「オペラオーさん、トレーナーさん! 早く早く! おみくじはこっちです!」
「はは、フクキタルったら。初詣でまずおみくじを引きたがる人ってのも結構珍しい気がするけど……あれ、オペラオー? ……フク、オペラオーが消えた……」
「わわっ、こんな人混みの中どこに行ったかなんて……」
「……はーっはっは! 店主よ! よく我が魔眼から景品を守った! 褒美にボクの写真を……」
「いた」
「いましたね」
今日は正月の初詣。我がチーム<ニビル>のメンバーであるマチカネフクキタルとテイエムオペラオーを連れて、神社へやって来た。とはいえすごい人混みだし、ご覧のように私の担当たちは暴走気味だ。アクが強すぎて他のメンバーが寄り付かない、と言われたらぐうの音も出ない。
「まず縁日に直行とは、案外可愛いところもあるじゃない、オペラオー」
「……ふっ。トレーナー君は、『魔弾の射手』というオペラを知っているかい? まさにさっきのボクのように、百発百中を謳う射撃の名手の話なんだが……」
「私の目には、最後の一発を思いっきり外したように見えたけど」
「そう、まさにそういう話なのさ! まあまた機会があったら君に話そうと思うけど、図らずも最後に外すことでボクは名作歌劇の再演を……」
「トレーナーさん、ベビーカステラ買って来ましたよ! はい、オペラオーさんも!」
女三人寄れば姦しいとはいうが、まさに今の私たちはそんな感じだ。これ以上も、これ以下も。これ以外のメンバーなんて考えられない。フクキタルに礼を言いながら、チームを結成したあの日のことを思い出す。
チーム。私がチームを組んだ目的は、自分のキャリアだとかたくさんのウマ娘たちのためだとか立派なものではない。ただただ、担当ウマ娘であるフクキタルを私に繋ぎ止めるための楔としてこのチーム<ニビル>の結成は成された。ハリボテの惑星、存在しない幻の星。チームを組むという名目でフクキタルを嫉妬させ、再度私に振り向かせた時点でその役割は終わり、どうでも良くなったはずなのだが。
なんとそのまま崩壊するはずだったチームに入団希望者が現れた。それがテイエムオペラオー。彼女は困惑する私たちをよそにあっという間に自分の居場所を作り上げ、輝かしい成績を挙げている。今年の目標は年間無敗らしい。彼女なら出来かねないと思うから、恐ろしい。
「さあ、いよいよおみくじを引きますよ〜!」
「どんな運勢でもボクは! 受け入れ! 乗り越えて見せよう!」
「あっ、三人で。お願いします」
がらんがらん。一世一代のおみくじを回し、皆で恐る恐る結果を見る。
「……吉……トレーナーさん、もう一回」
「だーめ。おみくじは欲張るもんじゃないでしょ。えーと私は中吉」
「ふっ……大吉……。……大吉だよフクキタル君! 安心したまえ、ボクがこのチームの運勢を一人で支えよう!」
「ははっ、ありがたや〜……オペラオーさんにシラオキ様のご加護が……」
オペラオーの物言いは相変わらずだけど、チームを支える、というのは本当だと思った。彼女は頼れる。しっかりとチームの意識を持っている。相変わらず持っていないのは、おそらく。
自分のおみくじを再度確認する。大事なのは運勢より、中身だ。……恋愛、危うい恋。なるほどやはり、神様はよく見ている。まあたとえ諦めろと書かれていても、諦められなかっただろうけど。
私の最初の担当ウマ娘、マチカネフクキタル。彼女は私のことを好いてくれているけれど、私の好きが貴女の好きと違うことには、きっとまだ気づいていない。気づかれるのは怖いけど、後戻りはできない。どうしようもないくらい、愛しい。
「……ふむ。このベビーカステラはとても美味しいね。食べないのかい、トレーナー君」
「……ああ、ありがとオペラオー」
意識を現実に戻す。私がお願いして買って来て貰ったのだから、食べないと。ぱくん。ほくほくとしていて、甘い蜜の味が口の中で跳ねる。
「はふっ……はふっ……」
フクキタルは一気に食べ過ぎて目をぱたぱたさせている。かわいいなあ。
「さて、帰ってお餅でもつまみましょうか。今日はトレーニングなしで、ゆっくり過ごそう」
私たちのお正月は、並一通りに。心の中が捻れていても、時間は平々凡々に過ぎてゆく。
「オペラオーさん、ドトウさんが前……」
「ドトウくんと仲が良かったのかい!?」
「そこ驚くところですか……?」
トレーナー室に帰って来て、二人のやりとりを眺めて。私はうとうと、うとうと。休みの日だし、このまま寝てしまおうか。深く、深く。目が覚めたら、もう二人ともいなくなっているかもな。そんなことを思いながらも、意識は薄れてゆく────────。
「……トレーナーさん、寝ました?」
「フクキタル君、きっと彼女は疲れている。そんなにつついたら起きてしまうよ」
「ふにゃっ、そうですね……いや、起きない方が好都合というか、実は秘密の相談があるというか……」
「……トレーナー君のことかい?」
「はぎゃっ、分かりますか……」
トレーナーさんについて、私の悩み。心に秘めたもの。どんなに運勢が良くても、この気持ちは落ち着かない気がしている。
「……実は、実はですよ? 私、他のトレーナーさんから聞いちゃったんです。その、そのですね……トレーナーさんが、私のことを好きなんじゃ、なんて……」
「それは、いいことじゃないのかい?」
「……違うんです。その人たちが言ってたのは、トレーナーさんはその、担当ウマ娘に恋をしているんだって……。まるで悪い噂みたいに、そんなことを……」
忘れられない。あの、嘲るような笑い声。トレーナーさんをバカにするなんて許せないと思ったけれど、私は何もできなかった。それを否定するのが、怖かった。
「……ふむ。禁断の愛、というやつだね」
「そう、なんでしょうか。トレーナーさんは、私なんかを好きになってしまったのでしょうか。こんな、こんなことを考えること自体が、トレーナーさんに失礼な気がして」
「そう思うのは、フクキタル君がトレーナー君のことを大切に思っているからだろうね。……でも。……仮に。それが本当だったとして。それはそもそもバカになんかできない。ボクはそう思う」
少し考えて、オペラオーさんは続ける。
「劇的な愛というのは、困難がつきものだからね。理解されない、理解できない。けれど終幕では、観客全員から大喝采で迎えられる。それが異端だとしても。……何故だと思う?」
「大安吉日、夫婦円満。即ち、愛が成就するから……?」
「そうとも! よくわかっているじゃないか! まさにハッピーエンド、二人が愛し合う! そうであれば、性別の差なんて関係ないのさ! ……無論、これは歌劇での話だけれどね」
性別の差なんて。そうオペラオーさんは言ってのけた。私は確かにトレーナーさんが好きだ。でもそれは、性別を超える愛にまでは届かなくて。トレーナーさんとの"好き"のズレが、いずれ破滅を生むんじゃないかと怖がっていた。
「もちろんこれは、想像の話に過ぎません。トレーナーさんは私のことなんて、なんとも思っていないかもしれません。……私は、そうであることを、恋なんて存在しないことを望むべきなのでしょうか? それとも、トレーナーさんが私を愛していると、そう望むべきなのでしょうか?」
「望むべき、なんてものはないよ。ボクから言わせれば、自分の信念を貫くこと! それが、覇王たる道だからね!」
信念。信念。私は─────。
「……ん。おはよう、フクキタル。オペラオー」
私が目を覚ますと、二人はまだ部屋にいた。目を覚ますのを待っていたのだろうか? ……なんとなく、二人の間の空気が変わった気がする。
「おはようございます! トレーナーさん」
「おはよう、トレーナー君」
「なにさ、なにか秘密の話でもしてたの?」
「……秘密です」
フクキタルはそう、そっと指を口に当てる。秘密なら、仕方ない。
「……トレーナーさん」
「なあに、フク」
「……やっぱり、少しだけ。私はトレーナーさんのことが大好きです。何があっても」
「ありがと」
その言葉の真意は量れないけれど。貴女が幸せなら、それでいい。
走り続ければ、道は開けるのだから。