あ、前線で戦うとか無理なんで偵察してきますね。 作:喪家の狗
「あ、ねえトウヤ。もしよければうちの兵達と手合わせしてもらえない?」
「え...」
「ああ、嫌だったら全然断ってもらっていいんだけど...」
この前サイジャクさんが勇者の弱り具合を確認しに来たことからこの話は始まった。
サイジャクさんが、
「見ろよハツカ! あいつ等あんなに弱って! あっはっはっははははっゴホッ!? ボヘッ!? オエッ!? アアーーー完全に咽た...。
...んお? てかさー、今ならうちの兵士達のいいトレーニングになるんじゃね!? よし、勇者も呼んで合同トレーニングってことにして一方的に蛸殴りにしよーぜ!」
って言ってた事から勇者一行を除く、重要役人たちで話し合いが行われ、勇者に無断で決まってしまった。
サイジャクさん、どれだけ勇者一行に鬱憤溜まってたんすか...。
「...わかった。戦いとはいえ魔王軍の兵士達には悪いことしちゃったからね」
おー、流石勇者、やさしい。
「全盛期と比べたら力も落ちてるだろうけど、そんな僕で良ければ...」
「みなさーん、おっけーだそうでーす!」
「...へ?」
「「「よっしゃーーー!!!」」」 「「「殺すぞーーー!!」」」
うん、皆やる気だね。向上意欲があるのはいいことだ。
「え、え、あ、あれ? だ、大丈夫なの...?」
「え、大丈夫っしょ。...あ、ただ回復したばっかりな方々ばかりだから、死なない程度でお願いしますね?」
「僕が死にそうなんだけど!?」
勇者がそんな事言い出した。
「またまた~」
「本気なんだけど!?」
流石勇者さんだぜ。勇者ジョーク言えるほど余裕だとは...。
「死に首晒せーーー!!」
「あんときの恨みーー!!」
「なんとなくでーーー!!」
「彼女に振られた!! 畜生ーーー!!」
「関係無いのあるよね!? 僕、サンドバッグじゃ無いんだよ!?」
とか何とか言いつつ、
「ゆ、勇者スラッシュ!!!」
「「「ぎゃああぁぁぁーーーー!!!」」」
流石勇者、未だその力は衰えないね。
「よーし! もっと来い!!」
やっぱあいつも戦闘狂か。
☆ ☆ ☆
勇者の無事が確認できたから一安心。
さて、俺が弱すぎることが証明されたから俺も修行しよっかな。
...前回みたいのはもう嫌だからね。
早速気になってたシイノさんの弓裁きを習おう。
ってことで家に侵入。
「おじゃましま~す」
「あら、今日も来たの?」
「まあ、一応お世話係だからねー。てか、シイノさんいる?」
「シイノ? ああ、あの子なら今日も市場に出てると思うわよ」
好きだねお買い物。
「わかった、ありがと。じゃあ、弓を習って...」
「は、ハツカさん! ぼ、ボクが魔法を教えるよ!」
市場に行こうとしたのだが、通せんぼされてしまった。
「あ、えっと。俺、弓が...」
「あ、魔法はね凄く便利だよ。色々使えるし、継続時間も凄くてね!? あ、ほら、今もまだハツカさんとの【契約魔法】は切れてないんだよ!」
そうなんだ、魔法便利だね。
そんでまだ契約は切れないの?
「...そっか、じゃあ折角だから教えて貰おうかな?」
「う、うん! じゃ、じゃあこっちに...」
手を引かれ、家の庭に行こうとしたところ、
「良いですね、魔法。私も興味あったんですよ。ぜひ私にもご教授願いたいですね」
「っ!? お料理、係...!?」
「キキョウですよ? いい加減覚えてほしいです」
キキョウちゃんがやって来た。
なんか、悪役の登場みたいでカッコいいな...。
「...そっか~、ごめんね~キキョウちゃん。でもボク達~、今から魔法の修行で~...」
「あら、そうなんですねー、でもごめんなさい。ハツカ様はこれから私とお料理の修行を約束しててー...」
おいこら、勝手なこと言うな。
そんな約束した覚えはないぞ。
「...ねえキキョウ。俺そんな約束した覚えが...」
「し、しましたよ!? は、ハツカ様ったら憶えてないんですかー」
そ、そうだったのか...! 全然覚えてない。
俺は全然覚えてないのだがキキョウがそう言うのできっとそうなんだろう。
今は何故か棒読みが酷いキキョウだが物覚えはすごく良いからね。
...いや、俺料理する機会無いけど。
「ねえ、やっぱり俺、お料理習うメリットがあんまり...」
「お料理は良いですよ! 作るのは楽しいですし誰かに喜んで貰えますし、頭も撫でてくれ...いえ。あ、あと多分モテますよ?」
確証はないのか。
いや、それよりも、
「でも俺がお料理作れるようになったらキキョウの作ったの食べれな...」
「それもそうですね、ではお料理教室はやめましょう」
あと楽して食べるご飯ほど旨いものは...あれ? 中止? なんだ、言い訳はもういいのか。
「それじゃ、キキョウも魔法を習いに行く?」
「あ、あの...」
「そうですね。是非お願いします」
そう言って本とペンを取り出し、
「...あ、見てくださいこれ!」
なんか偶々思い出したかのように言った。
「な、なに、これ~?」
「これはですね、私とハツカ様の思い出の品、お揃いの羽ペンです!」
キキョウが取り出したのは何時ぞやの『きゃんぺーん』で貰えた羽ペン。
懐かしいな。
俺まだ箱から出してなかったよ。
お揃いって言っても『きゃんぺーん』に参加した人ならみんな貰えたはずだけど...。
「あ~、そうなんだ~、いいね~。でもマウント取ってるところごめんね~。魔法の訓練はマンツーマンでやった方が効率良いんだよ~」
「そうなんですね。なら私から教えて貰っていいですか? ハツカ様が分からなくなった時、私からも教えればそれこそ効率が良いのでは?」
「ごめんね~、お料理係さん。ハツカさんと先に約束してたからそっちを優先したいな~」
わあお、2人とも熱意がすごいですねえ。
なんか、忙しそうだから先シイノさんとこ行ってくるね。
「あ、それなら俺弓を...」
「「それは良くない」です」
そうなんすね...。
...なあ、おかしくね? こういうイベントはあっちのハーレム勇者に起こるんじゃないの?
人間性を変えてしまうほどの魔素の吸い過ぎってのは恐ろしいですね。
「お! ハツカ、どうしたんデスか?」
遠目で2人を眺めているとハルコちゃんがやって来た。
「ハルk...師匠。あーっと...今からシイノさんに弓を教わろうかなって」
「それなら丁度良かったデス! オレも行こうとしてたのデス!」
「力がドンドン無くなってくって言うのに特訓するのか?」
「力は無くなっても技術が落ちるわけでは無いデスから!」
「なるほど、じゃ一緒に行こうか」
「ええ! 師匠に付いてくるのデス!」
家を出て真っすぐ歩こうとする。
「あ、こっちだって」
「...」
「いたっ!?」
道間違えたの恥ずかしいからって叩くのやめません?
いつもありがとうございます。