その言葉から私は始まった。或いは君も、そこから始まったのかもしれない。
私という心なき獣は、確かに咎を重ねていった。他者の希望を踏み躙り、己の欲だけを満たさんとした。そのままではきっと、辿り着くことは叶わなかっただろう。
ああ、でも。
君が連れて行って、くれたのだ。
君の傍という、楽園へ。
─────This is my love song.
トゥインクル・シリーズ最初の三年間。俺の担当ウマ娘であるマンハッタンカフェは輝かしい成績をおさめた。無論そこにあった苦難も忘れられないものだが……でも、確かに。
確かに彼女は今、ここに居る。俺の傍で、微かに笑みを浮かべている。
「美味しいですね、このコーヒー」
「そうか。カフェが言うなら間違いないな」
労う意味も込めて、彼女と一緒に人気の喫茶店へやってきた。正直カフェの方がそういったことには詳しいのではないかとも思ったのだが、彼女曰く俺が場所を選ぶことに意味があるらしい。
「……そういえば」
「どうした?」
そう聞くと、ずずい。カフェは目と鼻の先に顔を寄せてくる。
「……あの時の、返事。あれはレース後の気の迷いではないつもりなのですが」
「うっ……」
わかっている。そうだとも、覚悟を決めなければなるまい。選択肢は実質一つだし、決まりきっているし。……しかし。
「トレーナーさん、私では……」
「まさか! そんなわけない!」
むしろ魅力的すぎるくらいだ。だが、とかしかし、とかそう思ってしまうくらいに。ええい邪魔するな倫理観。自分に正直になって……。
「そうだ。……こほん」
よし、よし。
「カフェ」
彼女の眼を、見て。
「俺も、君を愛してる。……ああ、ずっとだ」
告げる。
「最初会った時を覚えてるか? あの時は正直、有名人のカフェのことなんて俺とは関係ないと思ってたよ。でも、今ならわかる。俺たちじゃないと、だめだ。俺と君と、そうでなきゃここまで辿り着けなかった」
だから。
「だから、そう。もう俺は、とっくに君がいなきゃダメになってるんだ。……頼む。ずっと一緒にいて欲しい」
「永遠でも、いいですか? 退屈しないと思いますか?」
「当たり前だ。見飽きることも、話疲れることもないとも」
「……宜しい」
問い詰めるような金の瞳は、愛おしむような輝きに変わる。……もちろん、ここまで言ったのだから責任を取らねば。
「だから、明日からもよろしく」
「……そうですね……もう少し、物足りないですね」
えっ。何が足りないのだろう。そう、言葉に発する前に。
「……んっ」
かぷ。最早何回目かもわからない甘い痺れが、血液と共に肩から吹き出す。傷痕を重ね、愛を重ねる。
「ふぅ。……やはり私は、言葉だけでは愛し足りないようです」
妖しく、うっとりと笑みを浮かべる。それを見て、沸き立つ心に想う。
ああ、俺は。彼女の全てを愛している。
※
アダムとイヴは、知恵を得たことで互いを求めるようになった。
純粋無垢な神の似姿から、欲と罪に塗れたヒトへと堕ちた。
楽園を追放され、楽園を切望し続ける罰を得た。
それは原罪。我々ヒトが愚かであるという神話。
……けれど、こうも思うのだ。
互いを求めなければ、私は君とは出会えなかった。罪を重ねなければ、私は何処へも行けなかった。何も知らなければ、運命への叛逆も成らなかった。
知ることが罪であり、罰であるとしても。無知で純粋な三年前より、強欲で低俗なのが今だとしても。
私は、君に逢えて良かった。
楽園へ、君と往けて良かった。
ねえ、愛してる。
─────これが私の、あいのうた。