ウマ娘の某所に載せた短編集   作:春華ゆが

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健全です


セイウンスカイと新婚2日目

 おかえりなさい、トレーナーさん。じゃなかった、あ、な、た。……にゃはは。ねぇあなた、お風呂にする? ご飯にする? それとも……。浮かれすぎって、新婚2日目で浮かれてないんですかあなたは。それはそれでセイちゃんショックかも。なんてね。

 ……ふふっ。いやーでも、寮じゃないところに帰るってだけで新鮮ですね。トレーナーさんがマイホームのために貯蓄してたなんて、思ってもみませんでしたけど。だって私からプロポーズしたのに、それじゃあ待ち構えてたみたいじゃないですか! 策を張って誘い受けするのはセイちゃんの十八番なのに! ずるい!

 今日はどうでした? 新婚なんてみんなに色々言われちゃって、トレーナーとしては肩身が狭いですか? ……まあ私からすれば、のんびり昼寝をしながらあなたを待つ時間だけで、とっても幸せですけどね。

 もちろん家事はしたに決まってるじゃん。……これからずっと過ごしていきたいのに、幻滅されたくなんてないし。無理してないか? それだけで無理って、あなたセイちゃんのことどれだけものぐさだと思ってるんですか。もう。

 覚えてないですか、いつかのバレンタイン。今だから言いますけど、あの時は結構本気だったんだよ? だから丁寧に時間をかけてチョコを作ったし。セイちゃん意外と凝り性なんだから。

 今日のご飯だって……と言いたいところですが。今日は普通のカレーライスです。私の普通の味も、あなたに知ってほしいから。結婚してみて、改めてわかった。お互い知らないことばかりで、二人の関係はこれから始まるんだって。

 ……なんですか。さっきからあなた、セイちゃんの恥ずかしい台詞を聞いてばっかりじゃないですか。冗談めかしてないだけで前と変わらない、とか言わないでくださいよ。……それだけ今まで練習してきたのに、一言言うたびに心臓が跳ねてるのはこっちなんだから。

 さ、カレーは甘口です。セイちゃんの好みに合わせてもらいます。……それに。それに、ね。もし、もしもですけど。もしもこの家に、新しい家族が増えるなら。甘口の方が食べやすいじゃないですか……なんて……。

 あーだめだめ、見ないで! もっと雰囲気を作らなきゃいけないのに、掛かりすぎてる……! 手汗がひどいから掴まないで、やっ、きゃっ……。んっ……ちゅっ……はむっ……ぇぅ……。もう、その気になれば抵抗できるのを知ってて押し倒すのは、ずるいったら……やっ……まだ離さないで……んっ……もっと……れろっ……ふぅ。

 ……もう、トレーナーさんのエッチ。……嫌じゃない、ですけど。さあ、とりあえず。ご飯を食べましょうね。これはあなたのことを思って、ですよ。……私は昼寝もしたし、体力もあります。……つまり、朝まで保ちますから。

 あなたが明日は休みだから。今朝からずっと、そのつもりでした。……周到な作戦、でしょ? ……だから、エッチなのはあなたの方だって。私はその、そんなの初めてだし、本当はすごく怖いし……。あなたはカッコいいし、きっと経験あるだろうなって。だからずっと、その時のために備えてたんですよ。

 ……やっぱり私もエッチかも。でもそれは、トレーナーさんに対してだけですから。あなたのことを愛しているからですから。

 昨日誓った通り、私は永遠の愛をあなたに捧げたい。そして、あなたの愛も独り占めしたい。これはわがままじゃなくて、誓ったことだから。……もちろん家族が増えたら、そっちも愛しますとも。でも恋愛は、あなただけのものです。

 にへへ。もう身体が火照ってきちゃいました……。手を、繋いでくださいな。どきどきしますね。私の胸、ばくばくいってますね。トレーナーさんも、汗かいてきましたね。……それは帰ってきた時からか。

 ……じゃあ、もう一度聞きますね。ねぇ、あなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ、た、し?

 

「はぁ……はぁ……」

「ふぅ……もうすぐ朝ですね、あなた……」

 空はゆっくり明けはじめて。二人の息遣いだけが、暗い部屋の中で反響していた。

「生きてますかー、もしもーし……」

 彼女が俺の腕に絡みついてくる。ギリギリ生きているけど、もう動けない。口がぱくぱくと宙を切る。……すると、間もなくその口が塞がれた。

「はぅ……ちゅっ……んっ……すきぃ……えぉ……」

 息苦しい。肺が幸せで満たされて、息ができない。このまま死んでもいいとさえ思えた。

「ねえ、あなた。あなたに出会えて良かった。今更ながら、セイちゃんは感慨に浸っています」

「……俺もスカイに会えてよかった。君のトレーナーになれて、よかった。君と結ばれて、幸せだ」

「……もう。人の台詞取らないでくださーい。なんて。……ほんとは色々作戦を考えてたのに、全部無駄になっちゃった。いやいやまさか、あなたも初めてだったなんて」

「……言わないでくれ」

 きっとお互い、あまりうまくはできなかっただろう。何もかもがぎこちなくて、本来のそれとは違って笑い声が絶えなかった。でも、それでいいんだと思う。

「これからトレーニングが必要ですね……なーんちゃって。浮気でトレーニングしたりしたらだめ、ですよ?」

 冗談だとしても、破ったら殺されそうだ。破るつもりもない。

「じゃあ、これからも。末永くセイちゃんをよろしくお願い申し上げます」

 そう言うと、セイウンスカイはあっさりと目をつぶってしまった。とても綺麗な顔だ、と思った。惚れているのが多分にあるだろうが。

「なあ、スカイ」

 聞こえているかは、わからない。どちらでもよかった。

「末永く。ここが君とずっと過ごせる世界で、良かったよ。……脚に病気が見つかった時のことを思い出した。走れなくなったら、俺たちの関係は終わってしまうのかってその時思った。その時はこうなるなんて思ってなかったけど、こうなるのを望んでたのかもしれない」

 前に君は言った。自分には才能や輝くものはないから、策を弄するのだと。でも、そこが君の長所で、魅力だ。

「惚れた色眼鏡を承知で言おう。君は、世界一のウマ娘だよ」

 彼女はあれだけ甘い言葉をかけてくれたのに、返す言葉は君が寝静まった後というのは、もどかしい。でも、でも。まだ俺たちの関係は、これから始まるのだから。

 二人で一緒に、ゆっくりでいいから。しっかりと、永遠に。歩んでいこう。

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