ウマ娘の某所に載せた短編集   作:春華ゆが

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選抜レースよりも前です


メジロライアンとメジロマックイーンのデビュー前

「はぁ……」

「はぁ……」

 

 ため息がふたつ。お屋敷で図らずも一緒になったあたしとマックイーンは、図らずも一緒にため息をついた。

 

「……どうしたの、マックイーン」

「ライアンこそ、どうしたのですか?」

 

 やはり気になる。とはいえそれは相手も同じのようで。しばらく発言権の押し付け合いが続く。

 

「……じゃあ、あたしから」

 

 仕方ない。それに、このままでは解決しない気がする。

 

「笑わないでよ? ……実は、女の人は筋肉をつけてもモテないって聞いて……!」

「ぷふっ」

「あっ、ひどいマックイーン!」

「すみません、でもライアンらしいですわね。……ひょっとして、ついに想い人を見つけたとか?」

「わわっ、それはまだあたしには早いよ! ただ、素敵な人がいたらそれは素敵だと思うけど」

 

 顔が熱く赤くなる。あたしは恋に憧れているけれど、恋を手にするには好きな人を見つけないといけない。それに、相手にあたしのことを好きになってもらわないといけない。……後者は、とても難しい。

 

「……はぁ……。鍛える以外に得意なことなんてないのに、鍛えたらダメだなんて……」

 

 それなら、あたしの魅力なんてないんじゃないだろうか。目の前の美少女をちらりと見ながら、またため息をつく。

 

「鍛えてダメなことなんて、ないと思いますけど……何事も積み重ね、努力の先に栄光はあるものです」

「そう思ってたんだけど……こと恋愛においては、身体がすらっとしているのが大事なんだって」

「すらっと!?」

 

 マックイーンの耳が跳ねる。

 

「マックイーンはその点すらっとしてるよねえ……いやいや、羨ましがってばかりじゃ」

「すらっとなんてしてませんわ……」

 

 遮るように、マックイーンが呟く。

 

「私、また太ったんですのよ! 食べた分がお腹にすぐ貯まるんです! 見てください、ほら! ほら!」

 

 おもむろにマックイーンがお腹を出そうとしてきたので、慌てて止める。……マックイーンの悩みはそれか。

 

「あははっ」

「笑っていられるのは今だけですわ! そのうち私は肥えて太ってまんまるころりに……」

「ならない、ならない」

 

 笑いながら否定する。彼女は欠点だと思っているかも知れないが、ついつい誘惑に負けてしまう愛らしさもまた、魅力だと思う。

 

「マックイーンは、綺麗だから。いつかきっと素敵なお嫁さんになるよ」

「なんですか、唐突に。……ライアンだって、ひたむきで、いつも輝いていて。私が殿方でしたら、放っておきません」

 

 互いへの賛辞。それはお世辞なんかじゃなくて、正真正銘の褒め言葉。

 

「こうやって二人で話すのって、なんだか久しぶりかもね」

「そうですわね。……選抜レース、そろそろですもの。あまりお喋りばかりもしていられませんが」

「素敵なトレーナーさんに会えるといいねえ……」

「ええ、お互いに」

 

 あたしたちのデビューはすぐそこで。きっとそれからの日々は、また別のものになる。だからきっと、こうやって二人で仲良く何も考えずに喋れる時間は貴重だ。

 

「……マックイーン、あたし、マックイーンに勝ちたい」

「私は、誰が相手でも。勝つつもりですわ」

 

 肯定と受け取ろう。宣戦布告は為された。

 

「じゃあ、一緒にトレーニングしない?」

「なにが、じゃあ、なのかわかりませんけど。……筋トレはモテない、というのはいいんですの?」

 

 悪戯っぽくマックイーンが言う。

 

「そりゃもちろん、正々堂々選抜レースを受けるためだよ。マックイーンがまんまるころりにならないように」

「……もう」

「それに、気づいたんだ。筋トレはモテない、なんて言われたから辞めれるほど、あたしはお利口じゃないって。あたしにだって、譲れないものがある」

「それは、レースでも。そういうこと、ですわね」

「だからマックイーンもさ。好きなものは我慢せず、食べちゃえばいいんだよ。ダイエット、いくらでも付き合うよ」

「……考えておきますわ」

 

 ぼーん、ぼーん。時計の針が正午を指す。いつのまにかこんな時間だ。……ご飯の前にトレーニングをしたかったな。

 

「素敵なお嫁さん、ですか」

 

 マックイーンがぽつりと呟く。先程の言葉を思い返しているようだ。

 

「あれ? マックイーンもやっぱり、そういうの憧れる?」

「……もう! ……でも、否定はしませんわ。やっぱり少しは、憧れてしまいます。女の子ですもの」

「だよね〜、あたしなんかトレーナーさんが素敵な男の人で、なんてことを毎日考えちゃって……あっ! これは内緒、絶対内緒だよ!」

「……ふふっ。やっぱりライアンは可愛いですわね」

「……初めて言われたかも。どうしよう、ちょっと泣きそう……」

 

 思ったよりその言葉は自分に響いたみたいで。目頭が少し熱くなる。

 

「あたしも、なれるかな。スターウマ娘」

「なれますとも。共に頂点を目指しましょう」

 

 あたしは恵まれているな、と思った。競い合える仲間が、こんなに近くにいる。

 

「負けないよ、マックイーン!」

「こちらの台詞ですわ、ライアン!」

 

 どこまでも、高めあおう。

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