ウマ娘の某所に載せた短編集   作:春華ゆが

16 / 103
まとめ2号です


セイウンスカイの五百文字作文その2

 青空はとても綺麗だ。浮かぶ雲は立体的で、あんなにも遠いのに細部まで見て取れる。白と青が混ざり合わずに同居している。じっと見つめて手を伸ばすと、手が届きそうなくらいだ。そこには吸い込まれるような美しさがある。

 私には、それがない。青空の名を冠したウマ娘、セイウンスカイ。その私が憧れる空までの距離は遠いままで、いつになってもたどり着けない。確かに私はたくさんの人に恵まれたと思うけれど。空の青さには到底敵わないな、と思ってしまう。

 たとえばあなたが、青く澄み渡る空を見上げるだけで心が晴れるように。辛い時に、何気なく見れば少し気持ちが楽になるように。私もそうなれないか、なんて。悩んだ時点で、青空の名前は相応しくないのかも。

 ねえ、トレーナーさん。私は皆にとっての青空になれていますか? あなたにとっての、明るく深い青色に。なれていますか? 天気が悪い日でも、あなたの前に現れた私が青空の代わりになれるなら。そうであったら、嬉しい。

 一生懸命、ほどほどに。私はそうやって、どんな時でも、どんな人にも。微かな元気を与えられるなら良いな、と思う。

 太陽のように、輝くことはできないけれど。あなたの心にいていたい。

 

 **

 

 おやおやトレーナーさん。肩、凝ってますよ? ほら、えいっ、えいと。こんなにガチガチです。……ははーんピンときました。肩が凝っても凝っても、トレーナーさんの肩を揉んでくれる人がいない! それでこんなふうになるまで放っておいたんですねえ。いやあ痛みがセイちゃんの方まで伝わるようです。

 んっ……ふっ……気持ちいい、ですか? ……じいちゃんの肩をよく揉んであげたので、力加減には自信があるんです。……っと、意外とがっしりしてますね、トレーナーさん。それとも。可愛い担当ウマ娘に肩を揉んでもらえるとなって、緊張してますか……? なーんて。

 よいしょ……いつもたくさん書類と睨めっこしてますもんね。いつもいつも、私のために色んな手続きをしてくれて。ありがとうございます。だから、これは私からのお礼と思って。甘んじて受け取ってくださいな。

 ……よし、だいぶ楽になったんじゃないですか? はい腕を上に伸ばしてー、横に伸ばしてー。引っ張りすぎですか? でもトレーナーさんはいっつも、よくストレッチしなさいって言ってるじゃないですか。おんなじですよ。

 ……さて。そうだ。……お返し、お願いしてもいいですか? いいですよね?

 今度は私の肩。揉んでほしいです。

 

 **

 

 スカイってモテるよな。そうトレーナーさんが不意に口にしたのを、私は聞き逃さなかった。その上で、聞こえないふりをした。どういう意図で言ったのだろう。どうしてそんなことを言ったのだろう。何故だか気になって仕方がない。

 だってそんな、セイちゃんはめんどくさいし。いつでも捉え所がないし。サボりまくってかわいげはないし。そういうふうにしてても、わかる人は深くまで切り込んでくるから困ったものだけど。

 ともかく一つ確かなのは、私は別に、その。恋人とか、いたことないし。きっと縁もないって思ってるってこと。だって、だって。

 私の想い人は、そんなことを言うくらいに。私の心について他人事なのだから。多分、きっと。あなたのことを好きですって伝えたとして、あなたは笑顔でこう返す。俺も好きだよ、と。宥めるように、最良の答えを返す。

 それは確かな信頼で、幸せだけれど。信頼よりも脆い恋愛に、人は何故憧れてしまうのだろう。

「ちょっとトレーナーさんや、セイちゃんはモテませんよ」

 平静としたふりをして口を開く。こうやって、あなたの手を誘っても。あなたの手は伸びてこない。

 でも。あなたと言葉を交わせるだけで、今はとても幸せだ。

 

 **

 

 ふぁ〜あ……。おはようございますトレーナーさん。よく寝れましたか? セイちゃんは絶賛寝不足です……。夜更かししたわけじゃないですよ。……気になりますか? ちょっとだけ、夢見が良くなくて。それだけです。

 ……はぁ。いくらサボっても心配しないのに、こういう時は心配性なトレーナーさんなんだから。なんのことはないですよ、夢のことだって今はわかってるんですから。夢は夢で、それで終わり。セイちゃんだって現実と夢の区別くらいつきますよー。

 さあ、というわけで。今日はまず二度寝をさせてくださいな。トレーナーさんの部屋をお借りしますねー。……大丈夫ですよ。あそこなら、一番ぐっすり寝れますから。ね。

 夢を見て、嘘をついた。本当は、とても素敵な夢を見た。本当は、夢と現実を混同している。夢の中、あなたと私は二人で仲睦まじく暮らしていて。でも夢の中の私が思いがけないことを言ったので、私の脳みそは混乱した。

 そんな大それたことを言って、その先が夢では想像出来なかった。夢の景色は白く崩れ去り、私は心臓をバクバクさせながら目を覚ました。

 そう。夢に見るほど、私はあなたに恋焦がれている。だから、私は何度も眠る。

 きっと叶わぬ夢を見る為に。

 

 **

 

 どうしたんですかトレーナーさん。見れば分かりますよ。休みに入るのに浮かれてない人なんて、セイちゃんからしたら一番おかしいですから。

 なんでしょう、具体的な悩みじゃないかもですねえ。私には言いたくないことかもしれないし……。でも。今日くらいは、甘えていいんですよ? ほらほら、セイちゃんの気まぐれが収まらないうちに、さあ! こっちへいらっしゃい! ……よいしょ!

 頭を拝借いたしまーす。

 よしよし。いつかの反対ですね、トレーナーさん。あの時は、セイちゃんいっぱい甘えちゃいましたねえ。トレーナーさんはずっと、私のことを支えてくれた。だから、私もあなたを支えたい。……だめ、ですか?

 よいしょ。……どちらにせよ、今日は私のわがままということで。トレーナーさんを癒してあげます。なんでも聞いてあげちゃいます。なんでも……たとえば、こうして。膝枕をしてあげる。セイちゃんの膝はそんなにもちもちしてないので、嬉しくないかもですが。

 そしてこうして見つめてあげる。気持ちが通じ合ってるみたいで、素敵でしょ? ……少し落ち着きました? リラックスして、幸せになれました? 私は緊張してますけど、なんて。

 さて。それではお悩み、聞かせてください。

 

 あらあら泣かないでください……なんて言うと思いましたか? もっと泣いていいんですよ、何があっても平気で飄々としてるなんて辛いですから……なんちゃって。

 私は辛くありません。吐き出せる人がいるから。誰でしょうねー? でもですよ、だからこそ。その人にも吐き出して欲しい。そう思っちゃうようになりました。あなたのことを、もっと知りたい。弱さも、教えてほしい。ただのわがままかもしれません。

 でも、わがままを言えるのが子供ですから。セイちゃんはまだ子供なので、わがままを言っていいんです。そしてトレーナーさんは、セイちゃんのわがままを叶えるために、しぶしぶ弱音を吐くんです。

 どう? 完璧な作戦でしょ? 大人の悩みはわからないですけど。子供が大人の悩みを聞いてあげることはできる。

 ……もし言葉にするのすら辛いなら、思いっきり泣いてもいいんです。大人が泣いたっていいんです。セイちゃんが許してあげます。どこにいても、何があっても。

 トレーナーさんのことを全部知ってるとは言えないけど、トレーナーさんのことを全部受け入れるとは言えますから。

 ほんと、ですよ?

 

 少し元気が出てきましたか、トレーナーさん。それが空元気じゃないことを祈ってます。本心ですったら。……膝疲れないかって、今日はおとなしくセイちゃんに甘えてくださいな。私のわがままとして、私に甘えてもらいますから。

 拒否権なんてありませんよ? お覚悟ー、なんてね。……ねえ、トレーナーさん。トレーナーさんは、私と会えて幸せでしたか? 私はトレーナーさんの初めての担当ウマ娘になれて、良かったと思ってるよ。

 これから先、トレーナーさんは沢山のウマ娘を担当して。私のことは一人のウマ娘に過ぎない存在になっていくとしても。私は、トレーナーさんを応援し続ける。あの時も、あの時も。いつも一生懸命だったあなたが、もっと遠くへ羽ばたけるのだと。

 でも、少しだけでも。私のことが心の隅に有れば、とっても嬉しい……かもね。保証はしませーん。

 ふふふ。ちょっと楽になったかな? まだ、こうしていたい?

 私は……どっちでしょう?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。