しましたよ。先日のステージ。素晴らしい歌声でした」

 

「ありがとう。あなたのアドバイスが参考になったわ」

 

恐縮ですと頭を下げるブリュー。

 

「せっかくなのでディーヴァ、あの曲を選んだ理由を伺ってもよいでしょうか?」

 

「ええ、もちろん」

 

今日カフェに来た理由はお礼を言うためだけではない。答え合わせも行うためだ。

 

「相手を理解するための歌。かしら一言で言えば」

 

ブリューは納得した様子で頷く。私は答え合わせを続ける。

 

「あなたも知っているかもしれないけど、彼らは対立をしていたグループ。普通にしたら先日までの敵と急に仲良くするなんて難しいわ。だから一足飛びに和平を。平和をなんていうメッセージは逆効果だった」

 

「その前の段階で止めておくことが必要だった。……片側のグループは和解後、積極的に相手の文化や思想について理解をしようと努めていた。それがまず伝わっていなかった」

 

 思うに頭に血が上りすぎていてしまったんだと思う。冷静にと言ってもすぐに相手への見方を変えられる訳ではない。

 

ではどうすればよいか、私は今回メッセージ性に富んだ曲を選んだ。今回のような招待されるお客様には専属のスタッフから案内がある。当然曲についても説明を受けた上でだ。

 

一歩引く事も大事。その結果、性急に事を進めるのではなく段階を踏んでいこうと改めて決められたようだ。

 

「おかげ様でお客様にふさわしい曲を選ぶ事が出来たわ。ありがとう」

 

「何を仰います。それに気づいたのはあなたですよ歌姫――ディーヴァ――」

 

謙遜した様子を見せるブリューだが、何となくこうなることは分かっていた様子に見える。それは彼が優れたAIであるという証明だろう。

 

「さて、長居しちゃお邪魔ね。またプロデューサーと打ち合わせで伺う時はよろしくね」

 

「はい、お待ちしております」

 

私は出口に向かうところでふと気づいた。

 

「ねえ、ブリュー。一つ聞きたいんだけど……あなたの使命ってどんなこと?」

 

そう言ったところブリューは誇らしげに、それが自分の成すべき事だという様子で話す。

 

 

「勿論、お茶でみんなを幸せにすることですよ」

 

 




結局紅茶が関わらないと二次創作は書けねえんだ……!
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