ウマ娘の某所に載せた短編集   作:春華ゆが

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オグリキャップと女トレーナーが伝説のスケートをします


単発型
オグリキャッププリティースケート


 オグリキャップというウマ娘がいた。地方から生まれながらも、中央の強豪をばったばったとなぎ倒し。芦毛の怪物と呼ばれたウマ娘。

 でも、彼女には純朴とした愛らしさもあって。それを知っている数少ないうちの一人に私が入っているというのは、少し嬉しい気もする。

 アイドルウマ娘、オグリキャップ。今日は私と彼女の二人きり。みんなのアイドルを独り占めできる日なのだ。

 私は大した者ではない。ただ、地方からやってきたオグリに道案内をしたりしていたら、そのまま彼女のトレーナーになった。はっきり言って、オグリは私とじゃなくてもここまでやってこれただろう。ライバルとなるタマモクロス、スーパークリーク、イナリワン……彼女たちの存在の方が、オグリの成長には寄与した気すらする。

 

「なあトレーナー、これはなんだ?」

「ああ、これはね……」

 

 じろりじろり。周りからオグリに向けられる視線をうまく遮りながら、彼女にショッピングモールの案内をしてやる。まさにアイドルのマネージャー、といったところだ。

 彼女は眩し過ぎて、周りの注目を集め過ぎてしまう。……それに都会に弱いから、一人で出かけさせるわけにはいかない。彼女を適度に覆う影。それが私に出来る、オグリのためになることだ。

 ……周りのウマ娘とトレーナーの関係を見て、すこし羨ましくなることもある。もちろん、彼女が私を信頼してくれていることは知っているし、私も彼女を信頼している。

 でも、なんとなく。三年間を通じて、私にできたのはごく当たり前のことだけ。体調管理だとか、出走レース決めだとか、道案内だとか。そんな気がしていた。

 

「トレーナー、これはどうだろう」

「これ……はオグリが着けるの?」

 

 白いヘアピン。素敵だけど、オグリの綺麗な芦毛には白と白で被ってしまうんじゃないか。

 

「……いや、タマにプレゼントをと思って」

 

 ああ、そういえば。もう少しで彼女の誕生日か。……いいな、競い合える仲間がたくさんいるのは。

 

「……タマちゃんも芦毛だから、白はどうなんだろう。いや他との組み合わせかなぁ……」

 

 ぶつぶつ。タマモクロスはオグリによくしてくれているウマ娘の一人だ。その誕生日プレゼント。それをオグリは買ってやりたいらしい。……私と二人の日なのに、なんて。

 そんな感傷は、彼女の周りにいるには似合わない。

 

「うーん……」

 

 タマモクロスへのプレゼント選びは難航していた。あれでもない、これでもないと。時間はゆっくり流れていく。

 

「……あれ、オグリンじゃない?」「サインもらえるかなあ」「トレーナーっぽいのが横にいるし、難しいかも……」

 

 聞こえてる聞こえてる。聞こえてるけど無視してやる。今日のオグリはオフの日なのだ。嫌味なトレーナーさんが、今日だけはオグリを独り占めさせてもらおう。

 それでも人混みはだんだん増えてきて。まずい、このままだとプレゼント選びどころじゃなくなってしまう。

 

「……トレーナー」

 

 と、そこで。

 

「少し掴まっててくれ」

 

 よいしょ、とオグリは私を抱きかかえ。

 

「えっちょっ、オグリ……!」

 

 人の合間を瞬く間に、駆け抜けた。

 どくん。どくん。心臓が強く波打つ。こんな速度で走るのは、ウマ娘ならではで。私には見れない景色で。それを初めて体感して……正直生きた心地がしなかった。

 

「……もう大丈夫だ。トレーナー……降りれるか?」

「ごめん、むりぃ……」

 

 へにゃへにゃ。もう少しで腰が抜けるところだった。膝はガクガクだ。

 

「……すまない。でもトレーナーが、周りの目を気にしている気がして……その……」

 

 それはその通りだ。何かがオグリの邪魔になってしまわないか、気遣うのはトレーナーの役目だ。……待てよ。この言い方だと。

「オグリは私を気遣ってくれたの?」

「……そういうことになるな。トレーナーを心配するウマ娘というのは、変だっただろうか」

 

 確かにそうかも。でも、嬉しい。オグリの身体から降りながら、そのしなやかな身体を見つめる。……そうだ。一つ面白いことを思いついた。私にしかできないこと。彼女なら、少し向いているかもしれない。

 

「トレーナー……ここは?」

「スケート場だよ」

「すけーとじょう」

 

 ピンときていない。よし、それなら教えがいがあるというものだ。昔取った杵柄。私が小さい頃少しだけやっていたスポーツ。フィギュアダンスだ。

 

「ウマ娘は……げっ、専用の靴を購入してください……仕方ない、払うか……オグリ、こっち来て。一応靴のサイズを測るよ」

「わかった。……蹄鉄、とは違うみたいだな」

「そ。これはブレードって言って、氷の上を滑るためのもの。まあ靴にも色々種類があるんだけど、これはフィギュアスケート用の靴。はい」

「……いいのか? 買わなければいけないとさっき言っていたが……」

「いいの! 私からのプレゼントと思ってよ。買い物もしばらくできないだろうし、代わりと言っちゃあなんだけど」

「……! ありがとう、トレーナー。大切にする」

 

 耳がぴょこぴょこ。彼女にひとまず喜んでもらえたようで何よりだ。さて。ここからが大事なのだけれど。

 

「じゃあ、靴を持ってコートに行こう! オグリにスケート適性はあるかな〜?」

 

 ないと困るかも。割と。

 アイススケート。氷上を靴に付いたエッジで滑走するスポーツ。ウマ娘と普通のヒトが、『自らの脚で』同じステージに立てる数少ないスポーツの一つ。

 もっとも靴の規定やらなんやらで、それはカジュアルに限られるけど。

 

「……ト、トレーナー! 足が宙に浮いているみたいで、落ち着かない……!」

「大丈夫大丈夫。姿勢はいいよー。そのままいればまず転けることはないね。……手すりから手を離せるか……」

 

 オグリの脚は震えてこそいないものの、動きはまるっきり初心者のそれだった。貸し切り状態のコートに、私と彼女の声がこだまする。

 前オグリから聞いたことがある。彼女は生まれた時、立つことすらままならなかった経験があるという。それなら逆に言えば。スケート靴をいきなり履いても、不安定な足に順応できるんじゃないかと思ったが。

 

「……おー。……おー! トレーナー! 真っ直ぐ動けた、動けたぞ! ……助けてくれトレーナー! 止まらない、止まれない……!」

 

 ……まずまずと言ったところか。つぃーっと滑って行って、オグリの両手をキャッチする。

 

「……すごいな、トレーナーは……」

「昔やってたってだけだよ。オグリの方が、最初の私よりずっと上手い」

「いや、すごい。トレーナーは流石だ」

 

 そんな真顔で褒められると、照れてしまう。

 

「私も昔はさー、スケート選手を目指してたってほどでもないけど、憧れてたの」

 

 ぽつぽつと。自分の過去が口から漏れてしまう。

 

「それでずっとやってたからそこそこ滑れるけど、センスがなくてさ。そこら辺の上手い人、にすらなれなかった」

 

 センス。才能の差。それは残酷だ。

 

「あの頃は上手い人を見て羨ましがったけど、今は違うってわかるよ。上手い人は上手い人で次元の違う努力をしてたんだって」

 

 才ある者が更に血の滲むような努力をして、漸く成果を紡ぎ上げられる。トレーナーの勉強をして、オグリのトレーナーになったおかげで、わかったことだ。

 

「……トレーナー」

 

 ああ、そうか。なんだ、簡単だ。私はオグリのトレーナーになったことで、彼女の努力を確かに支えられた。

 

「……トレーナー。今更言うのも変だが、いつもありがとう」

 

 手を取り合って。氷上にて、オグリと私は二人でバランスを取っていた。今までのように。

 

「私には、カサマツの人たち。タマたちライバル。そしてトレーナー。大切な人がたくさんいる。私にとっては皆が同じくらい大切で、本当に恵まれていると思う」

 

 他にも大切な人がいるから、彼女は強かったのではない。みんな大切だから、彼女は強かったのだ。

 

「けれど……だからこそ。皆に恩返しができるようになりたい。そう思って走ってきた。それはこれからもだ。だからトレーナー」

「……泣かないでほしい。私のそばにいてほしい。一歩引かないでほしい。同じ夢を、見てほしい」

 

 あれっ。私、いつのまにか泣いてたか。目が熱くなっていることに気づく。同じ夢を見る。それは、彼女のそばに立つ私にしかできないことだった。やっと、気づけた。

 向かい合う好敵手。後ろから支えてくれる人たち。そして、そばに立つ私。その全てが、オグリキャップの力になっていた。私が要らない理由など、どこにもなかった。

 

「ありがとう……オグリ。いつも、本当に」

 

 本当にありがとう。あなたのトレーナーで、良かった。

 

「……それはこちらの台詞だったのだが……」

「えへへ、ごめん。……じゃあ、さ」

 

 彼女の柔らかい腰を抱き寄せる。

 

「曲もないけど、一つ。一緒に踊ってくれないかな」

「……出来るだろうか」

 

 彼女の顔はほんのり紅く。大丈夫。君と私なら。

 

「オグリと一緒に。共に歩む。今までだって、ずっとそうしてきたじゃない?」

 

 貴女と共に歩むこと。それが、私にできること。

 

「それでは、よろしく頼む」

「ぷっ! 固い、固いよオグリ!」

 

 白き氷上を、二人。滑走音だけが、コートに響いた。

 

 

「……あ、そうだトレーナー。これを……」

 

 帰り道、そういえばタマちゃんの誕生日プレゼントはどうしよう、などと考えている時だった。不意にオグリが鞄から包み紙を取り出す。

 

「……これは」

「……本当はタマの分だけ買って帰るつもりだったんだが、どうしてもあれが気になって。でも似合わないと言われたし……」

 

 似合わない、ってなんのことだっけ。包み紙を開ける。……中に入っていたのは、白いヘアピン。あの時オグリが目をつけていた物品だ。

 

「それで、あの時こっそり買ってしまったんだ。トレーナーになら、似合うと思って」

「……なにそれ。先に誕生日でもなんでもない人の分を買ってしまって、タマちゃんはどーするのさ」

 

 でも嬉しい。すごく嬉しい。顔がにやけ切ってしまう。

 

「それは……また明日。当日になってしまうが……もう一度トレーナーと一緒に、タマの誕生日プレゼント選びをしたいんだ。……よければ、誕生日会も一緒に」

「……いいの?」

 

 そんなに何度もオグリと出かけて、バチが当たらないだろうか。

 

「……いや待てよ、タマには一応確認を取らないと……いやそもそも誕生日会がサプライズだったような……」

 

 あらあら。この様子だとサポートは必要そうだ。

 

「任せて、オグリ。私がサポートするからには、絶対成功させるから!」

「そう言ってくれるとありがたい……! トレーナーがいれば百人力だ!」

 

 本当に、嬉しそうに笑う娘だ。

「私はオグリのトレーナーだからね!」

 私も、とびっきりの感情を込めて笑った。

 月の出てきた夜の空。闇に照らされた二人の影は。

 一つに、重なった。

 

 

「……というわけでタマ、誕生日おめでとう!」

「なんでウチは誕生日プレゼントにオグリの惚気を聞かされとるんや……」

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